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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

ことラボ・レポート

展示会について考える2025年上期

2025 年 02 月 26 日

 企業の販売促進活動の中で展示会などのイベントに参加するのは“効果的”な手法だと思われている。それは①自社製品のPRに、②ユーザーに直接会える、③社名や製品名を知ってもらえる、④ユーザーと意見交換できる、⑤普段では出会えない人の出会える、⑥展示会出展に向けて社員の意識統一ができる。などなど、出展者の事情は様々。
 使われる展示会場は各種イベントが花盛りで、多忙を極めている。いまの展示会は“百花繚乱”とでもいうのか、主要な会場では、ベストシーズンと言われる春や秋はもちろんのこと、夏や冬など展示会にベストとはいえない季節でも会場はほぼ埋まっている。昨今ではこの季節でさえも抑えられない。
 ここ数年、新型コロナの影響もあり展示会ビジネスはリセットされたと見ている。既存の展示会を比べてみると、出展者も来場者も戻ってきた、との安堵の声で、変化を意識する声は少ない。だがリモート開催の利用や事前の情報提供に情報サイトの利活用を積極的に進めている出展者も増えているのは事実だ。
 しかし最近の展示会に取材に行くと“違和感”を感じることが多い。新型コロナで受けた影響だと思っていたがそれだけではないらしい。その正体を考えてみた。

違和感の正体

 これまでの展示会は、判りやすいテーマがあり特定の分野の製品が集中的に展示されていた。その分野に課題を持つ人が解決策を求めて来場する。あるいは逆に、特にテーマはなく、何か掘り出し物があれば儲けものだ、くらいの気持ちで来場する、など。ところが近年、ある種の展示会では、地方公共団体が地域の企業を束ねて「○○市」や「××県」で参加している。しかしその地域にある企業は、「地域的な共通項」はあっても、生産品目はバラバラだろう。来場者は「品川区の製品」を買いたいのではなく、自社の仕事に直接必要なものを探しているのではないか? そうした目で見てみると、やはり“地域的な共通項”以外には索引になるものはない。そこに参加している企業のメリットは何か?
 一方、そこで展開されている展示会企画は幅広く「何でもあり」の広い網をかけている。「ものづくり」という言葉が登場したとき「製造業でいいではないか」という声とは裏腹に「ものづくりニッポン」は実態の伴わないムードだけが先走りしている。“ものづくり展示会”を歌えば潜在的なユーザーに巡り合えるとの妄想を掻き立てるので“取りあえず”参加しようと考える。
 しかし新聞・雑誌に広告を打つことに比べて展示会に参加するには時間も経費も人件費も数倍から数十倍もかかるのに、しかも出展した効果を計測することは不可能に近い。
 貴重な経験をした。初日の来場者数が発表された2日目の朝、出展責任者から呼び出された。「あの数字は本当か? そちらも事情があって本当の数字は発表できないのだろうが、展示場のこの位置で、来場者から得られた名刺の数から推計すると、とても発表された来場者数とは思えない。このまま報告書に使ったら次回からこの展示会への出展は認められない」と。主催者に確認しても発表は変わらず日本IBMは二度と出展者にはならなかった。板挟みになった私は困ったが、このことから多くのことを学んだ。
 まず、主催者が発表する来場者数はほぼ信頼できない。結果報告書には必要とは思うが、大事なことは展示会全体の来場者数よりも、自社の小間に来たお客様の数だ。そこで出会った新しい人脈がユーザーとして売り上げに結び付くまでのプロセスをモデルを作ってフォローする。しかしそのような企業はあまり見かけない。
 その前に出展コスト全体を、小間で獲得した名刺の数で割った数字を押さえます。つまり「名刺1枚を獲得するのにかかったコスト」を導き出し、その展示会のコストパフォーマンスを「見える化」する。当該製品の価値をどのように評価するかは、それぞれの企業のノウハウだが、ライバル製品の有無や開発された機能の価値判断が大事だ。しかしどれほど優れた製品でも“売れてこそ”というのがビジネスの至上命令だから。そこを的確に市場に紹介できるか、が出展者の“腕”にかかっている。
 さて出展者側の取り組みに一定の方向性が見えたら次は、どの展示会に参加するかだが、現在は、町おこしだ、連帯強化だ、とあの手この手でイベントが企画されている。展示会は、販売促進活動としては企業が最も力を入れている。展示会ビジネスの活性化を物語るように、各地のコンベンションホールは日程が目白押しで、新しい企画押し込むことがなかなかできない状況だ。
 一口に「展示会」といってもいくつかのタイプがある。大手の機械工具専門商社が傘下の販売店網を束ねて開催するタイプの展示会だ。山善の《どてらい市》やユアサの《グランドフェア》だ。時代の変化にそぐわないという声もあるが、販売店会のお祭りのような側面もあって、往時の賑わいは薄れたが今年も下記のようなスケジュールで行われている。

