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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

ことラボ・レポート

牧野フライス製作所 宮崎正太郎 社長/インタビュー

2023 年 05 月 31 日

株式会社牧野フライス製作所
取締役社長
宮崎 正太郎
1986 年3月 慶應義塾大学経済学部 卒業
1986 年4月 株式会社牧野フライス製作所 入社
1999 年 12 月 Makino Formenbau Technology GmbH 代表取締役
2002 年6月 Makino Europe GmbH 代表取締役
2011 年3月 当社営業本部アジア営業部ゼネラルマネージャ就任
2016 年9月 当社営業本部海外営業部ゼネラルマネージャ就任
2021 年9月 当社執行役員営業本部副本部長就任
2022 年6月 当社取締役社長就任、現在に至る


4月に開催された《インターモールド2023》展の会場で牧野フライス製作所の宮崎正太郎社長にお話を伺った。

岩波:宮崎社長は海外駐在が長かったと伺っていますが、日本の《インターモールド》展に参加するのは初めてですか?
宮崎:いえ、主に中国、韓国、台湾などアジア圏が中心でしたが海外のお客様をお連れして来日していました。毎年ではないですが数年に一度の間隔で、何度も来ています。
岩波:最近はあまり言われないようですが「金型の牧野」と呼ばれていましたね。
宮崎:そうするほうが理解しやすかったのでしょう。しかし、牧野が自分から“金型業界向け”と言っていたわけではありません。全ての金属加工の生産性を向上させたいという気持ちから、こうやりたい、あるいはこう使いたいと思うお客様に使っていただけるように取り組んできました。当時は金型業界に勢いがあって、MAKINOの加工機がマッチングしました。
創業者の牧野常造氏は、工作機械メーカーとしてのMAKINOは大きくしない、との方針でした。お客様のニーズに応えるためには小さな会社で小回りが利かないといけない、それに応えられないメーカーは役に立たない、という考えでした。しかし、そうしたニッチなものを追いかけるには日本だけではダメだろう、と手広く追いかけているうちに手が広がった、という流れだったと思います。その意味では、他社より先にいろいろな分野に手が出ていたのかも知れません。その結果、たまたま航空機、自動車、医療、微細加工などの分野で、その時々のニーズに対応した結果現在に至ったのだと思っています。実のところ、キチンとした戦略がなくてお恥ずかしいのですが、できる限り広い分野で使っていただければと考えています。

航空機産業に「MAGシリーズ」

自動車産業を中心に「Jシリーズ」

医療機器には「N2-5XA」

微細加工には[iQ500]

