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ことラボ・レポート

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ことラボSTI代表 岩波 徹/「MECT2021会場レポート」

2021 年 11 月 02 日

展示会の新しい形への挑戦

 10月20日(水)から23日(土)まで、名古屋市港区の「ポートメッセなごや」(名古屋市国際展示場)でメカトロテックジャパン2021(MECT2021)が開催された。9月 30 日に新型コロナ対策の緊急事態宣言が解除されて 20 日後に開催された、工作機械などの実機を展示する本格的な展示会が開催に踏み切った。わずか 20 日で出展準備を整えるのは至難の業なのが、設備財の展示会だ。主催者も出展者も慎重な準備で臨んだ今回の展示会は、これからの展示会の貴重な参考例として注目される。

感染対策の数々

 展示場内に入ってみると、これまでのMECTと少し違うと感じた来場者は少なくないハズ。通路に立ち止まって話し込む人々が多く、小間内はすいていた。小間内は応接セットなどが少なく、いつものように来場者と出展者が談笑する場面が少なかった。主催者から、極力人流を留めないような工夫を求められており、小間内では飲食ができないのだ。これまではソフトドリンクやスナック中には酒類もサービスされていたが、今回展ではそうした場面は見られなかった。
 さらにカタログや資料などの受け渡しも極力避けるように要請されていた。受付で示されたバーコードをスマホで読み撮ると、カタログがダウンロードされる方法を採用している出展者も多かった。各小間にはアルコール消毒液を用意すること。小間内で説明にパソコンを使うなら、触る人が交代するたびにアルコール消毒を徹底すること。小間内に置いたパソコンなどは、飛沫感染を防ぐためのアクリル板などでセパレータの設置が求められた。
 さらに主催者も密を避けるために、各号館の出入り口には入退場者数をカウントするカメラを設置して、ホール内にとどまっている人数をモニタリングしていた。規模の大きな1号館と3号館は 10,000 人、2号館は 6,500 人を上限としてホール内の人数を制限していた。また飲食による飛沫感染を避けるために、会場内のレストランなどは極力制限して、常設のレストランのほかには2号館横にテント張りのラーメンなどの臨時売店があるだけだ。毎回、昼食時には敷地内に出展している出店で購入した弁当などをとりながら談笑している場面が当たり前だったが、今回は少ないベンチも満席とはならず、歓談する場面もほとんど見られなかった。主催者が毎回、発行していた「会場内ニュース」も今回は発行されなかった。初日の昼食を兼ねて、出展者が一堂に会して展示会に成功を期していた恒例のレセプションも中止された。恒例と言えば、初日夕方に開催されていた日本精密機械工業会の秋季総会懇親会も中止された。
 目に見えない敵との戦いに万全の備えは難しいが、これらの方法が今後のモデルケースになるかもしれない。

初日はまるで同窓会

 こうして書くと何から何まで中止づくしと誤解されかねないが、一番肝心な出展者とユーザーの出会いには何ら制限はなかった。「リアル展はやはり良い」との声が各社から聞かれた。実はMECT自身は2年前の 2019 年にも開催されていたので、この会場での出会いは「久しぶり」ではない。しかし昨年秋のJIMTOF(日本国際工作機械見本市)がリモート展であったこと、2年近く世界中の展示会が中止になったりリモートになったりして、出展者が会うのが「久しぶり」だったのだ。お互いの無事を喜びあう場面がそこここで展開していた。そしてこの2年間、ほとんどの公共展が開催されなかったことがフラストレーションにもなり、それを一気に解消できる喜びが場内に満ちていた。
 それは開会を翌日に控えた、搬入期間最終日すなわち会場設営で殺気立つ前日の会場でも感じ取れた。毎回のことだが、前日は時間内に間に合わせようと怒号が飛び交うことも珍しくない現場だが、なぜか久しぶりの展示会で、装飾や電気などすべての関係者が久しぶりの展示会を喜んでいた。

