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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

最新の業界情報

日工会の月例記者会見(2024年3月)

2024 年 04 月 03 日

 (一社)日本工作機械工業会は、3月 26 日に2月分の受注額確報値を発表した。

【稲葉会長のコメント】
 今月 16 日に北陸新幹線が金沢から敦賀まで延伸し、福井から長野東京方面へのアクセスが大きく改善された。1月の能登半島地震で被災した地域を含め、北陸全体のビジネスや観光で経済波及効果が現れるものと期待している。
 また今月は国内の経済金融において大きな節目となる情報や発表が相次いだ。日経平均株価は昨年後半以降、好調な企業業績や資本効率を背景に国内外からの投資が拡大し上昇基調で推移しているが、アメリカの半導体関連企業の株価高騰による 押し上げもあって4日に史上初めて4万円を突破し、22 日には一時 41,000 円台に達した。
 また 15 日に連合がまとめた春闘での平均賃上げ率の第2回集計結果は 33 年ぶりに5% を超えた。このように経済の好循環が進みつつあると見られる中で、日本銀行は 19 日に政策金利決定会合でマイナス金利政策を解除するとともにイールドカーブコントロールの撤回、ETFやREITの 新規借入の終了を決定した。2013 年以降の大規模な金融緩和策が転換点を迎えたことで今後の経済の健全な発展を期待したいと思う。
 さて2月の工作機械受注総額は前月比でプラス 2.9 %、前年同月比でマイナス 8.0 %の 1,142 億 800 万円となった。四半期末月以外のときは昨年5月以降 1,100 億円台が連続しており、依然として緩やかな調整曲面の中で横ばい気味に底堅く推移していると見られる。そのうち内需は前月比でプラス 6.3 %、前年同月比でマイナス 16.4 %の 325 億 4,300 万円となった。
 会員ヒアリングを総合すると半導体製造装置関連の先行投資の他、バルブや射出成形機、食品機械、航空・造船などで受注が増加したが、中小企業のユーザーにおいては各種補助金などでの採択を前提に発注をしばらく見合わせる傾向もあり、内需全体として依然力強さに欠ける展開が続いている。
 外需は前月比でプラス 1.6 %、前年同月比でマイナス 4.1 %の 816 億 6,500 万円となった。4ヵ月連続で 800 億円を超え堅調な受注水準が続いている。地域別にみると北米は 256 億円で2カ月ぶりに 250 億円を上回った。金利高から中小ユーザーにはやや様子見感があるが半導体製造装置や医療・航空機などで堅調に推移している。
 欧州は一般機械が前月比で3割強減少したが、商社代理店や航空・造船・輸送用機械、金属製品などの他の部門が補い 171 億円と小幅ながら前月での実績を上回った。
 アジアは韓国やシンガポールなどでのスポット受注が剥落したが、中国が4ヵ月連続で 220 億円を上回ったほか、インドやベトナムで増加し前月比で微減の 364 億円となった。
 スライド資料の 20 ページに示しているように3月上旬に会員企業を対象に実施した四半期ごとの受注動向DI値調査ではマイナス 8.2 と依然減少が続く見方が増加を上回っている。
 国内外とも設備投資の必要性は広く認識されているが、仕事量が全体的にやや落ち着いているなかで取引先など周囲の動きや景気の先行きを見極めようとする慎重姿勢が根強く感じられる。
 しかしDI値は前回 12 月の調査から 11.0 ポイント改善されており、昨年終盤に一時的に高まった先行き懸念はだいぶ緩和されつつあるように思われる。
 内需では長らく投資の先送りが続いてきた半導体製造装置関連事業及び自動車関連事業で、具体的な計画を伴う形で引き合いや商談が進みつつあり、年後半からの回復に期待が高まっている。
 外需のうち欧米はユーザーにより投資姿勢に差があり、一部に利下げのタイミングやアメリカの大統領選挙の趨勢を見極めようとする様子も嗅ぎ取れるが、設備投資が大きく下振れるとの観測は少なく、引き続き底堅い受注水準が続くと見られる。
 中国については昨年終盤より一部の会員から底入れしつつあるのではないかとの見方が示されている一方、今月上旬に開催された全人代を終えても本腰の入った政策のテコ入れが感じられず停滞感が払しょくできていない。この点については4月8日から 12 日まで上海でCCMT(中国CNC工作機械展示会)が開催されるので、会場で動向を注意深く見てくる。
 さて冒頭に触れたように、日銀は 2016 年以来続けてきたマイナス金利政策を解除し、17 年ぶりに国内で利上げが実施された。マイナス金利に関しては日本経済が長らく低成長を続ける中で貸し出しを増やし経済を活性化させる狙いがあったと承知しているが、これまでも思うような効果が見られない。今回マイナス金利政策が解除されたことは金融の正常化に向けて一歩踏み出したものと評価している。金利の上昇は資金調達コストの増加や円高に繋がるが、現状では引き上げ幅は小さく日銀も緩和的な措置の継続を表明している。一方欧米では、利下げが検討されているが、我が国との金利差はまだかなりの開きがあることから、少なくとも当面は急激な変化は生じないものと見ている。しかしながら各企業は経営方針や市場戦略において低金利や円安が今後も中長期にわたって持続するものとの固定概念に捕らわれていないか見直す必要があるとも感じている
 今回のマイナス金利の解除は経済の好循環が機能し始めたとの判断による所が大きいと承知しているが、その中で生産性に優れた機械の導入は高い付加価値を生み出し、賃上げの余地を広げるうえで重要なプラス要素である。工作機械業界は使命感をもって新技術の開発、拡販に務めるとともに合わせて適切な価格転嫁の推進についても取り組んでいきたいと思う。
 最後に政策課題に対する取り組み方針について報告する。
 この度日工会は「工作機械業界における物流の適正化、生産性向上に向けた自主向上計画」を作成した。トラックドライバーの長時間労働や輸送能力不足など所謂「物流の 2024 年問題」が大きな課題となる中で、荷待ちや荷役時間の抑制など物流業務の効率化・合理化の推進、運送契約の適正化、輸送荷役作業での安全確保について業界の物流事情に基づき前向きな取り組み姿勢を表した。重要なパートナーである物流事業者に対する配慮は当然との思いもあったが、自主行動計画の作成を契機として具体的な行動についても認識を深め実践的に取り組んでいきたいと思う。