岩波:工作機械に求められる精度や速さや剛性を追求してきたメーカーだと思っています。
宮崎:追求したかどうか、というよりも社内の考え方や捉え方が、デザインのようなものも含めて、前より良くしようと、という、当たり前といえば当たり前のことなんですが、そうしたことを積み重ねて来ました。例えば「精度」です。いきなり精度が向上することはありません。どうしたら精度が向上するだろうか、と常日頃から考え続けているのがMAKINOです。機械本体に縦横に走るリブを見て、減らせば安くできる、と言った記者さんもいたけど、品質に拘りを持つMAKINOはそうしたことはやりません。
岩波:そうした企業文化を囲む現代社会は、激しく変化しています。
宮崎:変化は激しいが、その変化を追いかけるのではなく、お客様がその変化に対応していくことを助けられるようにサポートしていく。お客さまの要請について行くことが大事です。MAKINOにそれほどアイデアがあるわけではありません。
岩波:製造業での“作り方”についてですが、日本と欧米では、作り方は違うのでしょうか?
宮崎:日本でも作り方はそれぞれですが、国による違いはあるでしょう。大きな基本的なところでは作り方は違いますね。逆に、違うから商売になるのでしょう。
例えば金型ひとつをとっても、欧州では成形時間を最初に考えます。いかに時間を短くするか、そのためにウェルディングよりも、どうやって水穴を空けるか、というような構造のほうを重点的に考えます。そうすると金型は大きく重くなります。概して欧州で作られる金型は、そちらの方に重点を置いているように見えます。
日本だと逆に、いかにきれいな面にするか、どちらかというと製品の形状部が大切で、構造体、外側のほうは後から考える、というスタイルだと思います。
岩波:欧州の工具メーカーでは、高速で削ることを重視して、生産性が高ければ必要な工作機械の台数を減らせると売り込んでいる企業があります。日本ではそうした探求は行われていますか?
宮崎:それはその工具メーカーさんの販売戦略でしょう。日本でもガリガリ削ることを探求しているお客さんもいらっしゃる。日本では発想の基本に“工具の量産”があると思います。製造した製品の中から良いものを引いていく。欧州では、1本1本を大事に作ってスクラップを出さないようにしている。根底にあるのは、素材を戻して使えるか、ということになる。日本の工具メーカーの多くは、炉を持っていたりして、素材を再利用して無駄にしない。
ドイツは、一般的には工具メーカーは資本力が小さく、日本は比較的規模が大きい、置かれている立場が根本的に違います。その結果、商売のスタイルが違ってきます。
岩波:それが中国だったらまた違いますか?
宮崎:それは違います。極端にいうと、お店を先に開いてから商売を考えるスタイルが多いですね。例えば工場でも、何をやるかは決まっていないが、とにかく工場を建てるのだ、と。何やるの? と聞くと、いやこれからお客さんを探します、という調子です。そういうことで良くお金があるね、誰がお金出すの、と思います。私たちからすると困りますが、あちらでは当たり前とされています。そういった意味で皆さんの事情が違う、というか違うのが当たり前だと思って仕事をしてきました。
岩波:先ほど工作機械メーカーは大きくしないという創業者のお話がありました。株式を上場すると、そう言った方針も変えざるを得ません。
宮崎:創業者が相談役時代、工場に来られると必ず工場をひと回りされた。当時はカバン持ちでした。グルっと回り、みんなの顔を見て事務所に戻るとお茶を飲んで、茶飲み話する。いつも同じ話なんですが、メーカーのトップとはそういうものなのでしょう。それが心意気というのでしょう。
しかし代替わりしていくと、激しい競争の中で、生産力の拡大や工場増築や新築がテーマになり、気がつくと社員が 1,000 人を超えてしまいました。しかし、製造業にとり工場は重要な設備で、出来上がってみると足りない部分や気になるところが出てきます。より良い設備を求めて来た姿勢として理解しています。
岩波:国内外を問わず、MAKINOの生産体制に手を加える腹案はあるのですか?
宮崎:ないわけではないのですが、お金がかかり株主様もいらっしゃるので慎重かつ十分な準備が必要なテーマです。この場で語れる内容ではないですが、経営者である以上は常に考えています。それは 20 年、30 年あるいはできるなら 50 年をスパンに置いて考える必要があります。しかし、それほど先のことなど誰も判るわけがない。判るなら苦労はしません。ですから「今の発想ではない考え方」で工場を考えようと、日夜考えています。ウチは工場を作ってナンボなので、作らないと意味がないのです。
