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ー 科学と技術で産業を考える ー

優れたことづくり例

技術者のバトン

細谷精機 阿部 詞男 社長/ インタビュー

2021 年 11 月 02 日

細谷精機株式会社
代表取締役社長
阿部 詞男
1951 年3月 20 日生まれ 宮城県出身
1971 年9月 入社
2013 年9月 代表取締役就任
家族構成:妻
趣味:家庭菜園

 


Q.簡単に御社(細谷精機)について教えてください。

 創業は 1947 年 6 月です。東京の港区白金で設立し、6~7 名でスタートしました。最初は挽物加工が中心で、カメラ部品や顕微鏡の部品など、主に光学機器部品が中心でしたね。
 私も創業時からのメンバーですが、代表者としては 6 人目になります。
 今まで代表者が変わっても、これまでの企業姿勢において変わらずにやってきたのは「技術向上のために挑戦し続ける」ということ。常にチャレンジしてきたことで、技術やノウハウの蓄積ができてきました。その技術を基に、他の分野にも波及させてきたというのがうちの特徴だと思います。
 このチャレンジによって蓄積してきた経験を元に、私たちはお客様に提案をしていくというスタイル、いわゆる「提案型のものづくり」を進めています。この提案とは「ただ、できます」というのではなく、『高品質』『低コスト』『短納期』の裏付けを持つことがもっとも重要です。そういう意味からも、常に挑戦して革新していくというスタイルは、細谷精機独自のスタイルなんだと思っています。
 現在は精密板金部品を中心に、主に通信インフラ電子・通信機器、半導体等の加工などにも事業は広がっています。
 特に当社が扱う材料の中心は、ステンレス、アルミが多く、薄板が中心ですね。

Q.製品加工では依頼先から主にどのような要求が多いのでしょうか?

 私たちは、依頼先からのヒアリングと要求の確認を徹底しています。その内容は、依頼先によって千差万別です。だからこそ、ヒアリングによって得られた情報に対して、私たちが提案をしていくというスタイルをとっています。
 依頼してくるお客様よりも、製品加工においては私たちの方がプロなのですから、こちらから手法を提案していかないと伝わらない。だからこそ「提案型のものづくり」は重要だと考えています。
 現在、コロナ禍で社会全体が非常に苦しんでいる。
 そういう中で、細谷精機はまだ影響が少ない方かもしれません。
 ただ、ものづくりの根幹となる部分では材料費が高騰してきています。コロナ禍は見える部分だけではなく、こういったところにも影響を及ぼしてきていると思います。
 ものづくりにおいては、リピート品というものがあります。新規品の新しい見積りで製作するものと違い、リピート品などでは材料費などの影響は大きく出てしまいますね。

Q.経営において特に気をつけていることは?

 経営において、私が大切にしていることは2つあります。
 まず1つめは、私を含めてですが、従業員の意識を高く持つということです。
 最初に申し上げましたが、当社ではチャレンジするということを大切にしています。これは言いかえれば「挑戦欲」を強く持つということ。まず、依頼先から相談があった段階で、「どうやったらできるか?」ということを徹底的に考えます。
 ものづくりに携わる人にとって、『達成感』は重要です。
 当社の従業員全員に言っていますが、まず何でもトライをしてみる。そして成し遂げることで腕が上がります。板金加工において、薄板を中心とした精密板金は特にそうですが、実はオペレーターの腕でかなり製品の出来が変わります。これを意識している人はあまりいないかも知れませんが、実はそうなのです。
 成し遂げることで得られる『達成感』は、快感や自信につながります。これは、お金にも何にも変えられません。この経験によって、スキルには差が出てしまいます。挑戦に値する仕事で、従業員の「挑戦欲」につながる仕事であれば、利益度外視で取り組む場合もあります。
 そして、成し遂げた人は必ず褒めることです。仮に上手くいかなかったとしても、次の機会は必ずある。次回がんばるという意識にさせることが経営者にとっては大切です。
 そうしていると年齢に関係なく、高い意識を持って取り組む姿勢になっていき、率先して現場に出たり、コミュニケーションをとっていったりと工夫してくれています。
 そして2つめは、設備力です。
 技術の進化は日進月歩で進んでいます。この進化についていく必要があります。特に1~2年でマシンの技術などはどんどん変化してしまいます。
 私が社長になった際に最初に実践したのは、最新マシンに入れ替える事でした。マシンを入れ替えると、オペレーターは最初は戸惑いますが、必ずと言っていいほど新しいマシンのスペックや技術との出会いに驚きます。そして、そのマシンを使いこなすことに率先して取り組んでくれる。その中で、最新マシンを使いこなすために、機械メーカーと一緒に考えるようになります。これにより、マシンをきちんと使いこなすことができるようになるのです。
 私がこういう考えに至ったのは、3 代目の社長だった甲斐社長の影響があったかもしれません。甲斐さんが社長になられた際に、それまでの方針や考え方などを大きく変えていき、とても驚きました。大きく変えてもいいんだということがわかり、私も自分が社長になった際には、様々な変革を行っていくトライをしましたね。

