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ことラボ・レポート

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日工会 2023 年度 総会報告

2023 年 06 月 14 日

 一般社団法人 日本工作機械工業会(稲葉善治会長)は5月 30 日に 2023 年度総会を開催し、役員選挙、事業計画を承認した。その後、別室で記者会見を開き、新体制に臨む稲葉会長が抱負を語り各副会長が紹介された。また承認された「事業計画」が報道陣に配布された。
 日工会は会員数 107 社。日本には多くの工業団体(工業会、協会など)があるが、日工会は、経団連4団体(自動車、電機、石油、建設)などに規模では及ばないが、工作機械という産業の基礎を支える重要な団体として、会員企業も事務局も誇りをもって事業に当たっている。

新体制
2023 年度の一般社団法人 日本工作機械工業会(会員 107 社)の役員体制は以下の通り。
(1)理事会
会長:稲葉善治(ファナック会長)
副会長:森雅彦(DMG森精機社長)
 同  :山崎智久(ヤマザキマザック会長)
 同  :中村健一(中村留精密工業会長)
 同 :家城淳(オークマ社長) ※家城淳副会長は新任。
専務理事 :柚原一夫
常務理事:長濱裕二
(相談役):飯村幸生(前会長、芝浦機械会長) ※相談役は理事ではない。

写真中央が稲葉善治会長。その右に森雅彦副会長、中村健一副会長、柚原一夫専務理事、稲葉会長に向かって左に山崎智久副会長、家城淳副会長、長濱裕二常務理事

(2)委員会 8つの委員会構成で委員長と所管事項は以下の通り。
総合企画委員会 委員長:中村健一・中村留精密工業会長
 当会運営の基本的事項および会長の特命事項などに関する調査研究。
技術委員会 委員長:家城淳・オークマ社長
 工作機械の技術振興に関する調査研究
経営委員会 委員長:曽我信之・FUJI会長
 工作機械の経営状況、税制、金融制度および取引の合理化などに関する調査研究
市場調査委員会 委員長:鴫谷憲和・シギヤ精機製作所社長
 工作機械の需要、生産構造、需要予測および取引の合理化などに関する調査研究
国際委員会 委員長:石井常路・岡本工作機械製作所社長
 工作機械の国際問題および海外工作機械市場動向に関する調査研究
環境安全委員会 委員長:宮崎正太郎・牧野フライス製作所社長
 工作機械に関する環境改善、公害防止、安全対策などに関する調査研究
見本市委員会 委員長:松浦勝俊・松浦機械製作所社長
 日本国際工作機械見本市(JIMTOF)の開催のための諸対策の実施などに関する調査研究
輸出管理委員会 委員長:荒井義博・ジェイテクト経営役員
 工作機械の輸出管理規制に関する情報収集および分析
(3)理事・監事
理事は岡本工作機械製作所・石井常路社長以下全 28 社
監事はオーエム製作所・沢木祐二社長以下全4社

