ことラボ・レポート
THKのJIMTOF基調講演:『ものづくりに夢を!THKが挑戦する新発想EV』
今秋開催されたJIMTO2024では多くの企画が実施されたが、その中で初日に開催された基調講演:『ものづくりに夢を!THKが挑戦する新発想EV』には、さまざまな観点から注目した。このテーマは一企業が新規分野に挑戦する、という形で理解すると大事な点を見落とすと思う。
THKは、創業時から足回り部品を中心とした自動車部品を製造している。同社が創業 50 周年を記念して編纂した記念誌『今を最善に』を見ると、創業以来着々と“リンクボール”と呼ばれる足回り部品を中心に自動車部品事業を担当する『輸送機器事業部』が堅実なビジネスを紹介している。
これを頭に入れておかないと、THKの四輪車進出は突拍子もない展開と思われてしまう。まずここから説き起こそう。
輸送機器事業~本格参入とダイナミックな展開
THKの事業の多角化
THKは創業 30 年から 40 年にかけて、3つの事業部を新規事業展開のもとに立ち上げた。1999 年2月に立ち上げたFAI(Future Automotive Industry)事業部はその中のひとつだ。
FAI事業部は「未来の自動車産業」に照準をおいてスタートしたが、のちに発展的解消をして今日の輸送機器統括本部に拡大していった。THKは設立当初からリンクボールをトラックや納期のメーカーに納入していた。自動車業界に出入りするなかで少しずつ製品群を増やし、カーブで車体を安定させる「スタビライザー」のヒットから実績を積み、事業としての体制が整っていった。1999 年の事業部設立当初は、本社5人、山形工場5人の計 10 人でのスタートだったが、事業部設立を機に、さらに海外への営業活動を強化していった。
その結果、フォードからスタビライザーリンクを受注した。フォードは、米国国内での生産を強く要求してきたことから、米国の生産拠点(TMA)に専用ラインを4ヵ月間という短期間で立ち上げた。製品品質や納期を守ることなどの努力がフォードから評価され、THKはサプライヤー会議で表彰された。THK社内でも自動車部門は次第に存在感を発揮しだした。その後、舞台は欧州にも広がっていく。欧州ではダイムラーとBMWに狙いをつけた。ブランド力の強い企業が納得出来る品質にするのに5年を要したというが、そうした努力の結果、2007 年にTHKリズムグループ、15年にはTRAグループを傘下に入れ、15 年には輸送機器統括本部にまで成長した。
THKは、以上のような歴史を持つ“自動車部品メーカー”で、今回の新コンセプトの自動車開発は、「寝耳に水」のような話ではない。


それらの実績の結果、現在の主な製品群は、下のイラストで示されている。
部品は右上から時計回りに「車高センサ用ジョイント」「スタビライザーコンロッド」「サスペンションボールジョイント」「ステアリングリンケージ」「ステアリングタイロッド」「サスペンションアーム」
JIMTOF対談
以上のような状況を理解したうえでJIMTOFの基調講演を振り返る。
中村(中村史郎・㈱DESIGN PLATFORM代表取締役CEO):今回はこういう形で前例のない開発を手伝わせていただいたのですが、正直言ってここまでやるとは思っていなかった。最初はよくある部品メーカーさんが作られる展示会向けに出品するためのモックアップみたいなものなのか、ほんとうによくわからなかった。本当に本気のクルマですね。ここまで本気になった理由というのはどういうことだったのですか?
