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ことラボ・レポート

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日本乗員組合連絡会議 テクニカルアドバイザー 奥平 隆/【連載#4】「空飛ぶ車」の心配ごと

2024 年 04 月 03 日

日本乗員組合連絡会議
テクニカルアドバイザー
奥平 隆

<経歴>
1972 年(昭和 47 年)航空大学校専攻科卒業
同年、全日本空輸株式会社に入社
その後、YS11、ボーイング737、ボーイング747−200、ボーイング747−400 などに乗務。副操縦士として 15 年の経験ののち 1987 年に機長昇格し 2010 年に 60 歳定年で退職。
就航路線は国内、北米、欧州、香港など。総飛行時間約 12,000 時間。
現在、日本乗員組合連絡会議テクニカルアドバイザーを務める。


コンピューターに頼る危うさ(電波や放射線などの影響について)

<冗長性(Redundancy)への課題>
 電気によって多くのモーターを駆動する空飛ぶ自動車にとっては、コンピュータはなくてはならない存在です。そのコンピュータの進化によって、確かにモーターのコントロールの精密性・信頼性などはこの数十年で格段に向上しているといえます。
一方で、これらコンピュータは非常に小さな電力によって 駆動されていることから、 強力な電波や、放射線など外部からの電気的な干渉に極めて脆弱な性格を持っています。こうした影響を防ぎながら、安全にオペレーションを続けることができるのかが大きな課題の一つになってくるでしょう。
 飛行中にこれらのコンピュータが不調となった場合に、地上で行うような「再起動」はおそらくできないでしょう。そのような場合に備えて、複数の違う回路を持ったコンピュータをダブルで装備するなどの安全対策をとらなければならないでしょう。
最近では小型・中型の航空機では、飛行制御にコンピュータを使っていますが、そのコンピュータや連動する油圧(あるいは電動)系統が故障した際に、手動またはそのほかの方法で最低限度の操縦ができるよう作られています。大型の旅客機では、さすがに手動(マニュアル)では操縦は出来ないので、飛行に必要な制御を司るコンピュータや作動系統は2〜3重となっています。空飛ぶ車では、こうしたコンピュータの故障に対して、どのような形で安全のバックアップを備える計画になっているのでしょうか。

<放射線の影響>
 コンピュータの不調をもたらす原因は様々ですが、微弱電気によって動かされる装置(電気回路)への影響として、自然放射線による影響も考えられます。太陽の黒点活動によっては、(磁気嵐などが発生し)影響を受ける地域ではコンピュータの暴走はじめ、危機的な状況になるおそれもあるのです。その対策も考えなければなりません。(以下「太陽フレアについての解説」を参照してください)ちなみに、この課題は現在運航している旅客機運航においても重要な問題として、事前の警報が航空機運航者などに届けられるよう取り組まれています。

*******以下「リスク管理Naviリスクマネジメントの情報サイト」より引用*****
 スマートフォンやGPSなど情報通信技術に依存している現代において新たな脅威として注目されているのが「太陽フレア」です。きっかけは、総務省が 2022 年6月に発表した報告書(「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会報告書」)に記された「最悪シナリオ」です。太陽フレアによる最悪の被害シナリオは、携帯電話やテレビが断続的に2週間使用できなくなるほか、GPSの精度が悪くなったり、電力施設では故障トラブルに見舞われたりして社会経済活動に大きな打撃を与える内容でした。さらにはこうした被害につながる大規模な太陽フレアが発生する時期は 2025 年頃ではないかという推測です。
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以上、引用元(写真を含めて)は次の通りです。
https://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/column/solar_flare.html

<操縦性に関する疑問=フェイルセーフに耐えられるか>
 次に、操縦性に関しての安全性確保について触れておきます。
一番最初の記事で紹介しましたが、「航空機の動力装置が機能を失ったとき」ヘリコプターの場合はオートローテーション機能(風車状態で降下時の揚力を確保する)によって安全な着陸を行えるよう設計されています。固定翼の飛行機の場合は、残された発動機による推力で着陸したり、グライディング(滑空)して不時着(水)の可能性を残しています。こうした機能をフェイルセーフといいます。
空飛ぶ車ではそれに対応する安全機能は備わっているのでしょうか?
 安全のために定められた「法律上の規制」との関係で、簡単に説明します。
航空機及び装備品の安全を確保するための技術上の基準として定められている「耐空性審査要領」(法律上の安全規定)では「臨界発動機」とは、ある任意の飛行形態に関し、故障した場合に飛行性に最も有害な影響を与えるような1個以上の発動機をいう、と書かれています。
 空飛ぶ車について考えてみましょう。例えば4つある「プロペラ駆動ユニット」のうち1つが不能とはなった場合に、残る3つの駆動ユニットで安全に着陸することができるのか否か。これが6つ装備されている場合はどうなのか。こうした検証がなされているという情報を、私はまだ見ていません。

 次回は「安全性を保つためのメンテナンスと経済性」についての心配事を紹介して、最終回とします。