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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

最新の業界情報

日本工作機械工業会(2025年9月分)確報

2025 年 10 月 29 日

 (一社)日本工作機械工業会(坂元繁友会長、以下“日工会”)は、10 月 21 日に9月分の受注額確報値を発表した。

【坂元会長のコメント】
 10 月に入りノーベル賞が発表され日本から生理学・医学賞に坂口志文・大阪大学栄誉教授・免疫学フロンティア研究センター特任教授が、化学賞に北川進・京都大学副学長・高等研究院特別教授がそれぞれ受賞した。長年にわたり心血を注がれた研究が国際的に評価され、心よりお祝い申し上げたい。また 10 月 13 日には大阪万博が成功裏に終わった。会期が進むにつれて人々の関心が高まり、入場者は速報値で 2528 万人と聞いている。
 一方、国際経済に目を転じればIMF(国際通貨基金)は 10 月 14 日に 2025 年の世界全体の成長率を 3.2 %になるとの最新の見通しを発表した。米国の関税措置が当初の発表よりも緩やかに設定されたほか企業のリスク回避の動きや各国の財政支援、AI関連投資による生産性の加速などで経済全体への影響が、7月の改定見通しから「0.2 ポイント」改善された。
 その米国は、相互関税の税率発動以降も、8月 18 日に鉄鋼アルミ製品への追加関税の対象品目にマシニングセンタなどを追加したほか9月 24 日には海外系企業への依存度や外国での過剰生産での観点から工作機械などに関し“分野別課税”の必要性について調査中であることを明らかにし波紋が広がっている。
 また中国によるレアアースの輸出規制強化の動きにトランプ大統領が 11 月以降に輸入される中国製品に100%の関税を上乗せする意向を表明したことで両国間に緊張が高まっている(最新の情報では、これらの措置は1年延期された)。
 国内政治においては石破総理の退陣表明を受けて、与党の枠組みが変化するなど大きく流動化しており、本日(10 月 21 日)選任される新首相とその政策に注目が集まっているが、経済方針についてはまだ表明されていないので、注視していく状況だ。

以下は9月受注確定額の詳細

1.概況【9月受注】:
受注総額 1,391.5 億円 ⽉⽐+ 15.8 %(3ぶり増加)、前年同⽉⽐+ 11.0 %(3連続増加
受注総額は、7カ⽉連続の 1,200 億円超。1,100 億円超えは 56 カ⽉連続。
前年同⽉⽐では3カ⽉連続増加。年度上半期末としてはまずまずの⽔準。
(1)内需 436.5 億円(前⽉⽐+ 36.8 前年同⽉⽐+ 5.1 %)
6カ⽉ぶりの 400 億円超え。航空・造船・輸送⽤機械の前年⽐は⼤幅な伸びとなるも、主な需要業種は軒並み減少となった。
(2)外需 955.0 億円(前⽉⽐+ 8.2 前年同⽉⽐+ 13.9 %)
前⽉⽐で6カ⽉ぶりにプラスとなり、950 億円超え。 前年同⽉⽐では 12 カ⽉連続と持続的な増加となっている。
⇒9⽉の⼯作機械受注は、年度上期末の効果が⾊濃く表れ、上振れ傾向が常態化。 受注の先⾏きは、⽶国の関税措置が⼀段落するも、国際情勢の明るさは⾒通せない中、慎重な動きが⾒込まれる。概して堅調ながら第4四半期の回復に期待。

月の受注(内需・外需)

受注額の月別推移

■内需(9月分)

(1)内需総額:436.5 億円(前⽉⽐+ 36.8 %前年同⽉⽐+ 5.1 %)
・6カ⽉ぶりの 400 億円超えも、9⽉単独で直近5年間の平均と比べ低い⽔準。
・主な需要業種は、前⽉⽐で全てが増加も、前年同⽉⽐では⾃動⾞、電気・精密が 減少しており、内需総額が例年よりやや低い⽔準となったひとつの要因。

(2)業種別受注
・主要4業種
前⽉⽐:全ての業種で増加
前年同⽉⽐:「航空機・造船・輸送用機械」で大幅増加
航空機・造船・輸送用機械は、過去最高額を記録
・全 11 業種中
前⽉⽐:増加9業種(「金属製品」「電気機械」「精密機械」等)
前年同⽉⽐:増加5業種(「その他製造」「官公需・学校」等)