リモート展にも一応の評価を

ファナックのブース

 多くの出展者が異口同音に「リモート展にもメリットがある。リアル展とリモート展の良い所取りをして販促活動をしていく」(ファナック稲葉善治会長)とこの2年間の経験を前向きにとらえていた。
しかし今回のリアル展では、感染防止策の一環として、来場者が小間内に留まって“密”にならないような対策が、上記のように具体的に指示されていたので、いくつかの工夫が必要になっていた。
カタログや会社案内、技術資料の受け渡しも感染の恐れがある、と小間内ではバーコードをモバイル端末で読み取って資料をダウンロードしてもらう方法が採用された。三菱電機もマザックも、スマホなどを持った人が納得した顔で小間から立ち去っていった。
 しかし自分のモバイル端末を覗きながら、小間内で説明員とやり取りするのは、その場で初めて経験したことで少し難しいと感じた。展示製品が、完成した「ある機能」を伝えるだけならリモート機器で伝えきれるかもしれない。しかし工作機械のように、使用目的のために複雑な使用条件を整えなければならない設備はリモートで販売するのは困難だと思う。
 さらに家1軒購入できるような金額になる工作機械の購入を、リモートで得た情報だけで決済するのは難しい。顧客との信頼関係の醸成が必須条件だ。「私たちの営業の9割は情報交換を交えた“無駄話”で、それで信頼関係を築きハンコがいただける。リモートでは“無駄話”は難しい。やはりリアル展がありがたい」(メルダスシステムエンジニアリング上田実取締役東京支店長)というのが率直な意見だろう。

新しい取り組み

 多くの工作機械メーカーが出展する3号館に入るとすぐにDMG森精機の小間がある。多くの来場者は「オヤ?」と思ったのではないか。同社が誇る加工機、すなわち工作機械が1台もない!初めに目に入るのは、多品種少量生産の自動化を短時間で実演する「MATRIS Light」、現場で生産をサポートする多関節ロボット。各種センサを使いことで“工具以上ロボット未満”的なツールで、オペレータ不在時にも簡単なティーチング(5分)で利用できる。さらに進むと「加工の3悪(切りくず、クーラント、ミスト)」を改善しなさいと、みなれない提案が目を引く。「これは顧客の工場で聞いたコンセプト。自動化が進むと機械へのケアが疎かになる。

DMG森精機のブース

①切りくずには「AIチップリムーバル」、②クーラントには「ゼロスラッジクーラントタンク」、③ミストには高性能ビルトインミストコレクター「zeroFOG」を開発した。これは小型で後付け可能。この分野に手を入れないと生産性は上がらない。小間の様子はことラボSTIの動画ニュース『メカトロテック ジャパン 2021 会場レポート』をご覧ください。
 製造現場を分類すると、設備機械など「ハードウェア」と設備を動かす「ソフトウェア」に分けられる、と言われてきたが、“それ以外”にも大事なことがあるだろう、というのが「ことラボSTI」が提唱する「サードウェア」だが、DMG森精機の展示も根底には通ずるものがある。
 1990 年代のエンジニアが抱えていたテーマがデジタルエンジニアリング。強引な説明だが、現場に眠る「暗黙知」を「見える可」して数値に置き換えると自動化が進む、という論法だ。加工ラインに材料が投入され、ソフトとハードが適切に働けば製品ができる、と単純化して考える人もいた。しかしDMG森精機が提唱するように、たまった切りくずは処理しなければいけないし、クーラントは適切に使われないと非効率な加工になるし、加工雰囲気を悪くするミストも困った問題だ。これまでは工作機械を使うユーザーが対応してきた。しかし購入していただいた工作機械が、トラブルを起こすことなく仕事を続けるためには、設備メーカー側が痒いところまで手が届くような気配りが必要になった。DMG森精機の提案は、製造業界の現実に対処していると言えるだろう。

オークマのブース

 オークマのブースも、今回展に対応する工夫に満ちていた。小間内の人流が滞留しないような配慮が求められていては、メインの工作機械を置いても期待する訴求効果は上げられない。それならオークマの考え方=哲学を伝えよう、と方針が決まった。テーマは「オークマが考える働き方改革」として、オークマが何をどのように考えたから今回のような展示になったのかを、國光克則部長に動画の中で語っていただいた。①必要なエネルギーを減らす、②不要な機器は積極的に止める、③機械の動作時間を短縮する、を挙げている。詳しくは『動画ニュース』をご覧ください。

