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ー 科学と技術で産業を考える ー

優れたことづくり例

技術者のバトン

トーカイ工業 太田 光俊 社長/ インタビュー

2021 年 08 月 30 日

トーカイ工業株式会社
代表取締役社長
太田 光俊
1973 年4月 30 日生まれ 神奈川県出身
1995 年4月 入社
1999 年5月 専務取締役就任
2013 年4月 代表取締役就任
【団体など公的な活動の履歴】
神奈川県シートメタル工業会
秦野商工会議所青年部(令和2年度 会長)


Q.御社(トーカイ工業)について教えてください。

 トーカイ工業は、建機用熱交換器の周辺部品を生産しています。会社としては、もう 60 数年ずっと板金をやってきています。
 所在地は、神奈川県秦野市に本社工場を含めて3つの生産工場を展開しています。
 私が社長になってからは、ちょうど 8 年目になります。
 今までは、同じ板金加工でもレーザーとかベンダーを中心に精密製罐板金で何十年もやってきましたが、これだけではビジネスフィールドが広がらないので、積極的に営業範囲を広げていきました。その中で、ある電機機器大手とお付き合いを始めて、6 年くらいになります。この会社は工作機械メーカーでもありますが、その製品は板金加工の固まりなので、それこそ板金加工製品がアッセンブリされて機械に入っている状態です。そういう意味では、板金部品がたくさん使われているということは、当社の得意分野ですから、作り方や考え方を工夫しながら参加させていただいている次第です。
 特に当社が扱う材料の中心は、ステンレス、薄板、厚板などが多いですね。

Q.板金加工では依頼先から主にどのような要求が多いのでしょうか?

 依頼先によって、管理方法もお客様それぞれ、管理の方法が違うのですが、求めているものは一緒で、「スピーディーに早くいいものをつくる」ということが鉄則なんです。
 そういう部分では当社も厚板が中心でしたが、薄板に挑戦してステンレスを加工したり、加工方法でも CO2 の溶接だけではなく、YAG レーザーを導入したりと 5~6 年間かけていろいろな加工方法に取り組んできました。材料メーカーからも「初めから生みの苦しみがないことなどないから、あきらめずにやれば必ず利益が出るから続けることが大切だよ」と言われ、2年くらい前からやっと良くなってきて、信頼も得ることが出来て、仕事の量も増えてきているという感じですね。

Q.経営において特に気をつけておられることは?

 板金加工って色々なことが出来るんですが、広げ過ぎてしまうと管理することがどんどん大変になる。当社では5種類程度くらいに絞ってやっていこうと考えており、工夫しながら対応しています。そういうトライを繰り返していると、社員にも自然に力がついてきます。その中で、いろいろものにチャレンジしていく面白さっていうのが、社員からも生まれきています。こういうことに何年か取り組んで、やっと少しずつ結果がでてきたなと実感できるところが今のうちの現状ですね。

 当社がチャレンジを始めたきっかけは、建設機械の部品がすごく落ち込んだことでした。それで売上げが減ってしまったので、そこで新しく営業活動を始めたわけです。会社全社でこのまま一社依存ではなく、他に何かをやろうよという流れが広がりました。それで特殊車両の部品や電機機器メーカー、近隣の取引先などを含めて全部で5社が中心となっています。
 比率としては、近隣のメーカーの仕事が 70 %くらい。その他で 30 %くらいですね。ですが、1社の依存度が高くなると怖いので、他の物をやりながら力をつけていったほうがいいよというアドバイスもあり、いろいろと工夫しています。

Q.営業活動を広げるにあたり、何かきっかけになったことはありましたか?

 私たちの仕事は、一度停まってしまったらお客様に多大な迷惑をかけてしまいます。ですが、おもしろい話で、昔から何十年とお付き合いしているところの社長は私より若く、ソフト系が強く、近隣にある温泉旅館の出身で旅館を経営しつつメーカーとしても経営されていました。そこでこの社長は旅館業向けのソフトを作って色々と工夫を始めたら V字回復した。それからソフトを自分たちで開発して、全国の旅館業に向けて販売したところ、かなりの引き合いがありました。

 現在は、生産工場向けのソフトを開発していて「ぜひ、トーカイ工業さんにモニターになってもらって、人がやらなきゃいけないことと機械がやらなきゃいけないことを完全に住み分けてやろうよ」と言われています。
 この先、昔ながらの技術をどういう形で残していきながら、新しい技術を取り入れていき、「人がやることより、こういうことは機械に任せよう」と住み分けてやっていくことで、人手不足への対応も必要になりますね。

Q.ズバリ、板金加工の魅力について教えてください。

 板金加工というのは、鉄の大板にいろいろな加工を行い、複雑な形の製品になるというのは、素人から見たらまったくわからないですよ。ですが、「ええっ?こんな感じで曲げたり、くっつけたりすると、こういう製品になって、世の中使われていくんだ!」とその加工内容がわかると、とても感動してもらえる。そこで初めて凄さが伝わるんです。
 その面白さというのは、やっている自分たちだからわかるんです。さっきも言いましたが、同じレーザー加工機や同じベンディングマシンを使って、いろいろものが作れるじゃないですか。どうしてもプレスだったら、その金型の形状しか作れない。大量にそれを作るならいいですが、やはり板金加工が得意とする「多品種少量」というのは、「あの機械を使えばいろんな分野のものが作れる」という広がりを持っているところ大きな魅力だと思います。