寺町(寺町彰博・THK㈱代表取締役会長):私ども直線運動案内の製品を作ったときに「あんなものは使えないよ」と言われ、なかなか使っていただけなかった。そのときに自社の設備に入れて製品を使いそれをお客様に見ていただくと、それがきっかけで工作機械分野への道が開けてきた。いろんな局面で新しいものというのは「やって見せる」ということが非常に重要だなと思っている。
たまたまTHKは自動車部品「リンクモーション」を創業の時からやっている。部品ではありますが「究極のアクティブサスペンションを開発したい」という海外のメーカーとコラボして、このアクティブサスペンションというものの開発に取り組んだ。結果的にいうと大変すばらしい製品が出来たのですが、あまりに素晴らしすぎてドライバーが危険を予知できない、乗り心地が良すぎてコーナリングでどれだけスピードが出ているかわからない、ということでスピンしたりして駄目でした。そして我々のパートナーはこのアクティブサスペンションからは撤退をされました。けれども私どもはそこで得た知見を一生懸命育ててきた。
そしてたまたま 2008 年ごろだったと思うが慶応大学の開発した「Ellica」(エリーカ)という8輪車のEV車、これに乗ることができた。運転させていただいてあまりにも素晴らしいクルマ、これに感激しまして少しでもお手伝いできたらということで参加した。それからこの後説明しますけれどもインホイールモーターの開発に結びついていく。
このような製品を開発してきたけれど、なかなかそれを受け入れられる時代ではなかった。そんな中 2016 年だったと思いますけれども、先ほど言ったCASE(コネクティッド、オートノマス、シェアド、エレクトリック)という言葉が出てきて、EV中心の時代になる指針が出てきた。「コネクティッド」と「オートノマス」というのがキーですね。基本的に言うとドライバーではなくコンピュータが制御をするという形になる。別に人が危険を察知しなくてもコンピュータがセンサで察知すれば安全に回避できる、危険を回避することが出来る。そうするとこれに追随出来るような今までできなかった、逆に言うと適当に運転していると駄目だったものが生きてくるのだろう、という形でこの部品をさらに強化してきた。そして中古車を買っては着けていろんなテストをしてきた。ただなかなか新しいことを受け入れていただける要素というのは少ないので、産業機器と同じように1台作ろうかということになった。
実をいうとこの「05」これは展示会用として作っていただいた。けどもう一台「04」という車~これは実車として走ってテストしている車になります。今回この展示会では「04」を展示させていただいている。ちょっと「05」はよそに行っていたものですから、このJIMTOFには間に合わなかった。我々は、この自動車に我々のアイデアを浸透させていこう、ということで始まったのです。


中村:これは本当に縁があってご一緒させていただいた。最初に寺町会長にお会いした時にはクルマをどのようなものにするか全く決まっていなかった。それで寺町会長の思いと私たちもこういった得難い機会をコラボしていった。今までの展示車とは違う物、それからこういったEVというのは海外でよく発表されるけど、そういったものに負けない、それどころかそれよりもっといいものにしたいと思っていました。
目指すは“高級車路線”
中村:結果的に、こういう高級車というわけではないけど非常にゆったりとしたクルマになった。このへんの出来上がりについて、クルマ好きの寺町さんはいかがでしたか?
寺町:実をいうとCASEという言葉を聞きながら輸送機部門の中で、この自動車の開発をやる部隊を作っていこうと始まった。実際に昨年のJMS2023(ジャパンモビリティショー)に出品をしようと、このプロジェクトに予算を付けた。最初に計画に上がったのは軽自動車みたいなクルマを作ってできるだけ安価に売ってしまおう、というのが技術や開発部隊からの提案だった。しかし我々が載せたい、いろんなことをやらなきゃいけない、そうした部品が沢山あるだろう。それを乗せるには小さい車では制限がありすぎて、それに取り組むのは無理だ。またせっかく出すのなら、みんなが欲しいなと思うクルマにしなければいけない。そうするといろんな制限をできるだけ小さくしないと、もし制限が大きくなると、評判が良くて量産を前提にするときに制約になってしまう。そのためにやはり高級車みたいな形でやる。高いクルマにすると最初から生産台数も伸びないし、もし市場に出したら、またそういう人たちというのは余裕がありますから、少々何かあっても「面白いな」ということで喜んでいただけるのではないか。という形で考えて、ちょっと3倍くらい予算を増やして、なにしろやるのは展示用だけではなくて実車テストできるタイプと2台作るということでスタートした。