「2023 年度事業計画」~以下は今後2年間の活動方針です。一部省力しますがお読みください。

懇親会で挨拶に立った稲葉善治会長

2023 年度事業計画(2023 年4月1日~2024 年3月 31 日)
Ⅰ.概況(内外情勢と市場環境等) ~今年度の受注見通しは1兆 6,000 億円
 2022 年の内外情勢は、米中対立の先鋭化、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめとする世界各地域での地政学的リスクの顕在化などにより、不透明・不確実な状況が続いた。製造業においては、原燃料価格が高騰し、部材・半導体等の需給がひっ迫する深刻な状況に直面した。その状況にあっても、設備投資は、デジタル化、自動化、省エネ・環境対応に関連した根強い需要を背景に好調に推移した結果、2022 年の工作機械受注は1兆 7,596 億円となり、9月に上方修正した水準に達した。
 このような状況の中、当会は「日工会創立 70 周年記念誌」、および 10 年ぶりに工作機械産業の戦略レポートである「工作機械産業ビジョン2030」を発行した。11 月には、国内外から 11 万4千人の来場者を得て、我が国工作機械産業最大のイベントであるJIMTOF2022 を4年ぶりにリアル開催した。当会は「企画展示」、「金属AMセミナー」、「工作機械トップセミナー」などの開催を通じて、工作機械産業の魅力を社会に発信した。
 2023 年の世界情勢は、withコロナにあって、政治的・地政学的緊張状態を背景とした分断化が継続し、経済成長も下振れリスクを伴う不透明な状況を想定せざるを得ない。欧米等でのインフレ・利上げ、中国の景気減速懸念により、設備投資は若干落ち着いた展開となる可能性がある。しかしながら、製造業では、カーボンニュートラルに対応する省エネや環境対策、AI・IoT技術を駆使し更にロボット技術と融合させた生産システム全体の省人化・効率化、そして、生産拠点の分散化や調達チャンネルの見直しによるサプライチェーンの再構築といった、グリーン・デジタル・レジリエンスをキーワードとする取り組みが力強く推し進められている。2023 年の工作機械受注は、リスクが大きな形で顕在化しない限り、緩やかな調整局面はあっても大崩れには至らないとみられる。以上の動向を総合的に判断すると、2023 年の工作機械受注は総額で1兆 6,000 億円になるものと見通される。

(工作機械業界を巡る環境)
 最近では、デジタル技術の普及でモノづくりからコトづくりへと発展していくとの見方があるが、コトの需要を開拓していくにはしっかりしたモノがあることが大前提となり、片方の進化だけでは大きな発展は望めない。日本の工作機械産業は、モノとして素性の良い工作機械を生産できるという特色と強みを持っている。この強みを将来に亘って継承し、世界をリードする高機能で信頼性の高い工作機械の供給を通じて、モノづくりとコトづくりを融合することで、世界の製造業の発展に貢献していくことができると確信される。
(2023 年の日工会の活動)
 日工会としては、環境変化に対応し、将来に亘って日本の工作機械産業が国際競争力を強化していくため、個々の会員企業の経営基盤強化に資する有益な情報を発信するとともに、会員企業に共通する諸課題を解決するための基盤整備を主眼として事業を進めていく。
 本年は、昨年来から取り組んでいる、グリーン・デジタル・レジリエンスの3分野への対応を、各委員会が中心となりさらに内容を進化させていく。また、産学官の英知を結集して、技術、市場、経営、人材の4テーマについて検討を加えた「工作機械産業ビジョン2030」は、この3分野をはじめ業界が取組むべき課題と方策について多くの示唆が盛り込まれており、その具現化を進めていかなければならない。
 以上の観点から、各委員会での調査研究活動が中心となって、我が国工作機械産業の一層の発展に向けて、以下の諸事業を強力かつ効果的・効率的に推進していく。

