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キャプテンインダストリーズ 渡辺 敏/【連載#8】「エピローグ(あとがきに寄せて)」

2022 年 02 月 17 日

株式会社キャプテンインダストリーズ
取締役相談役
渡辺 敏 (わたなべ はやし)

1932 年 10 月1日生 東京都出身
1960 年 日立精機 入社
1966 年 ギブン インターナショナル入社
1974 年 キャプテンインダストリーズ 創業 代表取締役就任
2021 年 同社取締役相談役就任
1974 年の創業以来、工作機械商品や周辺装置部品などにおいて、世界の一流商品を輸入する工作機械のパイオニア商社。
米国、ヨーロッパ等 世界6カ国で名の知れた工作機械商品・部品メーカーと取引きがあり、国内では抜群の信頼関係を持ち、数千社の取引先がある。


《エピローグ》

若かりし頃、アメリカにて

 マザーマシンといわれる工作機械は誰のマザーだろうか。
 時にこの疑問が頭を去来します。「何たる愚問」と言われそうですが、一般に言われる「他の機械を作る母」という定義はいささか漠然としているように感じます。工作機械メ―カーに職を得た昭和 30 年代の初め、父に「工作機械って何をする機械だ」と聞かれましたが、明治生まれで東京帝大を卒業して、戦前 農林省の役人であった父にしてこの有様ですから、工作機械の認知度は一般には非常に低かったように思います。
 非常に単純なことですが、工作機械の動作を観察すると一目瞭然、それは切削工具を装備して金属を削っています。すなわち、第一義的に「工作機械は金属を切削する機械」であると定義できます。古代のことを考えますと、狩猟民族は生き残るために、弓矢の矢の先に取り付けて刃物の役割をする「矢じり」を削りだす作業をしていました。それは手作業でしたが、工作作業の原点であったと言えます。同様に、農耕民族にも畑を耕す「鍬」、「鋤」、「鎌」を製造する鍛冶屋の手作業がありました。
 古代では削る材料は石であったと思いますが、それは時代を経て、銅、鉄と変化していきます。それに伴い手作業は不可能となり、機械の開発へと進化していきます。そして工作機械の開発は今も変わることなく、「削る対象物である金属を一つの形に削り出す基本的機能」を開発する役割を、地道に追求しています。
 そして各種の削り出された部品は合成されて一つのまとまった形を創造します。そこにマザーマシンという呼称が生まれます。再度申し上げますが、工作機械の工作の原点には材料があるということです。そして材料の進化が、工作機械の進化に強く影響しています。
 今、マザーマシンとして、その創造物の完成形として人類の最高の傑作と言ってもよい航空機について考えてみます。航空機を構成する主要材料はアルミ、鉄鋼、チタン、複合材です。その重量による構成比は、B747 の場合、アルミ合金 81%、鋼材 13%、チタン合金4%、複合材 10%、その他2%でした。それが、B787 ではアルミ合金が 20%に減り、チタン合金 15%、複合材 50%となり、軽量化が大きく図られています(「チタン」日本チタン協会)。
 アルミの切削には高速を生み出す主軸が要求されます。鋼材は工作機械の基本的な速度、「送り、剛性」に関する構成要件を満たすことを要求して、長期にわたって工作機械の進化に貢献してきました。そして切削される金属材料としては、現状では一つの最終形であるチタン合金は、微細な「送りと速度」、そして最高の「剛性」を要求します。
 以上の金属材料を切削して航空機という美しい物体を作りあげたマザーマシンとしての工作機械は、もちろん空を飛ぶことはできずに、地上にあって、今日も空を飛ぶ息子を見上げています。

 擬人化という言葉があります。日本人は擬人化が好きな、あるいは得意な民族のように感じます。古くは、「鳥獣人物戯画」があります。猿や、兎、蛙を擬人化した楽しい絵巻です。
 漫画の元祖とも言われています。ロボットの始まった初期、日本の工場でロボットに太郎、次郎、花子というような名前を付けて、なかば擬人化して使用しているのを知り、欧米人が奇異の目をもって見ていました。中には、自分たちの職を奪うロボットは労働者の敵であるとして、日本人の心理が理解できないと批判する声もありました。
 日本人が工作機械をマザ-マシンと呼ぶ場合、欧米人とは異なる感覚があるように思います。これもやはり擬人化の感情があるのではないでしょうか。かつて、日本の工場では作業が終わる 5 分から 10 分前にベルが鳴り、作業終了時間前に機械の切子を取り払い、周りを清掃して明日に備えていました。この作業には機械を可愛がる、あるいは尊敬する感覚があったように思います。しかし、アメリカでは作業者はベルが鳴ると同時に作業を中止し、機械を放り出して、さっさと帰宅していました。この後どうなるのかなと観察していると、掃除を請け負う人間、それも大半はアフリカ系アメリカ人が工場に入り、機械の切子を荒っぽく取り除き、工場を掃除していました。分業制度といえばそれまでですが、彼我の違いには考えさせられるものがありました。
 自動化が大きく進展した 21 世紀では、機械に対応する姿勢も欧米でも日本でも大きく変わってきていると思います。しかし、人類は進化による大きなつけを払わされようとしています。自然破壊に対するつけです。自動車の EV 化により、工作機械に対する需要にも変化が起きるだろう言われています。それはプラスなのかマイナスなのか、私には予想もつきません。
 かつて中国で「一人っ子政策」を実行し、いま老齢化社会になって対応に苦労しています。
 現在では、複数の子供を産むことを奨励しているようです。日本では全く異なる理由から老齢化が進んでいます。
 私たちはマザーマシンに対してどのように対応したらよいのか、何を期待したらよいのか、他の産業同様、工作機械も老齢化するのか、更なる進化を遂げるのか、大きな転換点に差し掛かっているように思われます。

渡辺 敏


株式会社キャプテンインダストリーズ 会社情報
【沿革】
キャプテンインダストリーズの沿革
1974 年 資本金 50 万円、従業員4名で設立 摺動面ベアリング「ターカイトB」の輸入開始
1979 年 厚木営業所・名古屋営業所を開設
1980 年 油・空圧機器用等シールの輸入、販売開始
1982 年 工作機械などの電線、油空圧管等の保護管「キャップフレックス」の製造販売開始
1985 年 キャプテンインダストリーズ台湾支店を設立
1992 年 江戸川区に本社を移転
2002 年 「ローロンスライド」組立開始
2004 年 台湾支店を現地法人 克普典科技股份有限公司に改組
2006 年 本社社屋完成
2012年 堺工場開設 FPMS Fischer Preciseメンテナンスサービスを開始

World-wide Products with Global Support の標語のもと、海外の優れた商品を発掘し日本に輸入するばかりでなく、日本市場に向けた仕上げ・調整さらにメンテナンスも行う輸入商社。また東アジア市場への進出を検討する欧米メーカーの重要なパートナー役を果たしている。

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