中村:予算を3倍にされたという話でして、私たちも最初に見せていただいた。本当に思い切ってやりたいことを全部やりましょう、会長の「3倍出していただける」こと、その結果、正直言って、思う存分プロトタイプを作れた。そいう機会はそうはない。私もいすゞ、日産とそれからほかのメーカーさん、トヨタなども作った。それこそ 50 台じゃじゃ効かないですけど展示会用モデルで言えばねトップクラスでしたね。
ここまでしっかりと作り込んだ車というのはね本当に珍しい。海外でも珍しい。あの展示会に出しても海外のデザイナーとかモデラーとかはみな感心してくれます。結局、最初から今言われたコンセプトを正しく考えてあることが大事で、そこで我々も一緒にコンセプトを考えさせていただいた。
まずはこういうスケッチから、簡単ではないですけど結構書き込んでいます。こういうスケッチをやってこういうプロセスのいわゆる日本のメーカー、あるいは海外のメーカーとやるのと全く同じ。一切プロセスは省いていない。時間はそれなりにかかりましたけど、そういったところから一緒に開発の皆様、寺町会長に要所要所を確認して、これがほぼ最終のデザインです。
こうやってみても、このプロセスが大事だ。絵は良いけども物はたいしたことない、実はそういうものはいっぱいあります。このクルマに関して言うと、絵からさらに時間をかけて、これはもう最終に近いのですが、このインテリアでは、細かいことで言いますと、助手席側のシートレールが両側についています。実をいうと展示会用車にはそれがないのです。「ステルスシートスライド」でレールが見えない。これも最初は、我々は何度かTHKさんが持っているスライド技術をアピールしようということで見せていたのです。しかし見せないほうがもっとアピールになるのではないか、ということで開発の方といろいろやって最終的に、後でご紹介されますけど、「夢のような」何にもないのにシートがスライドする。こういうことが可能になった。これも本当に開発の方と一緒にいろんなアイデアを出して、デザインして終わり、とかいうことではなくて、クルマをつくる。量産することは決まっているわけではないですけど、ひょっとしてこのクルマが量産されても、それを可能なクルマにしたい、というのが我々開発と寺町会長と共通していました。そうすることで逆に、ここに放り込まれている技術が本物になる。量産されないような簡単なモックアップ技術が入っても、それはできるよねと。展示会用なら、いくらでも、そんなのできるよねって、ことになるんですよ。ここでやっているのは展示会用のレベルを超えることによってここに放り込まれている、インテリアだけでなくてパワートレーン、サスペンション全て含めて、そういった性能も含めて、どれだけリアルな技術であるか、ということを訴求するためにもデザインを極めてリアルにする、といったことをやってきました。これは途中で、クレーモデルですね。普通クレーモデルを作ることは、こういうプロジェクトではなかったのですが、このプロセスではそこも全く省略することなく、すべて下側はクレーモデルにちなみに色が塗ってある。フィルムも張ってある、こういう非常に大事なプロセスを其のまますべてやることによって、最終的なモデルが決まり、何回も見ていただいていますけどどんな感じですか。
寺町:予想以上に素晴らしいので、リクエストもしましたけれども、見て感激をしました、これならいけると実際に強く思いました。
技術とデザインのがっぷり四つ
中村:そういっていただけると本当にありがたい。我々やっぱり技術をやっている人とデザインの両方一緒に作っていく、そういう気持ちになるためにもデザインって言うのはとても大事で、もちろん世の中の人の評価もありますけど、一緒にやっていくTHKの皆さんに気に入っていただけていることは、やっていてもひしひしと感じました。こういったパートナーシップというのは簡単なことではなくて本当に貴重な体験で、逆に言うと、こういうことが日本ではほとんどないと思います。私が知っている限りではここまで日本で技術を開発されている会社と我々のデザインする会社ががっぷり四つで開発して最後までこういうプロトタイプにした前例はほんとにないと思いますね。
