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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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DMG MORIはシステムソリューション工場を本格稼働

2025 年 04 月 23 日

 DMG森精機株式会社(森雅彦社長)は4月 14 日、新たに整備された奈良事業所においてシステムソリューション工場の開所式を行った。
 開所式では山下真・奈良県知事などの地元政界要人ばかりでなく経済産業省製造産業局産業機械課の須賀千鶴課長そして有力サプライヤーのファナック・稲葉善治会長が祝辞を述べた。長年の取材経験で中央官庁の担当課長が、一企業の工場開所式で祝辞を述べるのを初めて聞いた。いま工作機械業界でもっとも元気の良いDMG森精機の勢いを感じる式典だった。

式典で挨拶する森雅彦代表取締役社長

祝辞を述べる経産省産業機械課・須賀千鶴課長

祝辞を述べる稲葉善治・ファナック会長

開所式会場

システムソリューション工場について

 “システムソリューション”という言葉は様々な場面で使われている。ではDMG森精機の場合はどのように考えているのだろうか。
 平均的な工作機械には、動力源のモータがあり運動の中心は“主軸”と呼ばれ、いくつかの駆動軸で構成した動きの中で、切削工具や研削工具を使い被削材を加工して目的の形状に仕上げていく。主軸は強い回転トルク、速い立ち上がりと安定した回転数、発熱制御などが追及されている。駆動軸は俊敏な挙動、正確な位置決め動作、俊敏な繰り返し運動が求められる。こうした機械本来の挙動の追求に加えて、周辺装置との親和性向上など新たなニーズが続々と続いている。それにも拘わらず、製造現場ではさらに複雑な能力を要求している。“システムソリューション”とは、それらニーズのさらに上を行く要求に対応することだと理解している。
 たとえて言うと個々の機械の能力向上とは別に、連係プレーの強化が求められるようになり、企業競争に打ち勝つためには、納入された設備はその日から稼働実績を上げることが必要な時代になったから。個々の選手の能力が高くても、連係プレーが下手だと得点できないしダブルプレーを奪えないチームになる。システムソリューション工場は、有能な選手を集めてチームの完成度を高めて、完成度の高い設備に仕立てて納品する完成品工場と言えるだろう。
 現場で使う工作機械などの生産設備を巡るメーカーとユーザーの関係は時代と共に変化してきた。かつては提供した加工機は、ユーザーが使いたいように調整して本番に臨んでいた。しかしコンピュータで制御されるようになり、各種センサが多用され始めて、便利になったが制御の仕組みや正しい使い方が判らなくなり始めた。ここが「特別なスキルを持たない人でも使うことができる」ことをアピールしている最近の技術の判らないところだ。
 NC装置のついていない工作機械は“汎用何々”と表現される。汎用旋盤とか汎用フライス盤のように。そのような加工機でも、主軸の回転数や送りの速さ、使う工具の特性や切削油などで使いこなすには経験が必要だ。それをいまではNCやセンサで“素人でも”加工できるレベルになった。すると加工法が複合化されたり軸数が増えたり、と“一段上”の能力が備わるようになった。その路線を力強く進めているのがDMG MORIの戦略だ。これを表すのが“MX”MACHINING TRANSFORMATION)という新しい言葉だ。具体的な例を同社の「統合報告書2024」より転用する(49 頁より)。
MXによる効果~伊賀事業所 ボールねじ加工の工程集約・自動化へ
■従来工程 5工程に分割
①円筒荒加工→測定→②ジャーナル旋削→測定→③円筒仕上研削→測定→④ジャーナル仕上→測定→⑤ねじ溝研削→測定
■新工程 1工程に集約
NTX2500 複合加工機 機内自動計測

 さらに視野を広げた説明がある。
 現在。世界には約 500 万台の工作機械が稼働している。そのうちDMG製は約 30 万台ある。これをMXの考え方で工程集約、自動化を進めれば、2050 年代までに世界は約 100 万台で、現在と同じ生産能力を実現することができる。それらをコンセプトとしてまとめると…。
工程集約:複数台で分割していたターニングおよびミーリング加工のほか専用機によるギヤ加工や完成ワークの計測などを1台に集約。
自動化:手間のかかる段取り作業からオペレータを開放し、夜間や休日シフトを活用した機械の稼働時間の長期化を実現。
GX(GREEN TRANSFORMATION):設備面積の縮小と中間在庫(仕掛品)の削減、加工不良品の提言を通じた、経営資源と消費エネルギーの有効活用。
の三段論法になる。
 この考え方には全面的に賛同する。2月 12 日付の「ことラボSTI」の「視点 現場に残る魔法の粉」には、ニデックの牧野フライス製作所に対する敵対的TOBについてふれたが、その中に以下のようなくだりがある。
 ニデック側から考えると、工作機械産業に内在する問題が見えてくる。それは、企業価値が、本来の力に比べて安すぎることだ。株価も人件費も安い。狙われる隙だらけだ。かつてある長老から「私がGMのトップだったら日本の工作機械メーカーの何社かをテイクオーバーするのにGMは何をやっているのだ」と言われたが、ニデックはそのGMがやるべきだ、と言われたことを実行しているだけだ。それは工作機械業界が自ら提供できる利益・価値を低く見積もり過ぎていることから始まっている、と。
 日本の近代産業が、欧米からの輸入品で始まったので「早く売って現金化したい」体質をもたらし、安く売ることに繋がったと思っている。ここで紹介した森雅彦社長の考え方は、その軌道から、日本の産業界を一段上に押し上げるものと思う。奈良事業所のシステムソリューション工場は、工作機械の“単体売り”から、試合に勝てる“チーム売り”にビジネスを深化させるものだと確信した。

システムソリューション工場

【奈良事業所 概要】
住所 : 奈良県大和郡山市井戸野町 362 番地
開所日 : 2025 年4月
延床面積 : 約 40,000 ㎡(うち、自動化システム構築エリア約 20,000 ㎡)
社員数 : 約 220 人(システムソリューション工場、自動化開発部門)
投資額: 約 90 億円(建物・設備)
建物: 工場棟 1階建て(北工場、制御盤工場、南工場)
事務所棟 6階建て(1-2階 応接室・打ち合わせ室、3-4階 オフィスフロア 5-6 階 セミナールーム、カフェ)