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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞 転造盤のニッセーが受賞

2023 年 02 月 15 日

 「ものづくり日本大賞」は、日本の産業・文化の発展を支え、豊かな国民生活の形成に大きく貢献してきたものづくりを着実に継承し、新たな事業環境の変化にも柔軟に対応しながらさらに発展させていくため、ものづくりの第一線で活躍する各世代のうち、特に優秀と認められる方々を表彰する制度で2005年に設けられた。内閣総理大臣賞、経済産業大臣賞、特別賞、優秀賞がある。毎年あるわけではなく今年は9回目となる。今回は経済産業大臣賞に13件59名、1団体が決定した。「ことラボSTI」の2022年9月28日の「ことラボ・レポート」に登場して転造盤の開発秘話を語って頂いたニッセーが受賞した。

今回の経済大臣賞の受賞製品と受賞者は以下のとおり。概要を紹介する。
1)受賞者:インターステラテクノロジーズ株式会社
受賞理由:民間企業として初めて、単月に2機連続で観測ロケット「MOMO」を宇宙空間に打ち上げる偉業を達成したロケット・ベンチャー。本製品を技術基盤とした超小型人工衛星打ち上げロケット「ZERO」の開発・打ち上げも計画している。

2)受賞者:インスペック株式会社
受賞理由:品質保証のために全数検査が求められている精密フレキシブル基板(FPC)を、高速かつ連続での全数検査を可能にしたロールtoロール型検査装置「RA7000」シリーズの開発。検査速度は従来比5倍~10倍と飛躍的な高速化を実現した。

3)受賞者:ラピュタロボティクス株式会社
受賞理由:ロボット制御の共通基盤となるクラウドロボティクスプラットフォーム「rapyuta.io」を開発・提供。最大の強みは、多種類・複数台のロボットを状況に応じて群制御ができること。コスト削減に貢献するほか、環境変化、プロセス、協働システムなどへの高い柔軟性を持つロボットシステムの構築も可能。

4)受賞者:株式会社日立製作所/株式会社日立ハイテク
受賞理由:最先端の半導体チップではナノメートル級の大きさの素子が使われる。この素子製造に必要な原子サイズレベル(0.1nm)の製造管理を実現するため、電子顕微鏡を応用した高分解能寸法検査装置「CG7300」を開発し、世界最高水準の検査技術を確立した。

5)受賞者:株式会社ニッセー/公立諏訪東京理科大学/国立大学法人東京農工大学他
受賞理由:世界最高性能の「緩まないねじ」とその量産用転造金型の開発。ボルトとナットの山と谷が噛み合って締結力を生み出す「ねじ」は構造的に緩むことは避けられない。それが思わぬ事故につながる。その緩みをピッチの異なる2つの山をボルトに成形して防止する画期的な開発。この技術の製造販売権を貸与するライセンス事業を展開して「緩まないねじ」の普及を図っている。

6)受賞者:株式会社アイシン
受賞理由:地球も人も元気になれる、品質・生産性に優れた革新アルミダイカスト工場を完成した。CO2排出量削減と安全、高品質を成立できるリフトレス溶湯供給システム、独自開発の三次元冷却と高集積冷却により大量脱熱と軽量化を実現した金型、工場建屋の室温制御と採光最適化で、溶湯供給作業、金型の段取り作業の自動化や時間短縮による品質・生産性向上、作業者の安全性向上に寄与した。

7)受賞者:東洋炭素株式会社
受賞理由:化学的にデザイン可能な細孔空間を持つ多孔質炭素「クノーベル®」の工業製品化。「クノーベル®」は、従来のプロセスでは制御して作ることが不可能だった2~50nmの「メソ孔」と呼ばれる細孔を人工的に組み込み、さらにそのメソ孔を連結させることで「連通孔」と呼ばれる、世界でも類を見ない特徴的な構造を有した多孔質炭素材料で、将来的な環境負荷低減デバイスの材料として、脱炭素を始めとした課題の解決に貢献することが期待されている。

8)受賞者:シャープ株式会社
受賞理由:令和の台所の新・必需品化を目指す自動調理鍋「ヘルシオクック」の開発。「無水調理」「自動調理」「予約調理」機能を搭載し、誰でも手間なく簡単に安全に、おいしく健康的な調理ができる、調理家具の自動化・省力化を実現した。常に進化し新しいライフスタイルを創り出すAIとIoTを活用した最先端の調理機器。

9)受賞者:湯浅醤油有限会社
受賞理由:世界初!醤油発酵技術をカカオに応用した「チョコレート第5次革命カカオ醤」。伝統的な醤油発酵技術とカカオ(チョコ)発酵技術を応用した、醤油の味とチョコの香りを持つ世界初の調味料「カカオ醤」。農園の未成熟豆(通常は廃棄されるか安価に取引される)を使用しており、SDGsにも配慮された商品。

10)受賞者:株式会社イノテック/国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学
受賞理由:クラウド型再生医療細胞品質管理システム「AiCELLEX」の開発事業。再生医療には細胞培養が不可欠であるが、品質評価にはバラつきが生じていた。「AiCELLEX」は、細胞培養の品質管理を、最新の画像分析とAI判定技術によってクラウド画像解析による定量分析を提供する。従来、分析結果を出すまでに5ヵ月を要していたがAiCELLEXは、500枚の画像を一括して、分析時間を6時間にまで大幅に短縮した。

11)受賞者:マツダ株式会社
受賞理由:商品性と環境性と経済性を両立できるバイオエンプラ新意匠2層成形技術を開発。植物由来材料であるバイオエンプラを使用した表層樹脂と、基材表面に柄を刻み込んだ基材樹脂との2層成形により、深みのある色合いと精緻感、陰影感など、従来技術では実現困難な意匠を実現できるバイオエンプラ新意匠2層成形技術を開発した。

12)受賞者:株式会社HPC沖縄/有限会社西薗博美構造設計事務所ほか
受賞理由:ハイブリッドプレストレスコンクリート(HPC)技術の開発。高強度繊維補強コンクリートに炭素繊維緊張材や膨張材等の相乗効果により、厚さ20~40mmの超薄肉コンクリートでありながら高い耐久性を兼ね備えている。この物性のための高いデザイン性と耐久性を両立させ、グローバル展開を両立させている。

13)受賞者:東部金属熱処理工業組合
受賞理由:金属熱処理における『技術・技能』伝承のための階層別・教育訓練体系の構築。
高専や大学から金属工学科が消滅し高齢化も相まって金属熱処理業界では人材不足が顕在化しているが、熱処理業界は中小企業が95%を占め、企業単位では対応できない。そこで組合が30年以上をかけて体系化された技術テキストなどを編集し、講習を展開しハイレベルな人材を輩出するなどの取り組みを続けてきた。

 以上を読むと、設立の趣旨にあるように顕彰対象の範囲が広く、同賞のユニークさが感じられる。

記者の目
 仕事柄多くの表彰式を取材してきたが「ものづくり日本大賞」経済産業大臣賞の贈賞式は、それまでにない式典だった。まず、万全のリハーサルが行われた。全受賞者が本番と同じように登壇し、仮の経産大臣から賞状を受け取るのだが、立ち位置や撮影の手順などを確認し、2回目のリハーサルで念を押した。撮影位置なども制限され、本番は万全の運営だった。さらに賞状には付箋が添付されており、社名・人名の読み違いが起きないように配慮されていた。この部分で詰まったり読み間違える贈賞式が多いが、参考になると思った。