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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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MECT2023からJIMTOF2024へ

2023 年 11 月 29 日

MECT2023終了

 10 月 18 日(水)から 21 日(土)までの4日間、ポートメッセ名古屋(名古屋国際展示場)で開催された《メカトロテックジャパン》が、7万人を超える来場者を迎えて成功裏のうちに閉幕した。特別協賛団体の(一社)日本工作機械工業会が開いた 10 月 26 日の定例記者会見で稲葉善治会長が「ここのところ緩やかな調整の範囲にあった内需だったが、MECT会場はEV用部品やギガプレスへの提案が昨年のJIMTOFより増えていたようで、GXなどの各種提案も多く、会場内で熱心な商談が交わされていて、数か月後、半年後の成果に結びつくのが楽しみだ」とのコメントを発表した。JIMTOFの開催されない年の工作機械関連展示会としては盤石な態勢を確立したといえるようだ。そうなると 2024 年 11 月5日(火)から 11 月 10 日(日)に開催されるJIMTOF2024まで、工作機械を主要展示品とする展示会はお休みとなる。もっとも金型や研削盤をテーマにする展示会は企画されているので、各社からの情報発信は続くだろう。ここではMECT2023からJIMTOF2024までに、各社が変化の時代に取り組むためのヒントになるのではないかと思うレポートをまとめたい。工作機械産業の最大のお客である自動車産業を囲む環境が大きく変化しているこのタイミングで、自動車産業の“下請け的”位置付けに甘んじていた工作機械業界が、自動車産業が直面している問題に向き合い、来年のJIMTOFでの具体的な課題が見えればよいと願う。
 「ことラボSTI」は、工作機械の進歩には「お客様とともに歩む」ことよりも「使う人とともに」と考えるべきではないか、と考えている。今回は大手自動車メーカーで工作機械等生産財の国内外の見本市や直接メーカーとかかわりを持ち、自身の業務である生産準備のレベルアップや内製設備の革新等を図って来た経歴を持つOBに会場をまわっていただいた。その報告書は、案の定厳しい内容になった。
 これを読んで思い出したのは、ホンダエンジニアリング(EG)がJIMTOFから撤退したときに、それを主導したエンジニアS氏を取材したときのことだ。EGは既に本田技研工業に吸収されてしまったが、その取材記事は当時の日工会幹部にも注目していただいた。1996 年のJIMTOFは始めて東京ビッグサイトを会場にしたことで記憶に残るが、本田技研工業の工機部門であるホンダエンジニアリングが初めて参加したJIMTOFとしても記憶されている。98 年(大阪)、2000 年と連続出展したあとに、以後の参加をやめるか否かの意見を聞かれた。

JIMTOFに向かって

 「JIMTOFは誰のための展示会ですか」というのがS氏の最初の言葉だった。「展示されている出展機は機能満載だが、その機能はほとんどを使うことがない。展示されている機械の多くはオーバースペックで、価格も高い」と。当時EGは、日工会の会員にもなっていた。クルマ作りに必要最低限の機能を盛り込むという独自の哲学で開発した自社製工作機械を出展し、会場のEGブースは人で溢れていた。しかしEGは、日工会を脱会してJIMTOFにも参加しなくなった。それどころかJIMTOFは参考にならないとの判断で、EG社員が会社業務でJIMTOFに行くことは認めない。行きたい者は有給休暇をとり交通費は自費で行くように指示した。ひどい嫌われようだ。しかし、お客様とともに歩んでいくなら、EGの言い分にも耳を貸したほうがよい。今回のMECTレポートでも、会場に控えている出展者が、「ともに歩んでいく」というにはもう少し努力が必要だとの結果となった。
 しかし、工作機械業界の最大顧客である自動車産業はいま、進行中のEVシフトを筆頭に 100 年に一度の変革期と言われている。サプライヤーである工作機械業界でも、いままで通りの哲学で技術開発を続けて行くと、将来的には大きく道を誤るのではないか、と不安になる。以下のレポートは“辛口”だがアドバイスに満ちているので参考にして欲しい。

取材テーマ

 以下に示すテーマは、同OBがMECT会場に向かう前に調べたものだ。それに対して会場で得られた回答、情報をその下に列記した。
 テーマは以下の 14 項目になる。
①設備費低減=図面製作削減 標準部品の採用 汎用機、リピ-ト機の採用について。
②生産性向上=可動率向上 段替え性向上など実モノつくり時間、売上への直結について。
③高精度化=荒→中→仕上げの工程集約について。
④小型化=設置スペース低減 作業域の縮小(歩行距離など)について。
⑤省エネ、省資源=電機、エアー、油脂、工業用水について。
⑥信頼性向上=ダウンタイムの削減 MTBFの延長 MTTRの短縮について。
⑦安全性向上=設備を止めての安全作業の確保について。
⑧高品質化=品質の安定化について。
⑨稼働費低減=エネルギー、生産用副資材の削減について。
⑩保全性向上=BM→PM化への移行、消耗部品の標準化、共通仕様について。
⑪多種生産の追及=段取替え対応→段取り替え点数削減→段替えレスについて。
⑫現合の廃止=図面化の徹底 標準組み立て作業の実現について。
⑬置きポンの実現=設備移設でのレベル出し調整レス化と構成ユニットの置きポン化について。
⑭人へのロ-ド軽減=国内外での作業者への作業負荷軽減方策 直接、間接作業への対策について。

