テクニカルインフォメーション
自動化生産システムへの道~日工会が3Dマトリックスに論点集約
(一社)日本工作機械工業会(稲葉善治会長、以下、日工会)の技術委員会は、製造現場の自動化を普及・促進するため、自動化に必要な工作機械や周辺装置の仕様や機能を3Dマトリックス形式でまとめたソフトウエアを発表した。11月開催の日本国際工作機械見本市(JIMTOF)までに日工会ホームページ上に公開して会員企業以外にも利用を促す、と技術委員会の須藤雅子副委員長(ファナック・FA研究開発統括本部 技監)が発表した。
原材料や人件費の高騰さらに人手不足など、日本の製造現場を取り囲む環境は日増しに厳しさを増している。その対応策として「省人化」「無人化」が声高に唱えられているが具体的には、誰が何からどのように手をつければ良いのか判らない。ひとくちに製造現場といっても構成する人の数、組織の特徴、製造装置の種類と台数、それらを統合するシステム、製造品目の特性など考慮すべき要素は数え上げたらキリがない。そうしたカオス状態を、“要領良くまとめた”のが今回の『3Dマトリックスソフト』だ。(何か明快な名称=愛称が必要だと思うが、ここではこれで。)
自動化について検討を行う際やユーザとの自動化の打合せを行う際にこのソフトが、いわば目標に向かうための“共通言語”となって作業が効率化することが期待される。
「3Dマトリックス」について
●開発の背景
日工会では、製造現場におけるデジタル化やIoT化、スマートマニュファクチャリングの実現に向けて、工作機械ユーザの自動化要求への対応や、工作機械メーカの自動化への取組みの底上げを図る目的で、今後製造される工作機械を対象として、機械、周辺装置を含む生産システムについて、システムの規模や省人化・無人化の自動化レベルに応じた工作機械及び周辺装置の仕様・機能の指針を策定し、3次元マトリックス形式の表記にまとめた。
●生産システムの自動化レベルの基準(定義)
生産システムの自動化を普及させていくためには、自動車の自動運転のように自動化レベルの基準を定義し、工作機械メーカ、ユーザ双方が自動化に取組む指標を示すことが重要だと考えた。
生産システムの自動化レベルを1~5の5段階に分け、生産工程の主体が「人」か「システム」か、で分けて定義づけた。自動化のレベルと技術的難易度は、必ずしも一致したものではなく、技術的難易度は、技術の進歩により変化するともいえる。
なお、全ての生産工程を「人」が作業する状態を「レベル0」とし、今回の自動化レベルの基点としている。
●完全自動化への5段階
レベル1:ワーク等搬送の自動化
生産準備の一環として、AGV(自動搬送装置)、AMR(自立走行搬送ロボット)等を用いて、工作機械本体の近くに工作物、工具、治具等を自動的に配置する等、加工前に行う諸作業の自動化を示している。
レベル2:加工の自動化
チャック爪や工具情報の自動登録、加工プログラムの自動作成等の加工工程に直接関係する生産準備や加工状態の自動確認、工具刃先の自動確認、切屑の自動認識と自動清掃等、加工工程中の諸作業の自動化を示している。
レベル3:検査の自動化
機械からのワークの自動取り出し、ワークの自動搬送、機内外の自動計測等、検査に関する諸作業の自動化を示している。
レベル4:品質保証の自動化
検査データを分析し、分析結果を「加工」に修正指示し、修正に基づいた「加工」を自動実行することを示している。
レベル5:完全自動化
全ての生産工程が、「システム」によって稼働し、「人」が全く介在しない状態を示している。
3次元マトリックスソフトの概要
3次元マトリックスソフトは、下記の要領で整理されている。上記の定義を現実の生産現場に当てはめ視覚化したものが下の図だ。
自社の現状を分析して、このマリックス上のキューブの上にカーソルを合わせてクリックすることで、各生産工程と各施設規模の自動化レベルの指標となる仕様や機能の詳細が表示される。
画面の制約で文字が読みにくいので、各軸の成分を抜き書きした。
(第1軸:施設規模)
