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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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JIMTOF2024 激変!?

2024 年 11 月 20 日

 国内最大の工作機械展示会、第32回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2024)が 11 月5日(火)から 10 日(日)の6日間にわたり東京ビッグサイトで開催された。
 工作機械業界を巡る状況は、かつては“景気”に大きく左右されると言われていたが、ここ数年は内外の事情で複雑な様相を呈している。日本では工作機械の最大のユーザーは自動車とその関連産業で、そこがEV化を巡る混乱で動きが鈍くなっている。また精密電子機器の半導体も米中対立や台湾の半導体メーカーTSMCを中心とした本格的復活まではもう少し時間がかかる、とのことで日工会が毎月発表する受注統計でも、本格的な回復まではもうしばらくかかるだろう、との見通しが直近の定例記者会見まで続いていた。このJIMTOFが起爆剤のひとつになるだろう、との見通しもあって期待に胸を膨らませて会場入りした。
 始めてJIMTOFに参加したのは 1986 年の大阪JIMTOFだったから 40 年近く参加・取材してきた。その経験に照らしても今回展には大きな変化があった。本レポートでは“変化”に留意しながら今回とこれからのJIMTOFについて考えた。

開会式~スイッチオンセレモニー

 開会式は初日 11 月5日の午前8時 30 分に南展示棟1階(南1ホール)『メインステージ』で行われた。挨拶に立った主催者のひとつ一般社団法人・日本工作機械工業会の稲葉善治会長で「工作機械の新技術の発表の舞台としてJIMTOFは、1962 年の初開催以来関係者のたゆまぬ努力と情熱により工作機械ビジネスの成長に寄与しながら成長を続けてきた。今回は世界 19 か国から 1262 社、5743 小間と過去最大の規模となり国際展としてのレベルになったと言える。今回展のテーマは“技術のタスキで未来につなぐ”。最先端の技術をJIMTOFから世界に発信することで製造業のポテンシャルを最大限に引き出し無限に広がる未来の可能性を切り拓こう、という熱い思いが込められている」と述べた。次に来賓として武藤容治・経済産業大臣が登壇した。2年前のJIMTOF2022では当時の西村康稔大臣のビデオメッセージだったので、大きな前進だ。余計なことだが“製造業立国ニッポン”などといっても経済産業大臣が開会式に登壇したのは私の記憶では初めてだ。

稲葉善治・日工会会長

武藤容治・経済産業大臣

 武藤経産大臣は「工作機械は機械を作る機械“マザーマシン”と言われる国の基幹産業だ。我が国製造業の発展に大きく貢献している世界に誇る日本の基幹産業のひとつだ。こうした技術を披露するJIMTOFが過去最大の規模で開催されると聞いた。長い歴史と伝統がある世界最大級の国際工作機械見本市の力強さを実感している。世界に冠たる日本のものづくりを支える工作機械はわが国が唯一優位性を持つ産業であり、経済安全保障上も極めて重要だ。政府として経済安全保障推進法に基づく特定重要物資として工作機械と産業用ロボットを位置付けている。今後も経済産業省として積極的な投資や開発を行う事業者の皆さんをしっかりと支えていく。我が国の成長と分配の好循環を確実に進めるためには脱炭素と産業変革をもたらすグリーントランスフォーメーション、あらゆる技術の前提となるデジタルトランスフォーメーションといった成長分野に官民を挙げて思い切った投資を行いその実現に取り組んでいく必要がある。JIMTOF2024では、こうした投資に必要な技術や省エネ対応、自動化・省力化を推進するロボットの活用など、経営課題や社会課題を解決する数多くの技術が展示されていると聞く。このイベントを通じて日本企業の設備投資の意欲が高まり新たな成長の芽が一つでも多く生まれることを期待している」と開会式に相応しいエールを送った。
 続いてもう一方の主催者である株式会社東京ビッグサイトの前田信弘代表取締役社長が「開会宣言」を行った。式典はこれまでよりもかなりスマートになった。そして極めつけは「スイッチオンセミナー」だ。壇上中央に運び込まれた小さなテーブルの上に赤く大きなボタンがあり、それを上記の3人がカウントダウンで「ゼロ」になると共に押し下げて「JIMTOF開会」となりファンファーレが鳴り響き上空から赤くメタリックに輝くリボンが舞い降りてきて華やかな雰囲気の幕開けとなった。

前田信弘・東京ビッグサイト社長の開会宣言

スイッチオンセレモニー

JIMTOF2024開会

 開会式の参加者は案の定少なかった。東展示棟の出展者にすれば開会式は東展示棟オープンより1時間半も早いし、式典会場に歩いて行くには遠くて、動く歩道を使うには西展示棟を遠回りしないとならない。「今回はパス」を決め込む出展者がいてもやむを得ない。しかし展示会というのは企業の販売促進活動の中でも瞬発的でしかも全社的に取り組むものだ。開会式は「さて、始まるぞ」とスイッチを入れる儀式なのに「何となく始まる」というのは芸がないと思う。次回には多くの出展者が参加出来る工夫が欲しい。
 東京ビッグサイトは日本の展示会場としては広いが世界的な規模で見るとかなり狭い。下の表は日工会が配布した今年の「IMTS報告書」から引用した。世界の主要工作機械展に比較して、ソウルに次いで下から2番目の狭さだ。

