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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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JIMTOF総括レポート 「一本足打法」から「八ヶ岳構造」へ

2022 年 12 月 21 日

 第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF)は、14万人強の来場者を迎え無事終了した。第13回以来、取材してきた者として、今回のJIMTOFについてまとめておきたい。
 情報発信サイト「ことラボSTI」には、動画ニュース「JIMTOF2022会場レポート1~3、特別編」をアップしているので、それと併せてご覧いただきたい。
 最初に総論的に…。
 ワークの大きさに注目
 工作機械やロボットに大型ワークに対応する動きが目立った。
 これは、機械が大型化したということではない。ワークが大型化していくことに対応している、ということ。それは機械の稼働領域(直線軸)一杯に動かしても、軸の両端に行ってもダレない、メリハリの利いた加工ができるということだ。エネルギー産業の動向に注意を払う企業も多かった。
 ナガセインテグレックスの超 2 精密微細加工機「NIC-74S6-N6」は小型化したのに研削可能範囲は広くなっているし、岡本工作機械製作所のCNC超精密門型平面研削盤「UPG208CHLi」でもワークの大型化に対応していた。
 新市場への模索
 自動車のEVシフトの方向性を明確に示されていない現状では、各社の努力で新市場を切り開かなければならい。コマツNTCではライン生産では使われないであろう高精度・高速横型5軸マシニングセンタ「ComPlex5400」が小間の入り口に展示され存在感をアピールしていた。エンシュウでも新しい取り組みで小間が飾られていた。
 その先の一歩へ
 「大きなものはより大きく、小さなものはより小さく」(牧野フライス製作所・宮崎正太郎社長)、「微細加工を追求してきたがさらにヘール加工を追加した」(碌々産業・海藤満社長)の言葉のようにこれまでの姿をさらに深めた企業が多かった。4年のブランクを埋めるための技術の進歩を示す工夫が随所に見られた。
 ファナックの「FIELD system」は着々と充実してきているが今回「Basic Package」を発表。2023年1月日本国内でリリースする。これはBASIC言語で動いていたパソコンをMS-DOSで使いやすくしたイメージと重なった。大きくブレークするのでは、と期待する。またデジタルツインを活用した精緻なシミュレーションなど、製造業の情報武装が一段と進んだことを確認した。
 スマートファクトリーへの取り組み
 会場内、東7ホールの奥のスペースでDMG森精機、オークマ、牧野フライス製作所、ヤマザキマザック4社が参加して「主催者特別企画:工作機械メーカー大手4社登壇のクロストークショー「工作機械の生産と工作機械による生産 ~Smart Factoryと工作機械の将来像~」が開催された。これは日工会ホームページの「映像情報」で映像がアップされている。1時間30分近い長さだがスマートファクトリーを理解するのに格好の教材なのでぜひ見て欲しい。
 それにしてもこれ程の企画を、展示ホールの一番奥の通路の横にパイプ椅子を並べて行った趣旨が不明。あのスペースでは“満員御礼”だろうが、もっと多くの人に聞いて欲しかった。

 社会と産業
 機械文明は全人類に共通で物質的な成果物をもたらすが、産業が社会とどのような関係を持っているかは、文化とも関わり国によっても違う。欧州の産業革命の歴史を見ると、産業の成長速度と人間社会の成長速度は丁度良い関係で成長していったのが判る。日本は約150年前に欧米から「近代産業ワンセット」を持ち込んで“和魂洋才”の元で急成長した。だから社会との折り合いは、欧米ほど良くない。しかし20世紀のあいだは産業の論理で日本は成長していった。しかし社会を置いて、産業だけでは成長できない。
 NSKの小間の中央には「ジオラマ」が展示されていて嬉しかった。「主力製品のベアリングは機械部品の中に埋もれてしまい、一般の人には認知されにくいからジオラマを作った」と展示趣旨をうかがった。近代社会を支える工作機械をもっと知って欲しい。

NSKのジオラマ

JIMTOFを終えて 日工会の柚原一夫専務理事に聞く

 来場者数は2018展より減っていたが、会場内では少なくは見えなかった。目的をもって来場者が多く、滞在時間が長かったからだと思う。出展各社からも、内容のある商談ができたとか、ほどよい混み方だった、と評価された。多くの関係者の協力で一つの事業が成功裏に終わったこと、皆でこれからのものづくりを考えるうえで貴重な場を提供できたことも良かったと思う。自動車業界がEVシフトで方向性が見えないが、来年あたりから具体的な動きが出てくるように思っているし、そこから大きく動き出すのではないか。そのための準備も進んでいる。
 AMエリアは、増築された南ホールの使い方を考えたときに企画したが、思った以上に効果があった。出展内容も関連セミナーも盛況だったので実用性が高まっていくということを示せたと思う。今後はJIMTOFの新しい顔として育っていくのではないかと期待している。これからは学生や一般の方にも、ものづくりに関心を持っていただく契機になればと思う。工作機械は「知る人ぞ知る」ものだったが、AMを通して「作ること」に親しんでもらえる入り口になれば良いと思う。次回展までに“新しい工作機械”の姿について考えていきたいと思います。

八ヶ岳構造へ

 経済産業省は2010年に“これからの産業政策の指針”を発表している。そこには「家電・自動車の一本足打法」から「八ヶ岳構造」にしていかなければならない、との方針を示していた。しかし、工作機械業界が具体的な行動に移ったようには見えなかった。しかし今回のJIMTOFでは、これまでのユーザー業界への依存度の高さを反省する声が聞かれた。
 同レポートでは次の2つのポイントを掲げ、
 世界の主要プレイヤーと市場の変化に遅れた日本産業の「行き詰まり」を直視。
 戦後成長の「成功の神話」からの脱却。
 ※そこから、政府・民間を通じた「4つの転換」を提示していた。
 ①産業構造の転換 ~隠れた強みをビジネスにつなげる「新・産業構造」の構築~
 ②企業のビジネスモデル転換の支援 ~技術で勝って、事業でも勝つ~
 ③「グローバル化」と「国内雇用」の二者択一からの脱却 ~積極的グローバル化と世界水準のビジネスインフラ強化による雇用創出~
 ④政府の役割の転換 ~国家間の熾烈な付加価値獲得競争に勝ち抜く~

そして①産業構造の転換の具体策として「戦略5分野の“八ヶ岳構造”強化」が示された。
 ・インフラ関連/システム輸出
 ・環境・エネルギー課題解決産業
 ・文化産業(ファッション、コンテンツ等)
 ・医療・介護・健康・子育てサービス
 ・先端分野(ロボット、宇宙等)
 そのうちの「インフラ関連」「環境・エネルギー」「医療・介護」「ロボット・宇宙」には工作機械が深く関与してくる。自動車と家電の“一本足打法”だった日本が、「EVシフト」「ウクライナ戦争」をきっかけに、“八ヶ岳構造”を目指して舵を切り出したJIMTOF2022だったと思う。