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2023年(暦年)工作機械受注実績の概要

2024 年 02 月 21 日

 (一社)日本工作機械工業会は1月25日の月例記者会見で前年12月の受注額の確定金額を発表した。これにより2023年通年の、受注額を始めとした各種のデータが出そろい、年間の受注分析を発表した。

1.受注額
・概
 2023 年の工作機械受注額は、3 年ぶりの減少で、前年比▲15.5%の 1 兆 4,865 億円となった。 コロナ禍からの回復を牽引したペントアップ需要や半導体関連需要、自動車関連需要が落ち着き、 不動産不況による中国の減速もあり、3 年ぶりに1 兆5,000 億円を下回ったものの、過去7 番目の受注額を記録した。
 このうち、NC 工作機械は、1 兆4,630 億円(同▲15.3%)となった。受注額全体に占めるNC 工作機械の比率は 98.4%(同+0.2pt)と、8 年連続で 98%を超えた。受注総額の内訳をみると、内需は4,768 億円(同▲21.0%)、外需は1 兆97 億円(同▲12.7%)で、外需比率は同+2.4pt の67.9% となった。

・内需の動向
 2023年の内需は、3 年ぶりに減少し、前年比▲21.0%の 4,768 億円と 3 年ぶりに 5,000 億円を下回った。2022 年後半まで受注を牽引したコロナ禍のペントアップ需要や部品不足に伴う能増投資、半導体関連需要等が徐々に落ち着く中で、底堅くも緩やかな減少傾向が年間を通じて見られ、 2023 年後半は400 億円を下回る月が多く見られた。
  業種別にみると、全11 業種中10 業種で前年比減少となった。主要4 業種(「一般機械」「自動車」「電気・精密」「航空・造船・輸送用機械」)では「航空・造船・輸送用機械(同+7.0%、202 億円)以外は前年比 10%以上の減少となった。特に、半導体関連での受注が多い、「電気・精密(同▲33.3%、577 億円)」、内燃機関、EV 関連の投資がどちらも低調な 「自動車(同▲25.3%、1,006 億円)」は大きく減少した。その他の業種でも、「商社・代理店(同 ▲32.8%、46 億円)」、「金属製品(同▲27.2%、368 億円)」が2 割を超える減少となった。
*いわゆる「EVシフト」(車の電動化)の方向性が明確に見えないために自動車産業の投資行動に陰りが見えていたがここにきて少し明るい兆しが見えてきた。
年間の内需に占める「自動車」の割合を2020年から見ると
25.7%(2020年)→22.6%(2021年)→22.3%(2022年)→21.1%(2023年)
と低下傾向は明らかだが、2023年11月から単月を見ると「25.0%」(11月)「26.6%」(12月)と高比率に回復してきた。これを朗報と見てよいか否かは2月21日に発表される1月受注額で判るだろう。

