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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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アイダエンジニアリング 会田仁一 会長兼社長 鈴木利彦 副社長/インタビュー

2022 年 04 月 28 日

アイダエンジニアリング株式会社
会田仁一会長兼社長
鈴木利彦副社長

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Q.現在のグローバルでの状況はいかがでしょうか?

会田会長兼社長(以下、会田):当社はグローバルで 5 極体制で進めていますが、やはり国際情勢や現在のコロナ禍の状況など、いろいろな影響は避けられないですね。
 ただし、今までの進め方や苦労してきたことと全く変わってしまうかというと、そういうことではないと思います。ちゃんと若い人たちも考えながら進めているので、そういう点では期待もしています。

鈴木副社長(以下、鈴木):そうですね。ただし地政学的な考え方も重要です。どうしても政治を見ながら経済を考えていく必要があります。ナショナリズムと言いますか、文化の違いなどが経済の中に組み込まれている訳です。それが各国とのビジネスの多様化に関わってくるので悩みますね。
 ただし、物理的には自動翻訳機なども電脳的なツールも進化しているので、心配はしていません。

会田:全体で考えると、やはりプレスだけに限らず工作機械全体の台数は減っていくのではないかと考えています。これは今に始まったことではなく、30 年前から考えれば、鍛圧機械メーカーは半分以下になってしまいました。アメリカだけではなく、ヨーロッパではフランス、イタリアなどでは激減しました。中国や新興国の追い上げもありますが、やはりコスト面での影響が大きいと思います。

会田:背景を考えてみると、いろいろなことがわかります。国内外を問わず、一世を風靡した会社もたくさんありましたが、私が知っているだけでもずいぶん多くの会社がなくなってしまいました。難しいのは、技術力を持っていればいいというわけではないということです。なくなった会社でもすごい技術を持っていた会社はたくさんありましたからね。

会田:いろいろな要因はあるとは思いますが、一つの要因としては、人件費などもあったと思います。これは人件費というよりは、どちらかというと働くための制度と言った方がいいかもしれません。企業を維持するためのコスト、これはやはり利益率という考え方が重要だったと思います。

会田:当社の場合は、事業を行っていく中で、形態が「汎用機」を中心に展開できたことが大きかったと思います。これはものすごいパワーを持っていました。現在、少なくはなってきているものの、これが中心であったことは間違いありません。

会田:もう一つ言えるのは、私たちのお客様がやはり強かったということが挙げられます。特にお付き合いいただいているお客様は、みなさん財務状況が安定されているところが多く、これは私たちにとってとてもありがたかった。こういうお客様とお付き合いできたということは運がよかったと言えると思います。

鈴木:ええ、特に我々を支えていただいてきた国内のお客様には恵まれてきたと思います。

会田:海外でも汎用機のパワーは強かったです。中国などでも、我々は先駆者たちが基盤を作ってきてくれたおかげで、汎用機の商品展開を進めることができた。これは大きな財産でしたね。
 当然、これには技術力も必要なんですが、特にメカニカルプレスの分野では他社に先行することができたので、ポジション的にも高い位置にいると思います。

Q.最近は日本の製造業は衰退していると言われますが?

会田:衰退と言うか、このまま行くと良くないでしょうね。今から 20 年前くらいは、日本全体は給料も高く、新しいものにチャレンジしていこうという機運が全体的にありましたよ。自動車メーカーを含めて。それがどこかで変わっていきましたね。コストダウンという言葉が独り歩きして、自分たちから技術を捨ててきてしまったような感があります。
 試作を繰り返していかずに金銭面でのコストダウンばかり考えてしまうと、技術はそれ以上進まなくなってしまい、さらには衰退してしまうという気がします。
 それに、これからは少子化が進むことも大きいですね。

