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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

ことラボ・レポート

インターモールド2023開催される

2023 年 04 月 28 日

 2023年4月12日(水)から15日(土)にかけて東京ビッグサイトにおいて金型や金属プレス加工に関する3つの展示会《INTERMOLD2023》《金型展2023》《金型プレス加工技術展2023》が開催された。前者二つは日本金型工業会、後者は日本金属プレス工業協会が主催し、いずれもインターモールド振興会が運営する。
 国内外の工作機械などの設備機器メーカーや金型メーカー、プレス加工メーカーなど408社・団体が 702 小間の規模で参加した。このうち本展示会を構成する《金型展2023》は全国から 91 社、《金型プレス加工技術展2023》は 50 社の金属プレス加工メーカーが参加した。来場者は4日間で25,874名だった。

6件の「特別フェア」

 DX(デジタルトランスフォーメーション)改革など、大きな変化が続く産業界に情報発信を続ける各種の展示会には、注目テーマを設けた企画があるが本展示会も6件の「特別フェア」が企画された。以下紹介するが( )内は参加企業。残念なのは「特別フェア」の意味や趣旨に関して来場者に伝える努力が見えなかったこと。写真に収める形がなかった。
①『次世代プラスチック加工フェア』(事業革新パートナーズ、東陽研磨剤工業)
 金型において主要原料であり加工製品のプラスチックは、カーボンニュートラル時代になり、環境負荷を小さくするべく課題を抱えている。素材への変更や加工技術開発など様々な課題がある。生分解性プラスチックやバイオプラスチックなど、次世代素材やその加工技術を紹介していた。
②『3Dプリンティング&AM技術フェア』(日本AM協会、富士インダストリーズ、デフューズドジャパン、ムトー精工、マークフォージドジャパン、深圳徳科精密科技)
 航空機、医療、自動車の製造の世界では、軽量・多品種小ロット・複雑造形など、部品や製品に対する要求が複雑化している。積層技術(アディティブマニュファクチャリング)は、これらの要求に応え、部品製造・量産への工程短縮が見込まれる。
③『製造業DXフェア』(NCネットワーク、東莞市高采模具、シンクビジョン、MAZIN、ものレポ、ゼネラル、浦谷商亊)
 IT技術の進化で製造現場は、営業と技術情報を共有し、生産過程を効率化し、スマートファクトリー化を進め、省力・省人化を図り、付加価値を向上させる。製造業のDX化は、避けて通れないDX化への課題を抱える全ての生産現場のシステムやサービスなどの最新情報を発信していた。
④『鍛造加工技術フェア』(日本鍛造協会)
 日本の伝統である「鍛冶屋魂」をもとにした日本製鍛工品の信頼性は高く、国内外からの需要に応えてきた。しかし、さらなる低コスト化、高付加価値化、軽量化に向けた技術開発など日々進化を要求されている。この企画では鍛造加工業界のみならず業界をサポートする設備関連業界から最新の技術、機械等の製品情報を発信し、各社の問題解決と提案を行っていた。
⑤『自動車部品製造技術フェア』(日本自動車部品工業会、ナカヨ、住友ベークライト)
 世界をリードする日本の自動車部品製造技術をアピールした。100年に一度の変革期と言われる自動車業界では、脱炭素社会を目指してEV化を加速させ部品加工も統合や標準化、軽量化など、急速な技術革新が求められている。激化する自動車業界の大手メーカーから1、2次サプライヤー、中小企業まで、最先端の自動車部品製造技術を紹介した。
⑥『航空機部品加工技術フェア』(まんてんプロジェクト)
 三菱航空機の「スペースジェット」撤退の報道で、2008年3月のMRJ開発決定から盛り上がっていた航空機産業に対する期待がしぼんでしまった。航空機産業は、新素材・新素材加工技術、宇宙産業・防衛産業・防衛装備品産業、エネルギー産業などすそ野が広く、参入する中小企業も多い。航空機への取り組みをリセットして、競争力を持つ特殊な技術や高付加価値技術のある中小企業と、大手メーカーやサプライヤーとのビジネスマッチングを目指し、業界の最新技術や新素材に関する情報発信を企画した。
 各種の展示会ではこうした「企画コーナー」が盛んに行われるが、本展示会の中心テーマである「金型」が忘れられるとピントが外れた企画になる。しかも、会場入口のワゴンに置かれた小間図面の中に上記の「6つの特別企画」が色分けされて表示されているだけ、訴求力は小さい。主催者の意図が判らなかった。以前は制作されていたB5版の「出展者名簿」も見かけなかった。
 金型業界が抱えている問題は数多い。会場内オープンセミナー第2会場で初日に開催された「インターモールドパネルディスカッション」で(一社)金型工業会の横田悦二郎学術顧問は「金型産業は“下請け”ではない」と熱く語っていたが、そのように強弁しないといけないほど金型産業は、自身の重要さを社会に訴えて来なかったし、周囲の関係者も技術が海外に流出することに具体的対策を講じなかった。「判る人だけがわかっていれば良い」と考えていなかったか?
 1990年代から「失われた10年」と言われそれが20年、30年と続き、台頭してきた中国勢との交流の中で、発注側である大手企業のコストダウンに利用され金型業界は厳しい環境に立たされた。会場には「日本金型工業会」会員企業のコーナーと「日本金属プレス工業協会」会員のコーナーが設けられていたが、力をつけてきた中国、韓国からも多くの企業が参加していた。大連金型協会、中国国際貿易促進協会、KODMIC( Korea Die & Mold Industry Cooperative )は集団での参加だが最近は単身で乗り込んで来た企業も多い。目立つのは東莞、深圳、大連、蘇州、蘇州、青島、寧波、上海など広範囲にわたる。なんだか一方的に攻め込まれているようだ。

