メールマガジン配信中。ご登録はお問い合わせから

ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

最新の業界情報

JMS2023とiREX2023

2023 年 12 月 27 日

 新型コロナによる規制が解除され、躍動感を取り戻した産業界で展示会ビジネスが熱く展開している。なかでも東京モーターショーから日本モビリティショーに名称変更した《JMS2023》と国際ロボット展《iREX2023》は、どちらもこれからの社会を大きく変えるアイテムだ。しかし守備範囲が広すぎて、展示会レポートとしてまとめきれなかった。まず《JIM2023》だが、ポイントは、①Mobilityの概念の理解。②交通インフラひいては現代社会との整合性ある技術進化、③航空機との線引きなどがある。開催を巡って雲行きの怪しい「大阪万博」で“空飛ぶタクシー”をデビューさせる、と推進派は意気込むが、素人目にも無理がある。政治がらみで猪突猛進されるのが怖い。
 また国際ロボット展《iREX2023》は、本来の“産業用ロボット展”から、機械加工以外の食品、医療など非金属加工から製造現場で人に代替する“ヒューマノイド”、建設現場の知能化クレーンなどの産業用途ばかりか、《iREX》では対象外のお掃除ロボットなどの民生用、さらに上記の《JMS》と絡んだ自動運転などにも関係してくる。それらの関係性が整理されないままでエンジニアが突出することのないように、取材を継続してまとめていきたい。

《JMS2023》~新たなモビリティ社会の創出に向かって

 「東京モーターショー」(TMS)が今年から「Japan Mobility Show2023」(JMS2023)と名称変更した。それに伴い展示製品も「4輪車・2輪車・自動車部品ほか」から「自動車業界だけでなく、様々なモビリティ産業」が未来の日本を体感する場として企画された。
 東京モーターショーは 1954 年に「全日本自動車ショウ」という名称で東京千代田区の日比谷公園内の広場でスタートした。その後のモータリゼーションをリードした、国民的行事になっていた。その後、会場も何度か移り変わり、会期も変更され 2021 年は新型コロナ感染防止のために開催中止となった。
 おりしも自動車産業は、転換期を迎えつつあった。環境保護の観点からエンジンからEVへという流れは、自動車産業を根本的に変えようとしている。これからの自動車業界の潮流を表すキーワードに“CASE”がある。Connected、Autonomous、Shared & Service、Electricの頭文字を並べた言葉で「Connected」は通信機能で外部と繋がること、「Autonomous」は自動化技術、「Shared & Service」は“カーシェアリング”などを指す。「Electric」は環境に配慮した電気自動車化を表している。この言葉が社会に飛び交っていたのはほんの数年前だったが、突然「モビリティ」の登場に困惑を覚える。
 Mobilityは「機動性」とでも訳せるが、4輪車・2輪車はもとより歩行ロボット、ビジネスジェットなど守備範囲を広げただけでなく“空飛ぶクルマ”“空飛ぶタクシー”が新たなカテゴリーで登場した。
なかでもメディアが色めき立ったのが“空飛ぶクルマ”だ。2025 年の大阪・関西万博で実用化を目指すというが、少し拙速にすぎないか。高所恐怖症でもない限り、空を飛ぶことに喜びを感じる人は多いと思う。しかし、頭の上を1トン以上の物体が飛ぶ、という社会が2年後に実現すると考えるのは、どう考えても無理だろう。
 「ことラボSTI」では、産業と社会の関わり方を見直すことで、日本の産業界の次の一歩が始まると考えている。空飛ぶクルマは、日本の技術力であれば高いレベルのものを作れるだろう。問題は新たな技術を体現するハードを利用する社会環境と足並みをそろえて進歩できるか、という問題だ。この問題に共感していただいた元ANAパイロットの奥平隆氏(日本乗員組合連絡会議 テクニカルアドバイザー)からの寄稿を、次回から掲載するのでご期待ください。

スバルの「エアモビリティ・コンセプト」(上)

《iREX2023》~コモディティ化するロボット産業

 2023 年 11 月に開催された国際ロボット展《iREX2023》では、多様なロボットが出展され、現在社会のあらゆるシーンでロボットの利活用が進んでいることが判った。しかし使用環境が広範囲に広がる中で、メーカー側の取組みを整備する必要を感じてきた。

安川電機ブースでの春香クリスティーンさん

 日本でのロボットの歴史が「産業用ロボット」から始まっているので、ロボットを利用するときは利用環境には、生産財を導入するときと同様な条件整備が行われてきた。しかしレストランでの「配膳ロボット」や家庭内の「掃除ロボット」など生活空間でもロボットが活躍するようになり、まもなく自動運転タクシーが登場しそうだ。ロボットの定義の見直しが必要だ。日本工業規格(JIS)では「二つ以上の軸についてプログラミングによって動作し、ある程度の自律性をもち、環境内で動作して所期の作業を実行する運動機構」としている。用途拡大を望むメーカーとそれを選択するユーザーには、共通認識が必要と思うが、「産業用」を起源とする「ロボット」が一般社会でも利用される、コモディティ化する時代が間もなく到来するだろう。車の選択であれば①排気量またはモータ出力、②FFやFRの駆動方式、③航続距離などの表記が共通なので基準が明確だ。ロボットは人の間で利用するなら「協働ロボット」程度の分類で、X-Y型、スカラ型、多関節などの形状で分類するのはいまのところ産業用に限られている。しかし恒常的に「人手不足」が続く町工場などで利活用を進めるには、多様な分類で想定される利用者を開拓する時期に来ていると、会場を見て感じた。この印象は、今回展で“国際ロボット展サポーター”としてタレントの春香クリスティーンさんが就任し、会場内を見学している場面に遭遇したときに印象が強くなった。彼女の起用は、ロボット産業の将来性を若い人に知らせたい。ひいてはロボットに親しみを感じてもらい、ロボット産業に来てもらえればとの期待が込められている。「産業用ロボット展」として始まったこの展示会が次のステップに入ったと言えるだろう。

大型ロボットを探して

 自動車産業でギガキャストによる部品点数の削減を目指しているから、大型部品のハンドリングに大型の多関節ロボットが出ているだろうと想定したが、その目論見は見事に外れた。
 視覚的に大きさで目に留まったのはファナックブースの大型ロボット群。乗用車を軽々と運ぶもの、溶接作業用、ギガキャストのワークを想定するものなど多彩だ。しかし中央付近にさりげなく置いてあったロボットハンドに取り付ける様々なアプリケーションツールに強く惹かれた。「ロボット元年」と言われたのは 1980 年だったが、騒がれたほど使われなかった。あるメーカーのトップが「ロボットにフレキシビリティがある、というのは作る側の勝手な思い込みだった。ロボットの手首から先を標準化して、多くの機器メーカーが参入できるようにしないと利用者は広がらない」と言っていたので、長いこと気にしていたが今回展のファナックブースで発見した。

ファナックの小間内に展示してあったアプリケーション機器類

いまロボットは大きな流れとなって産業界以外にも広がっている。しかし、広がりすぎて“野放し状態”になるのではないかと老婆心ながら心配している。

安川電機が出展した大型スカラ型ロボット「ME-1000」は来年2月発売予定の参考出品