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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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ソディック プライベートショー2024開催

2024 年 03 月 19 日

 株式会社ソディック(古川健一社長)は3月 12 日(火)、13 日(水)の2日間、本社・研修センター(横浜市港北区)で「プライベートショー2024」を開催した。開催は8年ぶりだという。この8年の間に、ソディックでは創業者古川利彦氏がお亡くなりになり、精神的支柱を喪失した新生・ソディックは、外から見ていると“雌伏の季節”を迎えたようだった。折しも初日は前日の好天と打った変わった雨模様。真冬に戻った時折みぞれも混じる、イベント日和とは程遠い幕開けだった。
 しかし一歩入り口に入ると受け付けは来場者で溢れ、迎えるスタッフと合わせて活気に溢れていた。その様子はコロナ前の活気あふれる産業界を彷彿とさせた。2016 年1月の開催後、各地の拠点できめの細かい企画で開催していた。それが一段落した 2018、19 年は、本社敷地内に研究開発棟の建設が重なり、その工事中に多くの来場者を迎えることができなかった。そして新型コロナによる規制がはじまり、やっと今年、“負の連鎖”が終了してプライベートショーの開催にこぎつけた。久しぶりの訪問だったが、いつものソディック流元気を見ることができた。会場には陣頭指揮に立つ古川健一社長の姿もあり、名実ともに“アフターコロナ”が始まった。

会場入り口中央 左手を挙げているのが古川社長

展示されていた機械機器群
 放電加工機の電源装置の製造を原点に誕生したソディックだが、いまでは守備範囲の広い総合機械機器メーカーだ。会場案内から当日のマシン類を列記する。
■形彫り放電加工機
◎高速・高性能 精密モデル&電極・ワーク搬送装置「AL40G & SR12」
◎高速・高性能 精密モデル「L40G+」
◎高速・高性能 精密モデル「AL60G」
■ワイヤ放電加工機
◎高速・高性能モデル「AL600G iG+E」
◎高速・高性能モデル「ALN400G iGE」
◎高速モデル「VN600Q」
◎超精密モデル「AP250L」
■電子ビーム
◎PIKA面加工装置「PF300F」
■金属3Dプリンタ
◎精密モデル「OPM250L」
◎高速造形モデル「LPM325S」
■細穴加工機
◎超高速モデル「K4HL」
◎純水仕様 超高速モデル「K3HS」
◎微細孔モデル「K1BL」
■マシニングセンタ
◎精密モデル&オートワークチェンジャ「UX450L & SR12」
◎精密モデル「UX450L」
■射出成型機
◎電動式モデル&ベントアップ抑制機能「MS50G2 AI-VENT」
◎電動式モデル「MS100G2」
◎高付加価値製品用 高応答モデル「GL30-LP」
◎竪型ロータリ式モデル「VR100G」
■サプライ品
◎はやぶさEXワイヤ~性能をさらに追及した超高速ワイヤ
◎ワイヤ循環システム~使用済みワイヤと新品消耗品を「還元製品」として交換するサービス
◎ソディックWeb-e-point~消耗品購入でポイントがたまるシステム

充実の周辺機器
 上記のサプライ品だけでなくソディックの守備範囲は思いのほか広い。工作機械や射出成形機というハードウェアを軸に置きながら、同業他社が購入品で揃える多くの部材を“自分で造る”と取り組んできた成果が豊富な周辺機器に結実している。

展示されていたリニアモータ、アンプ類

モーション関連商品
 まもなく創業 50 周年になるソディックは、機械工学系よりも電子工学系技術資産が豊富だと思ってきた。とくに 1998 年から始まった「リニアモータ」路線は、放電加工の世界を大きく変えた。リニアモータは、1994 年のJIMTOF、1995 年のミラノEMOで話題を集めた要素技術だが、当時は、その「速さ」に注目が集まっていた。しかしソディックが着目したのは、駆動部にボールねじを使うと発生する“象限突起”がリニア駆動だと発生しない点だった。それは微細な加工が求められる放電加工機が高精度なモーションを実現することだった。高額だったリニアモータを「磁石のS極とN極を張り付ければいいんだろう」と内製に踏み切り、量産効果を上げるために自社の放電加工機、マシニングセンタ、細穴放電加工機などに積極的に採用した。いまではリニアモータ、パワーアンプ、CNCを統合したモーションコントロール部門として放電加工機、マシニングセンタに最適なパフォーマンスを提供している。