主力マシンを強力にアピール

 工作機械の展示会、それも2年ぶりの展示会では新製品が溢れていた。ファナックは「2年ぶりのリアル展で、この間にたまった新標品と新機能を実際に見ていただき、お客様の生の反応、生の声を伺いたい」とMECTに臨んだ。特に競合メーカーの少ないナノマシン「ROBONANO α-NMiA」には力が入る。また、小型切削加工機 ロボドリル「α-DiB Plusシリーズ」、ワイヤ放電加工機 ロボカット「α-CiCシリーズ」、に加えてハンドリングを横置きした自動化導入パッケージ ロボドリル「QSSR」を展示。

超高精度高速微細加工機 AndroidⅡ

 微細加工では碌々産業の超高精度高速微細加工機「AndroidⅡ」に、微細加工を実現するためのノウハウが盛り込まれている。微細加工はコンスタントに微細加工を実現できることが肝要で、そのために多くのセンサが組み込まれおり、加工記録も詳細にとられロギングすることでフィードバックが可能だ。
 微細加工に関してはナガセインテグレックスも特徴を打ち出していた。出展機は2台(超精密門形成形研削盤「SGD-2010」、超精密成型研削盤「SGi-520α」だが、その精密加工を維持しながら「生産性を上げましょう」と呼びかけた。働き方改革やコロナ禍で製造業の環境は厳しくなるばかりだが、それならば日本は生産性を上げることしか道はないではないか、と問いかけた。「ウチの提案は、飛びぬけているのでなかなか信じてもらえないのが難点」とサラリをいうところがナガセのすごいところ。

渾身のこのマシン

立型MC v61

 牧野フライス製作所は立形マシニングセンタ「v61」に力点を置いていた。これは同社の横形マシンイグセンタ「a1nxシリーズ」の考え方を立形構造に置き換えたもので、剛性は抜群で「信頼性の塊のようなマシン」(井上真一社長)。さらに3Dモデルから自動的に加工パスを作るマシニングプロセッサは、ベテランの作業者が使いこなしたノウハウ(知恵)がマシンに移植され、組織知として活用でき、若いオペレータが使うときには参考にすることができる。見た目はシンプルだが中身がぎゅっと詰まった未来のMAKINOの機械だという。
 OKKは、これまでの技術的成果を集約したベストセラーマシン 立形MC「VM/RⅡ」をさらに強化して展示。高剛性・重切削を追求するためにコラム基部をテーパ状に変更して剛性アップした。メンテナンス性を向上させるために、日常点検機器を背面のメンテナンスパネルに集中配置した。
 牧野フライス精機は、同社のフラッグシップモデルのファイナルトランスフォーメーションつまり最終形として高精密CNC工具研削盤「AGE30FX」を展示。同機は6月にリリースされたが緊急事態宣言でリモートでの発表で、MECTでユーザーに初めてのお披露目。砥石交換時間を 30 %短縮、ローダー交換時間は 50 %短縮そして工具交換可能本数は8セットと、ファイナルトランスフォーメーションと言い切るレベルアップが実現した。
 アマダは「コロナ禍で傷んだ産業界にあって、アマダの元気な姿を見せたい」と板金、研削盤、出展機はすべて新製品を出展した。アマダのグループの再編を経てアマダ本体はオールラウンドファイバーレーザマシン「BREVIS-1212A」と超精密ファイバーレーザマシン「PRELAS-1212AJ」を展示、アマダマシナリーはデジタルプロファイル研削盤「DPG-150」、アマダプレスシステムは順送プレス加工自動化システム「SDEW-8010iⅢ+AlFAS-03ARZ」を出展した。
 中・大形工作機械を得意とする芝浦機械は門形マシニングセンタ「MPF-FSシリーズ」と超精密マシニングセンタ「UVMシリーズ」を展示した。昨年は社名変更や株式買付など本業以外で話題になったが、日本の工作機械産業の歴史を背負う正統派工作機械メーカーが元気な姿を見せていた。坂元繁友社長は「工作機械業界は受注が回復してきており、中・大形工作機械を得意とするわが社に注文が回ってくることを期待している」と前向きに語っていた。