Ⅱ.事業活動
1.総合的企画・調整(総合企画委員会関係)~この項省略
2-1.技術開発の強化(技術委員会関係)
 従来の多品種少量生産からマスカスタマイゼーション時代へのシフトに対応するため、「工作機械産業ビジョン2030」で日本が開発すべき技術として示された、スマートマニュファクチャリングや三次元積層造形技術(Additive Manufacturing)等について、
①産学官連携による調査研究を展開するほか、②工作機械および加工技術に関する基礎的・応用的研究、③最新の知的財産の動向に関する調査研究を実施し、幅広い情報提供に努める。
(1)自動化生産システムへの対応
 生産システムの自動化を推進するためには、工作機械、周辺装置・機器、ロボット等と相互の情報交換を行い、設備全体を俯瞰して工場全体を最適化していくことが必要となる。製造業の中核となる工作機械において、ユーザーの自動化への要求に対応するため、前年度から機械・周辺装置を含む生産システムの規模、並びに省人化・無人化の進行レベルに応じた、自動化に必要とされる工作機械の仕様・機能の指針の策定を進めている。2023 年度は、同指針の完成およびホームページ上での公表を予定している。また、RRI(Robot Revolution & Industrial IoT Initiative:ロボット革命イニシアティブ)等の関係団体の活動に関する情報収集も進める。【拡充】
(2)日本流産学連携拠点のあり方に関する検討【新規
 「工作機械産業ビジョン2030」で挙げられた課題のひとつに、日本の工作機械研究開発支援のあり方が挙げられている。現在、海外における大学と企業の中間に位置する研究開発拠点として、ドイツのFraunhoferやイギリスのThe University of Sheffield Advanced Manufacturing Research Centre (AMRC)等の例が存在するが、このような大規模な研究拠点を日本国内に設置することは容易ではない。今後、日本の生産技術研究・工作機械技術研究の活性化を図るために、日本流の産学連携拠点のあり方について産学によるブレインストーミング、指針策定の検討を行う。【新規】
※記者注釈 産学連携について
 「日本流産学連携」は、その必要性が古くから叫ばれている。しかし言われている割には前進していないと感じている。国が乗り出し、売れない研究成果を販売促進するような取り組みも行っている。1998 年には「大学等技術移転促進法」が成立し“産と学の「仲介役」”としてTLO(Technology Licensing Organization)プログラムがスタートした。しかし口の悪い学者の中には「あれは売れない学者の救済策」と厳しいことをいう人もいた。各大学でTLOの設立が相次いだが、あまり話題にはなっていない。「産学連携拠点のあり方」を模索するさいに、この実績も前提にするべきだと思う。→経産省産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課大学連携推進室 ℡03-3501-1511(内線3371)

(3)三次元積層造形技術(Additive Manufacturing)に関する動向調査
 AM装置の更なる普及・促進を目的として、最新のAM技術・アプリケーションを紹介するセミナーの開催、各業界におけるAMの適用状況や現状の技術的課題等に関して国内の素形材メーカーや装置メーカー、AMユーザー等を対象にヒアリング調査を実施する。
(4)工作機械業界の知的財産動向に関する調査研究~この項省略
(5)「工作機械の設計学(応用編)」の改訂~この項省略
(6)産学官技術懇談会の実施~この項省略
(7)国際工作機械技術者会議(IMEC)の開催準備
 世界各国の工作機械関連研究者、技術者、ユーザー、ディーラーが一堂に会し技術交流を行うIMEC(国際工作機械技術者会議)をJIMTOF・Tokyo2024に併せて開催を予定している。産業界主導による工作機械の国際会議として、より一層内容の充実化を図るべく所要の準備を進める。

