メールマガジン配信中。ご登録はお問い合わせから

ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

ことラボ・レポート

ファナック 新商品発表展示会開催

2024 年 06 月 05 日

 5月 13 日(月)から 15 日(水)までの3日間、山梨県忍野村のファナック本社「自然館」において「新商品発表展示会」が開催された。第 33 回を迎えた今年は、新型コロナの感染流行を経験して、運用に関していろいろな改革がなされてきた。少し歴史を振り返ると、会場となる「自然館」が完成したのは 24 年前の 2000 年の3月で、同年4月に社内展会場として使われた。しかし“33 回”との回数と計算が合わない。自然館が完成する前にも本社敷地内の建物を使って「社内展」と銘打ったプライベートショーを開催してきた。その起源と思われるのが 1992 年7月2日、3日に創立 20 周年を記念して開催されたのが「社内展示会」だった。“社内”という言葉の意味は「ファナック社内」で開催する、という理解でよいと思う。初回こそ2日間だったが、しばらくは1日のみの開催だった。回を追うごとに来場者が増え 2019 年から3日間となり今日に至っている。

会場「自然館」を見渡してみる~窓側はFA部門が並ぶ

 今更ながらではあるがファナックでは「製品」ではなく「商品」という。多くの企業が製品というが、稲葉清右衛門社長(当時)から「ファナックが作るのは“製品”ではなく“商品”です」と指摘された。
 お客様の手元に届き仕事に役立つ“商品”のみを販売する、という趣旨だ。ファナックの社史にも明確に語られている。同社の経営の基本には「厳密」と「透明」を掲げている。『ファナックの歴史』(2021 年6月)によると“創業者 稲葉清右衛門の経営の基本”に「1.厳密 私は、経営のあらゆる面において厳密を貫くことが重要であると考える。」また「1.透明 悪い情報ほど早くトップに報告する。会社の総力を挙げて問題解決にあたることが重要である。」とある。「商品」にかけられた思いに思いを新たにしたい。
 さて今年も、混雑を避けるために“時間入替制”が採用され、10 時から 16 時 30 分の6時間 30 分を4つに分け、訪問時間を指定される。設定された2時間の範囲内で広い会場内に展示された最先端の商品群を取材・確認するのは厳しかったが、駆け足で回った結果をお届けする。事前に示された案内状によると今回の見どころは「製造現場の効率化に貢献するCNC・サーボシステム」「新ロボットコントローラおよび最新のロボットラインアップと適用例」「自動化、生産性の向上に寄与するロボマシン」が記されていた。同社の3本柱①FA部門、②ロボット部門、③ロボマシン部門を語っているのだが、近年のファナックはこの3本柱に加えて、「IoT」や「SERVICE」そして「ACADEMY」と“アイテム”が増えている。
会場のレイアウト

 会場に入って左側にはロボット部門の商品群があり、時計回りで会場を回ると正面のガラス張りに沿ってFA部門の商品群、その並びが終わる頃からロボマシン部門が始まり、ロボドリル、ロボカット、ロボショットの順に並んでいた。それから出口に向かってサービス部門、アカデミ部門と並んでいた。

【ロボット部門】

 会場に入ると直ぐ左側にCRX-iAシリーズが並んでいる。向かって左側が標準仕様で右側が食品仕様。産業用ロボットというと溶接や塗装といった工業用途で広がってきたが、昨今の人手不足は深刻で、食品工業でも多用されている。ホテル・レストランなどの食品産業を対象にした《FOODEX》展にも、近年はロボットの展示が増えている。人の口に入る食品関連では、金属機械の工程で要求されるスペックと異なり、異物の混入防止など厳しい条件がいくつもある。

