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アマダスクール「第37回優秀板金製品技能フェア」の表彰式開催される
職業訓練法人アマダスクール(福井幸弘理事長)は、3月8日「第 37 回優秀板金製品技能フェア」で優秀作品を選出、表彰式を開催した。同技能フェアは、国内外の板金加工技術・技能の向上と交流を図り、業界全体の発展に繋がることを目的に 1989 年から毎年開催され、今年が 37 回目になる。

アマダホール 246
表彰式は伊勢原市のアマダ本社の『アマダホール246』で行われた。“246”は本社そばを走る国道 246 号に由来する。座席の数も 246 席というところにアマダらしいシャレがある。
開催にあたり福井幸弘理事の挨拶。「出展作品に盛られている技術が回を追うごとに高くなっている。詳しくはのちほど“講評”で紹介するが、本社にいるので何回も作品を見た。“これはどうやって作るのだろう”とか“これは技能が高いな”とか“これはスクールでもできるのではないか”などと、作品が語り掛けてくるので時間を忘れてその場にいることが何度もあった。のちほど展示会場に行き“作品が語る”という感覚を味わっていただきたい。我が国は少子高齢化といわれ、これから労働人口は減っていきます。生産する設備は確かに高機能になり自動化も進んだ。さらにAIという新しいツールを使って進化をし続けるものだと思う。しかし、加工技術・技能というもの、特に技能というものは後継者の育成という問題があり、しっかりと育って欲しいと思う。このフェアを活用し、板金加工のエキスパートを目指す若い方々のひとつの目標となり、励みとなり、加工技術の技能向上の役に立てれば、と考えている。これがさらに進化し、国内外で大きく評価されるような場に作り上げていきたい」と気持ちのこもった挨拶だった。

職業訓練法人アマダスクール理事長 福井幸弘
2028 年 11 月名古屋で技能五輪
このあと来賓の厚生労働省 人材開発統括官 能力評価担当参事官室 参事官室 参事官 安達義弘氏と経済産業省 製造産業局 素形材産業室長 星野 昌志氏から祝辞が述べられた。ひときわ湧いたのが、安達参事官が技能の伝承の重要性を広く伝えるために 2028 年 11 月にセントレア(名古屋国際空港)横の展示場「アイチ・スカイ・エクスポ」において『技能五輪』の開催が決定したとのメッセージとその時の動画が流れたときだ。かつては日本勢が多くの金メダリストを要していた技能五輪だが、近年は台頭するアジア勢などに押されて成績が振るわない。安達参事官も「技能者が尊称される社会をもう一度実現したい」と熱く語った。寺島実郎氏をはじめとした多くの識者が「“ものづくり立国ニッポン”などとマスコミは言っているが技能五輪における、日本の成績の長期低落傾向に目を向けろ」と警鐘をならしている。3年後には捲土重来を期待したい。
■ 応募作品の内訳
応募総数 263 点(国内 155 点、海外 108 点)
(部門別応募数)
「単体品の部」 121 点/「組立品の部」 60 点/「溶接品の部」 23 点/「造形品の部」 43 点/
「学生作品の部」 16 点
海外応募作品の国別内訳(全 19 ヵ国 108 点)
中国 16 点/ アメリカ 16 点/ フランス 13 点/ スペイン 10 点/ インド9点/ イタリア7点/ 韓国7点/ ドイツ6点/ 台湾5点/ イギリス3点 / シンガポール3点/ タイ3点/ U.A.E3点 / スウェーデン2点 / スイス1点 / ポーランド1点 / マレーシア1点/ ベトナム1点 / オーストラリア1点
海外からの応募数は過去最大タイ記録となり海外における「板金フェア」の知名度が上昇していることが判る。今年の「海外最優秀作品賞」はイタリアのOFFICINE BIEFFEBI Spa.の『エンジンサポート』が受賞した。素朴な疑問だが、これは“単体の部”“組立の部”“溶接の部”“造形品の部”という国内作品の分類との関係が判らない。応募総数 263 点中海外から 108 点と言うことは、海外比率は 41 %を超える。そろそろ海外から作品をひとくくりで「海外優秀作品賞」とするのはバランスを欠くことになりそうだ。海外比率が 50 %に迫るころまでには新たな仕分け方法を見出すべきだと思う。さらに来日に困難な受賞者が多く、事実、壇上に上がるのはアマダのグローバル推進部門役員なのは少し興ざめする。以前、日本国内の大使館にいるテクニカルアタッシェ(技術担当官)に声をかけることを勧めた。そのときはイタリア企業が受賞してイタリア貿易振興会(現イタリア大使館貿易促進部)の方が参加してくれた。フランス大使館の人などは乗りがよく「その時は金髪のほうがいいですね」とまで言っていたが、フランスの入賞はなく、そのうちまた海外事業部の代理受賞になってしまった
■受賞作品とその講評
授賞式を終えると会場を移動して交流会に移るが、そこには受賞作品が展示されている。参加者は、式典中は作品をスライドでしか見ることができないが、毎回、技能フェア運営委員会の幹部が講評を行い、その作品の魅力について事前にレクチャーを受ける。これが毎回の楽しみだ。今回は優秀板金製品技能フェア運営委員会の高橋進副委員長(日本大学)が講評した。
(1)厚生労働大臣賞