2-2.標準化の推進(技術委員会関係)
(1)国際標準化への対応
 世界経済のグローバル化に伴い、国際標準化の重要性が各国で再認識されている。工作機械分野においては、従来の試験規格(精度試験、環境負荷試験、工程能力試験等)だけでなく、CNCデータモデル、サイバー空間、デジタルツインなどの新たな分野についても、中国、イラン等から積極的にISO規格の新規提案が行われており、その対応が急務となっている。
 これら国際標準化が進められている各ISO規格に迅速に対応するため、ISOの活動に積極的に参画し、我が国の要望が国際規格に反映されるよう、国内の意見をとりまとめ、提案に努める。
 また、工作機械精度試験の基本規格である通則規格(ISO230規格群)が、2012 年から 2022 年にかけて多数改正された。2023 年度は、主に改正内容を周知することを目的に説明会を開催する。【新規】
 2023 年度内に、日本が議長を務める第 23 回ISO/TC184/SCI/WG7(CNCデータモデル)国際会議を対面形式で開催し、日本主導で日本の意見が規格に反映されるよう努める。【拡充】
(2)サイバーセキュリティへの対応
 製造業においてIoT化、デジタル化への取組みが進められており、工場等のネットワークをインターネット等につなぐ必要性や機会が増加することにより、セキュリティ上のリスクも増加している。
 このような状況の中で、経済産業省では「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」を作成し、周知・普及活動が進められており、当会においても工作機械メーカー・ユーザー(主として中小企業)への周知・普及に努める。
(3)工作機械関連JIS規格原案の作成
 JIS規格は、国内のメーカーおよびユーザーに広く利用されている。2022 年にISOが改正されたマシニングセンタの精度試験、工作機械のプロービングシステム等について、国際規格に対応したJIS原案を作成・改正し、使用者の利便性を高めるとともに、規格の周知・啓発に努める。
(4)環境関連規制・規格への対応
 SDGsの目標年にあたる 2030 年に向け、カーボンニュートラルへの取り組みが加速している。国際標準化活動においても、工作機械の高効率化、省エネルギー評価を行うための工作機械の環境評価に関する基準・規格(ISO14955規格群)が開発されている。また、欧州を始めとする世界各国・地域における環境負荷関連規制が整備されつつある。これらの動向について情報を収集し、会員企業の対応を支援する。
(5)工作機械の安全に関する標準化の推進
 工作機械オペレーターの安全確保に加え、工作機械の適切な設計、設置、使用を促進するとともに工作機械による労働災害を防止し、機械の操作性・生産性の向上に資する工作機械の機種別安全国際規格化活動に対応して国内の意見をとりまとめ、安全かつ効率的な工作機械の国際安全規格の提案・作成に努める。

2-3.加工システム研究開発機構における研究活動の推進
 「加工システム研究開発機構(2015 年7月設立)」における産学官連携による取り組みとして、引き続き、各事業を推進する。
(1)2018 年度に「新構造材料適用省エネ型工作機械の研究開発」事業で開発した省エネ型工作機械プロトタイプを基に、4大学・6社の有志による後継の試験研究事業「新構造材料適用工作機械の熱特性・動剛性の相互作用解析に基づく省エネルギー加工システムの開発」が過去3年に亘り実施された。2023 年度は、新たな事業活動に関する検討を進め、新事業に対し必要な支援を行う。
(2)「工作精度試験方法通則の開発」事業を引き続き実施し、国際標準の戦略的活用に向けて作成した「工作精度試験方法通則」(ISO230-12)のJIS化に向けた検討を行う。
(3)工作機械関連研究開発の活性化のため、若手研究者・技術者による国際交流プログラム「国際交流イニシアティブ」を 2023 年のEMOハノーバー展に合わせて実施する。これに向けて視察団を編成し現地訪問先の確保等を行う。

3.経営基盤・体質の強化(経営委員会関係)
 会員企業の内外の受注・経営環境に対応して、経営基盤・体質の強化に資するべく、次の施策を講じる。
(1)経営状況の調査・分析
①我が国工作機械産業の経営・収益状況に関する各種調査に関し、適宜見直しを実施して実態および特性を分析するとともに、その内容の充実を図る。
(2)税制改正の実施要望等
①「税制改正中期方針(2023 年改訂版)」を基に、製造業の生産性を向上し、競争力を強化する観点から、政府・与党他、関係各方面に対し、法人実効税率の更なる引き下げや設備投資減税、償却資産に係る固定資産税のあり方等、税制上の諸課題の解決に向けて、強く働きかける。
(3)労務環境の調査・分析
①工作機械業界の春季賃上げおよび夏季・冬季一時金の要求・妥結状況並びに従業員構成等に関する調査を実施する。
②高齢者雇用、女性活躍の業界での一層の促進や、コロナ禍での労務環境の整備に関し、講演や企業訪問を通じて情報収集を行うとともに、その取り組みを検討する。