入り口横に“鶴翼の陣”で並ぶCRX-iAロボット群

動く車体にシートを組み付けるM-710

 いまの人手不足は深刻で、“産業用”に絞り込んでいるファナックにも従来の概念を調整する必要が出てくるかもしれない。人手不足に悩むレストランで、ホール担当が足りずに厨房からコックさんができた料理を配膳するなどよく見かける。ファナックの提供するロボットは、ラインを流れる大量生産に対応する位置固定のものだが、ロボットが移動を始めると、想定外の仕事を担う場面も出てくるかもしれない。その「動きながら作業をする」場面の展示もあった。
 「新 70 kg可搬M-710 によるシート搭載」(写真)では、走行軸上を移動しながら、ライン上を流れていく車体(左側の白い車体)を追いかけシートを組み付ける「M-710」があった。双方が動きながらリアルタイムビジュアルトラッキングにより対象物を組み付ける、という技術は奥が深い。
 工作機械や鍛圧機械は大きな力で仕事をする。産業用ロボットも同様だ。それらは人の行動圏で“なま”で登場すると危険なので人が触れるとパワーをセーブする「協働ロボット」が登場した。しかしパワーの発生源であるロボット本体が移動、場所を変えるとしたら“協働関係”は新たな関係を構築しなければならなくなった。
 今回の展示は、ロボット本体も作業対象の車体も共に動いている。双方が動きながら作業をすることを可能にしたのはリアルタイムビジュアルトラッキングだという。産業機械を動かすにはコントローラが必要だが、動く二つの物体のコントローラを調和させる技術がファナックでは育っている。

モジュール型走行軸と延長モジュール(新商品)

 ファナックは富士通を起源とする企業だから“電機系”である。FA関連、産業用ロボット、加工機や成形機のロボマシンの3分野で事業展開している。しかし今回展示されていた「走行軸モジュール」はガチガチのハードウェアで、鋳物の塊。これまで固定して使用されてきたロボットを動かしながら使う場面が想定され始めた。自動車の組み立てラインで、移動する車体にシートを組みつけていく場面がテレビニュースなどで見たことのある人も多いと思う。しかし動いていく対象に動きながら組み付けていくのは、ほぼ人と同じレベルの難しい作業と感じた。

走行軸モジュールと延長モジュール

 ロボットは固定して使うもの、という先入観を否定するように、移動しながら仕事するロボットは、これまでもあったが、「走行軸モジュール」と「延長モジュール」は、ロボットのフレキシブルな使い方を可能にする新技術と思える。ロボットを走行させるというのは、電車をレールの上を走らせるのとは大きく異なる。走行軸上でロボットは正確を期した仕事をする。それを支えるために今回の展示会で「新ROBOGUIDE」が発表された。
 今回の発表会におけるロボット部門は、従来以上に“多様な使い方”と“つかいやすさ”を整理しいくつかの展示では具体的に体験するという発表会だった。「初めてでも簡単に使える協働ロボット」では、①ダイレクトティーチによる教示体験(CRX-10iA, CRX-25iA(30 kg 対応 )、②ダイレクトティーチで職人の手技をそのまま再現(CRX-10iA)、③組立:ねじ締め、精密組立(CRX-5iA, CRX-25iA, 2DV)、④アーク溶接(体験)(CRX-10iA/L)、⑤パレタイジング(CRX-5iA, CRX-25iA(30kg 対応 ), 3DV/1600, iPC Box)、⑥塗装(CRX)、⑦ロード / アンロード(CRX-20iA/L, 2DV)などが並び壮観だった。また「様々なアプリケーション」として①高速バラ積み取出し(M-10, 3DV/1600, iPC Box)、②食品の整列(SR-12iA/C, DR, m-Grip, 2DV)、③ピースピッキング(M-10iD/10L, 3DV/1600, FS-15iA)、④ハンドリング:シート、重量物、車のパネル(M-710, 新走行軸 , M-410, M-950, 3DV/400, 2DV)、⑤バッテリ加工(R-2000)などが紹介された。さらに「ロボットシステム設計支援ツール:新 ROBOGUIDE」がモジュール型走行軸で展示されていた。
 ロボット部門の終わりに「誰でも簡単に工作機械の自動化」との展示があった。①イーサネットケーブル1本でCNCと簡単接続、②CNCからGコードでロボットに指令、③100 Vポータブル電源で駆動、とある。ファナックが進めている“ロボットを使いやすく”の取組みをまとめた1枚だった。