『王冠』 ㈱MMR技研(大阪府)
厚生労働大臣賞は「最高度な熟練技能・手法を用い、品質・精度の極めて高い作品」に与えられ、今回は㈱MMR技研(大阪府)の『王冠』が受賞した。これは単体の部の応募作品。王冠のトップの部分は別の素材でできていてそれ以外の部分が板金でできている。通常はレーザ溶接で立体にするが、この作品は板厚1mmのステンレスをレーザ溶接なしでこの形状を実現した。応募作品には通常、製作方法の説明書きが添付されるのだが、この作品はそれが無くて「審査員で考えて下さい」と審査員の実力を試されるような応募だったらしい。審査員の中には「どうやって作ったのか」と興味をそそられた人もいた。アイデア、技術、審査員が考えさせられた点などを総合して本賞に決定した。
(2)経済産業大臣賞

『BEVEL GEAR CUBE』 ㈱田辺製作所(福岡県)
経済産業大臣賞は「最高度な加工技術・手段の開拓など、その成果が板金業界に広く貢献すると思われる作品」に与えられる。今回は、㈱田辺製作所(福岡県)の『BEVEL GEAR CUBE』 が受賞した。この作品には8個の傘歯歯車が組み合わされている。傘歯歯車は1個でも製作の難易度は高く、それを8個も組み合わせてなおかつ回すと連動して動く。加工の精度、仕上がり精度が高く、一つを回すと全部が動きまるで映画の『トランスフォーマ』のように機械が変身していく面白さもある。展示場で是非とも回してみて欲しい。一つ一つの傘歯歯車は設計、展開、切断、溶接、磨きと組立も入っている。総合的に見て本賞に相応しいと決定された。
(3)神奈川県知事賞

『METAL-TOY神奈川沖浪裏』“The Great” ㈱石川金属製作所(北海道)
神奈川県知事賞は「将来の製品化に期待が持てるアイデアや考え方、技術・技能が含まれている作品」に与えられ、今回は ㈱石川金属製作所(北海道)の『METAL-TOY神奈川県浪裏』“The Great” に与えられた。皆さんご存知の葛飾北斎の『神奈川沖浪裏』を、0.6 mmのステンレスをレーザで切断したもの。横 60 mm、タテ 53 mmの小さなもので、手前から奥まで少しずつ変えていて、それを9枚(?)繋げてあり、立体感を出し、横に動いて見ると波が動くようなダイナミックさを感じさせる作品。
(4)中央職業能力開発協会会長賞

『3Dパズル』㈱キヨシゲ(千葉県)
中央職業能力開発協会会長賞は「卓越する技能を用い、独自の手法を開拓したと思われる作品」に与えられる。今回は㈱キヨシゲ(千葉県)の『3Dパズル』に決定した。この作品は6個の辺を持つ正三角錐が5個組み合わさっている作品。すると6×5で 30 の辺が集まっている作品になる。それぞれの部品の精度が 100 分の1くらいでないとうまく入らない、というもの。加工製作の 75 %が組立に使われる高精度な作品。高精度の証拠と言うか、この作品を持ってみてもガタがない。加工能力、組立能力が高いということが評価された。
(5)日刊工業新聞社賞

