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ー 科学と技術で産業を考える ー

優れたことづくり例

技術者のバトン

太田治工 ヨコタ(岩本)潤子 社長/ インタビュー

2022 年 06 月 30 日

株式会社太田治工
代表取締役社長
ヨコタ(岩本)潤子
生年月日 : 1974 年1月 16 日生まれ
出身地 : 群馬県
入社日 : 2020 年 10 月
代表取締役就任日 : 2021 年9月
家族構成 : 夫、長男、長女、次男
趣味 : 家族


Q.最初に御社(太田治工)について教えてください。

 創業は1970年6月で、今年で52年目を迎えました。創業者は、私の父 岩本博です。
 もともと父は、神奈川県で自動車メーカーに勤めており、主にエンジンの設計を行っていました。この時にアメリカやオーストラリアに長期出張する機会があり、ここで金型の技術に触れたことがきっかけでその技術の習得にのめり込んだと聞いています。
 その後、金型関連の仕事に転職し、そこで本格的にウレタン発泡などの樹脂金型などの知識を習得するとともに、溶接治具の設計など幅広く習得しました。そして、群馬県太田市にFRP繊維強化プラスチック成型とプレス金型治具工具の設計事務所として太田治工を設立しました。
 当初は一人でスタートしたそうですが、最初はかなり苦労したようです。ですが父の性分なのでしょうが、けっしてあきらめずにコツコツ努力を続けていました。何よりも仕事が好きで、誰よりも早く出社することはもちろんですが、のめり込むと休日も何も関係なく365日仕事に向き合っているという性格でしたね。
 そんな父の後を継ぎ、昨年私が代表取締役に就任したのですが、父が行ってきた経営スタイルを基本的には変えていません。父は会社経営において、人の和を何よりも大切にしていましたので、私もこの方針を大切にしています。父と一緒に仕事をしていた人たちもそのまま残ってくれているので、基本的な仕事上での技術の継承や主な製品や取引についても継続しておこなっています。
 創業当時こそ、FRPなどの樹脂成型などが中心でしたが、現在は板金加工が主体となっており、主に精密板金加工製品や食品関連のショーケース、配膳車などの製造を行っています。

 そのため取扱う材料はSECCやSUSが多いのですが、特にSUSは加工時のキズ対策にはとても気を使っています。加工する板厚としては、0.5~2.5mmくらいの薄板が中心となっています。
 当社の特徴は、一貫生産ができるということです。受注段階ですでに完成形を想定したものづくりを行っていますので、すべての工程を経て完成した製品状態で納めることができるというのが一番大きいと思います。

 

Q.ヨコタ(岩本)社長の経歴をお聞かせください。

創業者 岩本博 氏

 私はもともと父の跡を継ぐというつもりは最初はありませんでした。父からも会社を継いでほしいということは言われたことはありません。
父自身も何よりも仕事が大好きで、自分で立ち上げた会社で精一杯努力していた人なので、あまり自分の後のことなどは考えていなかったと思います。
 私は海外への語学留学を考えていたのですが、父の勧めもありアメリカでMBAを取得するまで勉強する機会を得られました。帰国後は板金機械メーカーに入社して、そこで初めて自社で使っている機械について知ったくらいでした。この板金機械メーカーでの経験は、とても役に立ちました。この二つの経験が、私の代表取締役をする上での大切な経験と自信になっているのは間違いありません。
 そんな折に父が病に倒れ、これからの太田治工をどうするかということを考えた時に、私のこれまでの経験と父の想いをきちんと継承したいという考えから、太田治工の仕事に真剣に向き合って取り組んでいこうと決断したというのが本当の気持ちです。そういう意味では、「父からバトンを受け取った」というよりも、「私から父にバトンを受け取りに行った」というイメージですね。
 本来であればすでに3人の子供もいますので、子育て中心の生活を考えるのでしょうが、父が立ち上げた太田治工をきちんと残していきたいという想いは家族にも十分に伝わり、子供たちも含めて家族みんなが応援してくれているのはとてもありがたいです。
 私の長男と長女は、昨年の夏休みの自由研究で消毒用のペダル式スタンドを現場に来て、教えてもらいながら楽しんでつくったりもしていました。このスタンドは自分たちの学校に寄付して使ってもらっているので、つくったものを使ってもらう楽しさに触れることができた良い機会となりました。もしかすると、そのうち次のバトンを受け渡すことになるかもしれませんね。

Q.太田治工では製品加工では依頼先から主にどのような要求が多いのでしょうか?