(3)一般機械(産業機械等・金型)向け受注
一般機械(産業機械等・金型)向け受注

・⼀般機械は前⽉⽐で3カ⽉ぶり増加、前年同⽉⽐は3カ⽉連続減少も、2025 年累計平均と比べ 高いレベルとなっている。2025 年の暦年受注額の中で、3番⽬に高く堅調。
・建設機械は5カ⽉連続 10 億円には届かずも、概して堅調に推移。
・⾦型は、2025 年の暦年の中で2番⽬に高い受注額で堅調

【ことラボコメント】
 日工会提供の資料には「⾦型は、2025 年の暦年の中で2番⽬に高い受注額で堅調」との表現がある。しかし上のグラフの緑の折れ線の“金型の受注額”の推移を見て、これを“堅調”と表現することに不安を感じる。金型業界を“堅調”と認識するのは危険だ。金型は大量生産のキー・テクノロジーだが、それを担う企業は「中小企業」のカテゴリーにも入らない小規模なレベルだ。“タテ社会”の日本では発注側の乱暴な要求を何度も取材してきた。そして発注元が内製化を目指し始め、その傾向が強くなっている。「金型の図面を渡せ」という乱暴な話もあったが、発注元に大学院卒の修士様が入社して、金型職人の“暗黙知”をことごとく否定され、愛想をつかして廃業してしまった話もあった。ソフトウェアが進化して、それまでの暗黙知を補完する動きもあり、そこに5軸加工機を併用すると中国や韓国でもレベルの高い金型作りが可能になってきたと言われる。「それは個社の問題」と片付けていては「強い経済で成長を目指す」という政治家たちが目指す前提が崩れていくのではないか。

(4)自動車(自動車部品・完成車メーカー)向け受注
自動車(自動車部品・完成車メーカー)向け受注

・⾃動⾞向けは、前⽉⽐で増加したものの、前年同⽉⽐では2カ⽉連続減少した。
・直近の年間平均と比べると、平均レベルとなり、投資の顕在化はみられない。
・⾃動⾞関連は、⽶国の関税措置が⼀応決着したものの、電動化対応の⽅向性が定まらない中、抑制的な投資環境が続いている。

【ことラボコメント】
 9月の自動車部門(自動車部品と完成車)の受注額は、前月比で2桁増も前年同月比は2カ⽉連続減少だ。“投資の顕在化は見られない”とまで表記されている。さらに下の帯グラフ(内需に占める主要業種の割合)を見ると、自動車分野は「16.2 %」と、表中の過去の記録の中で最も低い割合になっている。しかし、「一般機械向け受注」に占める「金型」が今年2番目の受注額を占めたことは、クルマ産業が動き出したのかもしれない、と考えると来月の確報が楽しみになる。だが自動車産業が直面している「100 年に一度」の変革期で金型が占める割合は大きくない。工作機械業界が直面している問題は、過去の経験則で判断するべきではないと考える。この段階で思うのは、EV化の問題を「自動車業界」マターで考えているのは「20 世紀的思考だ」と。災害時にも有用な「モバイル電源」として「産業機械」の枠組みで考えたらどうだろうか? 私の知見では、現段階では自動車業界が“電気”を学んでいており、電気産業は「お客様」の問題と理解しているようだ。

受注内需 主要業種別構成の推移

■外需(9月分)
(1)外需 955.0 億円(前⽉⽐+ 8.2 % 前年同⽉⽐+ 13.9 %)
・前⽉⽐は6カ⽉ぶりの増加、前年同⽉⽐では 12 カ⽉連続増加し、13 カ⽉連続の 800 億円超え。950 億円超えは4カ⽉ぶり。
・外需は、世界経済と需要業種の不透明感は払拭されず、概して緩やかな動きとなる。