セラミックス製品
 素材自体の熱変異が極めて小さいために超精密加工には有効だとソディックは早くからセラミックスを使ってきた。1981 年にソディックマテリアルセンターを立ち上げている。そのころセラミックスは小さな部材に使われることが多かったが、ソディックはオールセラミックス製超精密ワイヤ放電加工機「EXC100L」など工作機械の本体に使う。セラミックスのメーカーにとりソディックは、時々注文が来るが、その注文は大型製品で製造時間もかかる面倒な客だった。創業者の古川利彦は「粘土を焼き固めればいいのだろう」と内製することを決断。

四直角マスタ

 その後にセラミックス製品はアルミナセラミックスに改良され、「EMG CERAMICS」をブランドとして検査機器や各種装置の精度を保証するようになった。今回展では会場内の一角に「四直角マスタ」「精密定盤」などが展示してあった。工作機械の世界では“削ること”と“測ること”がセットで考えられなければならないが、多くは分業化され加工機と測定機の“二刀流”は意外と少ない。記憶にあるのはスイスのSIP社くらいで、その会社はもうない。測定機の世界は、精度を相互保証するトレーサビリティの体系に組み込まれないと製品力が減殺される。その辺りについては会場では聞けなかったが、次回の楽しみとする。

サプライ品(消耗品)
 従来、放電加工機の消耗品類は子会社KHSが担当していたがいまではソディック本体が担当している。「ことラボSTI」は、ハードウェア(機械装置類)とソフトウェア(プログラムや通信技術)だけではなく、第三のウェアである“サードウェア”にもっと目を向けよう、と呼びかけている。ソディックのサプライ品への取組みには共通のものを感じる。

サプライ品コーナー

 サプライ品には「放電加工油」(VITOL-2)、「エコイオン」(水質維持システム)「エコフィルタ」「精密微細加工用電極材」「各種マグネットチャック」「放電加工機用 電極・ワーク搬送装置 SR 12」「細穴用パイプ電極」「ワイヤ電極線」(はやぶさEXワイヤ)など枚挙にいとまがない。この中で注目したいのが「エコロジー&コストダウン ワイヤ循環システム」だ。
 ワイヤ放電加工機で使うワイヤは、ワークに接触すると巻き取られていく。これを「使用済み」と扱うには“勿体ない”。加工時のワイヤの消耗率は全体のわずか5~ 10 %に過ぎないのに産業廃棄物として処分されてしまう。それを回収して新品消耗品を「還元製品」として交換するサービスだ。システムの詳細を紹介するスペースはないので、改めて紹介する。

 その他にも「稼働率を最大化するソディック自動化システム」としてKOEI TOOL株式会社(杉本賢一社長:東大阪市)が、初日の午後1時から「自動製造ラインによる電極加工から放電加工までの無人稼働の実績」をテーマにセミナーで講演した。ソディックが提唱する「自動化技術」の実践ぶりを紹介した。
 2007 年3月にソディックのメインステージとはかけ離れた食品事業に進出した。製麺製造装置を中心として茹麺装置などの本格的な装置を加賀事業所で製造販売している。意外な組み合わせと思う人も多いかもしれないが、工作機械業界の重鎮オークマの原点は「大隈麺機商会」(1898)であることを思い起こせば意外感は消えるだろう。ソディックに限らず工作機械メーカーが産業機械に進出すると、多くの場合「工作機械メーカーはそこまでやるのか」と感心されるという。「母なる機械」を製造するものの面目躍如というべきか。会場に遠慮がちにおかれていた可愛い「手回し製麺機」に心が安らいだ。いまでこそ工作機械で製造する金型も、昔は手作業で作られていたことを思い出す。

手回し製麺機

 ソディックのコンテンツは、形彫り放電加工機、ワイヤ放電加工機、金属3Dプリンタ、射出成形機、細穴加工機、電子ビームPIKA面加工機、マシニングセンタ、超音波洗浄機などの「機械本体」、CAD-CAMシステムや“Sodick Connect”、Sodick MESなどのIT/IoTアプリケーション、品質&生産の総合管理システムの“V Connect”などの「情報ソフト機器」、さらに”ワイヤ循環システム、アフターサービス保守契約などの「サービス関係」のコンテンツなど多岐にわたる。「必要なものが希望した価格では手に入らないなら自分で作る」の信念を持つ社風で、様々な技術に挑戦して、不可能を可能にしてきた。ソディックの基本精神が貫かれている限り、開発テーマは無尽蔵に生まれてきそうだ。
 2日間の来場者は、初日の悪天候にもかかわらず、目標の 600 人を超えた。