寺町:ありがとうございます
中村:これでひとつ出来上がってこのあといろんなことがあるのですが、あとででてきますね。
寺町:そうですね、中村史郎さんと知り合いになったのは、先ほど言いましたように予算があって、というだけではなくて、我々部品屋ですのでやはりクルマに対して様々な知見をいろいろな人とコラボレーションしなさい、それから外部に頼ることはしっかり頼りなさい、と言った中で、数社デザイン会社がある中で、彼らがSNDPさん中村史郎さんを紹介してくれて、お会いして意気投合して、その時すこし見せてもらったものが私の欲しいクルマに近かった。それから楽しい期間を迎えさせていただいています。
ここで少しご紹介したいと思います。20 数年前から、この究極のアクティブサスペンションというものを「アレックス」という名前で開発してきました。実際にクルマの重量とか衝撃を受けてなおかつアクティブに動かす、すなわちコンピュータのコントロールによって動かすことが出来る、といった形でこのアレックスとMRDT(MR流体減衰力可変ダンパー)といった二つの製品を組み合わせることで、これを実施しています。
もう一つはさきほど言ったようにEllica(エリーカ)から勉強させていただいたインホイールモーターを改良したものです、これは私共独自でずいぶん長いこと色々と開発をさせていただいてきています。インホイールモーターというのは車輪の中にモーターが入りますのでクルマの余裕スペースというのができます。繋ぎの部分という部品がなくなりますので、ただ問題は非常に大きな力を受けなきゃいけないということになります、それともうひとつはこの私どものインホイールモーターは実をいうと芯になる部分がスライドするようになっています。一番この吸着力の強い部分って言うのは最大のトルクを出すことが出来る。これはあの低速スタートから低速で走るときには大変トルクというのは重要です。だが高速で走り始めますとトルクが強いと自転でドンドン走るときにはモーターが抵抗になってしまう。それを今度、逆に言うと磁力を弱くスライドさせることによってコアの接点を狭くしてトルクを小さくして軽く回転させると、いう形で省エネになる、とこういうような形で開発したものです。
先ほど中村史郎さんの話があったように、これはまさに両社のコラボによる製品です。私どものガイドを背中合わせに合わせにして、そしてブロックの部分を床につけることでレールが一切表面に出ないでシートの中に隠れてしまう。このようにしたものです。今回のクルマにはこの3点を大きな目玉として採用させてもらいました。それとこのクルマをつくるに当たって大事な要素として指示したことがあります。たとえば我々の部品がいくらよくてもスペースという物の制限を与えないと機能を満足させるためにドンドン大きくなっちゃうのですね。
しかしやはりクルマという物の機能というのがありますから、それを確保するために制限したのがトランクのところ。ここはきつく言いました。大きいトランクが3本入るように、家族で旅行するときにはみんなで行けるように。それから、もしゴルフバッグを積むならスーツケースを2本とゴルフバッグ二人分積めるようにしろと。これによっていろいろな製品に対して制限を与えられて技術部門、開発部門は大変でしたけど、この条件の中でやっていく。これをやっている中でさらにいろんなことがわかってきた。ちょっとここではお話しできませんけども、やはりその解決策というものも色々と作っていくということがありました。そんなことによって今度は中村さんのほうで設計を細かく合わせながらやってくれた。