卸商社の販売促進展示会

《ユアサのグランドフェア2025》

地域 開催日時 会場
関東グランドフェア 7月3日(木)~4日(金) 幕張メッセ (千葉市)
東北グランドフェア 7月 24 日(木)~ 25 日(金) 夢メッセみやぎ(仙台市)
中部グランドフェア 9月4日(木)~5日(金) ポートメッセなごや(名古屋市)
九州グランドフェア 9月 11 日(木)~ 12 日(金) マリンメッセ福岡(福岡市)
関西グランドフェア 9月 18 日(木)~ 19 日(金) インテックス大阪(大阪市)

2024 年 10 月 23 日発表のニュースリリースより作成

《山善のどてらい市2025》

地域 開催日時 会場
幕張どてらい市 2月 21 日(金)~ 22 日(土) 幕張メッセ (千葉市)
北関東どてらい市 3月7日(金)~8日(土) Gメッセ群馬(高崎市)
静岡どてらい市 3月 14 日(金)~ 15 日(土) ツインメッセ静岡(静岡市)
東北どてらい市 4月 11 日(金)~ 12 日(土) 夢メッセみやぎ(仙台市)
中部どてらい市 6月5日(木)~7日(土) ポートメッセなごや(名古屋市)

「どてらい市」(https://www.doterai.com/)から編集・作成

2025 年上半期の展示会

 さて今年の展示会にはどのようなものがあるのか調べた。以下は、日本貿易振興機構(JETRO)が発表している「世界の展示会」ファイルの日本の展示会情報から製造業に関連するものを抜き出した(https://www.jetro.go.jp/j-messe/)。

資料の見かたは、
☆(開催日):《展示会名》【主催者名/連絡先】会場:(展示会場名)、同時開催展(構成展示会)
となる。

2025 年3月

☆3月5日~7日:《グラインディングテクノロジージャパン2025【主催:日本工業出版㈱】会場:幕張メッセ

2025 年4月

☆4月9日~ 11 日:《第 10 回ものづくりワールド(名古屋)》【主催:RX Japan㈱/jmw-visitors@rxglobal.com】会場:ポートメッセなごや
同時開催:《第1回設計・製造ソリューション展/第1回スマートメンテナンス展/第1回製造業サイバーセキュリティ展(名古屋)》
☆4月9日~ 11 日:《第6回関西物流展》【主催:関西物流展 実行委員会】会場:インテックス大阪
☆4月16 日~ 18 日:《インターモールド2025》《金型展2025》《金属プレス加工技術展》:【主催:(一社)日本金型工業会/https://www.intermold.jp/】会場:東京ビッグサイト
☆4月 23 日~ 25 日:《光と画像のセンサ&イメージングEXPO【主催:NPO法人日本フォトニクス協議会/(一社)レーザー学会/(株)オプトロニクス社/event@optronics.co.jp】会場:パシフィコ横浜
同時開催:《光源・光学素子EXPO 2025
☆4月 23 日~ 25 日:Japan IT Week 春2025》《Japan DX Week 春2025【主催:RX Japan㈱/cj.jp@rxglobal.com】会場:東京ビッグサイト

