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DX社会での製造業 回答済み

2021 年 08 月 30 日

 今の社会はすべてをデジタル化して効率をあげることを目指す「DX社会」を目標にしていますが、製造業界ではすでに「見える化」「デジタル化」が進み、いまさら「DX社会」といわれても、ピンときません。製造業界の DX化はこれからも進みますか?(50代測定機器メーカー)

回答者:株式会社ことづくりラボSTI 代表 岩波 徹

 製造業界で「見える化」「デジタル化」が進んだのは 1980 年代の後半からと言えます。あのころはコンピュータで、製造業のすべてを管理する CIM(Computer Integrated Manufacturing)方式を求めていましたが、コンピュータ1台だけではリスクが大きく、半導体の進化でコンピュータの小型化が進み EWS(Engineering Work Station)が登場すると「分散処理でリスクを回避する」方向に進みました。システム構築のコストが下がると製造業のシステム構築は一気に進みました。しかしその萌芽は、1944 年に、形状が複雑な航空機部品の加工をコンピュータで実現しようと工作機械をコンピュータで制御しようと開発を始めたときから見られます。

 コンピュータの基本原理は“0”と“1”で表現されたプログラムやデータを高速で演算するもので「デジタル」の意義通り「数値によって表現」されています。工作機械が数値制御(NC)化されたのは1952 年ですから製造業は約 70 年前から「DX化」は始まっています。1964 年に米国 IBM が史上初の汎用コンピュータ「System/360」を発表すると、統計や給与計算などオフィス事務の合理化(OA)に使われて“電子計算機”と言われていたコンピュータの用途拡大が一気に進みました。IBM の人が「OA で取り扱うのが数字と文字なのに比べて製造業(FA)では NC、PLC、センサ、通信、物流など、構成するデバイスが複雑で種類も多く、統合するには難度が高いが達成感も大きい」と言ったことがあります。その気持ち、よく分かります。

 製造現場のデジタル化が進んでいった一方で、オフィスの事務職の労働生産性が低いということが長年にわたり指摘されてきました。(公財)日本生産性本部の生産性総合研究センターでは、毎年、日本の労働生産性を OECD加盟諸国の中での順位として発表しています。残念ながら日本は、加盟約 40ヵ国中の 20 番台後半で、高いとは言えません。いまのトレンド「DX化」は、ここを高めることが期待されています。グローバル化が進んでも日本語以外ではビジネスができない人とか、いまだに“ガラケー”しか使えない上司とか、人差し指でポツポツとキーボードを押している社長とか。「恥を掻きたくない」という、日本人の精神的な土台がビジネス社会の中の障壁になっているのかもしれません。製造現場でも AI とかクラウドとか、これまでとは次元の異なる情報化が進んでいます。「DX化」よりも「製造現場の情報化」の視点で現場を見ることが大事なのではと思います。