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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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ニッセー 新仏利仲 社長/インタビュー

2022 年 09 月 28 日

株式会社ニッセー
新仏利仲 代表取締役社長

株式会社ニッセーのホームページはこちら

 

 


 

Q.最初に「転造」について教えていただきたいと思います。

 わかりました。まず、転造とは、素材に強い力を加えて盛り上げて成形する金属加工方法 = 塑性加工のことです。
 素材を複数の金型の間で転がして、間に挟まれた素材の表面に金型表面の形状を素材表面に転写する技術です。部分的に圧力を加える逐次加工なので、大きな圧力は不要です。
 研削盤と転造盤の大きな違いは、研削盤は「材料を削る」ために削りカスが出ますが、転造盤は「成形する」ため、材料からカスや端材が出ることはありません。そのため、生産性がとても高い加工方法となります。「成形する」加工方法は、プレスなどの鍛圧加工材料を変形をさせる加工方法もありますが、転造盤は「ダイス」と呼ばれる丸い工具を回転させ、同時に材料も回転させながら変形させる方法です。

転造加工のイメージ図

 私たちニッセーでは、この「丸ダイス転造」による成形加工を行う技術を得意としているメーカーです。
 「丸ダイス転造」による加工では材料が押されて圧密されるため、加工製品の強度が上がります。工具は金型なので消耗が少なく、いったん品質が確保できると安定した品質を維持しながら長時間の生産が可能です。
 つまり、材料のムダがなく、強度の高い、生産性が高い加工ができる。これが「転造加工」です。
 そして、現在の環境問題への視点で考えた場合、加工部品の樹脂化が進むことで熱処理が不要になることで炭酸ガスの排出量も抑えることができるという、もう一つのメリットもあるのです。
 塑性加工全般においては、理想的な加工技術として考えられていますが、唯一の課題は「加工進捗制御が難しい」という課題もあり、大量生産には適しているものの、少量生産においてはコスト高になってしまうことを挙げておきます。

【転造のメリット】
①高い生産性
②環境にやさしい
③小さな力で加工が可能
④強度が高く滑らかな加工面

Q.転造盤の方式について教えていただけますか?

 転造盤には 3 種類の方式があります。
①板ダイス転造盤
直方体の金型を使う最も多い方法。2 枚の板状の金型を相対的に移動させ、その間に挟み込んだ丸棒の表面に金型の形状を転写します。
②プラネタリー転造盤
三日月型の金型と丸い金型を使う方法。三日月型ダイス金型の内側に丸いダイス金型を回転させ、その隙間に丸棒を挟み込み、通過する金型表面の形状を転写します。
③丸ダイス転造盤(ニッセーの方式)
2 つの筒状の回転するダイス金型の間に丸棒を挟み込んで、金型の形状を転写します。
※丸ダイス転造盤は、ダイス金型のポジションを多様に制御することができるため、品質を重視する自動車部品の製造に多用されています。

 さらに、丸ダイス転造盤の応用範囲は広く、ねじ以外の部品加工にも多く用いられています。
また、丸ダイス転造盤はダイスの数により 2 ダイス式、3 ダイス式に大別され、一般的には 2 ダイス転造盤が多く用いられます。3 ダイス転造盤はワークにかかる圧力が分散されることから、薄肉中空材への加工に適しています。

2ダイス式

3ダイス式

 次に代表的な転造加工の種類をご紹介します。

①歩み転造(通し転造、Thru-Feed 転造)
主軸の傾斜により、加工中にワークが軸方向に移動する「歩み」と呼ばれる現象を利用して転造する方法です。

②寄せ転造(In-Feed 転造、Plunge 転造)
回転するダイス間の距離を狭めていき、ワークにダイスを押し付ける方法です。

③押し込み転造(Force Thru-Feed 転造)
回転するダイス間の距離を一定に保ち、手前側からワークの軸方向へ押し込みながら加工する方法です。

④レシプロ転造
図のように左右主軸回転の同期を保ちつつ、正転・逆転を繰り返して転造ができます。
面祖度の向上や変形しやすい中空のワークの加工にも適しています。

⑤ポジショニング転造
ワークの転造開始角度および終了角度を指定する加工方法で、ねじ溝の開始ないし終了位置を指定できます。転造製品に回転方向位置決めなどの機能性を付加することができます。

