ことラボ・レポート
DMG MORI 伊賀事業所でMXの成果を披露
産業技術は日進月歩で進化している。それは段階的に「手直し」「工夫」「改善」などと表現され、「改革」になると本格的な変更になる。一般的には、その進化を関係者が共有しなければならず、しっかり管理するためにバージョンを振り付けて管理している。
しかし、いまDMG森精機が進めている「MX」(マシニング・トランスフォーメーション)は、そうした「進化」のカテゴリーを超える「革命」だと記者は考える。具体的にMX Machineとしては5軸加工機、複合加工機、レーザ加工機などが入るが、ここで問題としているのは「機種」ではなくMXとしての使われ方で、それは機械加工の「常識」と思われてきたことから「革命」という表現を使うほど根本的な変化を提案しているからだ。そのように考える前提となる数字を以下に示そう。
DMG森精機の現状分析と 2050 年までのシナリオ
全世界で 2025 年現在、稼働する工作機械は約 500 万台で、1台当たりの年間稼働率は 1,500 時間だという。1年は 365 日なので 1,500 時間を 365 で割ると、1日当たり 4.21 時間しか稼働していないことになる。それは正しいか?
工作機械が活躍する場面というと多くの人は自動車工場でずらりと並んだラインで次々とワークを受け渡して休みなく加工している場面などをイメージするかもしれない。しかしこれは例外で、日工会の受注統計で受注額が一番高いとされる分野の「一般機械」は(この分野の稼働率調査は見たことがないが)、多分中小規模のユーザが多い。かつて金型工場を取材したときに、1日の機械稼働時間が3時間だと聞いて驚いたことがある。そうでなくても工作機械を使うときは、事前の調整に時間がかかる。月曜日の朝には何時間も“暖気運転”が必要だし、金型製造では“設計変更”や“特急割込み”で何度も機械が止まるという。すると年間の稼働時間を 1,500 時間というのは納得できるところだろう。
そうすると世界には1年間で 500 万台× 1,500 = 7,500 万時間分の仕事が流れていることになる。ネックとなっているのは稼働時間の短さだ。それを工程集約や自動化やデジタル技術の利用で稼働時間を延長しよう、と取り組んでいるのが「MX」:Machining Transformationだ。これは主軸の回転数を上げるとか治具を工夫して多数個取りができた、というレベルの話ではない。大げさに聞こえる人もいるとだろうが「哲学」レベルの変更だ。「哲学」という言葉は明治時代に英語のphilosophyに対応する言葉として生まれた日本語だ。日本では使いなれない言葉だが海外はよく使われる。固いイメージの「哲学」というよりも「ものの考え方」という意味にとらえたほうが良い。
その「考え方」の直地点は 2050 年までに、MXの成果で稼働台数を 100 万台に減らし、1台当たりの稼働時間を年間 6,000 時間に伸ばそう、という。これだと 100 万台× 6,000 時間で 6,000 万時間分の仕事しか処理できないが、そこは工程集約や自動化、デジタル技術などで対応する。
これは射程距離の長いテーマなのでプレスリリースを配布する程度ではカバーできない。そこでDMG森精機の取り組みとして開かれたのが「伊賀事業所記者見学会」だった。同見学会は7月3日に 10 時 30 分から 16 時 50 分までの本格的なプログラムが組まれた。コンテンツとしては①MXの現在地、②デジタル・自動化ソリューションの取組み、③加工3悪対策の取組み、④サステナビリティの取組みと座学が組まれ、その間に「工場見学」と森社長と製造業コンサルタントMr. Peter Hill氏との特別対談「不確実性の時代に製造業は何を“信じて”変革すべきか」が組み込まれた、内容の濃い企画だった。
伊賀事業所

MXという考え方を具体的に理解できるように企画されたのが、そのコンセプトで事業所内を改革している伊賀事業所(上掲)だ。同社の資料によると、世界最大級の工作機械およびキーコンポーネンツの生産拠点で、
●所在地:三重県伊賀市
●総敷地面積:578,000 ㎡
●建屋床面積:145,760 ㎡
●生産機種:複合加工機、5軸加工機、ターニングセンタ、マシニングセンタ
最新の決算報告書によると、高付加価値加工を実現するために注力する製品群は 18 %が基本的な工作機械(BX: Basic Machine)で、MX Machineが 85 %だとしている。
また今後に注力する産業領域は、成長産業だとして①データ・ハンドリング(精密・半導体など)、②航空、③宇宙、④金型、⑤メディカル、➅発電・エネルギーを挙げている。
このように「明日を見る」DMG森精機だが、コアとなる工作機械のツボはしっかりと抑えている。かつては「工作機械産業は組立産業」と言われるほど、主軸などのキーコンポーネント以外は調達品で、仕事は組立ばかりだ、と揶揄されていた。この日は「キーコンポーネント(主軸、刃物台、ツールチェンジャ)を日本から世界の向上へ発信」とあるスライドと「グループ会社のノウハウ結集:内製部品」のスライドにひかれた。この内製率は他社の追随を許さないのではないか。①主軸、②ツールチェンジャ、③精密位置決め用エンコーダ((株)マグネスケール)、④鋳物(ベッド、コラム)(DMG MORIキャステック(株))、⑤ダイレクト・ドライブモータ、➅オペレーションソフトウェアCELOS X/ヒューマンマシンインタフェースERGO line X(DMG MORI Digital(株))、さらにAIを活用した予兆保全、AMRなどの最先端ソフトウェア技術開発を担う(株)WALC、MRO(メンテナンス・レトロフィット・オーバーホール)・ライフサイエンスDMQP提供のプラットフォームを担うテクニウム(株)などのグループ会社がある。まさにオール・イン・ワンの体制だ。そして製品ラインアップは 195 機種に上る。そして「主軸」「刃物台」「ツールチェンジャ」のキーコンポーネントは、日本から世界のDMG森精機の工場に供給されている。さらにそれらの保証期間は5年間と絶対の自信をもって供給されている。
MXの具体例 ドローバー製造のリーダタイムは 14 日から 60 分!
工作機械の勘所ともいうべきドローバー(加工に使う工具を主軸に引き込み固定する装置)は、熱処理やメッキなどの時間のかかる工程があるのでリードタイムは従来では 14 日かかっていた。それをMXによる工程集約などで 60 分に短縮できた。

ドローバーのカット写真
従来工程
荒加工:1日→熱処理:2日→応力除去:1日→仕上げ加工:1日→クロムメッキ:8日→研削:1日
リードタイムは 14 日 クロムメッキは外注
新方式 『LASERTEC 3000 DED hybrid』を使用
第1処理:粗コーティング、仕上げ(研削):45 分→第2処理:粗仕上げ:15 分
リードタイムは 60 分
以上をまとめると、
●設備6台→1台
●11 工程→2工程
●熱処理・クロムメッキの廃止、設備不要、外注管理不要
●リードタイム:14 日→ 60 分 (コーティングリードタイム:8日→7分)
DMG森精機の提唱するMXの面目躍如たる成果を上げている。
続く工場見学会では入口に「MXによる成果」をパネル展示していた。
このあと自動化の取組みや地域への貢献紹介などが続くのだが今回は「前編」として、いったん終了する。次回をご期待ください。