 日本で最大規模の工作機械展に参加を希望する企業が多く、ウェイティングサークルには多くの企業が待ち受けていたから南展示棟を増設した。前回から参加を希望する企業のすべてが参加できるようになったが、前回展では「南展示棟はあまりにも遠い」と注文がついた。今回展では「南展示棟対策」が講じられていくつかの工夫がなされた。開会式が南1ホールのメインステージで開かれたのもその一つだ。

時差開館

 さらに今回から「時差開館」が始まった。まず会場を「東ホール」と「西・南ホール」に分けて開館時間に1時間の時差を設けた。時差開館はIMTSなどでも行われており特異なことではない。しかし初めての今回は違和感が残った。それは南ホールにファナックと三菱電機というビッグネームを配してバランスをとり、今回展も“目玉企画”と位置付けたAM(アディティブマニュファクチャリング)エリアを設けた。主催者の努力と工夫が窺えた。ちなみにこの写真は初日午前10時前の南展示棟1階のファナックの小間の様子だ。この込み具合で主催者の努力が報われたと言えると思う。

午前9時半ころのファナックブース

午前 10 時前のメインゲート

 しかし午前 10 時前のメインゲート前の様子を見るとまだ考えさせられる。東展示棟に向かう人々だ。「西南展示棟」からではなく東展示棟に向かうゲートに来ている。西南展示棟の出展者は、同じ展示会なのだから、こちらも見て欲しい、と思うだろう。東京ビッグサイトは会議棟を中心に東西展示棟で構成されていたが後から南展示棟が付け加えられた。「南」といっても「西」の先にあるので違和感は残る。しかし東京ビッグサイトの周囲は海、ゆりかもめの車庫などで展示棟の拡張・再編成はできない。東京ビッグサイトの全館を使用する展示会はJIMTOFとモビリティショー(旧モーターショー)くらいであまり多くない。これ以上の増設は急がないが運用の工夫は必要だろう。以下の写真は北のコンコースにあった、西南展示棟に向かうように促すものだが、反対の南コンコースでは見かけなかった。

西南展示棟へ誘う看板

アカデミックエリア

 積極的に西南展示棟に誘導しようとする努力は判ったが、従来は北コンコースにあった「海外工業会インフォメーション」と「IMECポスターセッション」が「南4ホール」に移動した。しかしこれはいただけない。THKの免震車やEV車が置かれ、IMECポスターセッション会場が併設されていたが人影はほとんどない。海外工業会の人々はJIMTOFには人が来ないというメッセージを発信するのではないか、と心配になる。さらに出版社の多くが配置されていたが「全く人が通らない」と嘆いていた。彼らはある意味では主催者よりも出展者情報に通じている。ミラノの展示会では、入り口付近や曲がり角に出版社があって来場者からの質問に対応していたことを思い出す。

北コンコースの案内板

アカデミックエリアの多目的ステージ

限界への挑戦

 展示会場では様々な産物の販売促進やコンサートなどが開かれる。その中でもJIMTOFの中心製品である工作機械は重いので展示場の床面に大きな負担をかける。展示会に行くと足腰が疲れるのは硬い床に足腰を痛めるからだ。しかも東京ビッグサイトだけではなく、国内の多くの展示場は地方公共団体の箱物行政の産物で海岸の埋め立て地に立地している。そのために床の耐荷重は大型工作機械を置くには弱く、工作機械展は展示会場に取り少し困る企画なのだ。
 さらにその工作機械を動かすと大量の電力を消費する。展示会場は電力会社と電力の最大消費量(デマンド)により契約するが、それを超えてしまうと多額のペナルティを払わなければならない。そのため臨時に「ヂーゼル発電車」などで保険をかける。今回のJIMTOFではその対策を取ったのかは不明だが東展示棟にある動く歩道は止まっていた。会場内には動く歩道が3か所あるが、一番長い東展示棟のガレリアにある歩道は止まっていることが多かった。南展示棟に直行するものと北コンコースと東展示棟結ぶものは運用していたが、電力不足が原因なら発電車などで追加は可能なので対応して欲しい。