・機械単体
・SMC(シンプルマシニングセル)
・FMC(フレキシブルマシニングセル)
※SMCは、機械1台+ロード・アンロード装置
1台を想定している。
※FMCは、機械複数台+ロード・アンロード
装置複数台を想定している。
(第2軸:生産工程)
生産準備、加工、検査、保守の4つの大きな分類
(ここでは、保守の定期検査は含まれない。)
(第3軸:自動化レベル)
レベル1:ワーク等搬送の自動化
レベル2:加工の自動化
レベル3:検査の自動化
レベル4:品質保証の自動化
レベル5:完全自動化
また、仕様や機能は、ハード系(メカ系、電気系、物理系等)機能、ソフト系(通信、情報のやり取り等)機能、情報(ソフト系で用いる情報・データ等)系機能と分けて表示される。下図参照。
《例題》
自社の現状ではCNC工作機械を利用して加工しているが、次のステップとしてワークの搬送の自動化を検討したい、との結論が出たら、このマトリックスの一番下のキューブをクリックする。すると次のような生産準備の検討項目が提示されて、問題点の検討に入っていける。
ここで3Dマトリックスの画面を拡大すると――
■レベル1 (ワーク等搬送の自動化)≪〇自動化名称 (H)ハード(装置・機器)、(S)機能(ソフト)、(I)情報≫
機械単体(NC工作機械)
(Ⅰ)情報
・生産情報(加工個数、納期、サイクルタイム、加工精度等)
・工程、手順
・加工図面
・加工条件
・ワーク情報
・ワーク原点情報
・工具情報
・機械(ストローク、軸構成、主軸仕様等)の情報
・機械の3Dモデル
・機械の稼働状況・工具の使用履歴
・消費電力、炭素排出量
SMC
〇ワーク、工具、治具等の自動搬送(1―1)
(H)AGV(自動搬送装置)、AMR(自動走行搬送ロボット)、ロボット、ワーク等自動認識装置、同自動補給装置
(S)搬送プログラミング自動作成
搬送シミュレーションによる
>動作確認
>プログラム自動修正
>プログラム自動入力
>干渉チェック
ロボットティーチング
ロボットセッティングシステム
〇自動ロボットI/F取付 (1-1)
(H)ロボットプラグ&プレイ
(Ⅰ)情報
・生産情報(加工個数、納期、サイクルタイム、加工精度等)
・工程、手順
・加工図面
・加工条件
・ワーク情報
・ワーク原点情報
・工具情報
・SMC(機械とシステム)の情報
・SMCの3Dモデル
・機械の稼働状況・工具の使用履歴
・消費電力、炭素排出量
・ロボット、搬送装置の情報(動作範囲、可搬重量等)
・ロボット、搬送装置の3Dモデル
FMC
〇ワーク、工具、治具等の自動搬送(1―1)
(H)AGV(自動搬送装置)、AMR(自動走行搬送ロボット)、ロボット、ワーク等自動認識装置、同自動補給装置
(S)搬送プログラミング自動作成
搬送シミュレーションによる
>動作確認
>プログラム自動修正
>プログラム自動入力
>干渉チェック
ロボットティーチング
ロボットセッティングシステム
〇自動ロボットI/F取付 (1-1)
(H)ロボットプラグ&プレイ
(Ⅰ)情報
・生産スケジュール(素材調達、製品納期、加工、搬送等のスケジュール⇒後工程から前工程への情報フィードバックによる生産のリスケジューリング(出力情報として、その理由)
・加工図面
・加工条件
・ワーク情報
・ワーク原点情報
・工具情報
・FMC(機械とシステム)の情報
・FMCの3Dモデル
・機械の稼働状況・工具の使用履歴
・消費電力、炭素排出量
・ロボット、搬送装置の情報(動作範囲、可搬重量等)
・ロボット、搬送装置の3Dモデル
のように表示される(加工/検査/保守の欄はブランク)。検討会議の指針となる。
工業会の仕事と言うと統計をまとめたり展示会を企画したりする印象が強いが、今回のような業界全体の指針を資示すことも重要だと思う。須藤副委員長は「仕上にはもう少し時間がかかるがJIMTOF前には、日工会のホームページ(https://jmtba.or.jp)にアップするので、会員以外の企業も含めて広く利用して欲しい」と述べている。