 これらのテーマは基本姿勢として、機械開発を提案する際には、目的を明確に記載して、会社そのものにメリットを提供できることを念頭においている。
①設備費低減=図面製作削減 標準部品の採用 汎用機、リピ-ト機の採用
現地で確認した限りでは、従来からの視点に留まり革新的な意見はなかった。
ここで「リピート機」とは、以前導入し生産ラインでその実績が得られている設備のことで、購入した設備を自由に使いこなしたいが、そうした二次使用には積極的な対応が期待できない。

②生産性向上=可動率向上 段替え性向上など実モノつくり時間、売上への直結
工具メ―カーからの高速加工、寿命延長での説明を受けた。技術の進化は工作機械と工具がイニシアチブを取り合っているが、MECT2023では工具側が進んでいるような印象を持った。設備要件と工具などモノつくりの要素を生産要件として全体で見ることができると有難いが、俯瞰してみようとする考え方には出会えなかった。製造業では、投入した費用、発生したコストが、設定された製品原価を作り上げて得るべき利益の確保を目指すが、こうした視点のサプライヤーは少ないと思う。

③高精度化=荒→中→仕上げの工程集約
ターゲットとなる製品、材料への具体的説明は聞くことはできなかった。
またボールネジ冷却も実施していると説明を受けたが、締結モータ軸からの冷却はやっていないとのこと。特許絡みですかと質問するも特許が絡むことは知らないようだった。
ボールねじの冷却については、ねじの中心部に冷却液を通す方法が一般的だが、摩擦熱が発生しているのはネジ山のある外周部なので、中心部から距離がある。ある工作機械メーカーは、水をじゃぶじゃぶとかけるのが、冷却には一番効果があった、というが、錆の処理でつまずきその先にまで進んでいないと言われた。 

④小型化=設置スペース低減 作業域の縮小(歩行距離など)の追求。保全活動エリアの確保
狙いが、客先のニーズに応えるより、軽薄短小の分類になっていないか。小さくすればそれで良い、というものではない。客先ニーズとすり合わせて欲しい。

⑤省エネ、省資源=電機、エアー、油脂、工業用水
以前はドライ加工とか、水溶性加工とかが話題でしたが、今回は見当たらない。ブームではないのかもしれない。 

⑥信頼性向上=ダウンタイムの削減 MTBFの延長 MTTRの短縮
話題にしているところはなかった。調達側からは知りたい事と思うがギャップを感じた。ただファナックが「壊れない、壊れる前に知らせる、壊れたらすぐなおす」のキャッチフレーズ「ZDT」を掲げていることは参考になった。使用者側は使い続ける上で、生産性を維持向上させるための重要なポイントなので考えて欲しい。
MTTR=Mean time to repair(平均修理時間)のこと。故障しても適切に問題箇所を修理して、可動復帰するのに要する修理平均時間→短ければ生産に支障を減じることができる。

⑦安全性向上=設備を止めて安全作業の確保
見学者からの質問がないのもいけないと思うが、日工会の事業計画書に謳われているのであれば足並み揃えてPR事項にすべきと思った。

⑧高品質化=品質の安定化
設備本体ではなく機内、機上計測工具のウィズホルダーでの組み立て測定などの説明があっただけだった。また機上あるいは機内計測については、三次元計測機(CMM)に代わるものとして使えるか、という誤解が多い。現状では、加工途中の確認に使い、最終的にはCMMでしっかり測る、というのが一般的な使い方だ。
※「工具のウィズホルダーでの組み立て測定」とは、ホルダーにセットした状態で測定する、ということ。測定時に測定工具をホルダーにセットすることは大事なポイントで、工具をホルダーにセットして、例えば刃先の位置を合わせる作業を、測定器具を使ってやっているが、主軸に工具をセットしたホルダーを取り付けて、加工を行う刃面が正しい状態になっているかについては『なっているはず』で終わっている。例えばドリルセンターは主軸センターと同軸上にあるかフライスなどは主軸に取り付けた際、締結での歪が刃先まで影響していないかが大事だ。

