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ー 科学と技術で産業を考える ー

優れたことづくり例

技術者のバトン

大泉工業株式会社 橋本秀木 社長/ インタビュー

2022 年 08 月 24 日

大泉工業株式会社
代表取締役
橋本 秀木
生年月日 : 1983 年6月9日生まれ
出身地 : 群馬県
入社日 : 2009 年4月(取締役)
代表取締役就任日 : 2011 年 12 月
家族構成 : 妻、長男、長女
趣味 : スポーツ全般、ゴルフ
【団体などの公的な活動の履歴】
群馬県シートメタル工業会 経営部会 副部会長
群馬県シートメタル工業会 青年部会 副部会長


Q.最初に御社(大泉工業)について教えてください。

 まず創業は 1957 年 11 月に農耕機械機器の販売や修理を目的としてスタートしました。
 その後、1960 年 4 月にプレス加工を中心とした事業に拡張し、大泉工業と社名を変更したのが本格的なスタートとなりました。
 大泉工業の創業者ですが、私の祖父の橋本力(つとむ)です。
 祖父は工業高校の出身で、最初は中島飛行機で検査の仕事をしていました。そして、三洋電機(現パナソニック)が生産拠点を中島飛行機の跡地につくることになり、その際に当時の三洋電機の社長とのご縁から、協力工場をやって欲しいというお話があり、会社を創業するに至りました。
 祖父はもともと検査と言う職種でしたので、全体をきちんと見ることができた人だったのだと思います。創業当時から自身が率先して現場に立っていました。最初は、少し離れた西小泉駅の近くが工場だったのですが、1972 年に現在の大利根工業団地に地域業者 20 社とともに進出するということになり、現在の場所に移るとともに工業団地の理事長に就任しました。当時、もっとも忙しかったころは従業員も最大で 120 名ほどの時代もありました。その後、プレス事業と金型工場から時代の先読みをする形で板金加工へと進出し、合わせて工場の拡大を続けてきました。当社では早い時期からアマダ製のコンターマシンを使っており、板金進出においても NCT をいち早く導入していたことも大きかったですね。
 当社の生産品目ですが、精密板金やパネル加工を中心としていますが、板金加工全般について加工を行っています。そのため、取り扱っている材料については SPCC、SECC、SS400、ステンレスなど幅広く揃えています。板厚については、主に 1.6mm くらいのものが多いのですが、0.3~12.0mm くらいまでは常時対応しています。
 また 2020 年 4 月には、おかげさまで 60 周年を迎えることができました。60 周年を越えることができたのは、これまでお世話になってきた皆さまやお客様に恵まれてきたおかげであり、感謝しかありません。本当にありがとうございます。

Q.橋本社長の経歴をお聞かせください。

 私にとって祖父のいる会社は、第二の自宅のような存在でした。小学校の頃は、学校の帰りには母も大泉工業で仕事をしていましたので、母のいる事務所に帰るのが当たり前で、「ただいま」と言っていましたね。そんな現場の近くにいたこともあり、小さい頃からものづくりには慣れ親しんでおり、自分自身もものを作ることが大好きでした。祖父もそんな私のことを見て、将来は会社を継いで欲しいと願っていたようなところもありましたので、祖父からは現場のおもしろさやものづくりの良い話ばかりを聞いて育ってきたところがあります。
 私自身は大学生の時から会社を継ぐことを意識していました。
 大学での専攻も生産工学部に入り、そこではマネジメントを中心に管理全般、経営工学、生産管理や PC 操作全般から経営に必要なことを学ぶことができました。
 大学卒業後は、大手の金属加工機械メーカーのアマダに就職し、そこで貴重な経験をたくさんすることができました。新入社員研修を経て、配属されたのは生産管理部門でした。そこでは開発から生産までの全体スケジュールや部品手配、コスト管理などを行いながら齟齬なく進めていくという、開発や製造の裏方のように捉えられがちな仕事ですが、実際には全体を見ながら非常にきめ細かな仕事をしていくという、とても重要な位置づけの仕事です。とても濃い時間を過ごすことができ、ここで得た知識や経験が、私の現在の仕事における考え方の基本になっていますので、その当時の会社や上司や同僚の方々には今も感謝しています。
 そして 2008 年、リーマンショックが起こりました。
 大泉工業もその影響を受け、受注が大幅に減少することになり、自分も居ても立っても居られなくなり、アマダを退職して大泉工業に戻ることを決断しました。
 当時、私の母の橋本まき子が専務として会社全体の切り盛りをしていました。私がすぐに何ができるかということよりも、少しでも何かをしたいという気持ちの方が強かったですね。そういう気持ちで戻ってきたのですが、小さい頃から現場に出入りしていましたので、周りの人たちもみんな自分のことを知っていて、暖かく迎え入れてくれましたのでとてもスムーズでした。
 母は現在も会長として在職しています。会長には今もいろいろなところで支えてもらっていますが、今現在の私の右腕として支えてくれているメンバーは、母が専務の頃からの従業員であり、その頃からのスタッフが多く残ってくれていることもとても助かっています。こういう経緯を経て 2011 年に私が 3 代目として社長になり、現在に至ります。

Q.経営理念が特徴的ですが、詳しくお聞かせ願えますか?

