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ことラボ・レポート

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東大大学院がメタバース工学部を設立

2022 年 09 月 26 日

メタバース工学部設立記念式典の開催

 国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(研究科長:染谷隆夫)は、メタバース工学部における教育プログラムを10月1日に開講するのに先立ち、設立記念式典をメタバース上に描かれた講堂(写真)で9月23日(金)に開催し、同時に2022年度秋期講座を開講した。
 メタバースとは、コンピュータ上に構築された3Dの仮想空間を利用してアバターなど自分の分身を使い、その中であらゆる活動を実行できるシステムだ。そこに生まれるもうひとつの現実を使って、リアルな世界をより良くしていく取り組みになる。
 メタバース工学部は、すべての人が最新の工学的情報や工学の実践的スキルを獲得して、夢を実現できる社会の実現を目指したデジタル技術を駆使した教育の場として、東京大学大学院工学系研究科に設立された。

 式典に先立ち特別ゲストとしてデジタル社会で日本を先行している台湾からデジタル発展省のオードリー・タン大臣から、メタバース工学部設立に期待する旨のメッセージが披露された。その後にメッセージ・リレー「メタバース工学部での学び」と題して3つのテーマで現在実際に、メタバースを利用している学生や社会人がメッセージを発信して、それを受けて企業経営陣が回答を寄せるというプログラムが行われた。
テーマ①は「知的探求心とダイバーシティ」で、工学部4年生でテックアンバサダー代表の白井帆香氏が「コロナ禍で変貌した都市空間の変化を見て生じた好奇心から、何かを変えたいときに、それを実現する力を持つのは工学だと気づき工学部に転籍した。いまはこれからの都市の在り方について,都市交通の数理最適化の研究をしている」と自己紹介した。
 これに対して実務界からは「コロナ禍で2カ月間店舗を開けられなかった経験から“売らない店”というビジネスモデルを生み出した。地域の最適交通システムの構築を応援する」と丸井グループの青井浩社長が応えた。続いてリクルートの柏村美生執行役員が「多様な好奇心が集まり摩擦熱を起すことが必要だ」とコロナ禍で芽生えた好奇心を育むことの大切さを訴えた。
 テーマ②は「デジタル技術が拓く未来」で、高校2年生の林蔚欣(りん・ういしん)氏が、「工学を通じて真理を追究する、という言葉から、工学を通じて社会を新たな切り口で見たいと好奇心が湧いた。夢を可視化する情報工学を知り、政治や行政に生かせるのでは、と住民の意思決定支援ツールを作りつくば市と実践している。メタバース工学部がひとつの羅針盤になる」と挨拶。これに対してソニーグループから「テクノロジーは人々に“便利”を提供してきたが“幸せ”にしただろうか」と振り返り「メタバースは、幸せで豊かで満足するために進化していく障害となる制約を取り払うもの」と積極的な取り組みを誓った。また三菱電機の増田邦昭常務執行役員も「このたび意欲的で興味深い取り組みに参加できて喜んでいる。活力とゆとりある社会の実現には、メタ空間とリアルをうまく接続してより良い社会を実現していきたい」と語った。
 テーマ③は「変化の時代におけるリスキリング」ではリスキリング講座受講者代表の日本電気の河村桂氏が「人事として人に関わる取り組みをしている。人事はこれまで工学とはかなり離れている領域だった。勘や経験に依存したアナログなやり方も多く、机上の空論も多かった。しかしデータサイエンスを中心とした工学と交わることでこれまで見えてこなかった感情的な人の思いに寄り添うことができるようになった。本当に解決するべき課題に向き合えるようになってきた。不確実な時代だが、これまでの生活ややり方を変えていくチャンスでもある。これまで工学とは縁遠かったがメタバース工学を学んで新しい取り組みを始めようと思います」とメッセージ。鹿島建設の天野裕正社長が「これまではリアルの空間で建設してきたが、メタバースによって多様な可能性が広がる。将来的には宇宙にまで広げていきたい。これまでの建設経験を少しでも役立てたい」とビデオメッセージを披露した。次にDMG森精機の森雅彦社長が「現在、世界では500~1000万台の工作機械があると言われていますが、これが2030年から2050年には100万台に集約される、工程集約やDXやデジタルツィンで集約されていく。すると新しいエンジニアリングが必要になり、まさにリスキリングだ。エンジニアリング手法のひとつに技術の評価や人の価値について、改善や改良をしていくことで素晴らしい成果に結びつくと思っている」と、期待を述べた。
 その後に「メタバースが拓く未来」について、東京大学大学院工学系研究科の松尾豊教授、東京大学先端科学技術研究センターの稲見 昌彦教授、アーティストで 東京藝術大学デザイン科のスプツニ子! 准教授のパネル討論があり、東京大学大学院工学系研究科長の染谷 隆夫教授が閉式の挨拶を述べて式典は終了した。

今回の記念式典の様子は、10月1日(土)に公開される。詳しいことはこちらを確認のこと。

また本件の問い合わせ先は
東京大学 大学院工学系研究科 広報室(Tel:03-5841-0235)
E-mail:kouhou@pr.t.u-tokyo.ac.jp
さらにメタバース工学部 事務局(Tel:03-5841-8699)
E-mail:meta_office.t@gs.mail.u-tokyo.ac.jp