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ことラボ・レポート

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第44次 工作機械技術振興賞の贈賞式が開催される

2023 年 07 月 12 日

 公益財団法人 工作機械技術振興財団(代表理事・牧野二郎)は6月 22 日、都内のホテルで第 44 次工作機械技術振興賞の表彰および贈賞式を行った。昨秋代表理事の河野博文氏の急逝に伴い、急遽、同財団の副代表理事である牧野フライス製作所の元社長の牧野二郎氏が、今回に限り代表理事として式典を執り行った。

牧野二郎代表理事の挨拶

 本来であれば代表理事である河野博文氏が立つところ昨年 11 月に急逝され、副代表理事である私が臨時の代表理事として挨拶します。河野氏はIOCの役員その他多くの仕事でご多忙の中、当財団の代表理事を務めていただきました。非情に残念なことでした。改めて代表理事を専任したく、準備を進めてまいります。
 当財団は 1979 年に設立され今年で 44 年になります。
贈賞の内容は「論文賞」、「奨励賞」~これは卒業論文から選びます。さらに3年前に作られた「人材育成賞」~これは工作機械の次世代を担う人材の確保、指導、育成に優れた活動を行っている方を表彰するもので、今回で3回目になります。この3つの賞からなっております。
 本日の贈賞により、財団がこの 44 年間の贈賞の累計は 695 件 2,511 名になりました。
 当財団のもう一つの事業として「試験研究助成」があります。大学、試験研究機関の学者、研究者等がおこなう工作機械の技術に関する研究試験の促進をはかるため、工作機械の発展進歩に大きな貢献が期待できる試験研究に対して助成するものです。
 国際的な問題の解決には技術の進行が欠かせない、と言えますが工作機械の技術振興も重要な位置を占めています。これからが正念場だと言えなくもない。研鑽いただいた皆様の今後のご活躍を期待してご挨拶とさせていただきます。

伊東誼審査委員長の審査報告

 暴れまわった新型コロナも落ち着いてきたので、本日の贈賞式は対面で開かれ、この後に懇親会も用意されています。受賞者の皆さんは、本日参加している財団の理事、評議員、その他工作機械の関係者と貴重な情報交換の機会となるので有効に活用して欲しい。財団の目的のひとつに、皆様に情報交換の場を提供することにあるので遠慮しないで欲しい。
 論文賞は日本機械学会から4編、精密工学会から4編、砥粒加工学会から4編、所属機関の上長から3編の推薦を受けた。周辺アジアとの友好ということで韓国と台湾にも声をかけた。韓国からは、今回は推薦が無かったが、台湾からは台湾機械工業同業公会から2編の推薦を頂き、総数は 17 編。その中から慎重に審査をして、5編の論文に賞を贈る。内訳は日本機械学会からの推薦が2編、精密機械学会から2編、砥粒加工学会から1編でした。
 ここで審査員としてひとこと申し上げたいが、最近は和文論文ではなく英文論文が当たり前。その英文論文の多くがオランダのエルゼビア社の論文集に載せられている。この出版社の論文は玉石混交で、先日も生物学分野で、自分の論文を自分で審査する、というような“事件”があった。いろいろ問題のあるところなので、出来れば米国機械学会とか英国機械学会とか、純粋な学会誌に投稿することを勧めます。その方が業績の評価もますます高まると思う。
 奨励賞は、各学会でまとめる卒業論文を審査委員が手分けをして読み、各委員から推薦していただき全員の合意の上で差し上げている。今回は全部で 100 編でした。その中から7編の論文に賞を差し上げることになった。卒論の内容を見ると、切削・研削加工関係が 25、超精密が5、放電加工が 11、レーザ加工が5、3Dプリンタが6、その他の加工が 11、センシングが8、工作機械の構造・構造要素が 11、ビビリ振動が4、工程作業設計が2、NC関係が6、その他コーティングなど6で、ここから最近の研究動向が判ると思う。その中から慎重な審議の結果、7編に賞を差し上げることになった。(以下試験研究助成について後略)