FA部門

 会場を時計回りで回り、ロボット部門を過ぎるとFA部門の商品群が並ぶがいつもと少し違うように感じた。今回展で一番印象深い展示だった。この部門はCNC、アンプ、サーボという数値制御装置の中核商品に加えて近年は最新の知能化技術を駆使して通信環境やシミュレーションなどに守備範囲が拡大してきた。その広がり過ぎた戦線を一回整え直したような印象だった。
 具体的には昨年登場した「CNC:Series 500i-A」の機能が充実した。具体的には①処理性能の向上、②先進の5軸加工機能、③CNC操作画面の刷新、④開発環境の一新、⑤セキュリティと安全性向上などを挙げている。現在の主力「CNC:Series 30i-B Plus, Series 0i-F Plus」に入れ替わる勢いで売れているか、と問われても生産財分野での新技術・新商品の売れ方というのは消費財の世界とは全く違う。じっくりとジワジワと機能や使い安さを高めている。
 その「Series 30i-B Plus, Series 0i-F Plus」は今回展でも「高い加工性能を追求したハイエンドCNC」として安定した機能を展示していた。

歴史を振り返るモニター画面

 注目したのはCNCの歴史を振り返った画像だ。数値制御のパイオニアとして、より速く正確に、CNCとサーボを開発してきた。作業性の追求、工程集約を実現して機械設計をサポートして集中管理、エネルギー効率、コスト削減を実現してきた。同社の「開発の基本方針」に「技術には歴史がる しかし技術者には加工はない ただ創造あるのみ」という創業者・稲葉清右衛門氏の言葉がある。うっかりすると“創造あるのみ”という言葉にひかれて、ファナックでは過去を振り返ることはないのではないか、と勘違いする人もいるかもしれない。実は自分もそんな誤解をしていた。だから、歴史を振り返る展示を見て心を打たれた。
 それはさておきFA部門で注目したのは「FANUC iPC」だった。「信頼性、保守性、供給性、機能性を兼ね備えた産業用PC」とある。同社とパソコンとの関係には忘れられないエピソードがある。安全性を最優先する産業の現場では、通常のパソコンは信頼性が低いから、ファナックはあくまでもCNCを重視した。インターネットが普及したときも“外の世界”とつながない、つなぐ場合にはセキュリティを最優先する。しかしIoT(もののインターネット)時代に対応する時代になった、ということだろう。2021 年から「FANUC iPC」を提供するようになった。昔日の感がある。「ファナックのサーボモータで産業機械を電動化:Power Motion i-A Plus, Digital Servo Adapter-B」の展示があり、工作機械分野以外にもビジネス展開を進めている。
 工作機械は力強さや精度、速度、耐久性などで、あらゆる機械産業の中で最高レベルにある。長年の取材活動で、業績の悪化した工作機械メーカーが、他の産業分野に進出すると「工作機械メーカーはそこまでやるのか」と驚かれた、という話をよく耳にした。産業機械分野でのファナックの活躍が楽しみだ。

