ことラボ・レポート
潮目が変わった 牧野フライス製作所とファナックに新たな潮流
牧野フライス製作所の新工場見学会とファナックの新商品発表展示会
5月 18 日から3日間、富士山ろくの東地区に多くの人々が訪れた。広大な本社敷地(178 万㎡)を有するファナックが恒例の「新商品発表展示会」を開催し、同時に牧野フライス製作所が国内3つ目になる富士吉田工場(17 万 4678 ㎡)の見学ツアーを開催したからだ。
ファナックと牧野フライス製作所は、1958 年に国内初のNCフライス盤を開発して以来、数多い工作機械企業の中でも深い繋がりのあるいわば“バディ”といえるような関係だ。とは言ってもビジネスの世界は複雑で、バディのような簡単な表現では語れない。しかし今回は、両社がこれまで持っていたイメージを大きく変えるほどの印象を打ち出していたので「潮目が変わった」と表現した。その意味を以下にまとめた。
牧野フライス製作所 富士吉田工場見学ツアー開催
牧野フライス製作所(宮崎正太郎社長)は、5月 18 日から3日間、富士吉田工場の見学ツアーを開催した。牧野の創業の地は東京都目黒区で、いまでも本社所在地だが、神奈川県厚木市に隣接する愛甲郡愛川町にある「厚木事業所」(1967 年)、富士山の北麓の「富士勝山事業所」(1987 年)に続く国内3つ目の事業所になる。同事業所は 2012 年に開設されたが富士勝山事業所が担当する大型工作機械製造のサブ工場としての位置づけで対外的には公開されていなかった。しかし近年、大型加工機の受注が拡大しており、大型加工機増産に対応するために今回のような増改築に踏み切った。当日配布された資料にも3台の大型機種が紹介されていた。

牧野フライス製作所・富士吉田事業所(写真提供・牧野フライス製作所)
敷地面積は 17 万 4678 ㎡で、そこには牧野らしい工夫が仕込まれている。
工場を作る、ということは経営者にとり全身全霊を注ぎ込む仕事だ。牧野が厚木事業所内にあったスピンドル工場を、工業団地の向かいの土地に移設したときの顛末を垣間見たことがある。いまでは笑い話だろうが、そのころトップに会うとスピンドル工場の話になり、思うようにいかないと苛立っていることが多く「あんなのは工場ではない」と口走ることもあった。心配になって現場に伝えると「いわれた通りにやっている」との反応だ。この時の経験から、メーカにとり工場建設は一大事業なのだ、と肝に銘じている。
工場で大事なことのひとつは“工場内物流”で、仕入れた部品・部材がどのような流れで製品に仕上がっていくかは無限に広がるファクターの取捨選択で決まっていく。今回のこの新工場では材料の受け入れ(倉庫:S棟)から部品加工(A棟)さらに組立工程(B棟)へと一直線につながっているのが最大の特徴だ。
S棟に届いた部材は開梱され次工程で必要なユニットに集められ「ユニット加工・組立工場」A棟に送られる。そこには多種多様な加工機が並び、組立工場で最終的に組み立てる直前レベルにまで仕上げて一つの“塊=モジュール”にまでまとめ上げる。そして次の「組立工場」B棟に集められ工作機械として完成する。


左からS:倉庫棟、A:ユニット組立棟、B:組立工場の配列になる。S棟の左側から納品される。S棟の具体的な映像は下のようだ。建物の左側に見える直線状屋根は納品の際の天候から製品を守るためだ。建屋に運び込まれると、機種ごとに必要なユニットに分けられてA棟に送られる。そこで必要な処理・加工をされ、もう少し大きな“モジュール”にされてB棟で最終的な機械にまとめられる。大型機械をモジュール単位でまとめながら素早くまとめて組み立てる。牧野は、この方法でリードタイムを半減することを狙っている。本格稼働が待ち遠しい。
富士吉田事業所の製造機種
当日配布された『富士吉田工場見学ツアーガイド』には「主な生産機」として以下の機種が掲載されていた。いずれも「機械本体の大きさ」が少なくとも一辺が 10 m近くあり、日本ではあまり見かけることのない大きさだ。欧州の《EMO展》などには、見上げるような大きな工作機械が展示されている。それは大陸を横断するパイプラインやエネルギー関連のインフラ設備に必要な部品加工機として活躍しているが、日本では必要がないとされてきた。富士吉田工場が、大型工作機械のために竣工したのは、潮目が変わったといえるだろう。
(1)横形マシニングセンタ「aシリーズ」

