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ことラボ・レポート

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日本工作機械工業会(2025年5月分)確報

2025 年 07 月 02 日

 6月 25 日、(一社)日本工作機械工業会(坂元繁友会長、以下“日工会”)は、2025 年5月の工作機械受注額・確報値を発表した。

【5月受注の概要】

2025 年6月 25日 (一社)日本工作機械工業会発表の 2025 年5月分工作機械受注確報及び受注関連状況について
1.2025 年5月の受注額(確報)
(1)総額
 2025 年5月の受注総額は 1,287 億 18 百万円で、前月比で▲ 1.1 %と2カ月連続で減少したが、3カ月連続で 1,250 億円を上回るなど、依然高めの受注状況が続いている。前年同月比は+ 3.4 %で、8カ月連続で増加した。地域・業種・企業規模等により濃淡はあるものの、外需を中心に総じて根強い設備需要が感じられる。
(2)内需
 内需は、前月比で▲ 4.0 %、前年同月比で▲ 5.2 %の 330 億 16 百万円で、前月比・前年同月比とも2カ月連続で減少した。5月における前月比マイナスは8年連続で、ゴールデンウイークによる営業日数の減少も影響したと見られる。
 外需と比べて力強さに欠けるが、1~5月期の累計額は前年同期比▲ 0.6 %とほぼ横這い基調で、一定の底堅さも感じられる。会員企業に対するヒアリング結果を総合すると、建設機械、各種金属製品や精密部品、食品機械、各種モータ、減速機、産業用電子機器、半導体製造装置(消耗品関連)、航空機のエンジン部品、船舶用エンジン等での受注が比較的目立つ。
 自動車関連はEV向け大型ダイキャストマシン(ギガキャスト)関連や商用車に関する受注が散見されるが、年度末の3月に受注が集中した反動減や、次世代車の開発方針についての逡巡もあって全体的に振るわず、前年同月比は他の主要業種と異なり大きく下げた。各業種とも大手・中堅ユーザによるまとまった規模の投資がけん引しており、中小企業ユーザは各種補助金の採択結果が判明するまで発注を控える様子が感じられる
(3)外需
 外需は、前月比で▲ 0.1 %、前年同月比で+ 6.7 %の 957 億 02 百万円で、3カ月連続で 950 億円を上回った。前年同月比は8カ月連続で増加した。主な地域別に見ると、
 「北米」(327 億円)は「金属製品」が前月比で6割強下げた一方、建設機械や自動車関連の受注が大きく増加し、2カ月連続で 320 億円を上回るなど第2四半期に入って以降好調が続いている。
 「欧州」(158 億円)は2カ月ぶりに 150 億円台を回復し、本年の過去最高額を更新した。このところドイツが 30 億円台半ばで安定し、5月はイタリアが 22 カ月ぶりに 30 億円を超えるなど、昨年後半に大きく落ち込んだEU圏での受注状況が徐々に改善している。
 「アジア」(452 億円)は、昨年来高水準での受注が続いている中国の「自動車」が前月比で若干下げた他、東南アジアやインドであった航空機関連の特需が剥落し、前月比は2カ月連続で減少した。しかし3カ月連続で 450 億円を上回っており、全体的にみて活況が続いている。

