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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

ことラボ・レポート

ものづくりワールド2024が開催された

NEW! 2024 年 07 月 03 日


 6月 19 日(水)から 21 日(金)までの3日間、東京ビッグサイトで《第 36 回ものづくりワールド東京》(主催:RXジャパン)が開催された。今回のものづくりワールドは①設計・製造ソリューション展、②機械要素技術展、③ヘルスケア・医療機器開発展、④工場設備・備品展、⑤ものづくりAI/IoT 展、⑥次世代3Dプリンタ展、⑦航空・宇宙機器開発展、⑧計測・検査・センサ展、⑨製造業DX展、⑩ものづくりODM/EMS展で構成されており、海外からの出展も多く、出展社数は 1,978 社となった。3日間の来場者数は69,717名にも及び、海外から見学に来ている人も数多くみられ会場内は活気が溢れていた。

 今回は、東ホールと南ホールを併用した。しかし東京ビッグサイトの東、西、南ホールの配置はお世辞にも大型展示会向きではない。しかも東ホールと南ホールでは、広大なビッグサイトの両端になる。主催者は、5分間隔で会場内シャトルバスを運行し、その距離を縮めようと努力していたし、南ホールには「飲料無料配布所」があり、東ホールの受付にはその引換券を配布している。主催者の努力に頭が下がるが、国の産業政策を支える展示会場ではなく、地方公共団体の箱物行政の限界を感じる。日本の産業力の低下を嘆くなら、本気で新しい仕組みを作らないといけない。

「ものづくり」の曖昧さと錯綜する展示企画

 さて製造業の展示会規模としては大きな《ものづくりワールド》展だが、全体像を理解するには真剣に企画の全体像を把握しなければならない。企画の中にはサブ・テーマを設けているものがあり、(ST)して明記した。
 南ホールには①設計・製造ソリューション展(ST:CAD/CAM&PML/PDM、CAE、XR、3次元測定、SCM・ERP・生産管理システム)、⑤ものづくりAI/IoT 展、⑨製造業DX展(ST:設計・製造アウトソーシング)が配置され、東ホールには②機械要素技術展(ST: 「ねじ・ばね」、「モーション技術・モータ」、「機構部品」、「油空圧機器・配管部品」、「表面処理・改質」、「加工技術・機械材料」)、③ヘルスケア・医療機器開発展、④工場設備・備品展(ST:「脱炭素・省エネ工場」、「バリ取り・洗浄」)、⑥次世代3Dプリンタ展、⑦航空・宇宙機器開発展、⑧計測・検査・センサ展、⑩ものづくりODM/EMS展が配置されている。
 そして南ホールには1社でも島小間を形成できるビッグネームをそろえた。日本電気、iCAD、富士通・デジタルプロセス、富士電機、三菱商事、ヘキサゴン・メトロジー、東芝デジタルソリューションズなど。1小間の出展者がハーモニカのように一列に並び小間の前面の1辺だけが通路という“ハーモニカ・タイプ”の小間配置は、南ホールにはほとんどなくゆっくり見ることができる。これも南ホールへの来場者誘導策だ。
 東ホールは複雑だ。こちらにもミスミやTHKのように島小間、準島小間出展もあるがハーモニカ・タイプが増える。それに輪をかけるのが、地方公共団体などのグループ出展と海外からのグループ出展。どちらかというと申し込み小間数よりも参加企業が多く、頭割りすると1小間あたりに2社以上というケースも見受けられる。しかも小間の名義からでは出展製品が何か判らないのが悩ましい。以下に、2つのグループ参加の実績をまとめてみた。