審査の過程で委員長として感じたこと。
 取り組んでいる課題の、予備研究というか先行研究等の調査が不十分と思う。特にライバルであるドイツの論文に対する調査が足りない。英語だけでなく独語、仏語などの言語についても調査して欲しい。かつてドイツの研究者から日本の研究者は英語・独語で研究しているが、ドイツの研究者で日本語論文の判る人が少ない。これではドイツ側が不利だから、と最近は日本語を理解するドイツの研究者を増やしている、とのこと。日本側も負けないように。
 次に参考にされている論文が玉石混交になっている。むやみやたらに参考にしないで、よく吟味して「参考文献に値するもの」を自分の判断で選ぶことが大事だ。最近の傾向では参考文献ばかりがやたらに増えて“研究展望論文”になっている。これは本来の研究目的ではない。

清水伸二人材育成賞審査報告

 今回は第3回の人材育成賞の審査でした。5つの機関から5名の方の推薦があった。各候補者の、研究の指導、教材の作成と実践、教科書や参考書などの出版、子供向けのものづくり教育への参画、その他の貢献・受賞歴などを慎重に審査した結果、3名の方に差し上げることになった。
伊藤伸英・茨城大学工学部教授
 伊藤先生は「教えることで学ぶ」という考えの元、大学生が児童生徒にものづくりを教えるということで学生自身も学ぶ、ということを長年実施されてきた。学内では「ものづくりクラブ」の顧問、学外では「ものづくり関連センター」の運営委員やイベントの実行委員長などを担当しており、こうした活動でいくつかの賞も受賞している。次世代のものづくり人財の宝庫である児童生徒への教育熱は突出しており、このような観点から受賞者に相応しいと審査された。②廣垣俊樹・同志社大学理工学部機械システム工学科教授
 廣垣先生は長年にわたり自らも研究するばかりでなく、毎年多くの学部学生、修士課程の学生を指導するとともに多数の博士を輩出して関連分野の人材育成に貢献している。指導した学生の多くが学会で受賞している。さらに学会活動を通じて教育プログラムや教材の作成、積極的な学会活動や地域産業の活性化やフォーラムに参加するなど幅広く人材育成に貢献していることから受賞者に相応しいと審査された。
山村和也・大阪五大学大学院工学研究科物理学系専攻教授
 山村先生は自らの研究活動とともに、多くの学生大学院生を、研究を通して教育し、教育者・技術者として育成してきた。こうした活動を通じて自らは 16 件、指導した学生は 81 件に及ぶ賞を受賞してきた。さらに産学共同による研究を通じて産業界における人材育成にも貢献している。研究・教育を通じた人材育成に突出した貢献しているので受賞者に相応しいと審査された。

この後、贈賞式が行われ、その後、参加者全員で記念撮影を行い、技術交流会に移った。

工作機械技術振興賞・論文賞:大学、高専、公的研究機関および企業の研究者などを対象に、工作機械の発展・進歩に大きな貢献が期待できる独創的な論文に対し表彰する。

奨励賞:将来の工作機械の発展をになう人材育成の一助として、優秀な卒業論文を発表した学生およびその指導教官に対し表彰する。
 第 44 次奨励賞は7件、合計 34 名に贈られた。各賞受賞者の詳細は財団のホームページ参照。https://www.kousakukikai-zaidan.or.jp/results/thesis-award/

技術交流会
 新型コロナ禍で開催が見送られていた式典後の技術交流会が復活した。開宴にあたり今春、会長に就任した清水大介・砥粒加工学会会長が挨拶と乾杯の発声を行った。

清水大介・砥粒加工学会会長の挨拶

 今年度、砥粒加工学会の会長に任命された牧野フライス精機の清水です。諸先輩がたがいらっしゃる中で恐れ多いのですが、ご指名ですから乾杯の音頭を取らせていただきます。その前に、ひとこと祝辞を述べさせてください。
 本日ご受章された皆様方、改めましておめでとうございます。今回の受賞に至るまでには多くの困難とそれを乗り越えるためのたゆまぬ努力があったことと存じます。皆様の努力に敬意を表したい。本表彰は今回で 44 回と伺っております。受賞された研究発表のタイトルを見るだけで、内容の濃いものだと感銘を受けました。本賞が研究者の励みになっていることを、この場にきて思うことができました。その意味でも、本賞が工作機械技術者の養成、技術の発展に寄与するものと確信しました。私共砥粒加工学会も、より多くの受賞者を出さるように精進してまいりますので、ご指導賜ればありがたいと思います。それでは乾杯いたしましょう。