中村:このレイアウトというものはものすごく大事で、パッケージに書いていますけど、こういったようなものをプロポーションとパッケージがよくないと、いくらあとでデザイン、皮を変えても恰好良くならない。ですから、最初にこのパッケージングとプロポーションをしっかりと決めるというのをこのプロジェクトでは初期段階で詰めました。寺町会長が言われたようにトランクの大きさインホイールモーターということはサイドに分かれていますからこのトランクスペースをどれだけ有効に取れるかというのが、本当に大きなメリットなんですけども、インホイールモーターの大きさがやはり大きすぎてわれわれの悩みで、スーツケースが入らないからもうちょっとつめて、ということで、ここはだいぶサスペンションとかモーターのサイズだけでなくサスペンションの構造形式すべて寺町会長経由で何回も見直されて、だからこそ、何度も言いますけどもこれは単なる技術のモックアップではない。実用化されるべき要件が全てサスペンションやサイズに反映されて最終的にスタイリッシュなプロポーションと書かれていますが、クルマの佇まいがいいものになった。こういった開発というのは量産では普通に行うことですが、こういった展示会用モデルではでここまでやるということはあまりない。でこれを私たちから見ると、よくTHKさんがそこまで開発をリアルにされているなと感じました。こういうのってどうですか、開発していくアウトプットですね技術が出てくるんですけども、それ以外の途中コラボレーションやることに社内でいろんなチームがいっぱいいらっしゃると思うんですけど、その辺はどうだったんですか。
寺町:そうですね今回やって最大の社内のリテイクというのは、私どもも産業機器の中でも実際には機械装置部品の部隊や汎用系の部門とか消費財に近いような製品を担当しているものもあれば「免震」と言われる部門もあったりして、社内で組織が少なからず縦割りになっていたのですが、今回の開発に当たって例えば「流体」って形で免震関係やっているところの技術がMRDTに使われたりしています。あらゆる部門の所がひとつの車づくりの中に参画してマルチファンクショナルな形で交流ができた。といいますか、これまでも形ではいろいろ言ってきましたが実際に本当に応用としてやるとなると今回が初めてな気がします。またこのコラボレーションが次に大きく発展するといいなと思っています
中村:やっぱり一つ目標を持ってやっていくことでいろんな交流がクロスファンクションが行われるようになった。私もさんざんクロスファンクショナルなことをやってきたのですが、結果的にこういう物だけじゃなくてそういうものが社内に残されたというのは嬉しいですね。我々としても一緒にやらせていただいて光栄に思います。
寺町:ありがとうございます。その結果、昨年の 2023 年のJMS(ジャパンモビリティーショー)に出展することができました。中村さんとスタートして約2年半でしょうか、それから実車のテストカーというものを作ることができました。やはりスピードをもってできたということは、目標を持つと強いものだなと改めて感じたわけです。
(ここで動画が流れる)
LSRを作るのに中古車をつぶしてきて「04」「05」を作ってきた。次にこれを海外、特に目の肥えた欧州で披露しようと考えた。
中村:これを海外に持っていくというのは、モデルを作るだけではない、と本気を感じました。海外に行けば私の知り合いのデザイナーなどにも見てもらえるし彼らの意見も聞くことができる。パリのモーターショーにLSRを出展したのですが、そのおかげで多くのデザイナーと旧交を温めることができました。彼らから良い評価を貰ったのですが、パリに出展したのは非常に有益でした。
触れることのできる展示会
中村:実は、多くのモーターショーが終了となり、昔風のモーターショーというのはパリだけになってしまいました。ジュネーブも今年で最後です。THKさんのブースも中国メーカーが周りを囲み、ほとんど全部PHV、いわゆるバッテリーVでメインのホールもルノーとプジョーシュトレーン、フランスのメーカーがやはり一番多い。日本ではなかなかEVって普及するのが難しい。ヨーロッパも一時全部EVにするというEUの方針が見直されて確かに少し思っていたよりも普及が進まないというのが事実。一方で着実にEVのもともとは大型EVなどが多かった。今回のパリのモーターショーに出ていたのは、小型も含めて非常に幅の広いEVというのが出ていて、おそらくヨーロッパとか中国とかもものすごく進んでいます。それほどエンジン車がないんです。けれども長い目で見るとグローバルなこと、EVっていうのはBEVとかPHEVとか、スイスを含めていろんなバリエーションがあると思います。けどもそのなかでもEVっていうのは、私は大きな比率をこれから担っていくんじゃないかと思っているんです。寺町会長はどうみますか?