工作機械の受注額【2月確報】 ※速報値は3月 11 日発表

1.概況【2月受注】:
受注総額:
1.1,142.1 億円(前月比+ 2.9 %(2ヵ月ぶり増加)、前年同月比△ 8.0 %(14 ヵ月連続減少))
受注総額は、内外需とも前月比増加も、2カ月連続の 1,200 億円割れ
内外需とも市場に勢いは無いものの、底堅い動きが続く
(1)内需 325.4 億円(前月比 + 6.3 % 前年同月比 △ 16.4 %)
3月の期末前や補助金待ち等で季節的に低調な中、
前月比増加も2カ月連続の 350 億円割れ
(2)外需 816.7 億円(前月比 + 1.6 % 前年同月比 △ 4.1 %)
欧州と北米で前月比増加し、4カ月連続で 800 億円超を維持する等
外需は総じて底堅い動き
⇒2月の受注は、これまで同様、市場が弱含む中にあっても底堅い動き
今後の持ち直しの時期等、動向を注視

.内需【2分】
内需 325.4 億円(前月比 + 6.3 % 前年同月比 △ 16.4 %)
(1)内需総額
・2カ月連続の 350 億円割れ
・前月比2カ月ぶり増加 前年同月比 18 カ月連続減少
・内需は緩やかな減少傾向が続く中、前月比増加し底這い状態
(2)業種別受注
・主要4業種:「一般機械」「自動車」「電気・精密」「航空・造船・搬送用機械」
前月比 :「一般機械」と「航空・造船・輸送用機械」が増加
前年同月比:「航空・造船・輸送用機械」のみ増加
・全 11 業種中
前月比 : 減少7業種 (「官公需・学校」「鉄鋼・非鉄金属」等)
前年同月比 : 減少7業種 (「鉄鋼・非鉄金属」「電気機械」等)

主要4業種

(3)一般機械(産業機械等・金型)向け受注
・一般機械計は、2カ月ぶりの 130 億円超。5カ月連続の 150 億円割れ
・産業機械等は、2カ月ぶりの 120 億円超。金型は、3カ月ぶりの 20 億円割れ
・一般機械は、緩やかな減少が続く中で、昨年後半から底這い状態

(4)自動車(自動車部品・完成車メーカー)向け受注
・自動車計は、2020 年8月(51.5 億円)以来、42 カ月ぶりの 70 億円割れ
・自動車部品は、41 カ月ぶりの 50 億円割れ。完成車は2カ月ぶりの 20 億円超
・自動車は、24 年に入り一段受注が下がった感があるが、今後の動向を注視

☆「自動車は、24 年に入り一段受注が下がった感があるが、今後の動向を注視」とあるが、自動車の動向が気になる。「主要業種別構成」も先月の「22.9 %」がさらに低下して2月は「20.5 %」と 20 %を切るのではないかと不安になる数値だ。2010 年頃の経産省の「産業構造新ビジョン」で「自動車産業依存の“1本足打法”から「戦略的5分野を強化する“八ヶ岳構造”へ」と提案された。
5分野とは、①インフラ関連/システム輸出、②環境・エネルギー課題解決産業、③文化産業(ファッション、コンテンツ等)、④医療・介護・健康・子育てサービス、⑤先端分野(ロボット、宇宙等)を指していた。
 東日本大震災(2011 年3月)以降に、日本列島の状況が変化しており、上記の産業構造ビジョンは見直しが必要だと思うが、自動車依存の“一本足打法”を脱却する潮時なのかもしれない。