 特に主力製品となっているのは、配膳車です。一般の人はなかなか目にする機会はないかもしれませんが、病院などで食事を配膳する特別仕様の台車のことです。この配膳車には様々な工夫が盛り込まれています。使用する人にとっての使い勝手の良さはもちろん、運用の際の安全面への配慮など、細かい部分にまで配慮したものになっています。

配膳車

出荷待ち状態

 同じく食品関連のショーケースについても、設計段階から運用を考慮した配慮を細部にまで行っています。両方とも、開発から製造・組立・出荷までの一貫生産ができる体制を整えていますので納期の調整から様々な変更に対応することも可能になっています。
 ものづくりにおいて、その仕様が1.0mm変わった場合でも、製品加工には影響がでます。太田治工では、これらの仕様・設計変更などの要望にも即対応することができるのは、自社内で一貫生産体制をとっているという強みがあるからです。

Q.主な工程と設備についてお伺いします。

 ブランク加工ではNCT(NCタレットパンチプレス)を中心に加工を行っているのですが、NCTでは一部成形加工までをワンクランプで加工できるというメリットが大きいと考えています。「切る・開ける」という工程と「成形する」という工程を、1台のマシンでできるNCTに代わるマシンは今のところ見つかりません。当然、その分の金型保有数は増えますが、十分その成果はあると考えています。現在は、2台のNCTを一人のオペレーターによる多台持ちで運用しています。
 また、自由形状の切断加工が必要な場合には、パンチ・レーザー複合マシンによる加工も行っています。

NCT(NCタレットパンチプレス)

パンチ・レーザー複合マシン

 ブランク加工後の曲げ加工を行うベンディングマシンについては幅広いラインナップを揃えており、長尺物の加工から細かい製品まで対応できる体制をとっています。
 特にショーケース関係の加工では長尺物が多いため、加圧能力には余裕を持った設備を持っています。板金加工における曲げ加工は、製品の完成状態を左右する重要な工程なので、マシンだけでなく保有する金型も多岐に及びます。同時にこの工程に必要なのは、工程を熟知した曲げ作業者ですが、この分野の人材には自信を持っています。

 次に溶接・組立工程ですが、この工程に太田治工の特徴があります。
 当社は工場内が比較的広く、天井が高いという特徴があります。この広い工場空間を利用して、材料や製品の搬送のほとんどをフォークリフトで行うことが可能です。

明確に区分けされた工場内エリア

 工場にはクレーンがありませんが、このフォークリフトを使った搬送により、まとまったロットの保管や重量物の搬送までをストレスなく行うことができます。当然、安全には十分配慮しており、フォークリフトの移動する導線や作業者の加工範囲などは明確に区分けされています。
 曲げ加工後に、溶接が必要な部品は有資格者による溶接工程へと移動して加工が行われます。その後、すべての部品が組立工程へと集められ、高い知識を持った組立作業者たちによる組立作業が行われます。
 こうしてすべての工程を終えた製品が検査を経てシッピングされ、出荷となります。
 また、本社内にある多目的ホールでは、製品発表会やプレゼンテーションが可能となっており、工場内から大型エレベーターにより製品の移動が可能となっているのも特徴です。

Q.太田治工の年齢構成と教育方法について教えてください。

 当社は約100名の従業員がいますが、年齢構成としては50代以上と20~30代という構成になっているため、その中間層が不足している感がありますね。ただし、その対策としては50歳以上のベテランに20~30代の若手がついて習得していくOJT方式を中心に行っています。同時にできるだけルーチン化できる仕事については、マニュアル化をスタートしました。このマニュアル化の目的は、若手向けに習得する機会を増やしていくことを目指しています。
 私は若い人たちにはできるだけ様々な経験を積んで欲しいと思っています。そのためには、ベテランから実践で習得できることは経験してもらい、マニュアルで習得できるものは自分から積極的に学んでもらう。この二つの方法を進めていくことで、最終的には多能工を目指してもらいたいと思っています。
 多能工を目指してもらいたい理由は、自分の担当だけに目を向けるのではなく、全体を見る目を養ってもらいたいからです。そのためには一つのことだけではなく、様々なことを知っていて周りから頼りにされる人になってもらいたいと思います。
 それともう一つ、以前行っていた賞への応募も考えていこうと思っています。
 父の時代には、従業員にとってのモチベーションにもなると考え、「優秀板金技能フェア」に応募して賞をいただいたことがあります。父は地域の板金関係の同業者が参加している「群馬県シートメタル工業会」の会長をしていましたので、技能者への資格取得や技術向上への奨励や活動には積極的でした。私自身も従業員の技能向上には積極的に取り組んでいこうと考えていますので、ぜひ若手を中心にした賞への応募作品の制作などにも結び付ける事ができればいいですね。

第19回 優秀板金技能フェア(2009年)
中央職業能力開発協会会長賞
「溶接を主体とする組立品の部」 金賞
IH配膳車ミニチュア製品  SUS430  0.7/1.0mm

 

Q.経営において特に気をつけていることは?

