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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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碌々産業 海藤満 社長/インタビュー

2022 年 09 月 15 日

碌々産業株式会社
海藤満 代表取締役社長

碌々産業株式会社のホームページはこちら

 

 


 

Q.現在のグローバル市場の状況についていかがでしょうか?

 私たちの市場の中心は、民生用の半導体です。それと 5G 関連ですね。特に 5G 関連を見てみると、スマートフォンの中に入るカメラモジュール、このあたりの進化が激しいですよね。
 この覇権争いと言いますか、活発なのがアメリカと中国になりますが、当社は中国市場中心にこれまで進めていましたが、現在はアメリカ市場へのアプローチも活発に行っています。特に微細加工の分野では国内生産が少なく、海外市場の拡大が続いているため、当社も輸出比率は 65%前後です。IT 企業や半導体メーカーなどもマレーシアやベトナムへのシフトを進めているので、中国以外へのシフトも加速しています。
 特に今一番動いているのは、データセンター用のメモリーパッケージです。パッケージされたメモリーが、作っても作っても足りない状況です。その最終工程の検査治具に超微細な穴をたくさん開けなければならない仕事があり、この部分が相当加熱している状態です。
 半導体不足が続いていますが、マイコンとか LSI とか頭脳にあたる部分の調達が難しい状況で、これはコロナの影響もありますが、メモリー部分の需要拡大は日本をはじめ韓国や台湾、中国、ベトナム、そしてアメリカで広がっています。

Q.国内の状況についていかがでしょうか?

 まだまだ日本国内がダメになるということはないと思っていますが、大手のブランドメーカーに元気がないように感じています。自動車業界も含めてですが。
 実は、これはメディアの責任もあると感じています。大手電機メーカーや自動車メーカーに元気がないとか、買収されたというマイナス要素の報道が多いせいで、メーカーが疲弊してしまったように感じています。しかし、先ほどの話でもそうですが、スマートフォンの中身には日本製の部品がたくさん入っています。これにより村田製作所さんや京セラさん、太陽誘電さんなどは大変忙しい状況です。小さくて、細くて、性能がいいという分野は未だに日本の独壇場です。そういう意味では、この微細加工という分野はとても強いんです。
 それともう一つ感じていることがあります。
 現在の工作機械業界は、スマートファクトリー化に向かっています。これは生産性を大きく向上させる手法としては正しい方向であると思います。しかし、これを突き詰めていくと「人が要らなくなる」という話になってしまう。本来は QCD(クオリティ・コスト・デリバリー)を突き詰めていくことがスマートファクトリー化なんですが、これは「加工技術が決まっているものを素早くコストをかけないで均一につくる」ということであって、本来の日本のものづくりにおいては、これで良いのだろうかという疑問を持っていました。
 日本の本当の強さとは、「プラス付加価値創造」なのではないかと考えているんです。
 今のスマートファクトリー化を進めていくと、人が介在しなくなりイノベーションが起こりにくくなってしまうのではないかと。
 私自身の考えですが、QCD を突き詰めていくことは中国や諸外国にお任せして、日本は高付加価値創造というところにシフトしていくことが必要なのではないかと思っています。
 QCD を突き詰めていくのであれば、ロボットを導入して AI を入れていけばいい、といった考えに至ってしまうので、そうではなく日本は加工技術が常に革新されていくようなスマートファクトリーを構築していくことが最大の強みになるのではないでしょうか。

Q.もう少し碌々産業の「微細加工」について教えてください。

超高精度高速微細加工機 Android Ⅱ

 微細加工とは、簡単に言えば「できないことをできるようにする技術」です。
 当然、これを可能にするためには様々な障壁があります。これを解決するのは、イノベーティブな感性や、イノベーション=新結合(これまで全く関係がないと思われていた技術を掛け合わせる)だと考えています。つまり人の感性が可能にできることであって、AI ではないだろうと。この考えから出てきたのが「マシニングアーティスト」です。
 微細加工を行うマシンはマザーマシンです。マシンとしての性能は実加工精度±1 ㎛までを追求し、追従性では 1/100 ㎛=10 ㎚単位の指令に対してきちんと動くということを実現するところまで突き詰めてきました。これは単にモーターなどの技術だけではなく、キサゲという伝統技術と最高峰のスケールとの組合せなどによる技術が必要になってきます。このレベルの精度がなければ、1 ㎛を切るような加工ができないということです。
 しかしここまで機械がよくなっても、今度は周囲からの影響、つまり環境にも影響されるようになってしまいます。これを解決するために提唱しているのが「四位一体」です。