⑨稼働費低減=エネルギ-、生産用副資材の削減
CO2削減は明示されているが、副資材の削減やLCAにあるように、最期の終いの仕方(環境に配慮された分解と処理、区分け)はどこにも明示されていない。
 設備を構成する各ユニット、部品など環境を考慮した配慮がどのようになされているかがポイントで、以前、フロン洗浄された部品が使われた製品は輸入許可が出ないとか言われていた。厳しい制約を課せられていた。ハイテク装備化された設備はどのような形で、地球にやさしいSDGsを推進しているかだ。かつて私の時代、設備の配線重量は設備重量のほぼ1割を占めていた。そこには樹脂の保護剤、絶縁材、本体の銅線等があった。

⑩保全性向上=BM→PM化への移行 消耗部品の標準化、共通仕様
動作変化点の見える化→デジタルツールでのフォロー実現(予見化)を期待した。
※「BM→PM化への移行」とは、Break down maintenance(事後保全)=設備故障等で、停止してからパフォーマンスの維持作業を行う事。Preventive maintenance(予防保全)=設備故障が起こる前に障害を検知して、生産活動を止めないように修理しておくこと。このことにより生産活動が計画通り行われることが重要。ファナックの「壊れない、壊れる前に知らせる、壊れたらすぐなおす」に通ずる。PM化が可能な設備設計と予兆をトレースできる動作のプロファイル化をデジタル技術の進化で応えるべきと考える。

⑪多種生産の追及=段取替え対応→段取り替え点数削減→段替えレス
多品種少量が一般であるが使う側の工夫だけでなく機械側の工夫のレベルアップに関しては今回も聞けなかった。 

⑫現合の廃止=図面化の徹底 標準組み立て作業の実現
保全(⑩)に同じ 全てが図面の品質向上に繋がる。

⑬置きポンの実現=設備移設でのレベル出し調整レス化と構成ユニットの置きポン化
3点受けという取り組みで実現ができると思った。
しかしレベル出しの位置が機械の外周から可能な位置にあるか、繰り返し性があるか。以前、置きポン機を製作して、設置したラインを評価のためわざわざ横に1mずらして再現性を確認したことがある。地面の状態は一定ではないので、たまたまうまくいった、というのではだめで、そこまで見たい。機械の素性を、構造設計というハードで確立することと制御設計というソフトで確立ところをしっかり峻別しないと、使用中に発生する不具合に対して上記のBMすら対応できず、さらにPMなどは論外になる。PC,PLC,NCそしてAIという情報処理、制御が進化して基本が見えなくなると心配だ。さらに集積という段階にまで行くと“体格”が見えなくなってしまう。制御で補正する技術が出てくると『これこそ制御での現合』となるのではないか、と不安になる。図面を起こし、モノをつくり、組み付け調整で発生するコストを、制御で繕うことは本質対策になりえない。
※「置きポン」とは、完成した設備、或いは他に有った設備を新しい場所に移動・据え付けして、起動スイッチを押して、必要な品質、量のモノつくりができる機械を言う。据え付け調整、心出し調整、試し削りなしを実現する機械。

⑭人へのロード軽減=国内外での作業者への作業負荷軽減方策 直接、間接作業への対策
まったく見ても聞いても答えは得られなかった。

 上記のようなテーマに応えるような資料、回答できるスタッフは展示会場では見つけることは難しかった。展示会とは、未知の顧客との出会いの場であり、自社製品をPRする場であり、会場にいるのは原則として営業マンだ。技術系の人もいるにはいるが少なく、多くの場合先客への対応で忙しい。しかし上記の①から⑭まで掲げられたテーマは、「EVシフト」という今風のテーマ以前の基本的課題で、工作機械業界の最大のお客様である自動車メーカーが悩んでいる課題の一部だ。ある工作機械メーカーが「わりきり」という新製品を展示したときに、すかさず同OBは「誰のために何を割り切ったのですか」と質問したが、同社の担当者は答えられなかった。響きの良い商品なので、コンセプトをしっかり固めて市場に向かって欲しい。
 同OBの会場での取材で、注目したことを要約すると…。
会場で製品を売り込んでいても、ターゲットとなる製品、材料への具体的説明は聞くことはできなかった。また、特許に関する知識を有する営業マンは少ない(③)。小型化に関しては客先のニーズというより“小型化”への挑戦的な取り組みに感じた(④)。省エネ・省資源については見当たらなかった(⑤)。
 ダウンタイムの削減 MTBFの延長 MTTRの短縮については、ファナックの「ZDT」があっただけなのが残念(⑥)。安全性を訴える取り組みも目立たなかった(⑦)。品質に関しても機上・機内計測への取り組みが、少しめだったが、もっと強い取り組みを期待している(⑧)。ゼロカーボンが要求される時代に可動率向上は具体的な取り組みなはずだが、CO2削減以外の取組みは明示されていなかった。日工会はライフサイクルアセスメント(LCA)への取り組みを本格化しようとしている。少しスピード感に欠ける(⑨)。「保全」は忘れられがちな項目だがデジタルツールの採用で新たな提案があっても良いと思う(⑩)。多品種の生産ではオペレータの段取り替えがネックになっている。機械側にも工夫して欲しいが、そのような提案を見ることがほとんどなかった(⑪)。製造現場では、現物どうしを実際に合わせる現合を行っているケ-スもあろうが、保全性の向上のため図面化し組付け指示での作業となるようにして欲しい(⑫)。さらに進めると、機械を設置するのに時間がかかりすぎるので、それを簡素化することを望んでいる。極端な言い方をすると、テレビでも洗濯機でも買ってきてコンセントを差し込むだけでテレビになり洗濯機になる。工作機械も置くだけ(置きポン)でパフォーマンスを発揮できるようになればよいと思っている(⑬)。いま工作機械の関係者の国籍は多様で、オペレータの負担を軽減することが求められている。しかし、展示会で見て回った範囲ではそのような取り組みをしている展示製品は見受けられなかった(⑭)。

