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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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第32回 ファナック新商品発表展示会開催

2023 年 05 月 31 日

来場者でにぎわう新商品発表展示会場~自然館

 ファナックは5月 15 日(月)から 17 日(水)まで、本社忍野村にある自然館において第 32 回新商品発表展示会を『最新のCNC・サーボとデジタル ツインによる最適化』をテーマにして開催した。新型コロナ感染対策が緩和されつつあるが、用心には用心を重ね、今回は訪問時間に目安を設けて、来場者が集中しないように配慮していた。
 新商品発表展示会は、1986 年4月に開催されて以降、毎年開催されてきた。1992 年7月には創立 20 周年記念イベントとして創立以来最大の規模で行われたりもした。当初は工場の空スペースを活用していたが、2000 年に本社敷地内に「自然館」が完成すると、以降はそこを会場として開催されてきた。
 「社内展」は、いわゆるプライベートショーであるが、開催期間は1日だったり2日間だったりしたが、回を追うごとに来場者が増加し、折角の新商品の説明も会場内では聞き取れないほどの混みようとなった。そのため 2014 年から2日間に、2019 年から3日間に延長されるようになった。今年はさらに2時間ごとに来館時間の目安を設けて来場者が集中しないような運営だった。このファナックのイベントは、毎年、この時期に今後の技術的方向性が示されるので、FA業界の各社が注目している。
 今回の資料では、近年の工作機械を取り巻く環境を下記のように整理している。
 ①エネルギーコスト削減への強い要求、②慢性的な労働力不足、③熟練技術者の世代交代、④大量生産から少量多品種生産への流れ、 ⑤機械販売後の価値提供、さらに、⑥産業構造の変化に伴い、要求される工作機械や加工技術自体が変化していく、と。
 上記のような認識のもとに数々の新技術が発表されていた。

1.新CNC「FANUC Series 500i-A」シリーズ登場

 まず、ファナックのコア分野であるFA分野では 2003 年に発表された「FANUC Series 30i/31i/32i」(以下FS30)以来、20 年ぶりに「FANUC Series 500i-A」(以下FS500)が発表された。“処理能力と信頼性の向上”とうたわれている資料を見ると、FS30の基本構造を一新したことが判る。制御システムのプラットフォームを一新する、という大きな改革だ。その背景を考えると、この 20 年間で工作機械を中心にした製造業の環境が大きく変化したことが上げられる。高速・高精度で制御することは当然だが、5軸加工機の登場で複雑な曲面加工がおこなわれるようになり、またインダストリー4.0などでIoT(モノのインターネット)が広範囲に利用されるようになりネット環境下の利活用が重要なテーマになった。さらにロボットなどのサポート機器が周辺で盛んに利用されるようになった。システムが複雑になっても使いやすさは求められるし、安全に使うためのセキュリティ機能も強化しなければならず、「FS500」はそれらに対応した。
 具体的には、処理能力を決定するCPUが、従来の最上位機種「FS30i- MODEL B」に比べて 2.7 倍になった。また表示器のグラフィックが強化され、各種のインターフェイスは高速化され、またバッテリーレス化、小型化で信頼性を向上させている。
 目立つのは5軸加工機能の強化だ。5軸機は近年急激に利活用が進んでいる機種なので、今回の機能強化は、5軸加工の現状を整理するのに格好の材料にもなっている。
 使いやすさの追求では、「FS30i- MODEL B」で培った5軸加工機能をフルサポートして工程集約に寄与して5軸加工/複合加工を推進している。具体的には、加工中の回転軸へ手動ハンドルで割り込みが可能(標準装備)で、3次元シミュレーション技術を利用して5軸加工プロセスをデジタル空間上で行えるようになり作業効率は大幅に向上した。内臓形3次元干渉チェック機能も、工具ヘッドで 25 通り、回転テーブルで 16 通りの定義があり、操作の安心感向上に貢献している。「FANUC PICTURE 2」で画面設計とデバッグを強力にサポートしている。セキュリティ機能の強化では、機密性・完全性の実現に向けてユーザー認証による不正アクセス防止、ユーザーグループに応じたデータアクセス保護、FOCAS3の暗号化通信で秘匿性を強化している。

2.「αi-D シリーズサーボシステム」~ 高速・高精度・省エネルギーの新世代サーボシステム

 ファナックαi-D シリーズ」は、高い加工性能を実現するサーボシステムとしての高性能化に加え、小型化や省配線といった使いやすさを更に向上し、また、損失低減により機械の省エネルギー化に貢献する新世代のサーボシステムだ。
 デジタル技術やIoT・ネットワーク技術と連携し、加工プロセスから工場全体の最適化まで、今までのCNCの枠を超えて、新しい工作機械の形を追求している。サーボ制御の高速・高精度化やエネルギーコスト低減を加速し、ハードウェア、ソフトウェア、モータ・アンプを一体設計するファナックの最新CNCシステムを提供している。
 「αi-D サーボ」は、より少ない電流で同等のトルクを生み出し、運転条件に応じた最適な電流制御を実現する。高速領域の加速出力を向上させて加速時間を短縮した。サーボシステムの加減速特性は、CNCシステムの重要な要素となり、工作機械メーカーが重視する性能のひとつだ。