 それに、加工方法と技術については、いつも進歩しています。ファイバーレーザーという商品が普及したのが今から5、6年くらい前でしょうか。次の時代のレーザー加工機とか、どんな曲げ加工用ベンダーとか「どんな商品をメーカーは考えているのかな?」と思うと面白くてワクワクしますよ。
 うちの社員や若い子たちは「こういう品物が世の中でこういう風に使われている」ことをみんな知っていますから、そういうものを作っているということに大きな喜びとやりがいを感じてくれている。
 こんな一個の部品でも、これがないとあんなでかい建設機械の部品は完成しない。
自分たちの仕事は世の中に必要とされている仕事だという、自信とプライドを持ってやっていこうよ、ということはよく呼びかけていると、みんな「そうですね!」って言ってわかってくれることはとてもありがたいですよね。

Q.社員の方の年齢構成と教育方法について教えてください。

 中心となっているのは 30 代後半くらいで、40 歳まで行かないくらいです。
当社は、外国人と日本人が半分半分くらいなんですよ。社員数は 90 人強ですが、従業員の入れ替わりはそんなに激しくなくて定着率がいい方だと思います。
 ただ、どうしても若い世代は少ない状況です。
 これは若い人にとって、製造業ってキツイというイメージがあると思います。今の機械はそんなに危険ではないと思います。何もない鉄の板から、製品になるのは相当付加価値が高くて面白い。この付加価値が高いということを伝えていくことが重要ですね。
 当社では、職制を帽子の色を変えることでわかるように工夫しています。色分けは3段階で「えんじ色」が監督者となるリーダーで、「緑」がそのサブ。「紺」が一般社員となっています。これによって、どういう職制の人が、どういうことを知っている人なのかということをわかりやすくしていて、コミュニケーションをしやすくする補助となっています。

 教育方法については、当社の基本は多能工なので、一定のスキルを身に着けたと判断したところで、別のことに挑戦していくという方法です。また、手順をきちんと伝えていくために、きちんと手本を見せながらやってみるなどを行っています。そういう経験を経て、CAD、レーザー、ベンダー、溶接など、もう図面を渡せば一連の加工が最後までできるというところまでになった人も何人かいます。

 現代は積極的な若い人が少ない傾向もあるので、きちんと周りが「君はこういうことにむいているから、これをやってみたらどうだろうか?」とか、先輩から「次はこれをやってみて」とか「次はこうだよ」とやりながら教えることも多いですね。

Q.トーカイ工業にとって最も重要なこととは?

 なんだかんだ言っても、最後は人だと思っています。やっぱり、お互いを尊重しあえる仲間、日本の良き義理堅い人たちっていうのを育てたいと思っています。
 働き方改革をやり始めて、うちでも取り入れましたが、確かに業績が良くなり、無駄な残業はなくなりました。
 僕は以前から思っていたんですけど、4時間も5時間も残業して一生懸命働いても効率がいいわけではない。それに気がついて、2時間の残業だったら2時間で終わらせる。そういう予定を組む。それ以上仕事があるんだったら納期の調整をするという取り組みは良かったと思っています。家族と過ごす時間が増えて、会社の業績が上がって、給料も上がって、同じ値段だったら早く帰った方がいいということを考える。考え方を変えて、決められた時間でモノを作って、収益が上がったら必ず還元するということが重要だと考えています。
 「今の若い子たちはダメだよ」と言うような昔の人がいますが、どちらかと言えば「我々世代が若い子たちに夢を与えてこなかったんだ」と考えています。
 何か一つ、向上心もって目標をもってやらせる機会を与えないと誰も経営者になりたがらないし、本当はそういう好奇心を持っているかもしれないのに、我々大人たちが本当に何をしてあげられるのかということを考えていかなければいけないと思っています。

 今の若い子、すごいなって思うことけっこうありますよ。
 自分が二十歳とか、それぐらいの頃よりも君たちの方がよっぽどまともだなって思う子が多いですよ。そんなに僕は捨てたもんじゃないと思っています。
 もっと芽を出すためには、本当に責任感とかを持ってやらせてみて伸ばしていくような、機会を与えたい。「あれはダメだ、これはダメだ」とか頭から押し付けちゃうと、やっぱり伸びていかないと思いますから、きちんと見てあげることが重要ですね。
 機械などは、お金を出せば買えます。
 今の若い子たちは、スマートフォンみたいなものに慣れているので、タッチパネルを使って、材料を載せてすぐにスタートボタンを押せば、加工してくれるわけです。そこにどういう風に付加価値をつけて「物を流して作っていくか」ということ。ここに人間が関わっていくことがとても重要です。ここに最も力を入れて、スタッフを強化していきたいですね。
 それを育てていく面白さっていうのがあって、それが僕のこれからの重要な仕事だと思っていますから。

ありがとうございました。


トーカイ工業株式会社 会社情報
【沿革】

1961 年 神奈川県 小田原市にて有限会社東海板金として、代表者 太田政次郎が設立
1970 年 東洋ラジエター株式会社(現株式会社ティラド)秦野製作所取引開始
1975 年 代表取締役 太田光昭 就任(現取締役会長)
1981 年 本社を神奈川県 秦野市に移転
1991 年 トーカイ工業株式会社に社名変更
2006 年 現在地(秦野市戸川)に本社移転
2013 年 取締役会長 太田光昭、代表取締役 太田光俊 が就任
主な事業としては、建機用部品やフレームから各種金属加工部品を板金・溶接加工にて製造。
最新設備と独自ノウハウで薄板から中厚板・厚板まで、幅広い分野の製品の製造を行っている。従業員は約 100 名

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