4.市場調査等の展開(市場調査委員会関係)
 業界の基本的指標である受注統計の正確な運用を期する。併せて、工作機械の需給および国内市場動向について調査し、独禁法や下請法等を考慮しながら、会員の企業活動の参考となる情報の提供に努める他、サービス事業のレベルアップ、支援のための活動を行う。
(1)基礎統計指標の調査分析等
①我が国工作機械業界の受注動向を調査し、公表内容の充実を図る。
②国内外の工作機械の受注、生産、輸出入その他工作機械に関する基本統計を整備・分析する。
③計量的な手法に基づき、我が国工作機械の需要動向を予測する。
(2)有益な市場情報の収集
国内回帰、国内でのサプライチェーン再構築の動きが工作機械需用等に及ぼす効果について調査する【新規】
②その他、需要業種団体等へのヒアリング等を実施して市場情報を収集し、受注実績の分析も交えて、会員が業況を包括的に把握するための機会を設ける。
(3)政府予算関連要望等の実施
 設備投資の喚起、中堅・中小製造業の経営安定化、商取引や流通を促進するための規制緩和等について、会員ニーズを汲んだ提案書をまとめ、政府・与党等関係方面に提出し、経済政策に反映されるよう働きかける。
(4)下請取引の適正化に向けた取組み
「適正な下請取引の推進と取引先の生産性・付加価値向上を支援するための自主行動計画」(2022 年9月改訂)の普及・定着、政府方針との連携を図るとともに、遵守状況を定期的にフォローアップ調査することで、更なる改善、推進に努める。また、①約束手形の利用廃止、②パートナーシップ構築宣言に加わる企業の増加、③価格転嫁や価格協議への前向きな対応の促進、について努め、委員会等会合での情報交換を通じて、各社の好事例や課題を共有する。
(5)サービス事業の向上に向けた取組み
①サービスエンジニア共通教育講座を、科目に応じEラーニング講習およびリアル研修会に分けて実施する。
②工作機械ユーザーを対象に、機械操作および安全作業等に関する講習会を地方展示会等で開催する。
工作機械サービス技術検定制度の骨格を固め、オンラインでの3級試験の年度内実施を目指す。【新規】
他業種におけるサービス事業を研究し、工作機械サービス事業への応用を検討する。【新規】

5.海外販売参考情報の収集・提供(国際委員会関係)
 工作機械需要が期待されるグローバル業種や海外マーケットを対象に、日本製工作機械への潜在的ニーズを把握・分析するほか、国際化へのサービスにも留意しながら、会員企業の海外事業活動に貢献する活動を展開する。
(1)グローバル視点で将来有望な海外市場・需要産業の動向研究
①研究テーマに係わる工作機械関連企業を対象とした市況ヒアリングおよび工場見学
②研究テーマに精通した専門家による講演
③研究テーマに即した海外現地調査(関連展示会の視察、現地ユーザーとの意見交換・工場見学等)
④上記活動を通じて、産業別あるいは国や地域別の実情に即した工作機械ニーズ情報の収集・分析と、参加委員によるレポートの作成
⑤成果に関する委員の意見・要望を聴取して課題・改善点を取りまとめ、工作機械の潜在的需要開拓に資する調査の企画・立案に適宜反映
(2)EPA(Economic Partnership Agreement:経済連携協定)活用推進の強化(国際化へのページ)
 外需比率が高い日本の工作機械業界では、EPAを活用することで価格競争力の向上が図れる。加えて、輸出(販売量)の増加に伴い、部品サプライヤーもその恩恵を享受し、サプライチェーンの強靭化にも寄与することができる。
 前年度、FTAサプライチェーンの高度化(最適化)として取り組んだ、「EPA原産性調査のデジタルツール(JAFTAS)」実証事業への参加協力で得られた成果を踏まえ、以下の施策を通じて、EPA活用推進を強化する。
前年度作成した工作機械業界向け「EPA原産資格調査に関する運用マニュアル」等の普及促進および活用促進【新規】
EPA関連セミナーの企画・開催【新規】
③工作機械のEPA対象品目の拡大に向けた取り組み(ビジョン)