Q.碌々産業が提唱する「四位一体」について教えてください。

 碌々産業で提唱している「四位一体」とは、①最適な微細加工機、②最適な工具、③最適なソフトウエア(CAD/CAM)、④最適な加工環境、が重要であるとお客様に提唱しています。
 これは、例えば加工機本体が高性能であっても、実加工ではワークそのものが環境に影響を受けて伸縮したりすると工具の当て方次第で変形したり、工具が摩耗したりなど諸要因が影響します。さらに機械本体も環境の影響で伸縮したりします。これに対応するには、この「四位一体」全部を揃える必要があるのです。
 当社では、CAM メーカーや工具メーカーとタイアップして、独自の開発を行い、供給しています。きちんと経験のあるメーカーと組むことで、超精密加工を可能にするパラメーターやスキルの高い技術を取り込むことができると考えています。
 また、従来は熟練工のノウハウは個人のノウハウとして蓄積されていましたが、このノウハウや独自の発想には目をみはるものがたくさんありました。彼らのノウハウをデジタル化して日本独自のスマートファクトリーに応用したい。そのためには暗黙知を形式知に変える必要があります。彼らの感性をデジタルデータに変換できる人、つまり CAM も使えるしプログラムデータも作れる人たち。これが「マシニングアーティスト」であり、これからもっとも必要な人材だと位置づけています。

Q.「マシニングアーティスト」とは?

 これまで現場でノウハウを蓄積して一人前の作業者になるには、10~20 年という時間が必要でしたが、これからはそうではありません。昔は作業やマシンに慣れて覚えていくという方法でしたが、これからは頭を切り替えて、近代的なツールを加工現場の最前線で自身の補助ツールとして使いこなすことで数年かかっていたことが短期間でできるようになる。
 さらにデータ分析ができる人は加工と紐づけすることで様々な加工シーンに合った解析を行い、デジタルデータ化することができる。こういったアプローチをするためには若い人ほど能力を発揮すると考えています。
 こういう人を育てていくことでイノベーションが起こり、新しいものづくりが生まれていく。これが「マシニングアーティスト」です。当社では「マシニングアーティスト」普及活動の一環として、独自で定めた「Expert Machining Artist 認定基準」をつくりました。

【Expert Machining Artist 認定基準】
① ミクロン台の超精密で且つ、美しく繊細(高品位)な加工を深く追求する人
② 自分の仕事に強い拘りとプライドを持ち、常人に真似のできない微細加工を行う人
③ 微細加工に対し常に向上心と進化を求める人
④ 加工技術を見える化(数値化=デジタルデータ化)し、論理的に分析をする人
⑤ 自分の得たスキルを後人へ伝承する事にためらいの無い人

 この 5 つの基準をクリアした人に「Expert Machining Artist」の認定証を発行するというものです。
 ドイツなどではマイスター制度などがありますが、日本でも技術を持った人たちをもっとリスペクトしてもらいたいと思っています。もっとノウハウを持っている技術者たちが尊敬されて報われて欲しいと考えているのですが、日本では「現代の名工」や国家検定の一級技能士や二級技能士という制度がありますが、これは現代のスマートファクトリーやマシニングセンターの世界においては見直した方が良い時期に来ているのかもしれません。現場からイノベーションを起こす人たちは、エキスパートでありクリエイターでもあるのですから。

