メールマガジン配信中。ご登録はお問い合わせから

ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

ことラボ・レポート

Grinding Technology Japan 2023が開催された

2023 年 03 月 22 日

 2023 年3月8日(水)から 10 日(金)の3日間、千葉市幕張メッセにおいて「Grinding Technology Japan (GTJ)2023」(主催:日本工業出版/産経新聞社)が開催された。同展は 2019 年3月に初めて開催されて以後隔年で開催され今回が3回目になる。うたい文句としては“「研削加工」に特化した日本初の展示会”とあるが、主催者企画の「実演」では「独自技術で、まったく新しい切削工具を開発する」をテーマにしており、厳密な意味では「研削」ではない、など歴史の浅さがのぞき見えるが、テーマを絞った展示会のひとつとして注目している。今回は 171 社・団体・研究室が参加して 273 小間で開かれた。そのうち研削盤メーカーは 23 社、砥石メーカーは 14 社だった。3日間の来場者は 4,785 名だった。

岡本工作機械製作所

 ここ数年「研削革命」を掲げて、積極的に事業展開している岡本工作機械製作所(安中市 代表取締役・石井常路)は、会場最深部に最大規模の小間を構えた。「研削」をテーマにした展示会で、当然のように存在感を発揮していた。今回は、研削盤本体もさることながら、周辺の機能も紹介していこう。
 CNC精密平面研削盤「PSG127CA-iQ」ではオペレータ目線の使い勝手を意識した設計となっている。大型ワーク加工ではオペレータの移動範囲が広がり負荷が増す。それを軽減するために操作盤を可動式にして移動量を減らす。手パハンドル(手動パルスハンドル)に座標が出る。テーブル周辺を広く開いてクレーン作業をやり易くした。視認性の良いLED画面を採用した、など細かな点に気配りが行き届いている。また従来は駆動方式に油圧シリンダーを使っていたが、SDGsにも配慮して、全軸サーボモータ送りの電動化を実現した。油圧レスによりメンテナンスの簡易化も実現した。

CNC精密平面研削盤「PSG127CA-iQ」

 さらに、文字レス制御盤を実現して、多国籍な職場でも操作しやすくした。アイコンやイラストを多用して、文字(日本語)を使わなくても正しい操作ができる。多彩なオプションのメニューを紹介すると「機上計測ユニットQuick Touch」「MAP研削ソフト」「フルオートバランサ」「ファインバブル発生装置」「マルチポジション研削」「クラウニング研削」と多彩だ。この中で「機上計測ユニット Quick Touch」を紹介する。
 これは機上計測で当て込み位置の自動化を実現するもの。これは会場の隣に出展していたメトロール製の「エアマイクロセンサ」を利用して実現した。この結果「研削盤:段取→加工→移動→測定:段取→測定→移動→研削盤:段取→追加工→移動→測定:段取→測定」の工程が「研削盤:段取→加工→測定→追加工→測定」に短縮され、全体作業時間は 32 %削減、人員の拘束時間は 89 %削減できる。

石井常路社長に、研削の世界の課題を伺った。

代表取締役 石井常路氏

 「研削は最後の工程なのでお客さんが求めるレベルが高い。そうしたお客様に納得していただけるモノが欲しい。切削工具なら、高速撮影のビデオで再生すれば、刃物と被削材の間でどのような現象が起きているか確認できる。しかし研削加工は、砥石という自らも崩壊しながら加工する工具があり、しかも研削油がかかって目で確認することができない。結局、加工が終わった後に研削された“面”を見て推測するしかできない。科学と技術が進化した現代なら、これを視覚化・デジタル化して、ユーザーに示すことができるのではないかと考えている。
 ユーザーの求める精度を確実に出さないといけないが、ワークを図るために取り外さないといけなかったが、それでは連続加工ができない。効率が悪くCO2排出も多くなる。これを一気通貫でできるようにしたのが「機上計測ユニット Quick Touch」だ」と、成果を誇る。
市場について伺うと…、
 「世界市場を見渡した時に、やはり日本市場が一番厳しい。例えばCNC旋盤以上に出来の良いねじを手作業で切る職人がいた。その熟練工が引退するなどして、従来の勘や経験が継承されなくなっている。するとその技能を取り込んだ技術開発をメーカーに期待するようになってくる。それに対応するためにも上記のようなデジタル化技術を考えていかなければならない。
 グローバル展開して技能検証をするために若い人材を米国に派遣するなど、これから対策を具体化していく。欧米ではディーラー販売が中心で、日本のような細かいサポートが出来ていない。それを新体制で改革していく。やはりテーマは“自動化”だ。ディーラー教育を進めることで業績向上を目指したい。
 欧州市場は日本と似ている。高くても良い機械は評価される。アジアは、中国は別格で伸びているがASEANはまだら模様。イノベーティブな市場でこれから成長していくと思う」と、これからの市場を展望する。