『球体パズル』㈱坂口製作所(大阪府)
日刊工業新聞社賞は「技術水準・独創性がきわめて高く、業界の発展に貢献すると思われる作品」に与えられる。今回は㈱坂口製作所(大阪府)の『球体パズル』が受賞した。形としてはジグゾーパズルの形をしている。数種類のパズルがこの中に入っている。積層板を用いた型を使って成形している。通常、球体を作るときは凸レンズのような形のものを繋げて作るのだが、これは形の異なるものを繋げて球体にしている、難易度の高い技術を用いていることで評価された。
(6)日本塑性加工学会会長賞

『コルゲート加工品』㈲スナミ製作所(岡山県)
日本塑性加工学会会長賞は「特に高度な曲げの技術・技能に優れた作品」に贈られる。今年は㈲スナミ製作所(岡山県)の『コルゲート加工品』に決定した。“コルゲート加工”とは材料を波型に加工することで、薄くても強い構造を実現する。本作品は 0.15 mmのステンレス板に、カウンタ型を使って剪断と曲げを行っている。板厚が薄くなれば曲げ加工で起きるスプリングバック(反発)は大きくなるが、その辺をうまく予測して金型を作っているのが特徴。長い成形品は金型の精度が悪いと途中から曲がっていくが、この作品は直線的に完成している。それだけ金型の精度が良いことが判る。
(7)海外最優秀作品賞

『エンジンサポート』 OFFICINE BIEFFEBI Spa (Italy)
海外最優秀作品賞は「海外出品作品の中で技術・技能に優れた作品」に贈られる。今回はイタリアの OFFICINE BIEFFEBI Spa 社の『エンジンサポート』に贈られた。これは実際に使われている芝刈り機のエンジンを固定する部品と思われる。板厚が6mmのSPCCを使って曲げ加工をしている。長さが450 mm、横が 80 mm、高さが 150 mmでかなりズッシリしたもので、苦労したと思われる。実用的だが難易度の高い加工をしていることで表彰された。
その後も受賞作品の講評は続くが、主要6賞と海外作品の講評だけにとどめる。
板金加工の技術・技能の向上に、本フェアが大きく貢献していることは長年の取材で理解しているが、さらに改善が必要なのではないか、と今回の取材で思った。実は、式典のプログラムは毎回微妙に、あるときは大きく改善されている。より良くしようとする主催者の気持ちが伝わってくるので、これまではあまり意識していなかった。しかし今回気がついたことを記述すると、
まず、参加している企業が固定化しているように思う。
運営委員会の割沢伸一委員長の審査経過報告の中にも「新規出品比率」に対するコメントがあったが『板金フェア』をもっと広く公知させる努力が必要なのではないか。“本番”は今まで通りに行うとして《JIMTOF》や《MF-TOKYO》の会場に主要6賞の作品を展示してアピールするようなことも必要なのではないか。《JIMTOF》は工作機械の展示会との思い込みは改めたほうがよいと思う。実際、著名な展示会だから来場している人、その人たちは板金業界の人であることも多い。初めて参加、授賞する企業はそのようなことは感じないだろうが、授賞企業が常連化しているとすると、今後の展開は難しいのではないか。
次に「講評」の重要性を再認識して欲しい。少なくとも素材と板厚、さらにブランキング、ベンディング、ウェルディングなどの基本技術がどのように使われて、どのような困難を克服したのか、聞いている者にも共有できるようにして欲しい。その中で、今回の『王冠』で受賞した ㈱MMR技研(大阪府)のように「どうやって作ったか判ります?」と審査員に挑戦する企業が出てきたら面白いと思う。
なお次回については、
■応募受付
2025 年6月1日~10 月 31 日
■審査期間
2025 年 11 月1日~2026 年1月 31 日
■表彰式
2026 年3月初旬
となっている。