動かない「動く歩道」

会場内交通サービスの案内板

好印象ポイント

 文句ばかりを言っているわけではない。これは「いいね!」ポイントも記録しておく。
 社名板:回を追うごとに規模が拡大していくJIMTOFなので毎回のように改善・工夫が続けられているが今回展で気がついた「いいね」ポイントは、会場内の「社名板」だ。展示会では基本的に“小間(こま)”と呼ばれるスペースを出展者に貸し出し料金を徴収している。その小間を並べると「ハーモニカ」のように見えるからハーモニカと呼ぶが、隣の出展者との境の壁の上部に「社名板」を作る。左右両方の壁に仕切られた内向きに出展企業名が表示される。悩ましいのは一番奥に配置された企業の社名板は、人が通らない奥に向いて表示され手前からは見えない。しかし写真のように仕切り壁の前後の社名が表示されれば、企業を探して会場内を回る人には親切だ。「社名板」と簡単に考えるかもしれないが出展者には大切なものだ。初日の開館時間までには正しく取り付けられているか誤字はないかを確認しなければならず、その手間を考えるとこれには好印象を持てた。
 公式ガイドブック:展示会につきものなのが主催者製作の「公式ガイドブック」だが、今回展では製作していない。「多分、そうだろうな」と思いつつ主催者に確認すると「紙媒体の資料離れが前回展より顕著になり費用対効果の見地から作成見合わせとなりました。一方、機械関連の 12 団体で構成する「関連協」では、QRコードを活用した「会員名鑑」を作成して、会場限定で無償配布しました。会場図、講演の開催申し込み、技術者会議へ「QRコードからアクセス」できるなど、紙媒体と電子化情報の融合資料です。」と丁寧な回答を得た。

会場内の社名板

内外の主要工作機械展の公式ガイドブック

今回展の工作機械輸入協会の会員企業ガイド

内部はカラー刷りで情報も豊富に

 主催者が公式ガイドブックを上記のような理由で製作を中止して関連団体が独自、公式ガイドブックに代替する印刷物を製作したが、関連団体に所属しない企業の情報は発信されないのではないか? 少し疑問は残る。
 会場内でも、カタログなどの資料はバーコードで手に入れるように、と名刺サイズのカードなどを配布する出展者が目立った。夕方の駅を見ても大きなバッグを持つ人はほとんどいない。会場内の宅配業者も暇そうだった。これは主催者の先見の明が勝った事例だ。

少し寂しい宅配便受付(西展示棟1F)

上から時計回りに牧野フライス製作所、DMG森精機、アマダ、三菱電機の資料請求バーコード

 資料配布は激減したが、それでも何らかの資料を持ち帰るニーズはある。会場内で目立ったのは、鮮やかなグリーン地に白抜き文字で「町工場専用」とアイキャッチにした日本ツクリダス(大阪府堺市)だ。東7ホールに小間(E7051)を持ち、通行する来場者に積極的に袋を配っていた。前回も同じ東7ホールに出展していたが失礼だが記憶にない。今回、多くの企業が大きなバッグ・袋の配布を避けたためにこちらが目立ったのだろうか。

アカデミックエリア

 南展示棟「南4ホール」の「アカデミックエリア」は意欲の空振りした残念な空間だった。事前に配布された資料には「出展者が学生に対してリクルート活動を行うことができる『キャリアマッチングスクエア』やIMECポスターセッションに加え、多目的ステージや飲食可能なスペースなどJIMTOFを盛り上げるための企画をご用意しております」と紹介しているが、IMECポスターセッションや海外工業会のインフォメーションブースはそれまで「北コンコース」で展開していたものを「南4ホール」に移動しただけだ。「JIMTOFを盛り上げる企画」というには知恵の出し方が足りない。

 ここに写っている3人のうちの中央と左の人は来日したイタリアの工作機械工業会UCIMUのスタッフだ。牧野フライス製作所・金谷潤・執行役員のご厚意で取材に応じていただいた。男性はEnrico Annacondia氏で技術部門のマネージャ。中央の女性はClaudia Tovaglieri嬢。マーケティング担当だ。彼女がJIMTOFに来日するのはこれで5回目。私は工作機械輸入協会のイベントで米国、ドイツ、フランス、スペインの大使館・技官と知り合ったが、本国からJIMTOFに調査員を派遣しているのはイタリアだけだ。日工会もIMTSやEMOの調査をしているが、多くは大学の先生に依頼しているようだ。UCIMUの意味は「工作機械ロボット自動化機器工業会」、JIMTOF関連団体が 12 団体あるのに比べて、イタリアではこのUCIMUが同国の機械産業を統括している。当然、スタッフも 200 名ほど大所帯でミラノ郊外に8階建ての自前のビルを持っている。
 これまで北コンコースにあり、目の前を大勢の来場者が押し寄せてくる様子を見てきた彼らが、今回、南4ホールという“僻地”に追いやられ、母国に戻りJIMTOFを正確に報告してくれるか不安になる。次回は、全体設計を再考して欲しい。
 今回は、開会式から以前との変更点に驚き、会場内レポートになった。日本のコンベンションビジネスのために、これからも改善・改革は続くだろうが、JIMTOFの検討に期待する。
 最後に展示会の“成績表”である来場者数の速報版を示して、あの賑わいを振り返りたい。