寺町:そうですね今回JMSとパリのモーターショーで大きな違いを感じています。日本のJMSで大手のメーカーはほとんどがコールセットを出している。それから車を遠い所に飾ってあって触ることができません。ところがパリに行くともうガンガンにクルマが並んでいるわけですよ。で、みんながクルマに触りに行くことが出来る。もちろんプロトタイプは、これはダメですというように言われますけど、それも本当に目の前の近いところまでいって見ることが出来る。だから並んでいるクルマが非常に多いです。私はまさにこれが重要だと思っている。このJIMTOF2024は過去最大の小間数と出展社数、そして来場者数も多分最高になるだろうといわれているけれども、こういう「現物と触れ合う」っていう展示会でだんだん現物が並ばなくなってきた。そしてインターネットで紹介すればいい、というような形になってきているわけです。しかしこのパリのモーターショーは現物が並んでいる。もちろん出展社が大幅に減ってきていますけど、ふんだんに見ることが出来る、という。これからもITがどんどん進んでいく、またメタバースみたいな形でですね。しかし人間っていうのは五感と六感を使っていくのが人間の良さだと私は思う。だからこういうショーを大事にしないと私はいけないと思う。まさにパリのショーはそういうものだったなと。だから 50 万人ものかたが見に来てくれる、ということなんだろうと思いますまあ今回このJIMTOFがそういうかたちで開かれていれば素晴らしいと思っています。
中村:ちなみにこのパリショーで、日本企業で参加したのはTHKさんだけ。ほかの日本企業は全部不参加です。
寺町:当初はね参加予定の日本企業はあったのですがね。
中村:結果的に日本代表でTHKさんが出ていた。逆に中国企業は何社も出ていて。そういうところも海外から見るとアジアの中の力関係の差というのが、そういう形でも見えるところで、そういった意味でもありがとうございました。日本代表で出ていた意味は非常に大きかった。
寺町:ありがとうございます。
中村:それでいま五感の話をされましたけど、クルマって言うのは僕もクルマ好きなんでEVになるっていうよりもクルマって言うのはクルマだろうと。「クルマだろう」って言うのはやっぱり冷蔵庫とは違う。冷蔵庫に車輪が四つ付いてるのではないし、テレビとも違う、デザインするときの気持ちの入り方もやっぱりプロダクトたてないとクルマのデザインも何か違う物になる。
最近、自動運転といって運転しなくていいクルマって言うのがこれからどのくらい出るかわかりませんけど、クルマが所謂ものを運ぶ人を運ぶだけのそういう道具的なものになるんじゃないかと心配する方もいる。心配しているのは、今のところ少数かもしれないけども、クルマって言うのはいわゆる工業製品だと、ひとつ違う何かをもっているものなんですけどその辺はどう思われます?
寺町:そうですねこれは中村さんが専門ですから私なんかは素人ですけども、私なりに考えるとですね、まぁ基本的にクルマは「運ぶ道具」と考えるのか「楽しむもの」と考えるのかで、ここのところ今言われて「ハコモノ」っていうのは楽しむのはドライブを楽しむんじゃなくてその運ぶための間の時間をどう費やすかという楽しみなんですね。もう一つはやはり「ファン・トウ・ドライブ」じゃないですけど、オートノマスで安全を確保されて楽しむ、ドライブを楽しむというのは私ありだと思っています。またそれでないと人間は機能がどんどん劣化していくんじゃないかという気がするんですね。そのようなことで私はどう考えるかによって変わってくるかとで、どちらかというと最終的な部分でいくと、やはり運ぶということは中心になるのかもしれないけど、やっぱりある程度の中間から上の方はドライブということを楽しむということになるだろうと思います。
