岩波徹の視点
グラフで見るFA業界2025
日本工作機械工業会が毎月発表している受注実績は、日本の産業界のバイオリズムを見るうえでも貴重な情報源だ。1月に発表された資料には、直近5年間を軸にした各カテゴリーの受注金額がグラフにされている。そのグラフを抜き出して、この5年間を振り返りこれからの展望を試みた。
直近5年間の工作機械受注動向~総額と内需と外需
令和5年(2023 年)5月8日に新型コロナの感染法上の位置付けが5類に移行して、インフルエンザと同等になった、と社会の緊張感がやや緩和した。それから間もなく3年になろうとしているが工作機械の受注額の推移(下のグラフ)を見ると、2021 年から 22 年にかけての高まりのレベルには戻っていないことが判る。特に内需(青色)は視覚的に見ても“長期低落傾向”にあることが判る。しかし外需(緑色)を見ると回復基調が読み取れる。世界は動き出しているようだ。また、外需比率が 70 %から 75 %に推移している動向を見るにつけても「日本」という国が海外と良好な関係を結ぶことがどれほど重要か、ということをしっかりと認識しておくべきだ。国内のトレンドともいうべき“日本人ファースト”がむなしく響くのが実態だ。
直近5年間の内需(一般機械、自動車、電気・精密)の受注額の推移
日工会統計の内需は「一般機械」「自動車」「電気・精密」の3分野が取り上げられているが、他に「鉄鋼・非鉄金属」「金属製品」(「電気機械」「精密機械」)「航空・造船・輸送用機械」「その他製造業」「官公需・学校」「その他需要部門」「商社・代理店」の全 11 業種に分類されている。「電気・精密」とされている業種は本来なら「電気機械」と「精密機械」に分けられている。しかし主要業種として「一般機械」「自動車」「電気・精密」にスポットライトが当てられている。それ以外の業種では大きな動きがあったときに特記されるようになっている。
以上を踏まえてこの5年間を振り返ると、やはり新型コロナにより社会が大きなダメージを受けていたし、まだ回復の兆しは始まったばかりだと言える。
内需「一般機械」(産業機械と金型)の直近5年間の受注動向
「一般機械」に分類されているのは中小企業に納入されているものがカウントされている。量産される自動車産業ではラインタイプの加工機が用いられるので、同じ工作機械でも外見からして異なる。目的の絞られている機械と、どんな仕事にも対応しなければならない中小企業では、要求される機能がまるで異なる。そのラインタイプで使われる工作機械をカウントしているのは次の「自動車業界」で明らかになる。
このグラフで気になるのが「金型」だ。この5年間を一言で表現すると“長期低落傾向”だろう。金型は、同じものを量産する場合に威力を発揮するが、人口減少と嗜好の多様性が進む現代社会では金型の登場する機会が減少している。
内需「自動車」(完成車と自動車部品)の直近5年間の受注動向
このグラフには各年の「年間平均額」に加えて左上に直近の年平均最高額が 2018 年 207 億円と特記されている。そこから7年後の 2025 年の年平均額は 73 億円とピーク時の 35.2 %にまで低下している。おぼろげな記憶だがバブル経済が崩壊した不景気時の日工会受注は 1993 年 10 月にピークの 27 %まで落ちて上昇に転じた。いま自動車業界はレシプロかハイブリッドかEVか、クルマを動かす根本の原理で混乱している。地方に行くとクルマがないと生活できないが、都市部では交通手段は多岐にわたる。何を選んでも貧乏くじを引きそうで購入意欲は湧いてこない。つい最近までガソリン代は馬鹿みたいに高額だった。そうこうしているうちにクルマは無くてもいいや、という空気が流れてきている。事情通からは東海3県の部品加工屋さんが悲鳴を上げていると伝わってきた。
外需「3極(アジア、欧州、北米)の直近5年間の受注動向
わが国で生産されている工作機械の4台に3台は海外に持ち出されている。軍需にも使われる工作機械は安全保障上の規制を受ける。しかしこれだけ多いと管理が完全なものか不安になる。
一方、国内では「日本ファースト」など、グローバル時代に逆行するスローガンが飛び交っている。政治家の先生は「日本を元気に」「強い経済を」と叫んでいますが、具体的なプログラムは何もない。生産した工作機械の4分の3は海外で使われている。海外では欧州でも中近東でも“戦争状態”が続いている。日本製工作機械がどこで使われているか、たぶん経産省や米国CIAは把握していて、何か不祥事の匂いがすると表ざたになり“事件”になる。
これは“都市伝説”だ。かつて『東芝COCOM事件』があったがあれは東芝の 32 ビットラップトップパソコン『J3100』をターゲットにした事件だった、と囁かれていた。米国の国防省《ペンタゴン》が省内で使うパソコンをすべて『J3100』にすることになった。それに対抗してIBMがCIAと動いたのが事件になった、という。議会の前で東芝のラジカセをハンマーでたたき壊すなどして大きな事件になった。銀座にあった東芝機械の事務所前には街宣車が繰り出し、大きな社会問題となった。
CIAは世界中に網の目を張り巡らし、「都合の悪い真実」が明らかになるときに発動されるらしい。だから騒然とした世界情勢の中で、工作機械の4分の3を海外に輸出していてわが国が、米国のあの大統領に絡まれないように細心の注意を払うように願っている。
ちなみにペンタゴンは、必要台数の半分は東芝製を採用したらしい。
外需の直近3年間の業種別受注動向
外需のグラフの対象期間は3年間あるいは2年間と、内需の諸グラフに比べると短い。
アジアにもっとコミットしたいと思うが、産業界としては“混沌”としている。1993 年に、それまで上海で開催されていたCIMT(中国国際工作機械展)が北京で開催されるようになり今日まで続いている。中国では、産業が政治と密接に結びついている。欧州で始まった「近代科学」とは別に、独自の科学を育て来た国で、“客観的事実”よりも“あるべき姿”が優先する。つまりこの国の統計は当てにならない。だからと言って舐めてはいけない。93 年の北京のCIMTには既に“ナノ・マシン”が展示されていたし、すでに有人人工衛星にも実績を持っている。
アジアの直近2年間の業種別受注
欧州の直近2年間の業種別受注
北米の直近2年間の業種別受注額
前掲3点のグラフはアジアと欧州と北米の業油別受注額で、欧米の「航空・造船・輸送用機械」の動きがアジアと違う。日本にいて海外を知ることは難しい。①その国に行く、②その国の人に話を聞く、③その国に関する情報(新旧メディア)にアクセスする、などがあるが、私は基本として書籍で歴史を学んできた。中国には5回、タイには2回、台湾には1回しか行っていない。しかし、これからはアジアの時代だと思うので、さらに勉強を続けたいと考えている。

最後にこの直近 19 年の受注総額、内需、外需の推移を示した。外需の伸びに不安がつきまとっていることを示して、本稿を締める。