そこでまず立地です。次に生産方式ですが、いまのMAKINOは“見込み”で部品を手配し、受注時に引き当てる方式をとっています。この方式は長いことやってきたのですが今までのやり方だけでは限界かなと思い始めています。何が限界かというと、いまのお客様の要求に応えられていない。その要求というのは「もっと早く」というものです。世の中の変化の激しいときに、モタモタ作っているんじゃない、もっと機敏に、というものです。早いのが当たり前の時代になりました。生産財の分野は納期が厳しいのです。よく金型屋さんと話すのですが、ある分野の金型などは5ヵ月が目安の世界だと、それ以上かかるならキャンセルだと。7ヵ月かかったらその仕事はなくなる世界と言われます。
岩波:いま時間的に厳しい分野は半導体ですか?
宮崎:半導体も厳しいですが、新しく工場を建てでも納期を守れば良いという分野です。しかし、スマホのように、年に何回か新商品が出て、更新するような“振れ”がある製品では、そのときにないと売れない世界です。そのタイミングが絶対的に大事です。自動車部品が、EVになるので大きく変わるのですが、いま一番こたえるのが「何でもコストダウン」という流れです。部品としては同じものなのですが、使うクルマが変わったので価格は以前よりも切り下げる、使うものは同じものですがコストダウンを求められていて、サイクルも早くなってお客様は大変です。
いま一番厳しいのは“薄氷を踏むような思い”で仕事をされている世界です。その世界ではサイクルがドンドン早くなり、納期に対する要求も厳しくなっています。その世界では従来のビジネス感覚から言えば「明日持ってこい」など無茶苦茶な話が当たり前になっています。さすがに明日は無理ですが、そんな勢いです。そういう世界はまとまった量を納めないとなりません。ひと昔前の携帯電話がそうでした。それにも応えていかないといけないのが実情です。
そこで話を元に戻しますが、MAKINOがやっている「見込み手配」から「受注生産」への展開は、どうしても経験ある人が取り仕切らなければならない。それがないとうまくいかない。最終的にはお客のニーズに合わせた仕様で、かつ最短納期で納入しないといけない。「生産のリードタイムを短くして」と言っている手前、どうしても人に頼る部分が、いまでも大きいです。
数台規模の受注なら今の体制で問題ないのですが、大口受注に対応できる生産体制を構築しないといけません。それをどのように見つけ出すか、が大きな課題です。
岩波:それは、いま言われている“スマートファクトリー”というものとは少し違うようですね。
宮崎:いまのスマートファクトリー的な生産方式は、1980 年代に社内でやっていました。「ダイナミック生産方式」と呼んでいました。いまある資源を最適活用して最大のアウトプットを求めた。そこで何が必要になったか、といいますと、まず上流から揃えなくてはいけないのでCAD/CAMです。CADから自動的にCAMのプログラムを起して、その中に入っている加工条件のデータベースをコンピュータが選び出して、加工に必要な周辺機器を揃えて段取りをオペレータに指示してから加工が始まります。しかし、こういう生産方式は小回りが全く効かない。何が不便かというと、全てのものを計画通りに揃えて進めないと前に進められないシステムだったのです。そこに“特急処理”が入ってくると全てを変えなければならず、どこがどう変わるのか人では判らない。しかも“ダイナミック”なので刻々と変わっていく。それでは現場は不安ですから、段々とスマートファクトリー的なアプローチからは遠ざかって行きました。
今の考え方は「見て判るシステム」です。次の指示はAIではなくて“俺”が出す、という考え方です。今どうなっているのかを把握しないと不安だ、というのがいまの流れです。
ダイナミックというのは人には受け入れられなくて、見えないとダメと言われます。デジタルツインのようなことも取り入れたのですが、お客様や生産者にすれば現実とは違う、という点から受け入れられない。「見えないのは嫌だ」しかも「自分で次の指示を出したい」という要請に応えなければいけないのが現状です。
しかし、それもこれから変わるでしょう。いままで「生産数は 10 万個」で動いていたものがあるとして、コストを下げるために機械化してコストダウンを実現できた、と思った途端に「あれいらなくなった」となる。少しずつ対応していき1万個完成したところで「設計変更」になる。それに対応しろ、と言われているが、それは無理でしょう?
いわゆるスマートファクトリー化に対しては 80 年代の経験を活かして取り組んでいて、前工程、前工程と追求していますが、あれ、どこまで遡るの? デザインかい? それともトレランスを変える? これではロボットが動かない。ロボットを使えば済む、という話ではないので、生産方式を変えるには、いきなり何かを変えれば良いというわけではないと思います。私たちは、人手で機械を作っているけど、それではダメなのかな? と模索は続いています。
宮崎:どのような工場をどこに作るべきか、についての腹案は沢山ありますが、お金のかかることです。相談しなければいけない関係先と調整し決まったものを徐々に発表していきます。先立つものがないとできないことですが、お陰様で昨年度は売り上げも受注も過去最高額を記録しているのでタイミングは良いのです。ただ今年度は、10 %くらいは落ちるだろうと予想されているので微妙ではあります。岩波:MAKINOさんは、経営判断をする場合に、あまり外部要因に判断基準を置いていないように見えます。必要なことならそれはやる、という文化ですね。