・外需の動向
 2023 年の外需は、3 年ぶりに減少し、前年比▲12.7%の 1 兆 97 億円と 3 年連続で 1 兆円を超え、過去6 番目の受注額となった。
 アジアでは中国を中心に減少したものの、欧州、北米は強いインフレ懸念にも関わらず底堅く推移し、円安傾向もあって月平均841億円と堅調な水準を維持した。
 地域別にみると、アジアは3 年ぶりに減少し、前年比▲23.2%の4,276 億円で、3 年ぶりの5,000 億円割れとなったものの、4,000 億円台の受注は維持した。このうち、東アジアは同▲28.3%(3,198 億円)で、韓国(同▲24.0%、250 億円)、台湾(同▲43.5%、203 億円)、中国(同▲27.3%、2,740 億円)が軒並み前年比 2 割以上の減少となった。特に中国では、前年の受注を牽引した EMS や EV 関連投資が影を潜め、不動産バブル崩壊による経済の不安定化もあり、設備投資は伸び悩んだ。その他アジアは、多くの国・地域で前年割れとなる中、唯一好調だったインドが増加したことで、同 ▲2.8%の1,078億円と3年ぶりの減少も、2年連続で1,000億円超えとなった。インド(同+26.5%、 511 億円)は、自動車関連を中心に堅調に推移したほか、半導体やEMS 関連の受注も増加し、一般 機械と電気・精密が過去最高額を更新し、インド計も初の500 億円超えで過去最高額を更新した
中国の経済状況については様々な情報が乱れ飛んでいるが、日工会発表のこの「工作機械受注実績の概要」に客観的なデータがあるので以下に示す。
 中国への輸出実績の変化(輸出実績・百万円/前年比)
2021年:¥358.041/177.4 ⇒ 2022年:¥376.996/105.3 ⇒ 2023年:¥274.033/72.7
☆輸出実績は、相手国の経済状況だけでなく、その国の政治・経済状況や国際政治などパラメータの多い関数を読み取らなければならない。今年の輸出実績で対前年比約3割ダウンの中国は、その意味では大したことはないのかもしれないが、何しろ総額が大きく、2740億円は、米国の2820億円についで2番目になる。その米国も前年比は下がっているが90.4%と、1割のダウンにとどまっている。「中国の先行きが心配だ」という日工会の心配も当然だろう。

 欧州は、2022 年 2 月からのロシアによるウクライナ侵略、イスラエル軍とハマスの戦闘が続くガザ地区などの地政学リスクに加え、エネルギー問題や金利高等の影響が懸念される中にあっても、 3 年連続で前年比で増加し、同+1.1%の2,335 億円と過去4 番目の受注額となった。国別では、EU (同▲3.9%、1,699 億円)域内のドイツ(同+6.3%、565 億円)、“その他”(同+2.7%、384 億円) がともに過去 2 番目の高水準の受注を記録したほか、“その他西欧”のトルコ(+38.9%、227 億円)、スイス(+27.9%、148 億円)は、統計区分開始(2015 年)以来の最高額を2 年連続で更新した

 北米は、同▲6.9%の3,206 億円と3 年ぶり減少も、2 年連続で3,000 億円を超え、過去3 番目の受注を記録した。アメリカ(同▲9.6%、2,820 億円)は、自動車で日本と同様、やや回復が遅れているほか、金利高によりジョブショップの動きがやや鈍かったものの、医療や半導体、航空宇宙関連を中心に堅調に推移し、過去 3 番目の受注額となった。また、カナダ(同+15.3%、199 億円) は 3 年連続の増加で、過去最高額を 2 年連続で更新した。メキシコ(同+21.9%、187 億円)は、 3 年連続で増加した。
 各地域別の受注シェアは、アジアが42.3%(同▲5.8pt)、欧州が23.1%(同+3.1pt)、北米が31.8% (同+2.0pt)となった。
 国別シェアでは、1 位がアメリカで 27.9%(同+0.9pt、前年 2 位)、2 位が中国の27.1%(同▲5.5pt、前年1 位)、3 位はドイツで5.6%(同+1.0pt、前年3 位)、4 位がイ ンドで 5.1%(同+1.6pt、前年 5 位)、5 位がイタリアで 3.3%(同▲0.3pt 前年 4 位)、6 位が韓国 で 2.5%(同▲0.3pt、前年 7 位)、7 位がフランスで 2.4%(同+0.3pt、前年 8 位)、8 位がトルコで 2.3%(同+0.9pt、前年13 位)と、首位が交代した他、台湾が順位を下げ、今年受注が目立ったイ ンド、トルコが順位を上げた。