メトロール

 メトロール(立川市 代表取締役社長・松橋卓司)は 2015 年に発表した、回転する砥石の精密位置決め用「エアマイクロセンサ」に力を入れている。回転中の砥石にエアを吹き付け 150 μmのギャップを検出する。これまではAEセンサ、タッチプローブが使われていたが、AEセンサは安定性に問題があり、タッチプローブは砥石をとめなければならない。エアマイクロセンサは回転を止めずに位置決めができるのが良い。

代表取締役社長 松橋卓司氏

エアマイクロセンサのカタログ

 吹き付けた“空気”でセンシングができるのか、の原理は「エアマイクロメーター」の応用だ。空気という媒体に、工業的世界が求める確かさを保証できるのか、は一般的には懐疑的になると思う。物質の三態(固体、液体、気体)の中で、気体は一番薄い組織だが、それを正確に作動させることで「世界で初めて」のエアマイクロセンサが完成した。
 この開発手法について松橋社長から耳寄りな話を聞いたが、それは別の機会で改めて話を伺うのでお楽しみに。

ブリングマン・ポンプ・ジャパン

 ブリングマン・ポンプ・ジャパン(藤沢市 代表取締役・森田源太)は、FKO「クーラントポンプ専用」プログラム付きインバータをアピールしていた。
 インバータとは一口で言うと「モータの電力消費を効率よくする」とでもいうのだろう。消費電力に意識がいかなかったこれまでの製造現場では、ポンプは必要なときに使うか逆に回しっぱなしにされていた。ブリンクマン・ポンプ・ジャパンのFKO‐クーラントポンプ専用プログラム付きインバータを導入すれば、電力の無駄遣いが激減する。
 ポンプモータに直取付けできる。その際、プログラムは組み込み済み。用途に合わせたカスタマイズが可能で、エネルギーとクーラントの使用量を削減できる。プログラム済で納入されるために、電源を入れれば直ぐに最適運転ができる。研削加工現場では、微細な切りくずが排出されるため、ポンプの効率の良い稼働がポイントになる。

代表取締役 森田源太氏

FKOのカタログ

牧野フライス精機

 牧野フライス精機(愛甲郡 取締役社長・清水大介)は“工作機械出身の工具研削盤メーカー”であることを強調する。確かにライバルは工具メーカー出身であったりNCメーカー出身であったりと、遺伝子は様々だ。その牧野フライス精機が、いま力を入れているのが“画像処理技術”だ。
 「百聞は一見に如かず」の言葉通り、見ることから得られる情報の多さが、作業効率を上げていく。非接触式工具測定装置「procam」を内蔵型にした「monocam2/SV」がさらに進化した。具体的には、工具を正面から見て測定していたこれまでに加えて 90 度回転させ横からも測定できるようにした。工具という複雑形状でも2方向から確認すれば、必要な多くの情報を取り出せるだろう。
 工具研削盤という、オイルミストや時には金属切りくず浮遊砥粒などが立ち込める機械加工室内で、画像を利用して“測定”することは大変な作業だと思う。清水社長は「カメラを買ってきて付ければできる、という簡単なことではない」と強調する。かつての日本は、設備本体などの“ハードウェア”に強みがあり、“ソフトウェア”は米国の後塵を拝していた。“画像”という多くの情報を含むデータソースを効率よく処理する経験を蓄積して、“堅物”の多い日本の産業界に新たな文化を育てて欲しい。会期中に開催された公益社団法人砥粒加工学会の通常総会で、清水社長が新会長に選出された。「砥粒加工」という、まだまだアナログな世界を解析して、技術と産業の進歩に貢献していただくことを期待する。

取締役社長・清水大介氏

ナガセインテグレックス

 ナガセインテグレックス(関市 代表取締役社長・長瀬幸泰)は、「異次元研削加工の幕開け」を掲げてGTJ2023に臨んだ。会期2日目の3月9日には併催イベント「日本を支えるものづくり技術とニューノーマルへの展開」のトップバッターとして「日本だからできた超精密加工への挑戦~新技術開発は、出会いと、気合い、勢い」と題する講演を行っている。いかにも長瀬社長らしいタイトルだ。展示会場では高精度門型平面研削盤「SGX-126」、高精度平面研削盤「SGS-85」、超精密成形平面研削盤「SGi-520α」が、長瀬社長の理念を体現していた。

超精密成形平面研削盤「SGi-520α」

 国内最大規模の展示会JIMTOF(日本国際工作機械見本市)は東京ビッグサイトで開催される。会場の西4ホールが、砥石関係の定位置とされている。以前、JIMTOF特集で、事前に出展製品を収集していたが、砥石業界からの情報が集まらない。理由を調べると、砥石というのはユーザーの拘りが強くて、量産して作り置きすることが少ない。だから直前に注文が入って製造したものを会場に運び込むので事前に作ったモノはないのだという。「砥石の世界」はそれほど情報不足な世界だ。「グラインドテック」も事情は似たようなものだと思うが、だからこそ研削技術の展示会のこれからに期待している。