宮崎:MAKINOの人は皆、自分の判断で行動するから、時々怒られる。しかしMAKINOを叱ってくださる代理店さんやお客様のお話しには耳を澄まして伺います。褒めていただくときよりもお怒りになっているときのほうが、本音が出ているのでしっかりお聞きします。叱ってくださるのは頼りにされているからだ、と思います。外に出る人たちには「叱られてきてください、それが本音だから」と言っています。
ウチはあまり“組織”というのは意識しないですね。「組織って何なんだ?」っていう人が多いでしょう? 自分でやりたいことをやっているし、枠にはめられたくないのでしょう。「あれしろ、これしろ」と言われてやるのはいやです、という社風です。
岩波:その底辺に流れているのは何でしょうか?
宮崎:そうですね、人それぞれが持っていればよいのでしょうが“Quality First”が行動基準なのでしょう。ではQualityってなんだ、となるのですが、範囲が広すぎて決められない。みんなの中に、それぞれあって、それがバラバラに集まっているのがMAKINOだと思います。
岩波:それでバラバラにならないのは、何かが支えているのですか?
宮崎:バラバラではあるのですが最後には「お客がこう言っているから」と言って通します。だからMAKINOはお客様志向なんです。自分のやりたいことをやるのに、お客様を出してくる。いま「Smart Tool」として販売を始めた特殊な工具も、工具メーカーさんにお願いするには市場規模が小さく、かといってそれがあればお客様には有用な手段になる、というような場合にMAKINOが直接、製作したものです。それは受け身ではなく、やはり積極的にやったように思います。
岩波:MAKINOの基本的な哲学が見えてきました。その部分を守って行けばMAKINOはこれからも変わらないのでしょうか?
宮崎:変わりようはないでしょうね。お客様の意向を先読みできる誰か頭が良い人がいるわけでもないですしネ。
岩波:国内外、欧米アジアに向けてMAKINOはどのように関わっていきますか?
宮崎:アジアというのがポイントになる市場だ、と思います。この市場で良いポジションを得ないと会社を維持できないと考えます。工作機械のような都市型産業というのはサプライチェーンがないと作れない。そういったものがアジアではかなり熟成してきた。何十年もかかったのですが、先人のおかげでそういったものが成熟してきた。これをもう少し広げて、中国でも拡大していく。サプライチェーンの次にカスタマ―サポートのネットワークを拡大しています。その意味で、中国のど真ん中へ、工場、テクニカルセンター、サービスセンターを中国のサイズにあうように作っていきます。何千台という規模で売っていく体制を確立していきます。このサプライチェーンを中国、インド、東南アジア、チャイナ+ワンの所に展開していくところです。
お客様のニーズ、困りごとをアジアでも拾っていける体制を作っていきます。いまは中心になっているのは日本です。お客様からMAKINOに足りないのはこんなところだ、と言っていただける。しかし海外では言っていただく前に他所に行ってしまう。そこを日本のように言っていただけるようにしないとMAKINOの明日はないだろうと。いま日本で言われたことを手直ししてアジアに持っていく、欧州に持っていく、そして米国に持っていっている。
欧州と米国では 1970 年代に現地企業を買収しています。実は両方とも旋盤屋さんでした。その要素がやっと抜けてきた。どちらも長い歴史があり、企業文化としても頑固な所がありました。旋盤工場でマシニングセンタ(MC)を作るのはおかしな話です。MCはせいぜい数十年の歴史ですが旋盤はレオナルド・ダ・ヴィンチの時代からです。日本の旋盤メーカーが数千台つくっていたときに数十台作っていても仕方がない。今でこそ複合旋盤がありますが、当時は丸物を削るだけでした。旋盤は即止めました。
他社は旋盤から始めてMCに出てきました。何が違うかというと、旋盤では部品・機械要素の共通化という発想があるのです。それに対してMAKINOはバラバラに部品を作っていて、共通化・共用化しようとすると大変だった。いまその部分に取り組んでいますが、上流からやらないといけなくて、お金がかかり大変です。設計からサービスまで一元化できるよう目指しています。共通化というよりまず見えるようにしていこう。
あと旋盤は数が違う。また内製化率も高い。ボールねじも作り、コントローラも作ります。その意味では、工作機械屋としては、旋盤に取り組んでおかないといけなかったのかも知れない。しかし、旋盤に取り組まなかったからMCというものに幅広く取り組めたのかな、とも思います。

《インターモールド2023》展のMAKINOブース

岩波:長時間に渡りありがとうございました。