2.今後の見通し
 米国による自動車輸入への追加関税や相互関税の発動が相次ぎ、米中対立激化の懸念も高まった4月以降、世界経済の不確実性が増し、米国内をはじめ各地域で設備投資が停滞することへの警戒感が広くうかがえる。しかし5月分の受注結果を総覧したところ、目立った影響は見受けられない。6月3日にOECD(経済協力開発機構)が発表した 2025 年の世界経済の成長率は▲ 2.9 %で、前回3月の調査結果から▲ 0.2 %下方修正された。一方、同じく6月上旬に実施した当会会員企業を対象とする四半期見通し(DI)調査は、▲ 2.8 ptと 12 四半期連続で 「減少」超ではあるものの、前回調査(3月上旬)比で+ 1.3 pt改善した。当DI値は実際の受注額との連関性が高く、これで2四半期続けて改善したことから、年央以降の受注増加が期待される。
 各地域別に展望すると、まず「北米」は、米国の中小ジョブショップ等で設備投資に一部慎重姿勢が認められるものの、全体傾向として引き合いや商談は先細っておらず、自動車や建設機械、航空・宇宙関連で今後もまとまった規模の受注が見込まれる。
 「中国」については、自動車関連で有力完成車メーカ系列を中心に活発な設備投資が続いている他、各種産業機械やエレクトロニクス分野においても、新興の有力ユーザ等による活発な設備投資が続くと見られる。中国政府による、大規模な設備更新と消費財買替を促す政策措置も設備投資を下支えしていると見られ、会員企業の間では、同国一般経済の停滞にも関わらず、工作機械需要は今後も堅調に推移するとの期待感が広がっている。
 「インド」では通信機器関連の特需が一旦収束した様子だが、自動車や自動二輪、農業機械等で引き続き旺盛な需要が見込まれる。
 北米・アジアと比較して、日本(内需)及び欧州の景況は足元で力強さを欠いているが、いずれも春先以降地合いが整いつつあり、今後受注の緩やかな改善が期待されている。総じて、自動化・高効率化、環境対応の需要は世界的に見て根強く、日本国内や北米においては長らく設備投資を抑制してきたユーザを中心に老朽機更新の必要性も高まっている。加えて、世界各地で生産拠点の多角化・分散に伴う設備需要の増加も想定される。但し米国の関税措置については、これから悪影響が顕在化する可能性がある他、イスラエル-イラン情勢は、双方の報復攻撃に加え米国による空爆が今後更なる武力衝突の激化に至った場合、世界経済への影響が大きくなるものと懸念される。引き続き世界情勢や経済動向を油断なく注視し、世界各国での需要に対応していく。

【詳論】~2025 年5月分受注確報及び受注状況について

1.概況【5月受注】
受注総額: 1,287.2 億円(前⽉⽐△ 1.1 %(2カ⽉連続減少) 前年同⽉⽐+ 3.4 %(8カ⽉連続増加)
受注総額は、3カ⽉連続の 1,200 億円超。1,100 億円超えは 51 カ⽉連続。
前年同⽉⽐では8カ⽉連続の増加。
(1)内需 330.2 億円(前⽉⽐△ 4.0 %前年同⽉⽐△ 5.2 %)
2カ⽉連続の 350 億円割れも、昨年と同程度の⽔準である。
(2)外需 957.0 億円(前⽉⽐△ 0.1 %前年同⽉⽐+ 6.7 %)
前⽉⽐で2カ⽉連続の減少、前年同⽉⽐は伸び率で縮⼩も、8カ⽉連続のプラス。3カ⽉連続の 950 億円超え。
⇒5⽉の受注は、前⽉⽐で若⼲の減少が見られたものの、前年同⽉⽐では増加と、横ばい圏内の動きから、総じて様⼦⾒となる鈍い動き。
【ことラボコメント】
次の折れ線グラフは 2021 年1月から 2025 年5月までの4年5カ月間の日工会受注額の推移で内需額と外需額も示されている。この約4年半の間、新型コロナによるパンデミック、環境問題に起因する自動車産業の混乱、ロシアによるウクライナ侵攻、中東でのイスラエルの狼藉などどれも一筋縄ではいかない問題が続発した。それでも受注額が大幅に落ち込むこともなく“高止まり状態”が続いてきた。“景気”の先行きをアレコレ心配することも必要だが、これからの社会に対してどのように向き合わなければいけないのか、真剣に議論を交わす時が来たと思う。