⑥ワークとダイスの同期回転押込み転造
ワークとダイスの同期回転による押込み転造は、バックラッシュによる逆回転が抑えられ、変形しやすい中空材でも高精度に加工でき、低騒音で工具寿命も長い転造ができます。

⑦可変ピッチ・可変切込み転造 (世界初)
各制御軸を 1 つの時間軸上で独立して制御し、複雑な形状の転造ができます。加工中に主軸傾斜角や切込み量を制御することで、各部の溝の深さは自在。溝のスパイラル筋のリード角(ピッチ)も自在に変化させられます。

⑧複数転造
サーボスライドセンター台でワークを軸方向の任意の位置に搬送し、図のように 3 種類の表面形状を 1 つのワークの複数個所に転送する加工ができます。

Q.転造盤に NC を搭載した経緯について教えてください。

 ニッセーでは、丸ダイス転造盤の多様な加工制御を NC 化することで、どのようなメリットがあるかを、東京農工大の桑原研究室と共同で検証しました。その結果、ある条件下の制御ではダイスの寿命を約 40%伸ばすことが可能であるということがわかりました。これにより効果が期待できることがわかり、ニッセーでは NC 転造盤の試作に入ることとしました。世界にまだ例のない、CNC 制御の転造盤の開発に着手したわけです。
 この期待は大きかったのですが、当時のニッセーではまだ古い設計思想による機械しか作ることができませんでした。そこで私の親友であり、制御のプロでもある今は亡き A 氏に相談し、彼を含めた 13 人のメンバーが 2 年をかけて「CNC 転造盤 ギャラクシー」を開発しました。

GALAXY シリーズ

 私たちはこの「ギャラクシー」を高品質機械という位置づけから、「転造盤」ではなく「転造機」と呼ぶことにしました。制御の通信規格は、ドイツ生まれのサーコスを使うことで、同時に 94 軸までの制御を可能にしましたが、実際に使用することを見据えて 7 軸までの対応としました。ノイズを拾うことのないように光通信ケーブルを繋ぎ、アンプやモーターも電気会社に協力してもらい、カスタマイズ品としました。言語は G コードでも C 言語でもない新しい言語をつくり、機械のデザインもオリジナルとしています。
 開発が進む中で、実際にパソコンからの信号でモーターが回るようになると、皆が歓喜の声を上げたことを覚えています。機械設計メンバーと制御のメンバーは、言い争いをしながらもお互いに前を向いて進めていきました。こうして突貫工事で完成した試作機は、1998 年秋に大阪で開催された JIMTOF(日本国際工作機械見本市)に出展しました。
 この時のキャッチコピーが「まだ削りますか?」というコピーでした。

Q.CNC 転造機のデビューの経緯について教えてください。

 こうして初めてニッセーの「CNC 転造機」がデビューしたわけですが、苦い思い出もあります。
 展示会に出展したマシンは多くの人目を惹き、大手ベアリングメーカーに懇願され、押し切られる形で納品しました。続いて大型機も納品し、その後各社へと納品されることになりますが、ここが問題でした。納品した各社からは、ニッセーの新型転造機を使っていることを秘密にされたため、営業活動の展開ができないという苦労がありました。
 同品質のものを既存の製造方法で作った場合と比べると、エネルギー使用量 1/30、生産速度40 倍(当社比)という数値がどれだけの利益をもたらすか、わかっていただけると思います。
 実際に大手ベアリングメーカーに納入してから、このマシンがデファクトスタンダードとなるには、14 年の月日が必要でした。
 また、実際の営業活動の中で後から気づいたのは、知財の重要性でした。市場に出てから 3 年後に特許情報を確認してみると、すでに 30 件以上の特許が出されていることに驚き、知財の重要性を後から知ったということもありました。加工技術的な部分では、いろいろと苦い思い出もあります。非常に難しい問題ですが、我々のような会社では、これからも知財戦略が重要であると考えています。
 転造という「固有技術」の利益性を生むようにするためには?
 大企業に負けずに利益を出し続けるだめには?
 そのためには、国家が権利を守ってくれる知的財産権を取得することが重要です。以前の苦い経験から得たことは、必ず勝つ知財であること。
 それは「工法」特許ではなく、「形状」特許です。「方法」特許は使わないこととしました。すべてをノウハウとして、社内での営業秘密管理を徹底します。「形状」は、見れば工学的な知識が不得手な第三者でも理解することが難しくありません。「形」で理解できることが重要だと考えています。