Q.営業活動について教えてください。

 細谷精機では、営業職のみという人を置いていません。
 実は、私は営業に直結するのは「設備力」と「加工製品」だと考えています。最新設備を持ち、これを使いこなす技術を持つオペレーターがいて、そしてそこからものづくりの提案ができる。これは私たちの最大の武器です。
 こういう仕事をしていると、その噂は必ず広まっていきます。そして、困っているといういろいろな業種の方々から連絡があり、相談につながっていくケースがほとんどですね。
 過去のケースですが、海外からの仕事で偏光ガラスの加工の話がありました。最初は仕事が立て込んでいた時期ということもあってお断りしたのですが、他社さんに持ち込んでも上手くいかなかったということで、後日慌てて再度飛び込んでこられました。
 具体的なヒアリングを重ねて、改めて加工方法の提案を行ったところ、大変満足され、製品加工まで進めることができたということがありました。
 また、ある業種の製品で、2m の溝堀りを行いたいという依頼がありました。
 これはヒアリングの結果かなり難しいということがわかり、ここには機械メーカーも参加させました。そして実際に製品加工を行い、上手くいきました。しかし、ロット数が多かったため、細谷精機だけでは数がこなせないため2社で加工することになり、もう1社に対して技術指導も行いました。
 設備がほとんど同じだったため、問題なく加工できると思っていたのですが、これが上手くいかない。最終的には依頼元の判断で、2社で加工するのではなく、細谷精機1社ですべてのロットを加工するということになり、かなり大変だったこともありました。

Q.阿部社長が考えられる、最近の板金加工の傾向について教えてください。

 板金加工というのは、「切って」「曲げて」「付ける」という工程があります。
 その中で、「切る」という加工と「付ける」という加工において、ファイバーレーザーがものすごい勢いで浸透しているというのがあります。
 時代はまさに「ファイバーレーザーの時代」と言えると思います。
 当社でも、いち早くファイバーレーザーを切断・溶接ともに導入しています。
 これはやはり、最新設備を早く導入するということでもありましたが、従業員に早く使わせたいという考えがありました。いち早く設備を導入することで、オペレーターは早く習熟することができます。そして、その加工技術をベースに新しい提案を工夫できる。
 経営者は、こういった先端技術の導入をする際にはただ導入するのではなく、その加工にオペレーターが触れる機会を早く与えていくという考えもとても重要だと思います。
 特に、溶接には驚きました。アーク溶接とは比較にならない。歪み量が少なく、仕上げの品質が高いので、後工程の処理なども必要がなくなっています。だからこそ、うちではファイバー溶接2台、YAG レーザ溶接1台という導入をいち早く進めてきました。
 ファイバーレーザーは、細谷精機の掲げる『高品質』『低コスト』『短納期』という姿勢にはとても合致していました。この効果についていち早く触れることができたことで、機械メーカーのゼミの講師として呼ばれることもありましたね。
 また、板金加工において「曲げ加工は難しい」とみなさん仰られることが多いのですが、実際は機械化が進み、かなりサポートできるようになってきていると感じています。
 うちでも金型交換までを自動で行うロボット仕様の曲げ加工機を導入しています。
 総合的に見た場合、やはり機械の進歩が昔に比べるともの凄く速い。経営視点としては、常に最新の情報とともに、先回りをするという考えが必要になっていると思いますね。

Q.社員の方の年齢構成と教育方法について教えてください。

 当社はまんべんなく世代が揃っていると思います。
 若い世代は 20 代、30 代がいて、40 代が積極的に現場を動かしていて、経験豊富な 50 代のベテランが 20 代、30 代とペアを組んで教えていくという方法が中心です。
 この組み合わせは非常に上手くいっています。
 こういった組合せの中で、腕試しではないのですが「第 21 回 優秀板金技能フェア(2009年)」というコンテストに応募したことがあります。この時は、銅賞をいただいたのですが、従業員にとっては、自分たちの技術は高いレベルにあるんだということが認められた機会でもあったので、良いチャレンジだったと思います。