2.内需【5分】
(1)内需総額:330.2 億円(前⽉⽐△ 4.0 % 前年同⽉⽐△ 5.2 %)
・最近1年間の⽉額受注の平均(除3⽉)は、356 億円となるが、5⽉内需はその数値と比べても著しい悪化を示すものではなく、まずまずの⽔準で推移。

(2)業種別受注
・主要4業種
前⽉⽐:「航空・造船・輸送⽤機械」のみ増加
前年同⽉⽐:「電気・精密」と「航空・造船・輸送⽤機械」が増加
・全 11 業種中
前⽉⽐:増加3業種(「電気機械」「航空・造船・輸送⽤機械」等)
前年同⽉⽐:増加6業種(「鉄鋼・⾮鉄⾦属」「⾦属製品」等)
・「⾃動⾞」が、4⽉期に続き、前⽉⽐△ 9.2 %、前年同⽉⽐△ 38.0 %と⼤幅減少

主要4業種


(3)一般機械(産業機械等・金型)向け受注
一般機械(産業機械等・金型)向け受注
・⼀般機械は前⽉⽐で2カ⽉連続減少、3カ⽉ぶりの 150 億円割れも、前年同⽉期とほぼ同⽔準。
・建設機械は2カ⽉連続減少も、前年同⽉⽐では増加。
・⾦型は前年同⽉⽐で、2カ⽉連続で増加するも、11 カ⽉連続の 15 億円割れと低調。(4)自動車(自動車部品・完成車メーカー)向け受注
自動車(自動車部品・完成車メーカー)向け受注
・自動⾞向けの設備投資は、低調な電動化の流れから今⽉も前⽉⽐△ 9.2 %、前年同⽉⽐△ 38.0 %と減少。50 億円割れは、2020 年5⽉以来の 60 カ⽉ぶり。
・⾃動⾞部品は前⽉⽐で増加も、2カ月連続の 35 億円割れ。【ことラボコメント】
 上の「自動車向け受注」グラフと下の「主要業種別構成の推移」で自動車業界の“元気の無さ”が視覚的に理解できる。2024 年通年の統計では月平均 78 億円の実績があったが。前年が 84 億円、その前年は 112 億円だったことを考えると昨年は3年連続で低下が続き、30 %以上も減少している。5月の実績 47.8 億円は、さらに減少し3年前の月平均の半額以下にまで落ちた。電動化を巡る問題で、作る側も買う側も自信喪失状態で、日本人の性格を考えると「誰かが決めてから動き出そう」とするだろう。米国の排ガス規制を定めたマスキー法のときと異なり、駆動力の基本原理を問われている今の課題では、企業が持つ「哲学」の差が解決に繋がると思う。日本の自動車業界が一番強いのではないか、と思い始めている。自動車が持つ価値を再認識してこれまでの延長線ではない、新しいクルマ社会を再構築するタイミングだと思う。下の棒グラフは、内需全体に占める自動車産業の割合がついに 14.5 %まで低下したことを示している。

3.受注内需 主要業種別構成の推移

4.外需【5月分】
(1)外需 957.0 億円(前⽉⽐△ 0.1 % 前年同⽉⽐+ 6.7 %)
・前⽉⽐は2カ⽉連続減少。前年同⽉⽐で8カ⽉連続増加し、9カ⽉連続の 800 億円超え。
・北⽶のみ前⽉⽐、前年同⽉⽐ともに増加。欧州は前⽉⽐増加、前年同⽉⽐で減少。【ことラボコメント】
 先月から掲載を始めた上のグラフだが、日本の工作機械がアジアに深くコミットしていることを視覚的に理解できると思う。日本人の多くは、メディアも含めて、アジアは商売上の付き合いで、大事なのは米国だ、というのが基本スタンス。しかしトランプさんが登場して「俺の言うことを聞け」という、民主主義とは相いれない方針を打ち出したのは、わが国の将来を冷静に判断する良い機会になった。まず、日本語以外はダメという社会通念を作り直したほうがよい。国の教育方針で外国語教育を、実社会とかけ離れた方法で行い何の役にも立たない。世界共通言語としての英語は変わらないので、教育方法は再考を要するが大事さは変わらない。時間をかけなくても良いので中国語(北京語)とハングルを国として教育に取り入れて欲しい。中国も韓国も隣の国で、いやでもかかわりを持つ国だ。言葉が共通のカギになれば、いまのように「歴史認識」とか「文化伝承」などの過去の問題での後ろ向きの議論を卒業するべきだ。