 コロナの影響もあり、過去2年間はかなり経営が苦しかったのですが、ここにきてやっと黒字化を達成することができました。これによりやっと明るい兆しが見えてきたと思います。ただし、不安要素がないわけではありません。コロナの影響は続いており、材料などの価格上昇を始めとして、半導体部品の不足から部品関係の納入が遅れるなどの影響で、生産計画が難しいという問題もあります。

 油断することなく、常に状況を見ながら最適な判断を経営メンバーと一緒に行っていくことが重要だと思っています。
 それと今自分にできることとして、自分自身の経験を高める工夫をしています。
 協力していただける同じ業種の工場を見学させてもらい、情報交換をする機会をいただいたりしています。工場見学では、自社の工場と比較することができるので、いろいろなことに気がつきます。ここで気がついたことはすぐに改善点として取り入れることができるので、とても役に立ちます。同時に自分にとっては、工場経営のヒントとなることもたくさんあるので、工場見学はこれからも続けていこうと思っています。

 

Q.太田治工がこれから目指していこうとしていることを教えてください。

 私が大切にしたいのはやはり「人」です。
 そのためにまず大切なのは、コミュニケーションですね。コミュニケーションが増えれば、自然と活気につながっていくと思います。活気があれば挨拶や元気につながり、そして楽しさにつながると思います。私は最初は何もわからなかったのですが、毎日現場を必ず2回回るようにして、邪魔にならない程度に質問をしていました。そんな私に現場の人たちはとてもわかりやすく説明してくれるんです。わかりやすく説明できるということは、その工程や作業を熟知しているということ。説明を聞いて理解できると本当に楽しい。ものづくりは本当はこんなに楽しいんだということを、もっと多くの人に知ってもらえるようにすることも私の役目だと思っています。
 それと、現場の人たちに誇りを持ってもらえるようにすることも大切だと考えています。現場を見ていて思うのですが、太田治工の従業員は個々の能力がとても高いと思います。

 ですが、みんなそれを当たり前のことだと思っているんです。先ほどの話にも共通するのですが、自分の担当する工程や加工方法をとてもわかりやすく説明することができるというのは、熟知しているということです。これは当たり前のことではなく、積み重ねてきた知識からくるものであり、もっと自信を持ってもらいたいと思います。
 従業員全員が自信を持てば、それは高い意識につながっていきます。
 そんな人たちが集まった現場から作られる製品は、当然良いものとなることは間違いありません。
 ぜひ、太田治工の従業員全員が、これからの太田治工を支えていく重要なメンバーであることを自覚して、向上心を持ってどんどん盛り上げていってもらいたいと思っています。
 私もこのメンバーの一員として、一緒にがんばっていきます。

ありがとうございました。


株式会社太田治工 会社情報
【沿革】
1970年  群馬県太田市本町においてFRP成形・プレス金型治工具の設計事務所を設立(資本金200万円)
1972年  群馬県邑楽郡邑楽町狸塚に工場用地を取得。第一期工場165㎡建設
1972年  FRP成形機100TON、150TON 導入
1974年  FRP成形機300TON、150TON 導入
1978年  ウレタン発泡作業を開始
1984年  資本金5,000万円に増資コールドチェーン藤川工場完成
1985年  コールドチェーン藤川第2工場完成
1986年  ショーケース側板発泡設備完成。生産開始
1988年  FRP成形機300TON 導入
1989年  コールドチェーン機器工場板金工場増築
1994年  事務棟完成(3階建 延1,745㎡)
1995年  ALC+ATC付NCベンディングマシン 導入
1995年  JHC WAGON(温冷配膳車)の自社製品製作
1996年  ALC+ATC付NCベンディングマシン 導入
1997年  ALC+ATC付NCベンディングマシン 導入
1999年  ISO9001国際規格取得
2000年  温冷配膳車:「グッドデザインぐんま」商品選定証(受賞)
2000年  レーザー LC-1212αNT 導入
2003年  NCタレットパンチプレス EM-2510NT 導入
2007年  ベンディングマシン HDS-2204NT 導入
2012年  NCタレットパンチプレス EM-2510NT 導入
2014年  パンチ・レーザー複合マシン LC-1212C1NT 導入
2016年  FRP成形機300TON 導入
2017年  NCタレットパンチプレス EM-2510MⅡ 導入
2021年  岩本(ヨコタ)潤子 代表取締役社長就任

精密板金加工を中心に、冷凍ショーケースや配膳車などの加工を一貫生産で行う太田治工では、先代からのノウハウを継承しながら新しい時代のものづくりに若手経営者と従業員が一丸となって挑戦している。従業員は100名。

株式会社太田治工のホームページはこちら