新しい技術をアピール

岡本工作機械製作所 NC精密平面研削盤 PSG64CA-iQ

 岡本工作機械製作所は、平面研削盤や成形研削盤など4台を出展しているが、今回力を入れてアピールしていたのは「パフォーマンスを変える、限界を超える」新技術。①機上計測装置「Quick Touch」は“壊れないプローブ”で一度ワークに当てて、瞬間的に退避。その時の位置データで次に慎重に接近してワークにタッチ。慎重に扱うことが必要な測定用プローブを、「壊れないプローブ」にして、プログラムで操作しながら位置決め測定。NC工作機械の隆盛期に、一時は見かけなくなったハンドルをつけ微細な動きをハンドル操作で簡単に実現する“ハイブリッド工作機械”が出た。「Quick Touch」はその測定機版。②平面研削盤用3軸/5軸研削用CAM「GRIND-SCOPE」。超硬やセラミックなどの脆性材は砥石での加工が多いがCAMが使えなかった。これを切削工具と同じようなシミュレーションで干渉チェックができるCAMソフトを独自に開発した。
 三菱電機は、火花が飛ばない溶接技術「スパッタレスレーザ溶接ヘッド TH-L」をアピールした。激しく火花が飛び散るイメージの強いレーザ溶接だが、「TH-L」は、火花の飛散が驚くほど少ない。原理は、強弱2つのレーザ光照射で溶融金属の飛散量を削減して溶接品質を向上させた。強いレーザ光の周囲に弱いレーザ光を照射することにより、溶接速度に関わらず溶接金属の飛散を抑制できる。芸の細かな技術で、従来のイメージを大きく変えた。

周辺機器の動き

 レニショーはパラレルリンク機構を使った現場で使える測定システム「イクエータ計測システム」をアピールした。「測定」と言えば、慎重な挙動で静かなイメージだが、パラレル機構を使って俊敏に動く。ワークをセットすると、その横にマスターを置き、ワークとマスターの誤差を補正していく。現場環境は常に温度が変化している。絶対値を測る三次元測定機は恒温室に置かなければならなくなる。「イクエータ計測システム」は、大量生産部品の高速測定に威力を発揮しそうだ。
 しかしこれまでにない商材のために、個別のユーザーを訪問するためにアプリケーションチームを作り、営業、納品、サービスまでを一貫して担当する。
 ユニークな輸入測定機を紹介するイネイブルは新製品の簡易表面粗さ計「塗装プロセス3Dプロファイラ4D SurfSpecTM(4DTechnology社)」などを展示した。現場のあらゆる環境に対応することができる測定機。自動車の塗装面や鋼板を現場で、どのような姿勢でも測定できる。

ハンドリングロボット「ならいハンド」

 THKは、吸着式と把持式を備えたハンドリングロボット「ならいハンド」とロボット走行軸モジュール「MRT」が目に留まった。「ならいハンド」はブロック、球、円筒形状の3つのタイプのワークを先端に保護部品のついた約 10 cmのロッドが左右からそれぞれ3×3の合計 12 本でワークを把持する。また吸着パッドでハンドリングする。初日の夜のテレビニュースで紹介されたためか、来場者の波が絶えなかった。また「MRT」は工場内物流を簡単にシステム化できる。THKがモジュール化して簡単に導入できる。自動化への要求が強く、最大重量 2,500 kg、最大ストローク 20 mが標準モジュールになっている。その他THKが推進する、駆動系モニタリングシステム「OMNIedge」もしっかりとアピールされていた。

MECT2021を振り返って

 生産設備の購入は、会社の将来を決定する決断だ。それをリモートで行うには情報が足りない。多くの出展者が「リモートにもメリットがある」と語っていた。この2年間を、販売促進ツールのアイテムがひとつ増えた、と受け止めて前向きに取り組む出展者が多かったことが、将来に希望を持てた展示会だった。