それから一ついいですか、ここのところEVに対する批判がありますけども、パリのショーでも実際にあの 75 %がEVでした。20 %がハイブリット残り5%がガソリン車、ディーゼル車、水素のコンセプトカーとなっていますね。パリの街を見るとEVステーションがずらずらと一般道路の脇に置いてあるわけです。ガンガンつなげるようになっていて、これはもうやっぱり戻りはしないだろうなという感じ。それと当初いいましたようにEVは楽しいですよ、本当に面白い。それを考えると電気をどのように発電するのか供給するのかということについては、これから考えられてくると思いますけど、エンジンからモーターに変わるということだけは必ずそうなるものです。それとドローンみたいなものの話が出ていますけど、今のドローンの形式だったらスペースが3倍も必要になり、運ぶって簡単に運ぶってどっかいって乗らないといけない。なんかバスに乗らなきゃいけないような話になってしまう。家の屋根にヘリポートをつくらないと今のドローンタイプだったら多分無理だろうな、という気がしますね。だからやはり当面の間、自動車というのかクルマというのは重要なものだと。
中村:クルマってじつは 100 年ちょっと経つのですけども 1960 年か 1970 年には今の形になって、残り 50 年というのはあまり大きな形の進歩はないんです。でも逆に技術的なガソリンエンジンが環境に良くなったりとかEVになったりハイブリットになったりとか、そういった意味の進歩とか安全とか環境といったことの進歩の方が実はものすごくあって、そういった意味では車ってあまり大きく変わらなかったが、これから 50 年で変わっているかどうかというと、私は思ったが 50 年前に今この 50 年後どう変わっているかといわれたときにもっとすごく変わっている。だからクルマの本質っていうのは、私も大きく変わらないんじゃないかって思っているところです。
“夢への挑戦”
中村:あと最後なんですけど今回ほんとうに前例のないことができました。私は個人的に前提のないことに挑戦するっていうことは、自分の中ではエネルギーが湧くんですね。今回の一番のモチベーションはやはり今までにない関係で今までにないクルマを一緒に開発させていただける、というのはすごく私の強いモチベーションだったのです。で、今日のタイトルでの「夢への挑戦」という言葉に“夢”と“挑戦”っていうのはすごく判り易い言葉ですけど、最近そういうことをあまり表に出す人は少ないんじゃないかと思うのです。特にものづくりにおいて、「夢」とかいうと今どき言ってんのかヨ、みたいなことがあるんですけれども面と向かって「夢と挑戦」っていうことはむしろ今の日本にすごく必要な事なんじゃないかと私は思うんですね。あのタイトルもすごくいいと思ったのですが、今の日本のクルマ業界だけじゃなく産業、社会全部を見て、そのへんをどういう風に思われますか?
寺町:やはりあのいろんな産業を見てきて、我々も十分注意しないといけないなと常々思っているんですけれども、外から学ぶっていう部分からいうとですね、日本の発展って言うのは学んで、学んで大きく成長してきた国だと思うんです。ところが今度は教える立場になったとたんに結構過去に縛られるという風になってしまったことが多いと思う。例えばの話、実績がどうだ過去はどうだっていってですね、そうやって条件ばっかり増えてですね。実際にそういうなってきた。
一方で今回パリへ持っていこうかと思ったのは、ヨーロッパはそういうところではないから。やっぱりパイオニアになることに対して誇りを持っている。だからどこもやっていないことを自分たちがやる、先頭を切ってやる、ということを非常に大事にしている社会がある。沢山の自動車メーカーさんも私たちのブースに来ていただきましたけども、やはりそういうような気風というのを日本は持っていく必要があるだろうと。そうしないと中国のように日本にモノづくりを学び、そしてICTというかスマホというか、こちらのIT技術では日本を凌駕しているわけです。逆に日本なんかはもっとそういうことを学んで努力しなくちゃならない、とこういうふうに思います。危機感は本当に強いですね。
中村:最後ですが、誰が言ったか忘れましたが、人がやらないことじゃなくて自分しかできないデザインをやれ、という言葉があるのです。これはすごく大事にしている。だから人がやってないことじゃなくて自分しかできないことを探しなさい、という言葉があってほんとうにTHKさんもそれを実践されていてなんかオベンチャラを言っているわけじゃないですけど、そういうことをやられている感じがして私がこのプロジェクトやるうえで一番共感したのはそこです。