(2)主要3極別受注
①アジア
アジアの受注額

アジア計は、2カ⽉連続の 500 億円割れも、前年 同⽉⽐ 14 カ⽉連続の 400 億円超と堅調持続
-東アジアは、2カ⽉連続の 400 億円割れ。
-中国は前⽉⽐で減少も、300 億円超えと堅調を維持。
-その他アジアは2カ⽉ぶりの 100 億円超え。
-インドは2カ⽉連続の 50 億円割れ。
アジアの業種別受注
・主要4業種は、前年同⽉⽐で「⾃動⾞」、「電気・精密」のみ増加。
・⼀般機械は、前⽉⽐・前年同⽉⽐ともに減少も、中国では3カ⽉連続の 100 億円超え。
・⾃動⾞は、前⽉⽐で減少も、150 億円超えと⾼⽔準で推移。
・電気・精密は、前⽉⽐、前年同⽉⽐ともに増加。
・航空・造船輸送⽤機械は、6カ⽉ぶりの 10 億円割れ。
②欧州
欧州の受注額

欧州計は、2カ⽉ぶりの 150 億円超え
-ドイツは、3カ⽉ぶりの 35 億円超え。
-イタリアは、前⽉⽐、前年同⽉⽐ともに増加。2023 年7⽉以来(22 カ⽉ぶり)の 30 億円超え。
欧州の業種別受注
・主要4業種は、「電気・精密」を除き、前年同⽉⽐で減少。
・⼀般機械は、2カ⽉ぶりの 50 億円超え。
・⾃動⾞は、6カ⽉連続の 20 億円割れも、3カ⽉連続前⽉⽐で増加。
・電気・精密は、7カ⽉ぶりの 20 億円超え。
・航空・造船・輸送⽤機械は、フランス等で減少し、2カ⽉連続の 20 億円割れ。

③北米
北米の受注額
計は、4カ⽉連続の 250 億円超え。300 億円 越えは2カ⽉連続。
-アメリカは、2カ⽉連続の 250 億円超え。
-メキシコは前⽉⽐で⼤幅減少も、2カ⽉連続 25 億円超え。
北米の業種別受注
・⼀般機械は、2カ⽉連続の 100 億円超え。建設機械関連の設備が好調裡に推移。
・⾃動⾞は、ICE関連投資が受注を押上げ 14 カ⽉ぶりの 60 億円超え、70 億円超えは 36 カ⽉ぶり。
・電気・精密は、2カ⽉連続の 15 億円割れ。
・航空・造船・輸送⽤機械は、2カ⽉ぶりの 40 億円割れ。

AMT事務局コメント(製造技術受注:3月分)
2025 年4⽉(P):4億 4,499 万ドル、前⽉⽐+ 12.7 % 前年同期⽐+ 40 %
「ジョブショップの設備投資は、僅かな減少であったことから設備関連の需要は継続しているとの⾒⽅が趨勢である。経済全般の動きは減速傾向を⽰すものの、⾦属加⼯部⾨の設備投資は高いレベルを見せている。⼀⽅、関税引き上げの動きが続けば、⽶国での⽣産性を向上させる動きと結びついて、設備投資が増加する可能性をあると見ている。」

★次回、 2025 年6月次の受注額の報告は、速報が 2025 年7月9日(水)15 時、確報値は 2025 年7月 23 日(水)15 時に発表。このときは記者会見が開催される予定。