鈴木:今、変革や革新ということが言われていますが、今の世の中に求められているものを追求しない限り、変革は生まれてこないでしょう。例えば、SDGs や脱炭素、カーボンニュートラルというテーマがありますよね。それに基づいた前提で、加工であったりスクラップをなくすということであったり、素材を変えていくことになっていくのではないでしょうか。素材が変わることによって、いわゆる加工物(部品対象物)がどういう使われ方をするかというところが変わっていきます。こういうところではデジタル革命がいろいろなところで起きるでしょうね。

鈴木:日本の技術の生きる道としては、ローカル 5Gや 6Gが研究されていますが、通信技術が各商品・製品に組み込まれることで DX や IoT が叫ばれていますが、未だ実態に結びつかずに言葉だけが流行っているように思います。高速通信によって映像配信の高速化やケーブルレスなど、メリットは当然あります。それを工作機械や鍛圧機械にどう取り込んでいくかということがこれからの課題です。

鈴木:金型にセンサーを付けて、加工部に近いところで成形状態を見る。これは危険な箇所にセンサーを置かなければ意味がない。これができるようになって、成形状態の変化を映像で監視できるような技術を確立していけば違うものになるでしょう。
 ただ、こういった技術は我々だけではできないので、パートナーが必要になってきます。

鈴木:便利なことと楽しいことは違うかもしれません。私は現場の人間なので、自分で触って、匂いを嗅いで、実加工をする。そういうことが好きな人は実はたくさんいると思います。しかし、先ほど会田が言っていたように、少子化が進み人が少なくなれば、現場は変わらざるを得ない。きっと、ここで品質の差別化が生まれるのだと思います。これをどうやって合理化することができるか、いわゆる自動化することができるか。これが、これからの 10 年にかかってくるのではないでしょうか。

鈴木:加工において重要な部分というのは変わってはいません。例えば、マシニングセンターでは加工の基準面を出してから実加工を行うというのは、図面を作成する上で基準面から作成するということがベースになっています。しかし、現在の 5 軸加工機では、基準面を削ってしまう方が加工が早いということまで言われている。こうして当たり前だったことにも変化が起こっているわけです。

会田:この業界は重厚長大な現場なので、どうしても繊細なモノが好きではない部分がありました。しかし、若い人たちによってこういった部分も変化していると思います。

鈴木:若い人は、きちんと合理性を理解すると取り組んでいきます。以前は、多工程で加工を行うことで、みんなに仕事があったわけです。これを一回の加工で行ってしまうと、自分の仕事がなくなってしまうと考えてしまう。できるだけ、自分の得意な機械で加工したい、便利な新しい機械が入ってくると仕事がなくなるのでは、ということから進まなかったのでしょう。

Q.AI 技術やクラウドについてはいかがでしょうか。

鈴木:当然、当社でも行っています。NC の場合、NC とリンクするということは、NC から情報を取るということです。では情報を取って、そのインフォメーションをどうするか。つまりどう加工するかという時に、AI であったりクラウドを活用するわけです。
 まあ、クラウドというのはただの場所なので、そこに入れるだけなんですが。

鈴木:私自身は、重要なのはエッジだと思っています。その機械の中で判断した情報を配列させて、その学習に適合したものをどれだけストアドできるか。いかにどれだけのサンプルを持ってくるかという、その数が AI では勝負になると思います。
 つまり、サンプル量が多ければ多いほど人間の意思に近いものに到達できる。ただし、何でもかんでもクラウドに上げると膨大な量になるだけで、捨ててもいいようなデータも出てきてしまうので、仕分けする技術というのも必要になってきます。
 もちろん、ハッキング対策も必要になってきますし。

Q.材料や最新技術についてはいかがでしょうか。

会田:加工におけるスピードですが、実は加工する時のスピードの限界というのは、まだ誰も知らないんです。例えばですが、高性能のアキュレータを使って、高速で加工するとペラペラなものでも加工できてしまう。電磁プレス等の技術です。
 しかし、電磁プレスには可能性があるかもしれませんが、今現在では加工音や生産性の部分で折り合わない。こういう研究に予算がついて確立されればいいんですが、今のところは我々のメカプレスが実用的だと考えています。