3.ファナックのデジタルツイン(ファナックスマートデジタルツイン)~実機を使わず加工プロセスを最適化する

 仮想的な工作機械をデジタル空間に再現し、実機械の生産性の向上につなげる技術は、近年デジタルツインとして知られている。しかし、加工プログラムレベルのシミュレーションや機械の静的構造をベースとしたシミュレーションでは、あくまでも仮想的な加工の域を超えることはできない。
 ここで重要なのは、デジタル空間の仮想機械を現実世界の実機械に近づけることで、本当の意味でのデジタルツインに基づくデジタル世界の構築で、この課題に対処するため、以下の技術を開発した。
1) CNC シミュレータ(CNC ガイド2)
 「CNCガイド2」は、ファナックCNCの動作を完全に再現するCNCシミュレータで、実CNCの機能のすべてを網羅し、機械シミュレータである、CNC Reflection Studio (新商品)と連携して、デジタル空間での忠実な機械動作を再現する。10 倍~ 20 倍の速度でシミュレーションが可能で、実際の加工時間より短い時間での加工検証をおこなうことができる。 旧来の加工プログラムベースのシミュレーションと異なり、加減速処理などを含む実際の CNC による動作を再現することができる。
2)加工面推定
 シミュレーションの結果得られる工具軌跡データから、実際の加工面を推定することで、デジタル空間でも、加工面の品位を確認できるようになる。 最適化されていない加工プログラムで実加工したがゆえに、面品位が乱れてしまうことは多々あるが、正確なCNCシミュレータと機械シミュレータ、加工面推定の技術を組み合わせると、その加工面の乱れを事前にデジタル空間で確認できるので、実際の加工における試行の繰り返しの時間を大幅に削減することができる。
3) サーボモデル
 これまでの機械シミュレーションは、機械構造のみに基づく“静的シミュレーション”である場合が多く、単にCNCの正確なシミュレーションが可能になっても、実際の機械の動きとは異なる仮想的な動きがデジタル上に再現されるにすぎなかった。
 ファナックのサーボチューニング技術をベースにして生成されるサーボモデルは、実際の機械の動特性に基づいた数理モデルで、これをCNCシミュレータ内に組み込むことで、実際の機械に極めて近い動きをデジタル空間に実現することができる。つまり、実際の加工と同じ加工面を、(実加工をしないで)デジタル空間で再現できることになり、この技術が、真の意味でのデジタルツインによる加工を実現する鍵となる。

 サーボモデルを組み込んだシミュレーションで生成される加工面には、オリジナルのCAD形状、CNC指令、加工軌跡、加減速情報などを重ねて表示することができるため、品質上問題のある個所の分析が、リアルにおける加工面の分析より、むしろ簡単になる。デジタル空間上でCNCパラメータ、サーボパラメータを調整して加工面を最適にした後、実加工を行うことで、実際の現場での調整の試行回数を低減することができる。これらの事前検証を経て、実加工をした結果として実加工面に乱れが見つかった場合、工具や治具の設定など加工そのものの問題の可能性が高く、いいかえると、加工面が乱れた原因の問題の切り分けが可能となり、効率的に加工プロセスの改善に取り組むことができるようになった。
 このように、リアル加工は、並立するデジタル空間での加工と組み合わせることで、より分かりやすく、最適解にたどりつけるようになる。ファナックは、デジタル空間において、プログラムレベルの検証から、機械構造を加味した検証へ、さらに、機械動特性を加味し、加工面を検証していく、この一連のデジタル加工プロセスをサポートするために、各種ソフトウェアを統合する「FANUC Smart Digital Twin Manager」を新たにリリースした。 機械によって異なる特性にあわせて、 デジタル技術との連携が可能となった。