6.環境活動の支援(環境安全委員会関係)
 環境対応は世界的な潮流であり、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みは急務となっている。当委員会では会員企業の脱炭素に向けた省エネ等、環境活動を支援する。また、工場の労働安全活動についても啓蒙活動を行う。
(1)会員企業のカーボンニュートラル実現に向けた支援
工作機械のLCAガイドライン普及に向けた説明会を開催するほか、個別相談に対応する体制整備を進める。【新規】
※記者注釈 LCAについて
 2年前の 2021 年5月に開かれた日工会の定時総会における活動報告の(3)委員会・研究会⑥環境安全委員会の「カーボンニュートラルに関する取り組みとして、工作機械のLCAガイドライン策定および関連情報の提供に努めた」とある。このころはオンラインでの会合で、注意を留めなかったがLCA(Life Cycle Assessment)については取材経験があることを思い出し、ここに書き留めておく。
 21 世紀になる前後に、東芝エンジニアリングの官公プラントエンジニアリング事業部環境システム部門に呼び出されて川崎の本社に出向いた。すると「EUが、ISO、CEマークに次いで今度はLCAと言い出した。Life Cycle Assessmentとは全ての工業製品に、その工業材料の取得、運搬、加工・組立、使用時、廃棄処分して自然界に戻すまでの、全工程から排出される廃棄物やガス類にポイントを付けて、ある得点以上のものはEU圏内に持ち込ませない、という考え方。その基準となるポイントを計算するデータベースを急ぎ作らなければならない(たしかそれほど時間的余裕はなかった)。ライバルのN社が先行しているが、わが社は着実に自社でデータを作っているがライバルは海外のものを流用している」という趣旨だった。しかし裏を取らねばと調査しているうちに「ハイテク不況」がやってきて、LCA議論はどこかにいってしまった。
 さて工作機械のLCA評価については、これから調査するが、上記のような経緯があるので、取扱は慎重にしたほうが良いと思っている。

カーボンニュートラル実現に資する環境活動マニュアル(活動事例集)を検討する。【新規】
③他業界の取組状況についての情報収集や専門家による講演会を開催する。
(2)環境自主行動計画フォローアップ調査の実施
業界各社の省エネ活動に資するため、CO2排出量削減に向けた取り組み状況を把握する標記調査を実施する。
(3)労働安全活動の啓発
 労災防止・削減、働き方改革について講演会開催や工場訪問を通じて情報収集を行う。