Ⅰ 団体やグループ参加 東1ホールから6ホールへ

 福井産業支援センター(9社4小間)、ふくしま医療機器開発支援センター(13 社6小間)、岐阜県産業経済振興センター(7社6小間)、かがわ産業支援財団(10 社8小間)、燕三条地場産業支援センター(22 社 10 小間)、とくしま産業振興機構(11 社8小間)、長岡ものづくりゾーン(11 社6小間)、鳥取県産業振興機構(11 社8小間)、えひめ東予産業創造センター(7社6小間)、東京都中小企業振興公社(16 社 12 小間)、にいがた産業創造機構(15 社 12 小間)、日立地区産業支援センター(9社6小間)、やまがた産業振興機構(31 社 17 小間)、静岡県産業振興財団(13 社8小間)、坂城町出展者協会(7社5小間)、富山県見本市共同出展実行委員会(21 社 10 小間)、上越ものづくり協議会(6社5小間)、NCネットワーク(6社8小間)、おおさき産業推進機構・大崎市(10 社4小間)、板橋区産業振興公社(9社8小間)、しまね産業振興財団(15 社 10 小間)、群馬県伊勢崎市(5社4小間)、みやぎ高度電子機械産業振興協議会(12 社6小間)、かごしま産業支援センター(11 社6小間)、駒ケ根テクシティ(7社4小間)、宮城県産業振興機構(5社4小間)、くまもと産業支援財団(8社6小間)、丹後機械工業協同組合(6社3小間)、千曲市産業支援センター(4社2小間)、品川区(12 社 14 小間)、高崎市中小企業振興協議会(15 社6小間)、石川県産業創出支援機構(14 社6小間)、静岡県(7社6小間)、東大阪市東大阪商工会議所(13 社6小間)、岡山県産業振興財団(6社6小間)、柏崎技術開発振興協会(8社6小間)、会津地域ものづくり企業(6社4小間)、江戸川区(9社 10 小間)、SABAE TECHNOLOGY(8社 12 小間)、葛飾区(13 社 12 小間)、わかやま産業振興財団(12 社6小間)、福井県機械工業共同組合(3社3小間)、SUWAものづくりグループ(12 社6小間)、ものづくり支援センターしもすわ(5社2小間)、荒川区(4社8小間)、足立ブランド(11 社6小間)、やまぐち産業振興財団(4社4小間)、FACTAS(4社8小間)、安曇野市商工会工業部会(6社6小間)、宇治市・宇治商工会議所(4社6小間)以上。このグループの出展規模は 498 社 380 小間。

人だかりの絶えないキーエンス

3Dプリンタで製作したロータリエンジン

Ⅱ 海外組 東1ホールから6ホールへ

 中国パビリオン①(5社5小間)、台湾パビリオン①(8社 10 小間)、中国パビリオン②(4社4小間)、中国パビリオン③(8社8小間)、中国ねじパビリオン(20 社 20 小間)、ベトナムパビリオン①(4社4小間)、タイパビリオン(14 社 12 小間)、台湾パビリオン②(9社 11 小間)、遼寧省パビリオン(11 社 19 小間)、釜山機械工業共同組合(12 社 12 小間)、中国パビリオン④(9社 10 小間)、台湾パビリオン③(15 社 24 小間)、中国パビリオン⑤(10 社 10 小間)、中国パビリオン⑥(20 社 24 小間)、台湾パビリオン④(7社8小間)、ベトナムパビリオン②(5社4小間)、中国パビリオン⑦(21 社 24 小間)、ソウル経済振興院(11 社 12 小間)、華城パビリオン(6社6小間)、テジョンパビリオン(6社6小間)、中国パビリオン⑧(9社 10 小間)、江蘇省パビリオン(5社6小間)、台湾パビリオン⑤(4社4小間)以上。このグループの出展規模は 223 社 272 小間。
 グループ出展の合計社数は 498 社+ 223 社で 721 社、小間数は 380 小間+ 272 小間で 652 小間。この展示会の総小間数は不明だが、社数は発表されている。721 社は出展総社数 1978 社中の 37.9 %に当たる。つまり約4割弱の出展者はグループの下に隠れてしまい、何者か推測できない。小間図面には「お目当ての会社の探し方」が明記されている。「①スマホで出展者サイトにアクセス、②小間番号を確認、③小間番号の前2桁が通路番号後ろ2桁は位置番号」でたどり着けるシステムだ。しかし来場者はテーマを持って(例えば切削工具)探しに来る人が多いだろう。とする。検索システムでは社名からしかアクセスできない。「あいまい検索」で“○○工具”とか“△△ツール”などとアクセスすれば良いのかわからないが多分ダメだろう。ましてや“ドリル”や“リーマ”などと細分化したらもう無理だ。会場内が複雑で錯綜としていても、出展製品を検索できるシステムが欲しい。社名が判って来場している客は、目的がはっきりしている。「こんなモノを」という思いを叶えないと、だんだん来場者は足を向けなくない。
「“ものづくり”という言葉は嫌いだ。“製造業”でいいではないか」という工作機械メーカーの社長がいる。工作機械という精度と剛性と使いやすさを追求する産業では、“ものづくり”というモワッとした言葉で議論されたら工作機械の持つしっかりとした世界が曖昧なものになりそうな気がする。
しかし、科学と技術が進歩して、従来の産業界が守ってきた価値観と異なる製造業のあり方が出てきても良いのではないか。因果関係ははっきりしないが、新しい出会いや気づきで、次の一歩が踏み出せる時代が来たように思う。
 私はあら捜しをしているのではない。むしろ、大きく変化している“ものづくり”の世界に対応するためには、《JIMTOF》(日本国際工作機械見本市)や《iREX》(国際ロボット展)のような既存の工業会が運営する展示会とは別に、ゆるいカテゴリーで参加できる展示会のほうが、これからの時代に必要なのではないか、とさえ思う。日本が高度経済成長期を迎える前に、晴海の国際展示場で開催された《日本国際見本市》のように。そこから《JIMTOF》や《モーターショー》が枝分かれしたように、21 世紀に相応しい企画が生まれるような気がしている。

