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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

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産業と社会の関り 回答済み

2023 年 09 月 27 日

 日本ではいま、自動車のEVシフトを始め産業界は大きな曲がり角にいると言われます。これからどうなるのか「五里霧中」のような状況ですが、これまでより良い製品を作ろうと努力を重ねているのに、誰のイニシアチブで進められているか判りません。一方で、規制が厳しくなっていくようです。誰が話を進めているのですか?

回答者:株式会社ことづくりラボSTI 代表 岩波 徹

 確かにこれまでのやり方では、次の展望が見えてこないと思います。「環境を守ろう」という信念からEVが登場しましたが、その電気はどうやって作るの? 寿命が来たバッテリーはどうするの?という疑問には目を瞑ったままです。原発で発生する使用済み燃料の処分方法に、甘い見通ししかないのに、原発を作り続けた愚かさと同じことをやろうとしています。もっと全体を見る目を持たないとダメです。
 「ことラボSTI」の“動画ニュース”の 2022 年4月1日号に吉川弘之・東京・大阪国際工科専門職大学学長(東京大学名誉教授)の、『日本の製造業に必要なこと』と題した動画がアップされています。この中で吉川先生は、1980 年代に日本の自動車産業が雪崩を打って米国に輸出された時の、米国の学者とのやり取りを語っています。
 米国は「これ程の高機能を搭載したクルマが、この価格で作れるはずはない。日本はダンピングをしているのだろう」と怒りますが日本側は否定しました。すると米国から調査団が来て“カンバン方式”を発見しました。「なぜ教えてくれないのだ」と米国側。「良いクルマを安く買えるのだからそれで良いだろう」と日本側。欧米社会では「馬車の歴史」がありました。自動車が誕生したとき、既存の馬車文明と比較して、自動車はこれほど便利だと社会に説明する必要があり、自動車産業界は必死で社会を説得した。産業が社会と向き合った時代です。
 日本の産業界が社会と向き合ったのは 1970 年代の「公害問題」でした。日本の「産業」は「社会」と向き合って良い思い出はない。だからこっそりやりたい。足尾銅山も水俣病もイタイイタイ病も四日市喘息も、そして福島原発も、甘い見通しとそこから生み出す利益だけを強調して邁進してきた。産業社会が一部の企業ではなく、人類全体を幸福にすることができるようになるためには、社会と向き合うことを始めないといけない時代になったと思います。
 個人的な体験として、工作機械メーカーで設計や開発をしている人に「あなたは、開発中の機械のもとになる機械を使って、自分で加工をしたことがありますか」と質問してYesと返事をもらったことがない。何を目的に設計しているのだろう。あるドイツの工作機械メーカーの、現場のたたき上げから社長になった人が、事務棟にあった設計・開発部を工場のフロアーにおろし、自分が設計したものがどれほど作りにくいか、自分で作ってこい、と命じた。多くのホワイトカラーを自認していたエンジニが退社したと聞く。しかし、同社の機械は現場のオペレータから高い評価を受けることになった。社会やユーザーの視点に立って考えたらどうだろうか。