4.FIELD system Basic Package の本格的運用

FIELD system Basic Packageの筐体外観

 2015 年の開発開始から、実績を積み重ねてきた「FIELD(FANUC Intelligent Edge Link and Drive system)」の体制が整ってきた。昨年のJIMTOFで発表された、FIELD system Basic Package が今年の2月にリリースされた。工場内の様々な機器データを標準化して整理し、格納する。これにより「見える化」、「分析」が可能となる。FIELD system のデータ基盤は3層構造で、現場で働く各機器から情報を吸い上げる「データコレクタ」、それらが整理され格納される「データベース」、そのデータを利活用する「アプレケーション」層の3段階で、中心に位置する「データベース」層がパッケージ化されたことで、イメージとしてはMS-DOSが登場してパソコンが一気に使いやすくなった感覚に似ている。これからの積極的な利活用が期待される。
 会場には4件の導入事例が各4頁のパンフレットで紹介・配布されていた。導入の“効能”についてはこうした経験談が役に立つはずだ。ちなみに①㈱前田精密製作所(神戸市)、②ヤンマーパワーテクノロジー㈱(大阪市)、③ナブテスコ㈱(東京都)、④㈱神崎高級工機製作所(尼崎市)の4社だ。

5.高負荷対応の協働ロボット

クルマのフロントガラスを組み立てる50 kg可搬のCR-35iB

 オペレータとともに現場で作業する「協働ロボット」に高負荷対応が登場した。可搬重量 35 kgのCRシリーズに 1.4 倍の 50 kg可搬の「CR-35iB」を発表した。これは機能部を変更することなく、ソフトウェア上で対応したもので、その原理は説明が必要だ。ロボットのアームの物理的長さを目いっぱい伸ばしても、その先端でワークを把持しても動作に影響がない、というのが可搬重量だが、そこまで一杯に伸ばさないならば、もう少し重いものが持てる、という感覚だ。
 そこでソフト上で、可搬重量を増やしても、この範囲なら十分可能な範囲を設けたのが「高負荷対応協働ロボット」だ。50 kg可搬対応の「CR-35lB」と 30 kg可搬対応の「CRX-25iA」が紹介された。

6.既設機を含む工作機械への容易なロボット導入

 労働力不足という社会的背景を表して、工作機械の周辺にロボット導入が進んでいる。ロボット導入の検討が行われる工作機械の大半は、現在機械ユーザーの元で稼働中の既設機であるということに注意すると、ロボットを導入するには、ロボット制御用のシーケンスプログラム(機械メーカーが設計)を追加する必要が出てくる。一方で機械メーカーが工作機械を開発する際、もしくは機械ユーザーが工作機械を購入する際は、まだロボット化が念頭にないケースが多い。そこでファナックは、CNCが標準の状態でロボットと連携する機能を実装、工作機械のシーケンスプログラムを変更せずに、イーサネットケーブルの接続だけで、ロボットとの接続を可能にした。2000 年以降に出荷された機種であれば、この機能を使うことができる(一部機能に制限がある)。
 また、今後出荷されるCNCでは、フルスペックとなり、ロボット指令に使用する専用インタフェース領域を標準で備えるなど、稼働中の工作機械へのロボット導入がさらに容易になります。接続後は、標準で、Mコードによるロボット動作の呼び出しが可能、オプションで、工作機械側のプログラム言語(Gコード)での動作が可能となります。手動パルス発生器でのロボット動作もサポートし、工作機械の一部のようにロボットを操作できるようになります。工作機械とロボットとの親和性が大きく前進した。

7.デジタル工場を活用するメリット

 リアル工場内では、各機器のデータは多種多様で混沌としているが、デジタル工場は、分析しやすい形に整理されているので、分析自体が容易だ。標準的なOPC UA、及びRESTに準拠したAPIで、デジタル工場のデータにアクセスできるため、汎用的な分析ツール(BIツール、ローコードシール、ノーコードツール、汎用プログラミング環境)を活用することができる。また、工場の上位システムと、容易に連携することが可能になる。生産現場の分析に特化したツール(FANUC Factory Visualizer)を内蔵しており、汎用的なツールに比較して、さらに簡単に分析を行うことが可能になる。
 リアル工場に存在する機器のセキュリティレベルは千差万別で、セキュリティ全体の制御が非常に困難だ。一方、デジタル工場のデータは、認証基盤を備え、一括したセキュリティ管理とデータマネジメントを行っているので、安全上のリスクが極めて少ないと言える。
 デジタル工場では過去にさかのぼってデータを持っているので、生産機器を止めることなく生産性の向上を検討したり、不具合が発生した際に 過去にさかのぼって検証したりすることも可能になる。
 製造業で、データ活用の有用性が認識され、機械を設備するにあたってネットワーク対応が行われるようになってきた。各機械をつないでいく、というインフラが当たり前になりつつあるが、実は、これだけでは、IoTによるDXサイクルを回していくことは困難です。ネットワーク敷設に合わせて、リアル工場とデータ上の対をなすデジタル工場を設置することで、データ分析が容易になり、工場最適化のための、DX サイクルがまわり始めまる。
 今年の新商品発表展示会で、製造業のDX化が大きく前進してとの印象を持った。