会田:モーターでは、高出力タイプのものを以前から社内で作っていましたので、これは当社が先行しています。サーボモーターを社内で部品として作っているということは他社では少ないです。

鈴木:モーターというのは、径でトルクが効いてきます。つまり、径を小さくすればトルクが下がり、大きくすればトルクが上がる。径を小さくするとトルクは下がりますが、速く回転させることができます。径を大きくすれば、トルクは出るが速く回転させることができない。自分で自分を回せなくなるんです。だから大きいモーターは使い道が少なくなってしまいます。
 だからこそ、当社の低トルクで低速でも高出力を出せるモーターというのは、強みと言えます。プレスに使うエネルギーは、とても大きいんです。これは桁が違います。普通のロボットの 10 台分くらいのエネルギーを持っていますから。

Q.これからのアイダエンジニアリングについてはいかがでしょうか?

会田:直近、中期、長期という 3 つの影響を考えています。まあ、長期については今のところまだつかめてはいません。直近の部分では、やはりウクライナ問題を注視しています。これは、最悪の事態というのも考えておかなければならない。特に輸送面などは、国際社会全体に影響しています。停止した場合のことも考えておかないと。

会田:同様に中期についても、この問題は避けて通れません。これはウクライナ問題がすぐには終わらないと考えた場合、国際社会からの制裁などはまだまだ 7~8 年は続いていくのではないでしょうか。そういう意味では混乱がまだまだ続くと考えておく必要があります。

会田:それと、グローバルでは不確定なことをできるだけ最初から計画に入れないということも必要です。そういう特需に期待するということもしないことですね。

会田:最近気になっていることとしては、塑性加工についての研究が減っていることでしょうか。昔は、塑性加工が花形だった時代には、いろいろな大学等で研究されている先生がたくさんおられましたが、現在はITが中心ですね。自動車メーカーなどでも塑性加工の研究などにおいて、腰が据わっていました。長いスパンで研究していましたから。
 モノの作り方というのは、長期間に様々な方向から考えないと結果には結びつかないと思います。これは、本当に重要なことです。

会田:日本の塑性加工は、1980~90 年代は世界でトップレベルでした。日本の自動車部品における塑性加工率は 25%ぐらいだったのですが、ドイツはまだ 10%にも届いていなかった。日本の方が塑性加工技術ではドイツよりも圧倒的に進んでいたわけです。
 しかし、モノづくりの考え方と体制が変化し、職人技ではなくグローバルで生産できるシステムへと移行していき、一社のノウハウではなく一番簡単なスタンダードが確立されることを重要視した結果が現在の状況だと思います。

会田:それに塑性加工とは材料をつくるところから必要となります。一枚の板をつくるにも棒材から焼鈍して板をつくるわけです。切削加工が決して悪いわけではありませんが、切削加工は材料を直接削ることができる。最終的にはどちらがエコロジーなのかはわかりませんが、塑性加工でやっているものと切削加工しているものを見ると、加工形状できちんと分かれていますね。切削加工に置き換えられるものは、だいたい切削加工に落ち着きましたね。今の切削加工は、本当に速いです。すごいですよ、あの技術は。

会田:そういう意味で、これからモノの作り方の見直しが始まるのだと思います。余計なものをみんな省いていく。機械自体でも部品や構造の簡略化が進み、部品点数なども半分くらいまで減るかもしれません。

鈴木:これまでの 10 年で、働き方も変わってきました。残業を減らし、ネット環境ではVPN を使って、自宅から仕事ができるようになった。これがもっと進化すると、アバターが会社に来て働くという時代が来るかもしれません。

本日は、お忙しい中ありがとうございました。

 


アイダエンジニアリング株式会社 会社情報

・創業:1917 年 3 月
・代表取締役会長兼社長 会田仁一
・資本金:78 億 31 百万円
・年間売上額:580 億 99 百万円
・従業員数:2113 名
・企業理念:
「成形システムビルダとして発展し、人と社会に貢献する」
八面体思想 AIDA OCTAHEDRON PHILOSOPHY

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