7.JIMTOF・Tokyo2024の開催準備(見本市委員会関係)
 来秋に㈱東京ビッグサイトと共催するJIMTOF・Tokyo2024(第 31 回日本国際工作機械見本市)を、「世界トップの国際技術ショー」として開催すべく、国際色の強化にも充分に配慮した開催方針を策定し、円滑な開催の準備に注力する。
(1)南展示棟へのアクセス強化、出展復帰が期待される海外勢の受け入れ、AMエリアの拡充、会期最終日(日曜)の振興策、開場時間の見直しなど、前回展で抽出された諸課題に留意しつつ、来場者の視点も取り入れながら、JIMTOF運用の総合的検討に当たる。【拡充】
(2)JIMTOFへの期待感を醸成するべく、デジタル・オンラインを駆使した情報発信を強化する。(後略)
(3)従前にも増して、海外有力メーカーの出展誘致に取り組み、国際化の推進と、海外技術の紹介による新技術発信機能の増強に努める。
※記者注釈 JIMTOFの国際化について
 JIMTOFの国際化は、日工会の長年のテーマとなっているが、道は遠い。理由が多いのでここで整理しておく。結論を先に言うと、欧米勢が出展すれば華やかになるだろうが、それはまずない。
 ①多くの海外メーカーの製品は、既に国内の輸入商社が販売代理権を取得して、日本市場に紹介されている。言葉の問題もある上、日本的な商習慣が世界的なスタンダードと異なる点が多いので国内の輸入商社に任せるほうが関係者にとって結果的にはうまく収まると考えられている。
 ②それでも世界の産業界の中に占める日本市場の規模を見て、日本市場に深くコミットしたいと希望する海外企業は多い。EUが発足した 1990 年代初頭に「Gateway to Japan」と名付けられたプログラムが始まった。閉鎖的な日本市場をこじ開けよう、というものだった。たしか工作機械や建機、医療機器など7分野だったと思う。そのプログラムに一番熱心だったのはイタリアだった。同国の工業会UCIMUに招かれて何度かミラノにいったが、1990 年代には、日本の大手メーカーのエンジニアも一緒だった。UCIMUのマーケッティング部門と招待されたエンジニアとのミーティングに同席したときに、見聞きしたことがJIMTOFの国際化の参考になるだろう。
 招待されたのは自動車メーカーを中心としたエンジニア達。
UCIMU「イタリアの工作機械はいかがですか?」
日本側「とても興味深い機械がいくつかありました」
U:「購入する予定はありますか」
日:「機械にはメンテナンスが必要です。生産は止められません。保守体制を取れますか」
U:「もちろん、万全を尽くしますが、遠いので限界があります」
日:「ラインは止められないので、すぐに対応して欲しい。原則は 24 時間以内の回復です」
U:「すぐには無理です。早くても1週間は必要です」
日:「それでは話にならない」
で、物別れです。
 私はメディアとして招かれました、そのときは5回目の訪問で、ミーティングに同席したのは初めてでした。UCIMUは、世界 30ヵ国近くから、5人前後のエンジニア呼んでいました。100 人以上招くのは大変な出費だっただろう。しかし日本のものづくりに対する哲学は、欧米、とくにイタリアとは相いれませんでした。その次から、日本のエンジニアを招待する予算は中国に向けられました。これだけの努力をしてもイタリア製工作機械は売れませんでした。
③真似の上手な日本には近づきたくない。
 日本工作機械輸入協会が発行した「日本の工作機械輸入の歴史」(2019 年)によると、戦後に日本の工作機械産業が業績を拡大する過程で、日本企業が欧米企業と契約を結び技術を導入した件数は 161 件と記録されています。しかし輸入商社に言わせれば、契約しないで模倣された事例は数限りがない、という。つまり日本は世界でもっとも模倣の上手な国で、わざわざ出展して手の内を明かすことはない、というのです。
 欧米の展示会ではカメラは嫌われます。カメラをもって小間に入るだけで追い出されてこともあります。つまり日本市場は欧米メーカーにとっては危険な市場なのです。
 JIMTOFの国際化を目指すのは労多くして得るものは少ない、と言えます。それこそ補助金でも使わなければ実現しないと思います。しかしここで大事なことを指摘します。「日本は売りに来るだけでこちらの製品は買わない」と、海外の工業会は言います。日本は、多くの工業製品を海外に輸出していますから、相手に対して敬意を払うためにも、国レベルで取り組むことが必要だと提言しておきます。工作機械業界の長老から「日本は世界から嫌われているから、立ち居振る舞いには気を付けるように」と言われたことがあります。日本が世界の産業界から、正しく評価されるにはもう少し時間がかかると思います。

(4)(5)(6)は省略
(7)来場者の密集・混雑の回避を考慮した会場設営や、休憩所・食事施設の適切な設営、回遊性を高めるシャトルバス・東西ジャンボタクシーの運用等、快適な見学環境に必要な整備について計画し、会場側と連携しながら実施する。
※記者注釈 JIMTOFへの動員について
 「ことラボSTI」の「岩波徹の視点」の2022 年 12 月6日「もっと展示会を」でも書きましたが、日本の展示会場という公共施設は地方公共団体の“箱物行政”の一環として造られています。ですから多くが海外近くに立地しています。「りんかい線」ができる前のビッグサイトへのアクセスは新橋駅からの「ゆりかもめ」か「都バス」でした。いまでも電車路線がひとつ増えただけで、交通の便が良いとは思えません。動物園や遊園地に行くときは、行った先で待っているのは楽しいことですが、展示会に行くのは仕事です。生真面目な日本人は、会場内を真剣に見て回ります。つまり疲れます。
 都内には“都市型モノづくり”といわれる町工場の集積地が何カ所かあります。周囲が住宅地に変わり、皆さん肩身の狭い思いをされています。そこで蒲田・羽田界隈、隅田・葛飾界隈、板橋・北区界隈から、JIMTOF会場までのシャトルバスを出したらどうだろうか。日曜日の活性化プランに役立つかも知れない。

