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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

岩波徹の視点

子供たちをまもる技術を

2023 年 11 月 29 日

 HONDAが開発したヒト型ロボット「ASIMO」をご存知の方は多いと思うが実際に見た方はそれほど多くはないと思う。港区青山の東京メトロ「青山一丁目」駅上に本田技研工業の東京本社があり、その1階のショールームで何度が会ったことがある(いまはいないらしい)。奥のステージで、ASIMO君がパフォーマンスをするプログラムがあった。「ぼく、走れるんだヨ」と言って、舞台の上をタッタカタと一周回る姿を見ると、可愛らしいと思うよりも「よくできているな」と感動した。世界は神が創った、と信じる宗教人には許されないことなのかもしれない(ホンダはバチカンを訪ね、神ならぬ人がこのようなモノを作っても良いのか、と尋ねたらしいが、それも人の行い、と了解を得たらしい)。ASIMOの開発はひとまず中断ということらしいが、ヒト型ロボットの完成度が高いことを確認しながら、やはり人間のすばらしさに思いを巡らせたい。
 たしかに人間の子供は彼よりもっと小さいのに、覚束ない足取りでも歩いたり走ったりする。ASIMOの開発は 1986 年から始まったという。HONDAの物語は改めてお話ししたいが、二輪、四輪メーカーさらにビジネスジェット「HONDA JET」まで手がけるチャレンジ精神のあふれる企業であることは皆さんご存知の通り。ASIMOは、2015 年に開発は停止されたが、ヒト型ロボットの最高峰だと思っている。いくつかのタイプがあるが、もっとも活躍したASIMO君の身長は 130 cmだった。
 それに比べると人間は実によくできている。保育園児だとASIMO君の8割くらいの身長だろうか。その園児たちが毎日、我が家の前をお揃いの帽子をかぶり、二人一組で手をつなぎ先生が引っ張る綱につかまり、にぎやかに引率されて近所の公園に遊びに行く。いくつかのグループに分かれて前後につばのついたカラフルな帽子も可愛いが、何を話しているのか可愛い声で話しながら歩いていくのがほほえましい。小椋佳の『公園に来て』という歌に「真似のできない笑顔してヨチヨチと幼子がいる」という歌詞があるが、大人は彼らの笑顔に勝てない。
 自分にもこの子たちのような時期があったことは間違いない、と2階の窓から歩いている子供たちを見て、振り返って居間のテレビを見ると、ガザ地区の戦場の様子が流れている。こちらの子供は、みな泣いている。ケガをしている。子供を囲む環境の落差に愕然とする。直接、現場に行っているわけではないが、映像報道だけで判断しているが胸が痛む。
 平和憲法の元では「戦争」や「武器」という言葉からはなるべく距離を置きたい。しかしそこで使われる兵器は、工作機械で作られる事実に目を背けるわけにはいかない。工作機械の輸出に関しては「ホワイト国」と「非ホワイト国」に分けてしっかり管理されているが、一旦国外に運び出されてしまうと、発振器をつけていても追いかけるのは大変だと思う。日本の安全保障体制は、こうした世界の現実を見てみないふりをしていることが前提だが、そんなことでは日本は、世界の中で一人前と認められない。国会で総理大臣が「経済、経済、経済」と連呼するのを見て、かつて“エコノミック・アニマル”と蔑まれていたこと思い出してしまった。