寺町:そうですね次の発展に繋がっていけばいいなと思っています。また皆様の中に、我々のファンのお客様も多いかと思います。モノづくりというものに対してもっと真摯に取り組んでお役立ちできるように頑張っていきたいと思いますので引き続きよろしくお願いします。
スピーカー:寺町彰博・THK㈱代表取締役会長/中村史郎・㈱DESIGN PLATFORM代表取締役CEO
:中村史郎・㈱DESIGN PLATFORM代表取締役CEO
いすず自動車時代(1974 年―1999 年)
1980 ArtCenter College of Design
1985 GMデザインセンター
1989 欧州デザインマネージャー
1999 デザインセンター長
日産自動車時代(1999 年―2017 年)
2000 デザイン部長
2001 常務執行役員
2006 チーフクリエイティブオフィサー
2010 専務執行役員
DESIGN Company
2018 Hollywood Hills Creative Platform
2020 SN DESIGN PLATFORM
寺町 彰博・THK㈱代表取締役会長
1974 慶応義塾大学商学部卒業
1974 株式会社大隈鐵工所(現オークマ株式会社)に入社
1975 同社退社、THK株式会社に入社
1977 THK株式会社 甲府工場長に就任
1982 同社 取締役業務部長に就任
1982 同社 取締役管理部長に就任
1985 同社 取締役社長室長に就任
1987 同社 常務取締役管理本部長に就任
1988 同社 営業企画室長に就任
1992 同社 業革推進室長に就任
1994 同社 取締役副社長に就任
1997 THK株式会社 代表取締役社長に就任
2024 THK株式会社 代表取締役会長に就任
※ほかに多くの関連会社の経営を兼任
NEXT STEP
直動案内では、圧倒的な強みを持つTHKだが、変化の激しい現代社会では次世代の柱を育てないとならない。上記に見たような『輸送機器事業』には、伸び代がある。部品メーカーが本体製造に乗り出すことは簡単ではない。航空機部品の納入実績が高く、その技術力があれば航空機本体も作れるだろう、と経済産業省が強力に働きかけたMRJ(のちのMSJ)の例がある。無茶な話ではない。しかし折角できた機体も、ビジネスに乗せるには運用上の免許証とでもいうべき「型式証明」取得に失敗した。そのひとつ前の「YS-11」のときは、航空機本体を作り上げることに注力したが、販売戦略、運行ノウハウなどに無頓着だった。深夜に到着して翌朝の利用までに整備しないといけないのに、当時の東南アジアの空港には夜間の照明設備が不備で暗闇の中で整備をしなければならなかったが「YA-11」の設計者にはそのような発想はなかったのがひとつの例だ。
クルマも作れば売れるものではない。購入後の運用に整備性の良さは大事だし、ユーザーへのサービス体制の整備など、山ほどのことに取り組まなければならない。しかし、発想の転換で課題を解消できるかもしれない。
2000 年頃だったと思うがJIMTOF会場で座談会を開いた。工作機械メーカー、制御機器メーカー、金型メーカーそして自動車業界からはトヨタの方に出席していただいた。その席で、トヨタの方が「これから大量生産の時代は終わりに向かう。クルマは個人の趣味を反映するものになり、ヨーロッパ中世に貴族が、自分の趣味に合わせて馬車を仕立てる。カロッツェリアと呼ばれる馬車屋さんが注文主の好みに合わせて馬車を仕立てた。あなた好みのクルマで走るようになるのではないか」と語った。自動車工業会のメンバーでもある光岡自動車なども大量生産とは無縁なユニークな立ち位置で存在感を発揮している。対談の中で、寺町会長は“量産する”とは言っていない。
タテ社会構造が基本の日本では、完成車メーカーが上から目線でのしかかってくる。欧米のような契約社会を実現するためにも部品メーカーであるTHKが、完成車メーカーに参入して、産業構造の風通しを良くしてもらうことに期待が膨らむ。