8.適正な輸出管理の推進(輸出管理委員会関係) この項省略
(6)関連行政機関と連携し、国内中古工作機械の輸出管理に関する対応を検討する。【新規】
※記者注釈
 輸出関係とはいえ「中古工作機械」に触れられたのは初めてではないか。工業会会員はみな新製品・新技術を開発・販売して事業をなしている。しかしいったん、売却された工作機械は、経年劣化するとオーバーホールに出され、あるいは機能アップのためにレトロフットされる。これは切削工具も同じで再研磨に出されるが、経済産業省も日工会も、中古機械取扱業もオーバーホール業もレトロフィット業も工具再研磨業も、実情を知らない。しかしこれらの企業があるので産業は回っている。これらの産業の動向にも注意して欲しいと思っている。

(7)輸出管理コミュニティサイトを立ち上げ、会員企業間での意思疎通・相談を促進する。【新規】

9.人材の確保・周知(人材確保・周知研究会関係)
 我が国工作機械産業の将来を担う優秀な若手人材を確保するため、人材の確保・育成事業を積極的に実施する。併せて、広く社会一般における工作機械産業の認知度向上のための施策を実施する。
(1)工作機械トップセミナーの開催
 全国の理工系大学・高専の教職員・学生を招待し、工作機械メーカーの経営者や工作機械ユーザー、学識経験者等による講演のほか、現役技術者同士によるラウンドテーブルトーク等を実施し、学生の工作機械業界に対する理解の深化を図る。2023 年度は、メカトロテックジャパン2023 に併せて「第18回工作機械トップセミナー」を開催し、併せてメカトロテックジャパンパン2023 の見学を通じて、最先端の工作機械とその技術に触れる機会を提供する。
※記者注釈
 「工作機械トップセミナー」は中村健一副会長が会長時代に、工作機械業界に若い人を招き入れようと、取り組みが始まった、日工会が誇るべき事業だと思う。大学から「機械工学」という言葉が消えて、カタカナ表記で実態が見えない最高学府が増えてきた時代に正面から向き合っている。
 しかし「ことラボSTI」で取材を続けるうえで気がついたことがある。動画ニュースの 2022 年6月 30 日のキヤノンメディカルシステムズ㈱先端研究所・新誠一所長の「日本のものづくりを支える産業界のこれから」で、新所長が語っていたのは「大学は企業ではなく高校生を見ている」という言葉だ。「機械」や「電気」という言葉では高校生は来ないという。親が(特に母親が)子供の進路に口を出す。彼らの賛同を得るためには、トップセミナーを開催する展示会に親も招待するべきではないか、と思う。某自動車メーカーで生技部長をやっていた友人のところに「ウチの子供に夜勤はやらせないで欲しい」と母親が乗り込んで来た、という話を聞いた。製造現場がキツイ・キタナイ・キケンの「3K職場」だと言われた時代は、ほんの少し前だ。いまのクリーンな製造現場のイメージを学生だけでなく、その家族にも示せれば効果が大きくなると思う次第です。

(2)「工作機械基礎講座」等の開催 以下省略
10.国際展示会等における国際交流の促進 この項省略
11.会員相互の交流促進 この項省略
12.広報活動の強化
13.一般社団法人としての適切な法人運営 この項省略
14.その他の目的達成事業 この項省略

以上、日工会の活動が効率よく効果的に展開することを願ってやみません。