半導体製造装置関連のAI、SUS部品を高精度、高能率加工
●移動量(X×Y×Z):1900 × 1600 × 1700 mm
●軸移動量(B軸):360°(連続回転)
●最大ワーク寸法(直径×高さ):2100 × 1800 mm
●パレット上の最大積載質量:3000 kg
●主軸回転速度:20 ~ 8000 min-1
●主軸端(呼び番号):7/24テーパ#50
●工具収納本数:204 本
●機械本体の大きさ(幅×奥行×高さ):6038 × 9969 × 4216 mm
(2)5軸マシニングセンタ 「MAG Tシリーズ」

エネルギー関連の難削材部品を高剛性の本体構造で高能率加工
●軸移動量(X×Y×Z):2000 × 2000 × 1800 mm
●軸移動量(A軸):-110°~+110°
●軸移動量(B軸):360°(連続回転)
●最大ワーク寸法(直径×高さ):1900 × 2000 mm
●パレット上の最大積載質量:5000 kg
●主軸回転速度:20 ~ 4000 min-1
●主軸端(呼び番号):HSK-A125
●工具収納本数:120 本
●機械本体の大きさ(幅×奥行×高さ):7450 × 10550 × 5610 mm
(3)5軸マシニングセンタ 「MAGシリーズ」

航空機部品を高出力 33000 回転主軸で加工時間短縮
●軸移動量(X×Y×Z):4000 × 1500 × 1000 mm
●軸移動量(A軸):-110°~+110°
●軸移動量(B軸):360°(連続回転)
●最大ワーク寸法(直径×高さ):4000 × 1500 × 750 mm
●パレット上の最大積載質量:3000 kg
●主軸回転速度:500 ~ 33000 min-1
●主軸端(呼び番号):HSK-F80
●工具収納本数:120 本
●機械本体の大きさ(幅×奥行×高さ):14750 × 9580 × 4040 mm
上記のような一辺の長さが短くても 10 m近くある“大型工作機械”を仕上げるために、組立棟であるB棟は写真のように柱の間隔も広く天井も高い。見学会のタイミングが早かったために工場内にはまだ設備はほとんど導入されていなかったが、広さを実感できる貴重な体験だった。
「MAGシリ-ズ」を「5軸マシニングセンタ」と呼ぶのは正確ではない。機械が大きすぎて、チタン加工用「T1」が1度だけJIMTOFに登場したが、展示会には殆ど出展されない。かつて一度だけJIMTOFへの出展を検討したらしいが搬入・組立に一月近くかかるとされ出展を断念した。だから今後も展示会に登場することはないだろう。本機を見たことのない人に判り易い表現として「主軸にチルティング機能を持たせた横形マシニングセンタ」と表現した。この「MAG」は航空機部品加工に革命をもたらした機械だ。例えて言えば「プロペラ機の時代にジェット機を作った」ようなものだ。航空機の部品加工の見積もりでは「MAGを使う」ことが条件にされている、とまで言われている。「小型、精密、安価」なものづくりが日本型ビジネスモデルと思われてきたが「MAG」は世界に誇りうる大型工作機械だといえる。
牧野フライス製作所の工場見学ツアーは少なからざる驚きをもって参加した。それというのも同社は、PR(パブリック・リレーション)を得意とする企業ではないためだ。私は牧野二郎元社長から、厚木事業所の竣工時(1967 年)にも富士勝山事業所の竣工時(1987 年)にも、何もイベントを行わなかったことについて質問した。「なんでやらなかったのかな。私が賑やかなことが嫌いなことに気を使ったのかな」と言われたことがある。事業所の竣工時だけではない、1998 年の大阪JIMTOFで、NC放電加工機のZ軸にリニア駆動のユニットを取り付け、高速駆動を実現したときに当時ブームともいえた“リニア駆動”の「リ」の字も使わなかったことがある。せっかく話題になるのに、と思って確認すると、「高速で駆動することが大事なのであって、それがリニア駆動かどうかはユーザには関係ない」と説明された。牧野というのはそういう会社なのだと、強く意識している。
ファナックの新商品発表展示会
同じ5月 18 日に牧野の富士吉田工場から直線距離3km前後でファナックの『第 35 回 ファナック新商品発表展示会』の会場に着く。これはFA業界における上期の恒例行事といえる。このイベントは 1992 年に創立 20 周年を記念して開催され、今日まで初夏の恒例行事として続いている。
FA業界の展示会は、JIMTOFもIMTS(シカゴショー)もEMO(ハノーファ&ミラノ)も、基本的な開催時期は秋であることが多い。1995 年のミラノEMOだけはレオナルド・ダ・ヴィンチの生誕記念イベントとして5月に開催されたが、原則は秋である。だから本展はFA業界の上期の恒例イベントと表現してもいいだろう。“恒例”という表現を使うと安定した仕組みで開催されている、と思われる。しかし、今年は“恒例”とは表現できない仕掛けが用意されていた。

2026 年4月に竣工した『中央テクニカルセンタ』(外観・写真提供ファナック)