2025 年5月

☆5月 14 日~ 16 日:《関西Factory innovation Week 2025【主催:RX Japan㈱/mw-j.jp@rxglobal.com】会場:インテックス大阪
~製造の「デジタル化」を実現する[関西]スマート工場 EXPO、「自動化」を実現する[関西]ロボデックス、「脱炭素化」を実現する[関西]製造業カーボンニュートラル展、製造業の「人材不足対策」に焦点を当てた[関西]製造業 人手不足対策 EXPOの4展により構成。
 さらに同時開催展として《第1回関西ネプコンジャパン》《第 13 回高機能素材Week大阪》《5th Photonix 大坂》《第1回リサイクルテックジャパン大阪》が開催される。
☆5月 15 日17 日:《MEX金沢2025(第 61 回機械工業見本市金沢)》【主催:(一社)石川県鉄工機電協会】会場:石川県産業展示館(1・3・4号館)
同時開催《ビジネス創造フェアいしかわ2025
☆5月 21 日~ 23 日:《人とくるまのテクノロジー展 YOKOHAMA【主催:(公益)自動車技術会】会場:パシフィコ横浜
☆5月 28 日~ 30 日:Japan IT Week 名古屋》【主催:RX Japan㈱/cj.jp@rxglobal.com】会場:ポートメッセなごや
同時開催:Japan DX Week名古屋》《営業・デジタルマーケティング Week 名古屋》と合わせて3つの展示会で構成される、中部地方 最大のIT・DX総合展。
☆5月 28 日~ 29 日:《第 14 回次世代ものづくり基盤技術産業展》【主催:名古屋国際見本市委員会/https://www.techbizexpo.com/contact/index.html】会場:吹上ホール(名古屋)

2025 年6月

☆6月4日~6日:《電子機器トータルソリューション展 2025【主催:(一社)日本電子回路工業会/jpcashow@jcs-c.com】会場:東京ビッグサイト(東)
同時開催:JPCA Show》《マイクロエレクトロニクスショー》《JISSO PROTEC(第 26 回実装プロセステクノロジー展 2025)》《AIデバイス展》《WIRE Japan Show(電気・光伝送技術展)》《Electronics Component & Unit Show》《E-Textile/Wearable展》
☆6月5日~6日:《関西ロボットワールド2025【主催:関西ロボットワールド事務局/info@srobo.jp】会場:インテックス大阪
同時開催:《第9回サービスロボット展》《第8回産業用ロボット展》《第5回次世代モビリティ展》《新・宇宙開発ビジネス展》

