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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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経産省 製造産業局 山下隆一局長から産業界への呼びかけ

2023 年 06 月 14 日

 5月 30 日に開催された(一社)日本工作機械工業会の総会後の懇親会に来賓として参加した経済産業省製造産業局・山下隆一局長の挨拶は、昨年までの新型コロナ禍への対応に苦闘していた産業界に、5類移行に伴って光を差し込むような、元気溢れるものだった。そのエッセンスを紹介するので、これからの仕事の参考にしていただきたい。

経済産業省製造産業局・山下隆一局長

 皆さんも実感されていると思いますが、コロナが5類に移行してから町には活気が戻ってきました。クルマも増えてきました。平常モードが戻ってきたことを実感している。一方で我々は今回のパンデミックやウクライナでの戦争で、グルーバルな危機に直面したことを改めて痛感します。振り返ってみると、いろいろな危機があったと思いますが、とりわけ大きかったのは「エネルギー危機」でした。前職でエネルギー庁におりました関係から大変なことが起きていると心配しました。痛切に感じたのは「玉が足りない」、ということです。皆さんは価格の問題で直接影響を受けたと思いますが、“安定供給”を前提に考えた場合に「玉が足りない」ということが、世界的に起きることの大変さを痛感しました。それから「食料の危機」です。ウクライナが穀倉地帯で、小麦が作れない、ということで食料危機が起きました。それから驚いたのが「サプライチェーンの危機」でした。世界経済のシステムが脆弱だったことを痛感しました。それくらいモノが作れない、モノが届かない、物流を含めて苦しんだわけです。それからもう一つの危機は「経済的な威圧」です。詳しくは申し上げませんが、最近特に強まってきたのが「保護主義の台頭」です。地球温暖化問題への対応、こうした問題が我々に突き付けられたわけです。これによって、世界を作っている経済の秩序は、今と前とでは大きく変わったのだ、と改めて強く思っています。
 一方で自由貿易というのは、世界を繁栄に導いた、人類が作った多大なる財産だと思います。日本はそれを一番享受した国ですから、守らなければいけない。一方で世界はいま、いろいろなリスクの中にあります。ですからこの自由貿易に参加する方は、リスクを把握しリスクに備えて欲しい。
 また新しい秩序の枠組みを作っていく。もちろん民間の方々だけでできることではないですし、日本政府だけでできることでもありません。世界のいろいろな国と枠組みを作っていく必要がある。
 典型的なモノはエネルギーです。エネルギーが置かれている状況は各国ごとに違う。お互いに理解し合いながら、補完し合いながらエネルギーを安定供給していく枠組みを作っていく必要があるだろうし、重要な新しい技術、典型例は半導体です。これに量子であり、バイオであり、ロボットでありグリーンであり、いろいろな重要技術があるわけですが、こうしたモノを国際的な枠組みの中でお互いに補完し合いながら管理していく必要があると思います。
 もう一つは重要物資のサプライチェーンです。レアメタルなどに代表されますが、その中のひとつとして工作機械が、重要物資として指定されています。それから経済的な威圧、これは個別の国で対応していくのは難しいので、国際的な枠組みの中で対応していかなければならない。
 こういうことへ対応が、先日の「G7」で議論されたのですから、これから具体的な作業に入り、官民挙げて対応していこうと、皆さんの力を借りられればと思います。
 国内に目を向ければ、長らくデフレで苦しんできて、もちろん少子化は止まっていないわけですから、構造的に難しい問題はありますが、大きく変わっているのは設備投資です。
本年度の政府の目標は 103.5 兆円です。これはバブル期以来の数字です。さらに経団連の会長は、2027 年の目標として国内投資を 115 兆円と言っている。これはものすごく大きな数字だと思います。
 それから賃金ですが、連合が5月 10 日に発表した数字によると 3.67 %と、これも 30 年ぶりの数字です。さらに物価です。CPI(消費者物価指数)のコアコアと呼ばれるエネルギーと食料品を除いたもので 4.1 %と、これが直近の数字です。
 明らかに「デフレだ」とか、「物価が上がらない」とか「賃金が上がらない」とか「国内に投資は戻らない」とか、こういった状況が変わってきている。この変わってきている状況をうまく使って、チャンスを“正の循環”に、変えていくことが求められている。
 その中で経済産業省は、皆さんは聞き慣れない言葉かも知れませんが「経済産業政策の新機軸」(※)を、この2年くらい前に打ち出してやっている(第1回産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会は 2021 年 11 月 19 日に開催)。これはグローバルな課題について、ミッション志向で大規模に、長期的に、計画的にやって行こう、というものです。経産省の先輩もいらっしゃるので言いにくいのですが、経産省がもっとも苦手としているやり方です。これに現役が果敢にチャレンジしていこうというものです。この中の典型例としてあるのがGXです。GXについてはもともと2兆円のGI基金(グリーンイノベーション基金)で始めたわけですが、これを 2.7 兆円に積み増しました。またGX公債を発行するため根拠法がこの国会に通りましたので、これからGXの中で 20 兆円の支援策作りが始まります。またDXも半導体と次世代の計算機盤に対して2兆円超規模のお金を準備しています。それから 5,000 億円の蓄電池開発の予算も執行されている。モノが具体的に動き出している。こうした施策が、日本の経済の課題を解決していきます。
 世界が日本を見る目も変わってきています。日本を、地政学的な判断から新しい投資先あるいは生産拠点として考えようという動きも強まってきている。ただでさえ足りない人がもっと足りなくなるような状況です。工業用地が足りないとか工業用水が足りないとか、私が入省以来聞いたことのないような話が並んでいます。大事なことは、官も一歩前に出るので民も一歩前に出て下さい。この機を逃すと日本に未来は無いです。是非この機に、皆さん一歩前に出て下さい。これから(産業機械課の)安田課長を中心にいろいろなことを考えていきます。皆さんからも彼にぶつけていただいて、知恵を出して具体的な政策の形にしていきたいと思います。官民が力を合わせてやる必要がありますので是非、皆さんのご協力をお願いします。
※「経済産業政策の新機軸」については経済産業省のHPにアクセスしてください。
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/index.html
で公開されています。6月2日開催の第 16 回部会までの記録をお読みになれます。