ロボマシン部門

 数値制御からスタートしたファナックが機械本体を開発したのは 1972 年の穴あけ専用機「FANUC・DRILL 」を嚆矢とする。当時、ボール盤のNC化率が低く、メーカーに働きかけても普及は進まず自社開発した。本来、工作機械メーカーはファナックのお客様であり、加工機を開発することはお客様のビジネスを侵食することになるのではないか、との思いもあり、展示会ではミレーの名画「落穂ひろい」を掲げて、あくまでも主たる収穫は工作機械メーカーさんのものです、という配慮を見せていた。これが現在の「ROBODRILL」シリーズに花開いている。※この“落穂ひろい”は稲葉清右衛門氏の独特のユーモアだと思う。お客様のビジネスを邪魔するつもりは毛頭ございません、という気持ちをさりげなく伝えるエピソードだ。
 次に 1975 年、ワイヤ放電加工用NC装置「FANUC 260」を供給していたメーカーが、NCを米国製に変えたことから本体のワイヤ放電加工機「FANUC TAPECUT-SERIES A/B」を開発した。今日の「ROBOCUT」シリーズである。
 さらに 1984 年に米国ミラクロン社を訪問した稲葉清右衛門社長(当時)が、同社のガイヤー会長から「これからはプラスチックの時代です」と言われ、同社の油圧式射出成形機をファナックのサーボモータで電動化する、という合意の元に技術提携して開発したのが「FANUC AUTOSHOT」シリーズで今日の「ROBOSHOT」シリーズである。
 NC装置と言う基幹技術のメーカーが、さまざまな経緯から、NCやサーボモータを搭載する最終製品の加工機や成形機を市場投入するには、細心の注意を払ってきたが「アルミの自動車部品はROBODRILLに限る」とまで言われるレベルに到達している。
 今回展で印象深かったのは周辺機器メーカーが加工をサポートする商品群が豊富だったこと。毎回充実してきたが、今回は情報が整理されていたので判り易かった。
 投入された新機種「ROBODRILL α-D28LiB5adv Plus Y500」が強力だ。ROBODRILLの基本構造はXYZの3軸構成の立形マシニングセンタだ。収納工具は主軸の上部にセットされ、工具交換はシンプルで高速で交換される。収納工具は従来の 14 本と 21 本だったものが新たに最大 28 本まで可能になった。さらにY軸ストロークが 500 mmに拡幅され大型ワークに対応できるようになった。加工可能ワークサイズは 700 × 470 × 184 mmになった。
 また注目を集めている“5軸加工”に関しては回転軸のAC軸かBC軸が必要になるが、テーブル上に回転テーブルを後付する方法を採用している。回転軸ユニットは株式会社北川鉄工所がローラギヤカム機構NCテーブル「RKT500」を、株式会社日研工作所は「バレルカム新機構REDと搭載してノーバックラッシュで高剛性・高精度・高速割出を実現した“CNCロータリテーブル日研REDシリーズ”を開発して5軸加工をサポートしている。
 さらに旋削加工にも対応できる。旋削加工では切削工具を固定して被削材を回転させるので、工具と被削材の関係はマシニングセンタと全く逆になる。被削材はDDモータ仕様の傾斜CNCロータリテーブルをROBODRILLのテーブル上にセットする。日研工作所はROBODRILL用「旋削ホルダ」を出展した。BT30番または2面拘束タイプで、通常は回転する主軸を回転しないようにシリンダとピンで旋削ホルダの回り止めを行い、旋削抵抗に対して強力な保持力を発揮する。

IoT部門

 近年の技術的な進化で、創業期には予想もしていなかった分野がIoT部門だ。「サーボモータで社会に貢献する」が創業者・稲葉清右衛門社長の企業理念だったと聞く。科学と技術の進歩で、加工現場で個としての工作機械からスタートして周辺装置を統合して、隣の機械と繋がり、ライン全体が守備範囲となり、ついには工場全体や外部とも繋がるようになった。お客様の継続的な現場改善を支援するデータ基盤:FIELD system Basic Packageや保守診断・プロセス状態記録・予防保守機能:ZDT( ゼロダウンタイム )などが紹介されていた。ZDTについては「ことラボSTI」の 2023 年 10 月 11 日の“ことラボ・レポート”「生産を支えるファナックの誠意~MTBFと信頼性評価棟とZDT」に詳しいレポートがあるので参考に。
 さらに「止まらない工場を目指す【サービス部門】や実習機、オンライン、動画教材など3つの研修スタイルでユーザー研修を実施する【アカデミ】部門が紹介されていた。
 展示会の印象を整理すると、同社の商品群の守備範囲がこの 10 年で大きく変化・拡大したと感じている。足跡を振り返る企画や商品群を体系的に整理・展示されていたので昔を振りかえる良い機会になった。
 プライベートショーとは言え、毎年同じ時期に全社を挙げて開催するのは準備が大変だし費用もかかりコストパフォーマンスもよくないだろう。かつてはいくつかのメーカーで自社内に常設展示場を設けていたが商品展開の早い最近は見かけなくなった。
 与えられた時間枠の取材では、残念ながら紹介できない商品も多い。《JIMTOF》や《iREX》などの協賛展示会では底の浅い取材になりがちだが、プライベートショーならじっくりと取材できる。しかしファナックの技術・商品は多様で奥が深い。次回はもう少し掘り下げてみるので楽しみにしておいてほしい。