 当社の経営理念は、創業当時の祖父が定めたものから変わっていません。むしろ、本当に必要な本質を語っているので不変なものだと考えており、現在の大泉工業にとっても大切な理念となっています。

【精神一到 何事不成 ※せいしんいっとう なにごとかならざらん】
ですが、これは「精神を集中して事に当たれば、どんな難事でもできないことはない」という意味です。そして、【熱意】として書かれているのは、「五省」です。五つの反省と言う意味であり、一日の行動への反省する精神教育の言葉です。戦前からの言葉ですが、反省することで謙虚でいられることを忘れない、重要な言葉だと思います。
一、至誠に悖るなかりしか ・・・ 誠としての良心に背くことはなかったか
一、言行に恥ずるなかりしか ・・・ 言行は一致していたか
一、気力に欠くるなかれ ・・・ 精神力が欠けることはなかったか
一、努力に憾みなかりしか ・・・ 諦めてしまい努力することを怠っていなかったか
一、不精にわたるなかりしか ・・・ 現状に満足して手を抜いていなかったか

 祖父の残してくれたこの経営理念は、大泉工業がこれからもお客様に向けたものづくり
において、変わることのない姿勢で臨んでいくことを表しています。

Q.大泉工業のものづくりにおける特長をお聞かせください。

 そうですね、私はすでに板金加工は「デジタル板金時代」に入っていると考えています。
「QCD+PT」を常に当社の強みとしていますが、これは簡単なことではありません。
Q ・・・ Quality(クオリティ)
C ・・・ Cost(コスト)
D ・・・ Delivery(デリバリー)
P ・・・ Production(プロダクション)
T ・・・ Technique(テクニック)

 これを自社できちんと行うためには、前提として自社にきちんと技術があることが大切です。ただデジタル化された加工機を設備すればできるということではなく、お客様の視点に立ってご要望に応えるための技術力が必要です。お客様のご要望は「品質の良い製品」を「より安く」「安定して供給して欲しい」ということ。これを実現するには「つくりづらい」をいかに減らせるかということが焦点となります。つまり「つくりやすさ」を追求することです。私たちはお客様のご要望にお応えするために、これまで積み重ねてきた加工ノウハウをデータベース化しています。このノウハウを活かし、ご要望に応じた最適なご提案を行うVA・VE 提案(VA=Value Analysis、VE=Value Engineering)ができることが大泉工業の強みだと考えています。
 また、デジタル化は自社内の管理体制にとってのメリットも大きいと言えます。受注から出荷までの状態をリアルタイムで管理している「生産管理システム」は、工程間におけるムダをなくし「見える化」を可能にしています。
 特に板金加工における最初の工程である「プログラミング工程」では、お客様から 3D で設計データをいただければ、CAD データの展開から加工用の CAM データの生成までを一気通貫で行うことができ、スピーディーで安定した製品をつくることが可能となっています。

Q.設備についてもデジタル板金を基本としているのでしょうか?

 もちろん、これからの時代は設備はとても重要です。
 当社では、ブランク工程において、NC タレットパンチプレスとレーザーマシン、パンチ・レーザー複合機を所有していますが、それぞれ加工する製品によって使い分けています。
 単純な外形加工と成形加工を行う製品では、いち早く導入して使い方を熟知してきた NCタレットパンチプレスによるパンチング加工はとても有用です。
 また、外形を自由形状で切断する必要のある製品加工には、最新のファイバーレーザー加工機で高速で効率的な切断加工を行っています。
 そして、自由形状の外形切断と成形加工が必要な製品加工には、複合機による加工といった使い分けがもっとも効果的です。

 さらにブランク工程の加工機は、すべて自動材料供給装置でシステム化しているのも特長です。どんなに加工機が優秀で、高速かつ効率的な加工ができたとしても、材料のセットを人手で行っていてはそこで効率的なスケジューリングや作業者の時間確保などの不確定な要素ができてしまいます。現代において、ブランク加工で加工機の効果を最大限に活かすには、システム化することが重要な要素の一つだと言えます。
 またブランク加工では、材料のムダをいかに少なくするかというのも重要なテーマです。同じ材料の中からできるだけ多くの製品が加工できるようにプログラミングを行う「ネスティング」も当社の得意とする加工の一つです。プログラミング段階で、同じ材質・板厚の製品をできるだけ効率的に一斉に加工するこの方法は、デジタル板金の効果の一つと言えます。