JIMTOF2024に向けて

 記者は 1983 年から工作機械の展示会、すなわち生産財の販売促進に深くかかわってきたが、約 40 年間の間にネットが登場し、デジタル社会が進化したが販売戦力そのものははあまり変わっていない。展示会への出展には、出展の既得権を持つ企業が減らない限り、会場のキャパシティが増えなければ新規参入は難しい。それゆえ展示会に出展すること自体が目的になり始めている。JIMTOF関連団体のある団体は、JIMTOF参加を目的に会員になるが、会の運営には全く興味がないメンバーが増えていくと苦々しくこぼす。
 展示会には高額なコストがかかる。新聞・雑誌に広告を打つ場合とは比べ物にならない。その中では小間料金などは些細な額だ。装飾や電気・エアー・給水などの運営費、機械の搬送費、資料作成費、アテンド要因の交通費・宿泊費・人件費などなど。だから出展各社はあの手この手で出展効果を上げその効果を判定しようとする。ただ販売促進活動と販売実績の因果関係は明確に測定できないから、そこはデジタル化できないままだ。
 しかも展示会が終了すると、ときには終了前から、片付けがはじまり、設営業者が会場に乗り込んできて、装飾を取り壊す。たった数日間で、作られた造作が“宴の後”のように跡形もなく廃棄されていく。投資に見合った成果があれば言うことはないが、その算出は難しく惰性でここまできているのではないか。SDGsが叫ばれる時代に、何か大事なことを忘れているような気がしてならない。
 今回は、名古屋の自動車業界の生技部門のOBに協力していただいたが、会場を回って得られた印象は、技術的な質問には答えられず、経営的な取り組みには無関心で、産業界全体の課題にも無関心で、「売らんかな」のエネルギーで溢れていた。それは「お客様とともに」という掛け声とは少し離れているように思える。
 JIMTOFに3回参加したホンダエンジニアリングが、何を考えてJIMTOFに参加したのかをもう一度紹介する。「ホンダにはお金がないので、広い土地を買えない。(当時)エンジンを作るには 200 mのラインが必要だが、土地がないので 100 mで作る。そのためには1台で2つの仕事ができる機械(ホーニングとチャンファリングなど)を開発した。またラインで多種生産(混流生産)するために「モジュールマシン」も開発した。シビック用エンジン、アコード用エンジンなど、一つのラインで製造する。エンジンに必要な穴明けを一つのラインで生産した。ラインを流れてくるエンジンブロックに、必要な数の穴の数のドリルを組み込んだ“箱”を加工ステーションに送り込む。箱の裏側から強力なモータを突っ込みすべてのドリルを一気に回す。その日生産するシビックの台数分を作ると次はアコードのエンジン用モジュールが流れて来る。次にオデッセイのエンジンになる。ひとつのラインで多種多様なエンジンが製造できる。クルマを作るのに必要な工作機械は、このような機械です。EGだけでは道を究められないので、EG機を見て新たにクルマ製造用マシンに挑戦してくれる仲間を探したい、というものだった。このときEGは「工作機械メーカーとともに」と歩み寄ったのだが、その声に応えた工作機械メーカーはなかった。
 一方、変化の激しい時代となり、モデルチェンジも頻繁に行われるようになった。いちど生産ラインが固まっても、次のモデルチェンジのためにフレキシブルに対応できる工作機械も必要だ。ましてやライン生産ではなく、同時5軸加工機で一気に作り上げようとする考え方も登場してきた。
 変化の時代に、工作機械メーカーは、それこそ「わりきり」を実行して、独自の哲学でお客様の期待に応えていってほしい。