Q.これから碌々産業が目指していくことを教えてください。

焼入れ鋼への高精度・高品位加工

 当社のお客様からは「超精密微細加工機メーカー」と呼称していただいていたりもしますが、一応私たちが考えている微細加工の定義としては「超精密形状加工」かつ「高品位加工」と捉えています。
 これは、5 ㎛以内の形状加工を「超精密加工」と呼んでいて、もう一つは鏡面加工や穴開け加工においてバリや裏バリが極力でない加工を「高品位加工」と呼ぶようにしています。その上で、この両方を兼ね備えた加工が「超精密微細加工」ということになります。
 例えば昔の話ですが、スマートフォンに付属しているイヤホンで、表面が光沢のある艶々の物がありましたが、これは金型を同じく艶々に加工すると成形できるんです。樹脂成型ですから、金型の仕上がりに大きく左右されるわけです。しかもそのロットが 1 億個といった驚く単位で、その形状や品質を当然一定にしたいが単位が大きいので職人による磨きではなく、機械加工で品質を揃えたかった。
 当時コンペだったのですが、当社の加工機と自社開発したルミナス工具の組合せで、18㎚(当時)ができたのが当社だけでした。
 この時に気がついたのは、これまで磨き職人だからできた鏡面仕上げが、大きいロットになると金型に個体差がでてしまうため、品質が均一にならない。つまり機械加工で鏡面仕上げができれば形状がダレたり、大きいロットの金型でばらついたりしない。これこそが微細加工だということを再認識しました。

アルミ材への鏡面加工及び微細形状加工

 私は微細加工はアートの世界に近いと感じています。
 私の説で恐縮ですが、世界にはものづくりで感受性の高い民族というのが 3 つくらいあると思っています。一つは、スイスのジュウ渓谷のあたりで高級時計づくりのメッカの地域です。次は、イタリア北部のカロッツェリア。フェラーリやストラディバリウスなど、アルプスの麓のあたりですね。そして 3 つめが日本。みんな四季があって自然が素晴らしい地域です。その中で生まれ育っていくことで感性が磨かれ、装飾の多い華美なものではなく自然の美しさみたいなものが DNA に染み込んでいて、ものづくりに活かされているのでないかと考えています。
 せっかく私たちもこうした環境に育っているのですから、楽しんで仕事をしていきたいと考えています。そんな中で最近感じているのは、「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という考え方です。
 今まで私は、「マーケットイン」と「プロダクトアウト」とは相反するものだと思っていました。「マーケットイン」は、顧客が困っていることをどんどん改善することで顧客満足度を満たし、これにより会社を存続させるという方法。「プロダクトアウト」は、こんなものを作りたい、こんなものが世の中にあったらいいという顧客ニーズとは関係のないところから生み出される方法と考えていました。

凹形状の鏡面加工

 しかし「プロダクトアウト」は、顧客ニーズはないがそれを作ることで顧客に提案して、顧客がこれに感動してくれればビジネスが成立する。確かに「プロダクトアウト」はそればかりやっていると会社が存続できなくなってしまいますが、「プロダクトアウト」の視点で経営をすれば企業が錆びないというか、常に新しいイノベーション的なことを考えて試行錯誤する力がつくのではないかと思っています。試行錯誤を続けて、30%でもいいので、そういうアプローチを続けることで活性化された企業になるのではないかと考えており、そういう経営を続けていきたいと考えています。

本日は、お忙しい中ありがとうございました。

 


碌々産業株式会社 会社情報

・創業:1903 年 6 月 16 日
・代表取締役会長 野田謙一
・代表取締役社長 海藤満
・資本金:1 億 44 百万円
・年間売上額:非上場のため非公開
・従業員数:非公開
・「碌々」に込められた意味:「公等碌々、所謂因人、成事者也」
 (こうらろくろく、いわゆるひとによりて、ことをなすものなり)
 「個人の力と個性が結集し、そして刺激し合い、初めて大きな力と成り得る」
・製造品目:高精度加工機、微細加工機、特殊加工機、プリント配線基板加工機、各種専用機開発

碌々産業 ロゴマーク

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