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ことラボ・レポート

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DMG MORIの新たな社会貢献~SHINDO YARDSオープン

2023 年 11 月 29 日

 DMG森精機(森雅彦社長)は、地域社会貢献活動の一環として、三重県伊賀市にある伊賀事業所の最寄り駅 JR関西本線新堂駅周辺地域の景観を整備し、より魅力ある街とするため、2018 年より「新堂駅周辺プロジェクト」に取り組んできた。このほどプロジェクトの一環として、新堂駅前に教育、文化、行政施設等が集まる新複合施設「SHINDO YARDS(シンドウ ヤード)」(延べ床面積:2階建て2棟、1,650 ㎡)を開設し、11 月6日(月)に開所式を行った。

「SHINDO YARDS」内部(写真提供 DMG森精機)

 施設は2階建てで、伊賀市と共同で運営する図書館「BOOKMARK STORAGE」(ブックマークストレージ)は、一般書に加えて芸術、ワイン、音楽、海洋、スポーツや工学等、同社の取り組みに特化したジャンルを含む2万冊の図書を蔵書している。図書館というより“書庫”のイメージに近い。1階にはロビー、カフェ、広場、ギャラリーがあり、2階は書棚がズラリと並ぶ。蔵書は最大で3万冊だが、オープン時は2万冊でスタートした。蔵書の半分はこちらに移転してきた伊賀市上野図書館「いがまち図書室」のもので、こちらの本は貸出される。公共施設の多くが午後5時までなのに対して、ここは午後9時まで開館している。

挨拶をするDMG森精機㈱ 玉井宏明 代表取締役副社長

 開会式で挨拶にたったDMG森精機の玉井宏明・代表取締役副社長は「伊賀事業所を建設したのが 1970 年で、すでに 50 年以上前になる。いま企業の取り組みでサステナビリティ(持続可能性)が重要になっている。2018 年には伊賀市と地元地区と景観まちづくり推進プロジェクトで協定を結び、その一環としてこの多目的施設が完成した」と述べた。同社は、企業の地域社会への貢献を積極的に進めており、その社会貢献は具体的な地元への貢献に注力されている。9月には同じ伊賀市に、日本で唯一の常設ボルダリング競技場を有する「DMG MORIアリーナ」(三重県伊賀市ゆめが丘1丁目1-3)を竣工している。
 三重県伊賀市は県内の西北部に位置しており、東側の東海地方と西側の関西地方の影響が併存する。名古屋と大阪を結ぶJR関西線は紀伊半島中央部を東西に走っているが、名古屋圏に入る東部や大阪圏に入る西部と比較すると中間にあたる伊賀市周辺は、東西の経済圏から取り残されたようなエリアで人口流出、過疎化が進んでいる。JR関西本線は、幹線と位置付けられてはいるが、全路線は名古屋・亀山、亀山・加茂、加茂・JR難波に3分割され、中央部の亀山・加茂間は電化もされておらず、新堂駅はその区間にある。名古屋、大阪の経済圏から離れた伊賀市は活力を求めていた矢先だった。DMG MORIの地域貢献はまさに“渡りに船”だと思われる。
 市有地だった用地の取得費と総工費の合計は約 10 億円で、西隣の棟(延べ床面積約 680 ㎡)には北伊勢上野信用金庫の「柘植支店・阿山町支店」と同市の「伊賀支所」が入居し、この日から業務や営業を開始した。新堂駅前に図書館のような文化施設に加えて市役所や金融機関までがそろったのだから市民の利便性は大きく向上した。その分、SHINDO YARDSの説明は込み入ってくる。

設計コンセプトを説明する㈱山﨑健太郎デザインワークショップ 山﨑健太郎代表取締役

 式典ではSHINDO YARDSを設計した山﨑健太郎氏が設計ポリシーを語った。まず、地元の調査から始めたが、過疎化と向き合いながらも里山の風情が残るこの地域では、民家が地元産の杉材を使用して、その杉に焼き目をつけ防虫処理した“焼杉”を多く使用していることを発見。そこで使用する建材を、地元産の杉の木を焼いた“総焼杉材”にして自然と調和した統一感のある街並みを実現した。その機能も図書館に限定せずに市役所支所、金融機関が入居する複合施設にした。図書館「BOOKMARK STORAGE」は、伊賀市と同社が共同で運営する。それに加えてカフェがありキャラリーがあり広場がある。ここではくつろいで欲しい、と山﨑氏は語った。図書の書架を2階に設けたのは、入ってすぐ書棚が並んでいると、本格的な図書館になってしまい、新しいコンセプトが伝わらないから。ここは“本と出会う場”として機能させたい。すぐ隣には「新堂駅」があるが、新堂駅には上下線ともに1時間に各1本しかこない。吹きっ晒しのホームで長時間待つより、電車(ディーゼル車?)が来てからでも間に合う距離にあるので、ここで待つ利用者は増えるだろう。駅の南約1kmには同社の伊賀事業所があり、これを機会に通勤がクルマから鉄道に変わればCO2削減にもつながり、連鎖反応で利用客が増えればJRの活性化につながりそうだ。
 これまで行政機関が作ってきた多くの公共施設が、乱暴な表現を使うと“箱物行政の押し付け”という側面が強かったが、DMG MORIが乗り出せば、しなやかな発想で今回のような複合施設に結実したのだろう。
 1階のギャラリーには名和晃平氏のアート作品を展示し、電車を待つ間にくつろいだり、ゆっくりと憩いの時間を過ごせるカフェを併設している。
 同社はこれまで 2018 年に三重県と地域振興や技術系教育の推進などで協働する包括協定を締結している。 2019 年には三重県伊賀市、西柘植地域まちづくり協議会と連携協定を締結し、新堂駅周辺を含む西柘植地域の景観美化に取り組んできた。
 2017 年 12 月にはまほろばファーム株式会社を設立し、「新堂駅周辺プロジェクト」として、伊賀事業所近郊の耕作放棄地を取得して、2019 年からワイン用葡萄の栽培を開始した。また、ガードレールを周囲の景観に馴染む色に塗装、周辺地域への桜の植樹、街灯の設置など、景観整備・安心安全な街づくりにも力を入れている。
(まほろばファーム株式会社のホームページ:https://www.mahorobafarm.co.jp/

【SHINDO YARDS の概要】
建物面積:2階建て2棟、1,650 ㎡
施設概要:図書館「BOOKMARK STORAGE」、伊賀市伊賀支所、北伊勢上野信用金庫等
設計:山﨑健太郎 ㈱山﨑健太郎デザインワークショップ 代表取締役
◆図書館 「BOOKMARK STORAGE」
住所:〒519-1416 三重県伊賀市新堂 313-19
アクセス:JR関西本線 新堂駅南口徒歩1分、名阪国道 下柘植IC より車で5分
駐車場:常設駐車場 50 台(おもいやり駐車場2台)
開館時間:9:00~21:00(休館日 12/29~1/3)
Web サイト:https://www.bookmarkstorage.jp/
運営:伊賀市、DMG森精機株式会社

テープカットに臨む出席者
※左から、㈱服部建築事務所 代表取締役社長 白野 孝明/北伊勢上野信用金庫 理事長 南部 和典/伊賀市市長 岡本 栄/DMG森精機㈱ 代表取締役副社長 玉井 宏明/西柘植地域まちづくり協議会 会長 奥澤 重久/㈱山﨑健太郎デザインワークショップ 代表取締役 山﨑 健太郎/㈱淺沼組 代表取締役社長 浅沼 誠 以上敬称略