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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

岩波徹の視点

製造業を舐めているのかNHK

2025 年 10 月 01 日

 先日、9月6日に放映されたNHKの『1兆円を託された男』は見ていて不愉快だった。NHKが持ついやらしさがプンプンして、今のメディアの傲慢さで溢れていた。中身は日本半導体産業の復活を目指して国から1億円を託されたラピダス社長・小池淳義氏を密着取材した番組だが論説委員でもある片岡利文氏の名前までタイトルにうたわれていて驚いた。
 さてラピダスを取り上げたこの番組だ。多分、彼の理屈は「税金を1億円も使うのだから国民にその方針を見せろ」とメディアの使命感(?)を前面に出したのだろう。小池社長は「片岡さんは半導体をもっと勉強してください」と肝心な部分の撮影を拒否した。当然だ。世界中が「2nm半導体」実現の先陣争いをしており、うっかり映った画面にモザイクをかけても、解析ソフトなどを駆使すれば判ってしまうかもしれない。そこからライバルに貴重な情報が渡ったらNHKはどのように責任を取るのか? 「NHKだから」と思い上がるのもいい加減にして欲しい。
 振り上げた拳を下すついでにNHKの“似非・製造業応援番組”にも言いたい。「悪魔の降臨です」などおふざけモード満載の『魔改造の夜』とかの番組には、NHKに口説かれて喜んであるいは自ら売り込んでくるなど様々な理由で、明らかに“アレ”と判る企業名で登場してくる。この番組の肝というのは『この世にないものを作り出すエンジニア』がポイントだと思っているようだが、NHKのこの言葉の理解は浅くて表面的だ。確かに「エンジニアとはこの世にないもの創り出す」のが仕事だが、これには続きがある。そこはNHK的都合で無視しているようだ。本来は『エンジニアとはこの世にないものを作り出して、社会に貢献する仕事』というのが、正しい使い方だ。だからブランコを使ってゴールまで競争したりするのは全くの論外。すべてを見ているわけではないが、終わったチームが頑張った作品の元に駆け寄り「よく頑張った」と作品を撫でたチームを見たことがない。チーム全員が集まって「良かった、良かった」と慰め合っている。本田宗一郎さんなら怒るのではないだろうか?
 自動盤に棒材を供給する『棒材供給機(バーフィーダ)』という機械がある。イタリアにIEMCA(イエムカ社)という専業メーカがある。自動盤の主軸の穴に棒材を突っ込むだけの装置だがいくつかの機構に分かれている。初期のものは、自動盤の主軸モータにつかまれ、その回転につられて供給装置の中で高速で回転する。というより“暴れる”のでその騒音が大きい。ワークの中には角材もある。IEMCA社のそれの内部には、内部にはゴムが貼られて騒音を防いでいる。そして角材などでゴムが削り取られないように焼き入れ研磨されたプレートが規則正しく貼られていて、それがゴムから剥がれない。特殊な処理がされている。日本の展示会で初登場したときは、周囲の自動盤メーカの展示会担当者は、自社の自動盤をうっちゃって「こちらが凄い」と客を連れてきていたほどだ。多軸自動盤用のモノは、1軸ごとに手のひらサイズの2枚の扇型の治具が一組になって向かい合って棒材を挟み込み順次前方に送っていく。棒材が短くなるとそこには潤滑油の供給が止まる仕組みになっていて、無駄に潤滑油を使わないで済むようになっている。複雑な機構だ。
 JIMTOFで来日していたIEMCA社のアジア担当モランディ氏に「棒材を供給するだけの機構なのだからもっと簡単にできなのか」と質問したときだった。「それぞれの機械には意味がある。エンジニアと言うのはこの世にないものを考え出して社会の役に立てるのが仕事だ。われわれはダ・ヴィンチやミケランジェロの子孫なのだから」と言われた。ルナサンスの巨人が出てきたときは驚いたが、社会の役に立つとは思えないような課題に取り組んで、みんなで肩を組んで“良かった。良かった”と盛り上がっているのを見ると、そのおめでたさに「日本の製造業の将来」に不安を覚える。NHKに舐められたものだ。
 極めつけは「新プロジェクトX」だ。大好きな番組だからこそ苦言を言いたい。あの男性MCの上から目線のものいい。「やりましたネ」「頑張りましたネ」と“褒めてあげましょう”と迫ってくる。顔面ド・アップして涙など流そうものなら、鬼の首を取ったようにド・アップになる。そうじゃないでしょう。
 そのプロジェクトの客観的状況から、どのような壁があったのか。その壁を乗り越えられたのは誰の、どのような機転・奮闘・突破力が貢献したのか。社内にはどのような反体勢力があり、それとどのように関わったのかなどなど。
 ものを創る人々を、茶化すのではなく、上から見下ろすのでもなく、好奇心だけでなく、社会を構成する重要なユニットを担う人々として見守っていって欲しい。NHKだけでなく全てのメディアにお願いしたい。