大連市金型協会

 これを受けて立つ日本側は、工作機械大手のオークマ、DMG森精機、ヤマザキマザックが参加せず、展示会としての迫力は欠ける。それでも金型加工には欠かせない放電加工機、MC、研削盤メーカーは参加していたのでご紹介する。

 牧野フライス製作所は①立形マシニングセンタ「V56iPLUS」、②高精度ワイヤ放電加工機「UPX600」、③NC放電加工機「EDGE3i」の3台を正面に展示した。①はユーザーの工場環境温度に合わせて軸移動を最適化する「eSTABILIZER」を、またテーブル内部に温度管理された切削油を循環させて熱変位を抑制する「テーブル温度安定機能」を搭載していた。②は近年、処理速度が向上しているEDMの世界で、加工能力の向上と加工回数を少なくしても加工面が向上させる「新加工電源EW200B」と操作画面の操作性を向上させた「QV Assist」を搭載して登場。③には操作画面の構成を作業の流れに合わせた新制御装置「Hyper i」を搭載した。

牧野フライス製作所

三菱電機

 三菱電機は、「カーボンニュートラルとSDGsに貢献する三菱電機の最新技術」をテーマに出展した。同社は、放電加工機はもとよりレーザ加工機、CNC、ロボット、センサ、通信システムなど総合電機メーカーに相応しい製品群が揃っている。金型展だから放電加工機は当然のことながらEVシフトを見据えた電気自動車適応事例やモータ適用事例、スマートフォン適用事例など総合力を発揮したラインナップだ。小間中央には超高精度ワイヤ放電加工機「MP1200」にハンドリングロボット「AMR」のシステムが展示されていた。小間には「三菱電機の社会課題解決への取り組み」のパネルが掲示されていた。また「ワイヤ・レーザ金属3Dプリンタ「AZ600」のサンプルとパネルが、さらに精度を極めた超高精度サンプル事例「極み」など、小間内に所せましと展 示されていた。
 ソディックは、放電加工機から創業したが、セラミックス、切削加工機、ナノマシン、3Dプリンタ、周辺機器など守備範囲を着々と広げ、後発の食品事業部も大きく育った。今回展では、リニアモーター駆動高速・高性能ワイヤ放電加工機「ALN400G i GE」でワイヤ回転機能によるワイヤ消費量の削減、新開発のDigital HF制御は加工速度向上と加工精度向上を両立させた。さらに新開発の省エネポンプシステムは電力消費削減も実現させた。リニアモーター駆動マシニングセンタ「UX450L」は、超軽量ヘッド、高剛性門型構造、超精密ガイドで、さらなる高速化・高精度化を実現させた。

ソディック

アマダマシナリー

 アマダマシナリーは、「未来につながるデジタル研削ソリューション」をテーマに最新ソリューションを展示した。「金型・工具・精密部品」加工を主とするデジタルプロファイル研削盤「DPG 150」は計測作業をデジタル化することで誰でも高精度加工を実現できるようにした。
 キタムラ機械は、最小スペースで最大のコストパフォーマンスを発揮する「MedCenter5AX」などを出展した。同機は納入後でもアップグレードが可能な最新鋭の同時5軸制御マシニングセンタだ。マシニングセンタの専業メーカーとして、独自のCNC開発で5軸機の制御性を高め、工場床下6mまでのピッチを強化(コンクリート化)してキサゲなどの高精度化を進めている。
 ファナックは「金型加工/成形分野における製造現場での生産性向上に貢献するFANUCのロボマシン」を掲げて、同社の「ロボマシン商品群」を展示した。小型マシニングセンタのロボドリル、電動射出成型機「ロボショット」、ワイヤ放電加工機「ロボカット」が展示された。小間奥には出展商品資料の入った袋を協働ロボットが希望者に手渡しする愛らしいデモが行われていた。ファナックとの距離がグッと短くなった。そのファナックが進める工場のDX化の基本システム「FIELD system」の「Basic Package」も紹介されていた。使われるデータの収集、見える化、連携、セキュリティ、オンプレミスがオールインワンで用意され、工場DXがスタートラインに立つことができる。