この『新商品発表展示会』は前述したが 1992 年7月に創立 20 周年記念イベントとして企画された。それ以降、ほぼ毎年開催されてきた。当初の会場には広大な忍野本社敷地内に点在する建屋の中の空いているスペースが使われていた。同じ場所が繰り返し使われていたので“空いている”というのは正確ではないかもしれないが、特に“展示棟”とも“ショールーム”とも呼ばれていなかった。その中で 2000 年3月に敷地の奥まった部分に『自然館』と名付けられた多目的ホール(?)が竣工した。展示会に使うには敷地の奥過ぎて 20 年以上通ったが、いまだにそこまで迷うことなくたどり着ける自信はないほどだ。今回は4月に竣工した『中央テクニカルセンタ』が会場になった。
その『中央テクニカルセンタ』は、今後は常設のショールームとして運用される(一部展示商品は名古屋に移動するという)。ファナックが常設ショールームを設けたことが、今回の一番のニュースだ。かつて同社は「ファナックのお客様は工作機械メーカで、サーボモータで社会に貢献するのが仕事だ」と定義していた。しかし、製造現場の知能化・情報化が進み制御技術が複合化してきたこと、また人手不足に伴いロボットなどの生産性向上目的の技術開発が進んできたことから、さまざまなアプリケーションが開発され、今回の展示会で紹介された。
まず会場の変化を見てみると、昨年までの会場だった『自然館』でのスナップを示す。


新しい展示会場『中央テクニカルセンタ』は会場内に置かれていた『会場フロアマップ』がわかりやすい。
1階では3分の2がロボットで3分の1がロボマシンだ。2階展示場に進む途中で1階展示場が俯瞰できた。

会場1階の俯瞰図(中2階から) フロア右側はロボマシン中心

2階から見下ろした1階会場。フロア左側にロボット中心の展示が並ぶ。
ロボットはいまの日本では急速に注目が集まっている。技術的には制御技術の進歩や人との共同作業を可能とした“協働ロボット”の登場もあるが、なによりも製造現場の人手不足が深刻だ。1980 年に『ロボット元年』と言われたころは、溶接や塗装の作業環境の厳しい現場で人に代わり、劣悪な環境で働いてくれる貴重な戦力として評価された。しかし現代は、現場の人手不足が深刻で、同時にロボットの制御技術が進化して、多様な現場に登場してきた。会場で紹介されていたのは、現場で活躍できるアプリケーションの数々だった。



『FA展示』


今回展の全体像
広範囲な商品群が展示・紹介されていたが、多すぎてフォローできなかったので案内状に紹介されていたアイテムを以下に列記する。あくまでも個人的な関心が基準であることをお断りしておく。
FA部門
最新のCNC・サーボシステム
●工作機械におけるフィジカルAIを実現:CNCと生成AIの連携インターフェース
●機械に応じ最適な構成を選択加工:Series 500i-A,FANUC iPC
●高速・高精度・省エネルギーのサーボラインアップ拡充:αi-D series SERVO
●超小型機械の駆動に最適なサーボシステム:低電圧駆動サーボシステム
工程集約・省力化
●段取り作業の効率化を強力に支援:工具管理機能
機械の応じた開発・カスタマイズ
●機械メーカ、ユーザで利用できるCNC上の自動調整機能:サーボ・スピンドル自動調整
FANUC Smart Digital Twin
●高精度デジタルツインをセキュアかつ柔軟に活用:CNCガイド2,加工面推定、CNCガイド2ライブラリ
ROBOT部門
●オープンプラットフォームによるフィジカルAI:生成AIによるロボット駆動など、オープンプラットフォーム・NVIDIAのGPUを活用したフィジカルAIのアプリケーション事例
●ロボットが初めてでも簡単に導入できる協働ロボット事例:ねじ締め、アーク溶接、パレタイズ、検査、機械へのロード・アンロード、小物部品組立、揺れるハンガーへの着荷・脱荷、ケーキデコレーションなどの実例
ほかに「ROBOMACHINE」「IoT」「SERVICE」「ACADEMY」の項目もあるが与えられた時間にでは取材できなかった。しかし「中央テクニカルセンタ」は常設ショールームとして機能するとのことなので日を改めて取材していくつもりだ。
「潮目が変わった」と表現したのは牧野もファナックもこれまでと企業経営に変化が感じられたからだ。未経験の「工場見学ツアー」に挑戦した牧野フライス製作所は情報開示が進むだろうし、ファナックはこれまでの「BtoBビジネス」中心から「BtoCビジネス」にもスタンスを置くだろう、と感じたからだ。うまく表現できないが“高級食材の成城石井”が“大手スーパーマーケット”に変身したような衝撃を受けた。国の内外で環境が大きく変化していく現在、各社とも“潮目”を読んで、適切なかじ取りをしなければならない時代になった。