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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

岩波徹の視点

最近気がつく嬉しいこと

2023 年 12 月 13 日

 この1年はスポーツに沸いた年だった。いや近年はスポーツ中継などを見ていて楽しいことが多い。いうまでもなく「スポーツ」という文化は欧米で始まったもので、世界のルールは欧米社会が中心に決めていく印象は強い。よく日本が強くなると、すぐルールが変わる、と言われているがその通りだ。だからこそ大谷翔平選手の活躍には胸がスカッとするのだと思う。
 ここで言いたいのは、そのようなことではなく、スポーツ界の広がりと豊かさについてだ。日本のスポーツは、学校や企業のバックアップで成り立ってきた。しかもどちらかと言えばスパルタ方式が普通で、選手が自主的に強くなろうとする意志はまるでないように思われていた。だから「弱くても勝てます~開成高校野球部のセオリー」(高橋秀美著)は痛快だった。
 記者の卒業した高校は、かつてはハンドボールの名門(?)だった。高校生のことだから指導者次第でどうにでも変わる。私は卓球部だったが、中学時代の乱読がたたり高校入学と同時に眼鏡の世話になった。医者によると視神経が弱いとかで、なかなか眼鏡が合わずに頭痛に悩まされた。子供のころに膝を悪くしたのでうさぎ跳びはできなかった。卓球部時代は、足のバネを活かして動きまわることができずに、当時流行の中国式前陣速攻だった。反射神経が命で、激しいラリーの応酬で相手のボールが長すぎて台を飛び出し、後ろに行くのを足で止めるのが得意だった。それが功を奏したのだろう体育の授業でハンドボール(校技)をやると、だれもやりたがらないゴールキーパーになりポンポンとボールをはじき返していた。合わない眼鏡の頭痛から逃げるようにハンドボール部に入った。そして卒業してから後輩にハンドボールを教える巡り合わせになった。
 さて教える立場で先輩から受け継いできた練習方法を見てみると「何のためにこんなことをやるのか」と疑問が湧くことが次々と起きた。体育の授業ではないので、目的はゲームをやって勝つこと。それには点を入れなければならない。都立高校は顧問の教師次第。すでに有名な先生は転勤しておらず、練習時間も短くなった。知恵を絞って強くなれる道を切り開いていくときに驚く場面を目の当たりにした。先生が選手を殴るのだ。それも“殴り倒す”しかも“女子選手”を試合中に! ところがその学校は当時、都内の女子では圧倒的な強さを誇っていた。
 私はスポーツと学校、社会との関りについて悩んだ。そして豊かな欧米社会のように、選手が自発的に自律的に強くなることを楽しむチームにしたいと努力した。幸い選手たちはスポーツの楽しさを感じながら卒業したと思っていたが、一般の学校では違っていた。
 それがいま、スポーツの世界で楽しむ選手が次々に登場してきた。あまり陽の当たらない印象のある陸上競技の投擲でやり投げの北口榛香選手は勝ったときの明るい笑顔にはこちらまで嬉しくなる。トラック男子 100 m×4に登場する選手たちの逞しさ。女子 400 mハードルの山本亜美選手は3連勝したあとのインタビュー後にうれしくて踊りだした。日本社会は政治の混乱とは別に豊かさを身に着けてきたと実感している。