第 21 回 優秀板金フェア(2009年)
「溶接を主体とする組み立て部品の部」銅賞
洗浄機 底部フード SUS304 1.0mm

 従業員全員で 42 名いるのですが、私としては分け隔てなく差をつけないようにして接しています。特に、スキルの差を埋めるために努力している人のことは注目しています。
 若い人もそうだし、年長の方に対してもそう。友達感覚というのもおかしいですが、そういうスタンスなんです。だから私自身が若い人に相談に行ったり、聞きにいったりもします。
 そういう時には私から積極的に足を運んでいますよ。
 先ほどもお話しましたが、だからこそ私は失敗しても次が必ずあるという話をします。次の機会というのは必ずあります。次にがんばると思えることが大切なことだと思います。
 注目されたり、声をかけられるというのはとても重要で、現代はコミュニケーション不足のようなことを言われますが、本質はそんなことはないのではないかと思います。
 リモートやメールでのコミュニケーションに加えて、電話で話をする(声を聞かせる)だけでも意思疎通は深まると思います。
 毎週1回、必ず全員で朝礼を行っていますが、こういった慣習でも大切なことがあります。
 その朝礼をきっかけに情報を共有したり、相談をしてみたりというきっかけにもなりますよ。

Q.細谷精機がこれから目指していることを教えてください。

 私は経営と登山を、よく比較しながら話をします。
 そういう例えでは、今は富士登山の八合目といったところでしょうか。
 ちょうどそこにあるのですが、私自身が掲げているのが「日本一小さな大企業を目指します」という考えです。給与面などの待遇面なども、私が目指している方向にかなり上手くいっているという感触を持っています。
 神奈川県シートメタル工業会という団体があって、私はそこの幹事をやっています。
 これは同業種の集まりなんですが、日本全国に展開している工業会です。神奈川県だけでも約 100 社の会社が参加していて、そこはまさにものづくりの知識の宝庫と言える集まりでもあります。

 ここでの集まりがコロナ禍の前までは定期的に行われていて、最新技術の情報の共有や経営者などに向けた勉強会なども行ってきました。それにこういう集まりは情報が早いんです。新しいマシンの情報や、加工技術の情報。それとどこの会社がどんな設備を導入したのかとかね。自社設備が追いつかずに、最新設備を持っているところに仕事が回るという流れもあるかもしれません。
 それと、この工業会では、メーカーの経営陣に対して直接進言できるということも大きいですね。
こんな設備が欲しいとか、現場からの要求でこれからはこういうものづくりのマシンが必要だとか。メーカーもとても真摯に意見を聞いてくれる場ですので、こういった活動があって、これからの日本のものづくりも支えられていくのだと感じています。
 その中で、私自身の目標まであと少し、頂上まで登りたいという思いは変わらずに持ち続けたいと思っています。

ありがとうございました。


細谷精機株式会社 会社情報
【沿革】

1947 年 東京都港区白金台にて光学機器部品の金属加工業を始める
1951 年 精密機器により、カメラ光学機器部品の加工を主体として創立、会社組織にする
1958 年 法人組織に改組。取締役社長 細谷録郎 就任
1966 年 細谷録郎が取締役会長に就任。三溝麻雄が取締役社長に就任
1971 年 神奈川県 横浜市に横浜工場を新設。精密板金業を開始
1983 年 甲斐正廣が代表取締役社長に就任
1985 年 横浜工場を移設し、精密板金業を拡張
1988 年 現在地(横浜市港北区新羽)の本社ビルを改築。1F を本社事務所とする
2003 年 甲斐正廣が取締役会長に就任。三浦昭次が取締役社長に就任
2006 年 代表取締役社長に阿部昇が就任
2008 年 甲斐正廣が名誉顧問に就任
2013 年 代表取締役社長に阿部詞男が就任
主な事業としては、電子・通信機器、半導体、光学機器部品などの各種精密板金加工を中心に製造。常に最新設備と積み重ねてきた加工技術による「提案型ものづくり」を進めており、薄板から中厚板までの製品加工を行っている。従業員は約 42 名

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