メールマガジン配信中。ご登録はお問い合わせから

ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

FA 共鳴箱

「ものづくり大国」の実力 回答済み

2023 年 03 月 08 日

 昨年以来、為替相場における円の暴落がおき、EVシフトの乗り遅れや、「スペースジェット」の開発を断念するなど、科学や技術における日本の位置付けが相対的に低下しているように見えます。「製造業立国」とか「ものづくり大国」と言われてきた日本に何が起きているのですか。

回答者:株式会社ことづくりラボSTI 代表 岩波 徹

 最初に申し上げたいのは、一喜一憂しないで考えるべきだ、ということです。
そもそも「大国」とは何をもっていわれるのでしょう。ここでは数ある国々のなかで飛びぬけて秀でている特徴を持っている国を、そのように呼ぶとしましょう。だれでも褒められるのは嬉しいので、「何々大国」とか「何々立国」と言われれば、くすぐったいような自慢したくなるような、気持ちになります。しかし、「ものを作る」というのは基本的にはその国や地域の文化と密接に関係しています。私たちの社会は、勤勉で生真面目で清潔好きで対立より調和を好む社会です。その基本が崩れない限り、日本の産業社会はこれまでと同様に進化していきます。
 それぞれの地域特性を超越してものを作るようになったのは、動力を使って大量生産をするようになった産業革命以降です。繊維、鉄道、電気製品、自動車、精密機械、航空機など各種産業は、産業革命以降に生まれました。家電製品は女性を拘束していた家事からの解放を進め人々の生活を大きく変えました。人に替わって仕事を進めるために機械を適切に制御する必要があり、多くの半導体が使われます。ここまでで判ると思いますが、上記の工業製品は全て欧米諸国で生まれたものです。日本は「ものづくり大国」ではありません。しかし日本は、上記のような製品を大量に製造し洪水のように先進国に輸出して外貨を稼ぎまくり、先進国の多くの産業に打撃を与えたことを忘れてはいけません。
 さらに日本は、キリスト教社会と異なり、働くことを“原罪”とは考えないばかりか、勤勉を奨励するような社会です。生真面目に働くことを良しとする社会であることが、欧米社会との対立を際立たせました。しかし日本にいて「製造業立国」「ものづくり大国」と言われていると居心地がいい。そこに安住してきた私たちは、そろそろ目を覚ましたほうがいいと思います。
 産業の基本は欧米社会が創造しましたが、日本は応用技術で活躍している。SONYの「ウォークマン」は室内で聞いていた音楽を戸外に持ち出すことを可能にした。HONDAのCVCCエンジンは、大気汚染が進む現代社会の問題解決を大きく推し進めた。天然資源の少ない日本は、製造業で食べていかないと成り立たないので「製造業立国」ではありますが、少なくても「大国」ではない。
 いま心配事のひとつは産業行政の姿勢です。景気のカンフル剤として「補助金」が乱発されているが、補助金頼みの産業は、減反政策で農業にダメージを与えたことにダブります。補助金は、力強く成長する芽を摘み取ってしまうと危惧しています。