3.外需【2月分】
外需 816.7 億円(前月比 + 1.6 % 前年同月比 △ 4.1 %)
(1)外需総額
・2カ月連続の 850 億円割れも、4カ月連続の 800 億円超
・前月比 2カ月ぶり増加 前年同月比 14 カ月連続減少
・主要3極ではアジアのみ減少も、中国、インドは前月比増加する等、底堅い動き
(2)外需総額の業種別受注
・主要4業種
前月比 :「電気・精密」と「航空・造船・輸送用機械」が増加
前年同月比 :「航空・造船・輸送用機械」のみ増加
・一般機械は、アジア、欧州で前月比減少し、3カ月ぶりの 270 億円割れも高水準持続
・自動車は、アメリカがほぼ半減する等、2021 年1月(121.2 億円)以来、37 カ月ぶりの 170 億円割れ
・電気・精密は、中国、ベトナム、ドイツ、アメリカ等で前月比増加し、2カ月ぶりの 100 億円超
・航空・造船・輸送用機械は、フランスやアメリカで増加し、3カ月ぶりの 70 億円超

(3)主要3極別受注
①アジア
アジア計は、東アジアで前月比減少も、その他 アジアで増加し、3カ月連続の 350 億円超
-東アジアは、韓国、台湾で前月比減少も、4カ月連続の 250 億円超
-韓国は2カ月ぶり、台湾は4カ月連続の 20 億円割れ
-中国は、4カ月連続の 220 億円超と底堅い動き
-その他アジアは、ベトナムやインドで前月から増加し、2カ月ぶりの 100 億円超
-ベトナム(16.6 億円)は、17 カ月ぶりの 15 億円超
-インドは、2カ月ぶりの 50 億円超

アジアの受注額

アジアの業種別受注
・主要4業種は、すべて前年同月比減少
・一般機械は、その他アジアで前月比増加も、東アジアで大幅減少で、3カ月ぶりの 120 億円割れ
・自動車は、インドで大型受注が継続も、中国や韓国、タイで減少し、3カ月ぶりの 120 億円割れ
・電気・精密は、台湾を除くすべての国・地域で前月比増加し、5カ月ぶりの 80 億円超
・アジアは、インドが好調を持続している他、中国も底堅く推移している

欧州
欧州計は、前月比増加も力強さに欠ける状況で2カ月連続の 180 億円割れ
-ドイツは、3カ月ぶりの 40 億円超
-フランス(23.5 億円)は、2カ月ぶりの 20 億円超
-トルコ(14.5 億円)は、8カ月ぶりの 15 億円割れ
欧州の受注額

欧州の業種別受注
・主要4業種は、航空・造船・輸送用機械のみ前年同月比増加
・一般機械は、 EUを中心に前月比減少し、2022 年8月(44.6 億円)以来 18 カ月ぶりの 45 億円割れ
・自動車は、EUを中心に前月比増加し、4カ月ぶりの 25 億円超
・電気・精密は、2カ月連続の前月比減少で、12 カ月ぶりの 15 億円割れ
・航空・造船・輸送用機械は、フランスでまとまった受注があり、2カ月ぶりの 20 億円超

北米
北米計は、2カ月ぶりの 250 億円超で堅調持続 横ばい圏内の動き
-アメリカは、2カ月ぶりの 220 億円超
-カナダ(14.0 億円)は、4カ月ぶりの 15 億円割れ
-メキシコは、4カ月連続の 15 億円超
北米の受注額

の業種別受注
・主要4業種は、一般機械と航空・造船・輸送用機械で前年同月比増加
・一般機械は、アメリカでまとまった受注があり、2カ月ぶりの 100 億円超
・自動車は、域内すべての国で前月比減少し、2021 年1月(20.3 億円)以来、37 カ月ぶりの 25 億円割れ
・航空・造船・輸送用機械は、アメリカで大型受注が継続し、4カ月連続の 40 億円超
・北米は、大手を中心にまとまった受注が市場を下支えし、高水準持続

AMT事務局コメント(1月分)
2024 年1月:3億 3,795 万ドル、前月比△ 31.0 %前年同期比△ 3.7
「受注額は1月として 2021 年以降で最も低いが、台数は 2016 年以降で最も低く、これは自動化等の高付加価値商品が受注を牽引していることを示している。ジョブショップは依然低調だが、OEMからの受注は堅調である。1月は季節的に最も年間で低くなるが、今年も同様だと思われ、2024 年累計では8%の増加を予測している。」

次回、2024 年3月次の受注額の報告は速報が4月9日(火)15 時、確報値は4月 18 日(木)10 時 30 分~の記者会見で。報道解禁は同日 15 時。