【ことラボコメント】
 政治の世界が混乱しているようだ。批判精神の乏しい日本のマスコミは、世界の中での日本の立ち位置を“甘い基準”で判断している。プレス工業の米国支社長だった片桐利朗氏は米国で「仕事は片手でやるものなのに、日本の男は両手で仕事をするから卑怯だ」と言われた。ここには宗教観の違いがある。日本を含んで世界中が不況時に、ミラノの展示会で日本の工作機械業界に応援メッセージを求めた私にイタリアの工業会UCIMUのリエッロ会長は「日本の工作機械メーカはダンピングをするな。本当に困っている」と的外れな批判を受けた。“機械文明”を生み出した欧米人は「仕事が楽になる」と考えたが、そこからスタートしたアジア諸国は「もっと稼ごうと」と考えた。新政権が海外と付き合うにあたり上のグラフを頭に置いて、日本の立ち位置を定めて欲しい。

(2)主要3極別受注
①アジア
アジアの受注額

アジア計は、2ぶりの 450 億円超え。
-東アジアは、2カ⽉ぶりの 350 億円超え。
-中国は2カ⽉ぶりの 300 億円超えで、2025 年の平均 より高い⽔準。
-その他アジアは5カ⽉連続の 100 億円超え。
-インドは2カ⽉ぶりに 50 億円超え。

アジアの業種別受注
・主要4業種は、前⽉⽐、前⽉同⽉⽐ともに「⼀般機械」「⾃動⾞」が増加。
・「⼀般機械」は、直近2年の平均よりも高い⽔準で、2カ⽉ぶりに 150 億円超えの推移。
・「⾃動⾞」は、2018 年6⽉以来の 190 億円超え。
・「電気・精密」は、前⽉⽐、前年同⽉⽐ともに減少し、12 カ⽉ぶりの 80 億円割れ。
・「航空・造船・輸送⽤機械」は2カ⽉連続 10 億円超えと堅調に推移。

欧州
欧州の受注額

欧州計は、2カ⽉ぶりの 150 億円超え
-ドイツは、前⽉⽐で 30 %超えの増加、4カ⽉ぶりの 36 億円超え。
-イタリアは、2カ⽉ぶりの 20 億円超え。 2025 年の平均並みの⽔準。

欧州の業種別受注
・主要4業種は、前⽉⽐で全て増加、前年同⽉⽐は「電気・精密」「航空・造船・輸送⽤機械」 のみ増加。
・「⼀般機械」は、3カ⽉連続の 50 億円割れに加え、直近1年の平均よりも1割程度低い⽔準。
・「⾃動⾞」は、10 カ⽉連続の 20 億円割れも 2025 年で1番高い受注額。
・「電気・精密」は、前⽉⽐、前年同⽉⽐ともに増加も、2カ⽉連続 15 億円割れとやや低い⽔準で推移。
・「航空・造船・輸送⽤機械」は、6カ⽉ぶりの 20 億円超え。

北米
北米の受注額

計は、⽉⽐、前年同⽉⽐で増加し、8カ連続の 250 億円超え。
-アメリカは、前⽉⽐、前年同⽉⽐増加し、2025 年の平均よりやや高い 250 億円超え。
-メキシコは、4カ⽉ぶりの 25 億円超え。

北米の業種別受注
・「⼀般機械」は、3カ⽉ぶりの 80 億円割れとなるも、建機の伸⻑で 2024 年のレベルと同等⽔準を維持。
・「⾃動⾞」は、2カ⽉ぶりの 50 億円割れも、「⾃動⾞部品」の堅調は持続的。
・「電気・精密」は、2カ⽉連続の 20 億円超え、直近の平均値より高い⽔準。
・「航空・造船・輸送⽤機械」は、3カ⽉ぶりの 60 億円超え、航空機部⾨の好調を反映。

AMT事務局コメント(8月分受注)
2025 年8⽉(P):5億3千万ドルとなり(前⽉⽐+ 36.2 % 前年同月比+ 45 %)月次ベースで大きな伸びを示した。
「内訳を見ると、ジョブショップと航空宇宙部⾨で⼤型案件が見られたほか、建設部⾨に関連し⼯場建屋の空調設備向け受注が増加に寄与している。年後半に向け、連邦予算凍結などがリスクとなるなど不確実性要因がいくつか残っている。」とコメントした。
★次回、2025 年 10 月次の受注額の報告は、速報が 2025 年 11 月 12 日(水)15 時、確報値は 2025 年 11 月 26 日(水)15 時に発表。