2025 年7月

☆7月2日~4日:《西日本製造業技術イノベーション2025【主催:(公財)北九州観光コンベンション協会/https://kyushu-tf.solution-expo.jp/toiawase.php】会場:西日本総合展示場
☆7月9日~ 11 日:《第 37 回ものづくりワールド(東京)》【RX Japan㈱/dms-tokyo.jp@rxglobal.com】会場:幕張メッセ
同時開催(RXは“構成展”と呼ぶ):新規開催 展示会は2件:《スマートメンテンナンス展》《製造業サイバーセキュリティ展》。従来からの構成展は以下の通り。《設計・製造ソリューション展》《機械要素技術展》《ヘルスケア・医療機器 開発展》《工場設備・備品展》《次世代3Dプリンタ展》《計測・検査・センサ展》《製造業DX》《ものづくりODM/EMS》《製造業サイバーセキュリティ展》《スマートメンテナンス展
☆7月 16 日~ 18 日:《人とくるまのテクノロジー展2025 NAGOYA》【主催:(公益)自動車技術会】会場:アイチ・スカイ・エクスポ
☆7月 16 日~ 19 日:《MF-TOKYO 2025 第8回プレス・板金・フォーミング展》【主催:(一社)日本鍛圧機械工業会&日刊工業新聞/mftokyo@nikkan.tech】会場:東京ビッグサイト
☆7月 23 日~ 25 日:《TECHNO-FRONTIER 2025》【主催:(一社)日本能率協会/ tf@jma.or.jp
会場:東京ビッグサイト
同時開催(構成展示会):《モータ技術展》《メカトロニクス制御技術展》《パワーエレクトロニクス技術展》《モーションエンジニアリング展》《電源システム展》《カーボンニュートタルものづくりに向けた未来のバッテリー技術展》《EMC・ノイズ対策技術展》《熱設計対策技術展》《“つながる工場”推進展》《工場内のシステム見える化展》《工場内のデジタルトランスフォーメーション展》《スマート工場内の搬送系および協働ロボット利活用展》《部品設計技術展》《部品加工技術展》
☆7月 23 日~ 25 日:《第4回 東京振動・騒音対策展》【主催:(一社)日本能率協会/ hs-osh@jma.or.jp】会場:東京ビッグサイト
☆7月 24 日~ 25 日:《EdgeTech+West 2025》【主催:(一社)組込みシステム技術協会】会場:グランフロント大阪
☆7月 24 日~ 25 日:《ケーブル技術ショー2025》【主催:(一社)日本CATV技術協会/(一社)日本ケーブルテレビ連盟/(一社)衛星放送協会/https://www.catv-f.com/】会場:東京国際フォーラム

2025 年9月

☆9月3日~5日:JASIS 2025:【主催:(一社)日本分析機器工業会/(一社)日本科学機器協会:jasis-sxhibit@nex.nikkei.co.jp】会場:幕張メッセ国際展示場・会議場
☆9月 10 日~ 12 日:《国際物流総合展 2025【主催:(一社)日本産業機械工業会、(一社)日本物流システム機器協会、(一社)日本産業車両協会、(公益)日本ロジスティクスシステム協会、(一社)日本パレット協会、(一社)日本能率協会、(一社)日本運搬車両機器協会】会場:東京ビッグサイト
☆9月 10 日~ 12 日:《測定計測展》【主催:日本光学測定機工業会/日本精密測定機器工業会
会場:東京ビッグサイト
同時開催:《センサエキスポジャパン2025》《TEST2025(第 18 回総合試験機器展)》《第 27 回自動認識総合展》《2025 知財・情報フェア&コンファレンス》
☆9月 17 日:《センサエキスポジャパン2025》《TEST2025(第 18 回総合試験機器展)》《第 27 回自動認識総合展2025》《知財・情報フェア&コンファレンス

展示会に対する考え方

 JIMTOFやロボット展には、関連する製品・技術が展示されるし来場者もその関係者だ。問題はRX Japan㈱や能率協会の展示会だ。射程距離の長い言葉をタイトルに置いてその下に「構成展示会」をつけ足していく。また「ものづくり展」的な企画では公共団体が胴元になって雑多な分野の出展企業をまとめて小間を作る。目的を持って会場に来た人には、煩わしいだけだ。主催者は、せめて求める出展製品に辿り着けるような索引機能を充実させた会場案内を作成して、希望者が参照できるようにしたほうが良い。
 RX Japan㈱は商魂たくましく、出展者のブースに毎日、担当者が夕方やってきて「本日の成果報告」を求めながら、次回展にも出展するように勧誘を続けるそうだ。展示会主催者と出展者は協力し合って展示会を盛り上げるもの、と思っていた私には、主催者は自社の業績を追いかけるだけで、出展者の気持ちと乖離していると感じている。最初の写真は、開催中の展示会の入り口に「いま、次回展への申し込みをすれば好きな場所を取れます」と、グイグイやってくる様子。頭が下がる。