Q.各種技術賞を受賞されています。

 おかげさまで「CNC 転造機 ギャラクシー」は多くの賞をいただきました。
・素形材センター 素形材産業賞「中小企業長官賞」
・機械振興協会 中堅・中小企業新機械開発賞
・日本塑性加工学会 三井精密技術賞
・日本機械学会 技術賞
などを受賞することができました。
 しかし、それでもユーザーからの反応はあまり高くはありませんでした。世の中にない概念を、宣伝によって理解してもらい、実際に使ってもらうのには大変苦労します。他メーカーの方々と話をする機会を得た際に、そのメーカーも華々しい賞を受賞していましたが、新製品の事業化には 10 年以上かかったという話を聞き驚いたことを覚えています。

Q.技術に事業性をもたらすために必要なこととは?

 日本では、高レベルの転造機の販売においては、金型ダイス・工法などはメーカー側ですべて用意し、ユーザーにはスイッチを押すだけでフル生産ができる状態で納品します。そして、リバースエンジニアリングで、ユーザーは自社でできることをやっていきます。
 私たちは地道な研究と開発を積み重ねることで商品を作りますが、ここには時間も費用もかかります。こうして開発された機械がユーザーに納品されるのですが、この納入された機械は非常に丈夫で何十年も使うことができます。しかし、何十年も使うことができるということは、私たちにとっては採算性を考えると喜ばしいこととは言いにくい。「加工技術開発」を基に事業の採算を試みるのは私たちのような中小企業にとってはとても難しいことなのです。

Q.これからのニッセーについて教えてください。

 これから見据えていくのは、適用分野の広がりだと思っています。
 ニッセーでは、機械は「ギャラクシー」というスーパーマシンができたので、その性能を最大限に活かすための金型に注力して、需要分野を広げていく努力を始めています。
 また知財戦略の一環として、知財を固めたのが「ゆるみ留めボルト PLBv2」です。
 この金型は国支援を 3 年間もらい、累計で 15 年かけて完成しました。非常に微妙な形状の細かな部分はノウハウとしました。このノウハウによって、強度、金型寿命、使い勝手が全然違うものになります。金型ダイスの加工はノウハウの塊であり、リバースエンジニアリングでは不可能な高度な技術が使われています。これにより、知財で法的に守られ、ノウハウで勝つことができる商品ができたと思っています。

PLBv2

 良い技術とは、「考えた人たち」、「技術を使う人たち」、「製品を使う人たち」、全員がもれなく利益を上げることができて、恩恵を受けられる技術だと思います。WIN、WIN、WIN であることです。
 ニッセーでは、良い技術は 1 社に独占させることなく社会全体が享受できる方法を、と考え、技術の実施権許諾をする方針をとっています。つまり、ニッセーの技術指導と金型ダイスを使えば、ユーザーはすぐに生産することができます。これを一つの事業とし、使用料をいただきながら、ニッセーのダイスを使って製造することができるという考え方です。
 新しい概念を市場に理解してもらうための営業活動は非常に難しい。
 モノを手にして、触って、動かして、感触をつかんで、そして初めて緩まないボルトが本物であることを理解してもらえます。この活動を続けていくことで、私たちは技術を開発し、知財戦略で事業を成立させていくことがこれからの進む道であり、ひいては日本の技術戦略のみちではないかと考えています。

GALAXY GA-160B/CNC

 


株式会社ニッセー 会社情報

・創業 : 1939 年 3 月 28 日
・代表取締役社長 新仏利仲
・資本金 : 1 億円
・年間売上額 : 非上場のため非公開
・従業員数 : 非公開
・事業内容 : コメット、ギャラクシー、アリウス各ブランドの転造機製造・販売・転造部品加工
・経営理念 : わが社は転造のプロフェッショナルとしてのさらなる頂点を極め、もの創りの同志とWIN,WIN で社会に貢献する。
・スローガン : 日々、ワクワク・ドキドキ・キラキラと!

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