 次に、板金加工で一番重要な加工と言われるのが、ベンディングマシンを使った曲げ工程です。
 この工程では、加工する製品に合わせて作業者が金型をセットする段取り作業が多く発生してしまいます。当社では、最新式のベンディングマシンを揃えていますが、その中でも加工データを読み込ませることで、加工に必要な金型を自動セットしてくれる ATC(オートツールチェンジャー)付きのベンディングマシンを導入しています。作業者は重量のある金型を加工機が自動で金型をセットするので、安全に作業に入ることできるのも大きな魅力です。
 そして、大物曲げ加工と繰返し加工では、この ATC 付ベンディングマシンにロボットを加えた曲げ加工システムを持っているのも当社の設備の特長です。

 これらの他にも、バリ取り工程・溶接工程においても、最新バリ取りマシンから、TIG、YAG 溶接といったお客様に依頼された製品加工に応じた溶接設備も揃えています。

Q.従業員に向けた教育や独自の制度などはありますか?

 従業員というよりも会社全体で行っている活動が 5S 教育です。
 私はものづくりの現場において、やはり重要なのは基礎だと考えています。そういう視点から、毎週水曜日に 5S タイムという時間を設け、現場の自分たちから改善活動の話し合いや提案できるような活動を行っています。すでに社員にはこの活動も浸透しているので、提案活動における年間表彰や社長賞なども行っています。改善は無限だと考えていますので、工場内には「改善の基本精神 10 か箇条」という標語も貼りだしています。

1. つくり方の固定概念をすてよ。
2. 出来ない理由より、やる方法を考えよ。
3. 言い訳をするな、まず現状を否定せよ。
4. パーフェクトを求めるな、50 点で良い、すぐやれ
5. 誤りはすぐ直せ。
6. 改善に金をかけるな。
7. 困らなければチエがでない。
8. 「なぜ」5 回、真因を追求せよ。
9. 1人の知識より、10 人のチエを。
10. 改善は無限である。

 また、この近辺には工場などが多いことから、60 歳定年の会社がたくさんあります。当社では、逆に 60 代の積極的な雇用を進めています。経験則の高い人材に来てもらえるメリットは大きいですし、働き方についてもフレキシブルに対応できるような制度を作っています。

Q.大泉工業がこれから目指そうとしていることについて教えてください

 現代はスピードの時代とよく言われていますが、本当に毎年すごいスピードで変化しています。このスピードの速さに翻弄されてしまうだけでは会社としてきちんと前に進んでいくことが難しい。これをきちんと見極めていくことが大切だと考えています。
 世の中には情報が溢れかえっていますが、この中から自分にとって本当に必要な情報をピックアップする「取捨選択する力」が必要だと思います。
 あとは、コロナで不確定な要素がたくさんでてきました。コロナの影響が社会に及ぼす影響はとても大きいと思います。私たちもコロナ禍の間は、自主的にアイデア出しや知恵を出し合い、知識を増やすということを行ってきました。こういうことを習慣にして、常にアンテナを張っていくことが大切だと考えています。変化に左右されない、筋肉質な体制を目指していくつもりです。
 設備としては、単純作業や大物の繰返し加工などはロボットなどによる自動化を進めていきます。逆に小物加工やノウハウや伝承が必要な加工には、人を中心に充てていくつもりです。現在の当社の年齢構成が 50 代が中心で、次に 20 代。やはりこの世代にきちんとノウハウを伝えていき、現場で多台持ちができる多能工を増やしたいと考えています。
 そういう意味では、これからしばらくは中身重視と言いますか、社内の体制強化に努めることで、従業員の積極性や自らアクションを起こしていくことに期待したいですね。
 それこそ、本来ものづくりは楽しいものなので、失敗してもいいからどんどんチャレンジするようにしてもらいたいと思います。

ありがとうございました。


大泉工業株式会社 会社情報
【沿革】
1957 年 農耕機械機器の販売、修理を目的とする株式会社興農者として創業
1960 年 金属プレス加工とその付帯業務一切を開始 大泉工業として改称
1972 年 大利根工業団地に地域業者 20 社とともに集団進出 協同組合の組織下に活発な操業を展開
1972 年 資本金 3,000 万円に増資
1979 年 NC タレットパンチプレス 1 号機を導入し、板金加工業務開始
1982 年 オフコンを導入し、電算化による生産管理開始
1989 年 素材料置場を目的とし、120 坪の工場増築
1996 年 NC タレットパンチプレスの自動化を推進するため、150 坪の工場増築
2000 年 創立 40 周年を迎える
2009 年 工程統合・レーザー加工の推進のため、パンチ・レーザ複合加工機 EML を導入
2010 年 創立 50 周年を迎える
2010 年 ISO9001:2008 認証取得
2013 年 ISO14001:2004 認証取得
2015 年 リアルタイム進捗を実現するため、生産管理システムを更新
2017 年 ISO9001:2015 ISO14001:2015 総合マネジメントシステムとして更新
2018 年 NC タレットパンチプレス 20 号機として、LC-C1AJ を導入
2020 年 創立 60 周年を迎える

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