岩波徹の視点
不思議な停滞感
(一社)日本工作機械工業会は、毎月ほぼ 20 日過ぎに、会員企業からの報告で集計した工作機械受注額を月例記者会見で発表する。ときには経済産業省のスタッフも参加する、内容の濃いものだ。そこで配布される資料も多いが、記者会見場でモニターに映し出されるパワーポイントの資料は実に詳細にまとめられている。その中の「受注額の月別推移」のグラフに興味を惹かれる。月ごとの受注額が「総額」「内需」「外需」と折れ線グラフで示されている、普通のグラフである。それによると直近では 2022 年3月の 1,663 億円をピークに、凸凹はあるものの全体を眺めてみると下降曲線を続けている。2024 年の4月は 1,209 億円とピークの 72.7 %と3割近く落ちている。企業でも家計でも3割落ちると、大丈夫か、と心配になる。しかしそのグラフを遡ると 2020 年5月に 512 億円という直近の最少額を記録している。それから約2年間で 3.2 倍に受注額が増えている。
かつて工作機械業界は「1年王様、3年乞食」と揶揄されていた時期があった。その理屈はこうだ。自動車は以前、基本的にはモデルチェンジが4年サイクルだった。新車を開発して売り出しても初期故障や手直しで、利益が出るのに2年はかかる。3年目に入って、やっと稼げるようになったら次の新車開発に取り掛かる。だからクルマ業界の4年サイクルに合わせて工作機械業界も動いていたから、と。
そうした長閑な時代が終わり「リーンプロダクション」、「アジル生産方式」、「サイマルテニアス開発手法」とカタカナばかりの生産技術が提唱され、ついにはIoT(もののインターネット)で社会全体と繋がる時代がきた。しかも作るだけではなくSDGs、環境にまで配慮しなければならない。
この目まぐるしさは何だろう。一方で工作機械工業会は、月額 1,000 億円、年間1兆 2,000 ~ 3,000 億円あれば維持できる、といわれる。つまり現状は“我が世の春”なのだ。これまで“尖がった”競争の時代から一服感が漂う時代になってきた。しかしそれは表面的なことで、次のステップに向けて隊列を整えているのかもしれない。
自動車業界がEV時代の方向性を示さないと動きが取れないのか? 半導体業界が要求する微細な加工技術に不安があるのか? 先日のファナックの「新商品発表展示会」では、突出した新商品・新技術よりも、つぎの一手に備えて自社の実力を確認しているような印象だった。また今回は間に合わなかったがアマダが開催中の特別イベントで取り上げている溶接技術は、停滞感を吹き飛ばす魅力を感じている。どんよりとした梅雨の季節が到来するが、気を緩めずに次の展開に備えよう。