・機種別の動向
 受注額を機種別(含むNC 機)でみると、全11 機種中9 機種で前年比減少となった。
 主な機種別の受注額は、旋盤計が前年比▲12.8%の5,071 億円で、3 年ぶりに減少したものの、3 年連続の5,000 億円超えとなった。内訳では「うち横形(同▲14.2%、4,725 億円)」は減少したが、 「うち立て・倒立形(同+10.9%、346 億円)」は3 年連続で増加した。また、旋盤計における「うち複合加工機(同▲3.0%、2,136 億円)」は旋盤計よりも減少幅は小さく、生産効率化、省人化のためのニーズを感じる結果となった。なお、旋盤計に占める複合加工機の割合は42.1%と前年から 4.2pt 上昇し、2 年ぶりに4 割を上回った。
 マシニングセンタは、同▲15.3%の 6,147 億円と、2 年ぶりに 7 千億円を下回ったが、3 年連続 で6,000 億円を上回った。「うち立て形(同▲16.5%、3,377 億円)」、「うち横形(同▲16.5%、2,171 億円)」、「うちその他(同▲1.9%、600 億円)」と全ての区分で減少したが、「うちその他」の減少率が最も小さかった。また、マシニングセンタ計における「うち5 軸以上」は同▲2.2%(1,574 億円)で、2 年連続で 1,500 億円を超え、複合加工機同様、マシニングセンタ計よりも減少幅は小さく、「うちその他」の「うち5 軸以上」は、5 割以上の増加を示した。その結果マシニングセンタに 占める“うち5 軸”の割合は25.6%(同+3.4Pt)と2 年連続で上昇し、6 年連続で20%を超えた。 その他の機種では、ボール盤(同+1.4%、2 億円)、中ぐり盤(同+11.4%、163 億円)の 2 機種 のみ前年比増加となった。

2.販売額
 販売額は前年比+3.1%の 1 兆 6,166 億円で、3 年連続で増加した。高水準の受注があった一方、 部品不足等によって多くの受注残を抱えていた当業界は、部品不足が徐々に解消に向かう中、販売額も高水準を維持し、5 年ぶりに1 兆6 千億円を超え、過去2 番目の水準となった。うちNC 機は、 同+3.0%の1 兆5,913 億円となった。 機種別(含むNC 機)にみると、全11 機種中6 機種で前年比増加となった。主な機種別販売額は、 旋盤計が同+3.4%の 5,484 億円、マシニングセンタ計が同▲0.8%の 6,638 億円、研削盤計が同+ 9.0%の989 億円、レーザ加工機などの「その他」計が同+17.0%の1,603 億円となった。

3.受注残高(☆)
 2023 年末の受注残高は、前年末比▲12.4%の7,858 億円で、3 年ぶりに減少し、2 年ぶりに8,000 億円を下回った。受注が調整局面入りし、部品不足が徐々に解消する中で、2022 年10 月に9,201 億円まで膨らんだ受注残高は、2023 年11 月に8000 億円を下回ったものの、依然高いレベルにあると言える。当該年末の受注残高を直近3 カ月(23 年10~12 月期)の販売平均で除した「受注残持ち月数」は5.8 カ月で前年末から0.7 カ月低下した。また、NC 工作機械の受注残高は同▲12.5% の7,605 億円となった。
☆この「受注残高」というのが不思議な数字だ。算術的には(受注額)-(販売額)=(受注残高)になるのだが、月例記者会見で配布される資料の中に「工作機械受注実績調査報告」(A4判横6頁)の「工作機械主要統計Ⅰ」の中に受注額の約18年間分が記録されている。2007年から2023年までの18年間を確認すると、最少額の¥382,592百万円(2009年)、最高額の¥896,813百万(2022年)と大きな開きがある。この1年間は1月の¥913,638百万から増減を繰り返し11月から¥700,000百万台に落ちてきた。部材不足も解消しつつあり、これからも下がり続けると予想される。部材不足が予想されるときに、とりあえず抑えておこうと“仮発注”が横行した時期もあったが、そのようなときに見られるキャンセルも今回は少なく、日工会は「“実需”であり、部品不足も解消しつつあり粛々と生産活動を続けていく」としている。