岩波徹の視点
若い才能を見出し、育てていこう
年末年始のスポーツイベントを見て、各分野で若い力が台頭していることを知りワクワクした。製造業にも、次世代を背負ってくれそうな若者の登場を期待していて、フト感じたことがある。
オードリー・ヘップバーンという昔の女優を今でも好きな人は多いと思う。彼女が「ローマの休日」(1953年)で無名の女優ながらアカデミー主演女優賞を受賞したのは有名な話だが、この映画は本来、相手方の俳優(グレゴー・ペック)が主役で、某国の王女様と出会い、ドタバタが始まるコメディだったと知った。予算の都合で当時は全く無名のオードリーが採用された。しかしグレゴリー・ペックは、撮影が始まりすぐに、この新人女優の才能に気がつき「彼女はこの映画でアカデミー主演女優賞を受賞する」と確信して、自分だけを大きく取り上げている映画ポスターのデザイン変更を要求し、出演者タイトルにも彼女の名前を大きく取り上げた。有名な「真実の口」のシーンはグレゴリー・ペックのアドリブで、事前に監督にこっそり伝えただけで本番に入った。だからあのときの驚き方には彼女の素直な性格が表れている。ローマの一日を楽しく過ごした王女が、翌日の記者会見でその男性が通信社の記者だと気づいたシーンから、会見が終わって立ち去るまでの眼差しと表情だけの演技は、何度見ても感動する。
映画と言う“娯楽”と製造現場は一緒にできない、と叱られるかも知れないが「作品を作る」という目標は同じだ。どちらも積み重ねられた技能・技術が大切で、スマートファクトリーでは作れない。1980年代後半に、都心の工場を郊外に移し跡地をマンションにしよう、工場はキツイ・キタナイ・キケンの「3K職場」だと言われ出したとき、私は好奇心・向上心・向学心の「新3K職場」を提唱した。しかし、ある工作機械メーカーの若者から「前提が間違っている。いまの若者は好奇心がない」と指摘を受けた。しっかりと自分の置かれた環境を分析している若者を心強く思った。そして好奇心を育てるには、①観察力、②感性、③言葉の「新々3K」が大事だとしつこく思っている。
加工現場は遊びではないので、才気あふれる若者に“任せる”というのは無理だと言われるが、若者の力を見出す観察力が欠けているのではない。若い力を評価する感性とそれを褒める言葉こそが、スマートファクトリーを創り出す前に必要ではないか。とかく保守的になりがちな製造現場をしっかり観察するのは、先輩たちの義務だと思う。皆さんにもグレゴリー・ペックになれるチャンスはあると思うのだが、いかがだろうか。