ファナック

アルファー電子工業

 アルファー電子工業(岐阜県瑞穂市)は「ワイヤーカット36台」を保有していて、短納期・低価格・高品質の加工業務を受託できると展示していた。ワイヤーカットは全てファナック製で、他にロボドリルもあるがフライス盤や平面研削盤も揃えている。協賛展示会は通常、設備材メーカーがユーザーに設備を見せて販売促進するが、欧州の《ユーロモール》では、金型メーカーが自社の金型技術を展示して仕事を取ろうと展示する。「日本金型工業会」の小間のように。部品加工メーカーであるアルファー電子工業の挑戦は、日本の展示会を変えるのではないかと期待した。
 岡本工作機械製作所ではファインバブル発生ユニット「GRIND-BIX」に注目した。ファインバブルとは、直径0.1mm(100 ミクロン)以下の微細な泡で、高い浸透性と洗浄性で広く利用され始めている。バブルの発生により砥石とワークの接触点に研削液を効率よく誘導し、研削熱の抑制、研削液本来の効果の最大化が図れる。金型製作でも広く使われる研削盤の周辺技術として注目した。

  矢島技研(名古屋市)の「フィーダー事業」ではオーダーメイドのパーツフィーダーを提供する。さまざまなナット形状の選別に対応する「BOWL FEEDER」、マグネット使い振動を利用しない「SMART CUBE」、振動ボウルを使わずにコンベアを使う高速確実なナット搬送に使う「ZAK FEEDER」、振動を使わないマグネットローダ―方式の「SKY FEEDER」など、パーツフィーダーの奥行きの深さを知った。

会場で気がついた小さな変化

 小間内に自社製品以外を展示する企業が多いのは最近の傾向ようだ。ある工作機械メーカーの幹部は「工作機械では開発すべきテーマがあまり残っていないから、周辺機器装置を借りてきて、お客様に提案している」と胸のウチを語ってくれた。それに呼応するようにCAD/CAMメーカーの社長からも最近の傾向として「工作機械メーカー側の要請で、ソフトを搭載して付加価値をあげることが増えていて、エンドユーザーに営業をかける以外のルートが増えつつある」との証言を得ている。
 大昭和精機の小間に展示されていた「Dyna ZERO Vision」は、高速回転中の工具長・工具径(振れ)を測定する非接触測定器としては有効な武器となる。「非接触測定器の最高峰」のキャッチフレーズのもと、高速回転中の工具長・工具径(振れ)を測定できる画像処理システムだ。機械主軸の1回転信号を取得し、ストロボ効果を利用した測定方法で、工具(主軸)回転1度毎の測定を可能にした。測定結果を得たら必要になる調整は「ダイナゼロチャック」を併用すれば可能になる。今回は自社小間内に出ていたが、今後は工作機械メーカーに搭載されて登場しそうだ。

大昭和精機「Dyna ZERO Vision」

次回展に向けて

 久しぶりの会場で少し不安が募った。工作機械メーカーの出展意欲が後退していたかりでなく、初日に工作機械メーカーのトップは少なく、牧野フライス製作所の宮崎正太郎社長やキタムラ機械の北村彰浩社長など数えるばかりだ。多忙な企業のトップが参加するだけの魅力度が低いということか。金型メーカーのM社長は「日本の金型業界をここまで追い込んだのは日本の産業政策が無策だからだ。金型技術を守らずにアジア諸国に低価格で流出していくのを黙認していた」と。日本航空や東芝になれば“倒産”は国策として回避されるが、従業員が10名もいれば中堅と言われる金型メーカーは「霞ヶ関」の視野には入っていないのかもしれない。
 その金型メーカーが参加している「日本金型工業会」のコーナーは、主催者が何を考えているか判らないが「大学の文化祭的」取り組みにしか見えない。ハッキリ言えば”縁日の夜店”だ。しかし、この一角には、撮影禁止でHPでも紹介できない“驚くべき金型技術”が溢れている。それはこの会場でしか見ることができない。もっと多くの人に見て欲しい。使ったら終わりの“補助金”をばら撒くよりも、出展者に補助金をだして出展面積を広く取り、来場者がゆったり見学できるようにしたらどうか。若い人たちが引き込まれるようにして欲しい。税金は、産業界全体を視野に置いて賢く使って欲しいと思う。