会場で出会った“ことづくり”企業

展示されていた製品サンプル

 多くの企業が出展している中で2社から興味深い話を伺った。
 フジムラ製作所(藤村智弘代表取締役社長・川口市)は板金加工のデジタル化を進める注目企業だ。同社は“デジタル板金”という概念を抽象的な理念としてではなく、ビジネス・ツールとして使っている。その思いは会社のドメインに“digital-bankin.co.jp”を取得するほどだ。
 主に部品加工に使われる工作機械と異なり、板金機械は“製品”を作ることに使われる。発注主から打診があり、見積もりを作成して正式発注があると、材料のシート材をどのように切り出して(ブランキング)、曲げて(ベンディング)、溶接・研磨して(ウェルディング・グラインディングテック)して仕上げに表面処理(ペインティング)をするというのが一連の流れで、原則として自社内で行われる。フジムラは独自に構築した“F-SYSTEM”で一連の工程を一気通貫で管理し“見える化”を実現した。その中から誕生したのが今回展で披露した「2D CADデータ 自動見積もりサービス」だ。デジタル技術の応用で“できること”を追求していることづくり企業の1社だと思う。
 小ロット生産対応のサービスで、1個から対応できる。自動見積もりシステムなので明瞭価格。最短5分で回答できるのでコストダウンが可能。見積と同時にCGによる立体形状も作成する。見積金額に合意すれば3営業日で発送が可能、というデジタル技術を駆使した便利ツールだ。
株式会社フジムラ製作所 本社工場〒332-0004 埼玉県川口市領家3-12-10
WEB:https://www.fujimurass.com

フジムラ製作所の小間

藤村社長から「自動見積もりサービス」の話を伺う

 次に新しい感覚を持った出展者に出会った。「できないを/「できる!」/にする会社」を掲げたMACHICOCO(まちここ)だ。「東の蒲田、西の東大阪」といわれる町工場の集積地で日本を代表する東大阪をホームグランドにする。東大阪は、最近ではNHKの朝ドラ「舞い上がれ!」の舞台になり“全国区”になったような気がする。出展小間としてはFACTAS(E54-55)内に参加していた1社だ。同居しているのが豊里金属工業(大阪市)、ヒューテック(高松市)、深江特殊鋼(福山市)の3社で、前2社は昨年の同展ではMACHICOCO(56-12)名義の小間に参加していたメンバーだ。ちなみに昨年のFACTASは単独出品だった。思うに、以前は地理的に近いことで仲間になっていたが、ネット社会の現代は、仕事は地理的限界を超えて繋がっているようだ。お互いが仕事の関係で、助け助けられの“緩いアライアンス”を組んでいる有機体のような結合関係だと思う。小間の壁には「試作板金屋 ないモノを創る」と大書されていた。

FACTASの小間

 さてMACHICOCOは企業戦略としては4つの柱を立てている。①プロマネ事業部、②人材育成事業部、③FACTORY事業部、④社会貢献部だ。会場で代表取締役の戸屋加代氏に話を聞いた。
  「東大阪には多くの町工場がありますが、どこも後継者不足で困っている。新しい人材を求めても人は集まらない。“人材育成”は緊急を要します」と人材育成事業を立ち上げた理由を語った。人材育成の必要性を訴える人は多いが、具体的な事業を興す人は少ない。しかもMACHICOCOでは、受講者に「通信簿」を渡し、到達点を示し評価する、という。通信簿は作成中で完成したら「ことラボ」にご提供いただける。
 かつては、製造業では現場教育で、「技は盗め」「背中を見て学べ」と言われていた。人間関係が希薄になりつつある現代社会では教わるのも教えるのも、これではやっていけない。設備メーカーも知的技術を動員して「初めての人でも失敗しない」「職人の技術と同等の加工ができます」と、設備が助けてくれる。これからはAIが導入されますます“人離れ”が進むだろう。しかし使う人々は、このような流れを必ずしも歓迎していない。MACHICOCOの“人材育成事業部”は、これまでの「教える人」と「教わる人」の関係に「通信簿」という“評価”を通して両者の関係を深いものにしていこうとしている。現場の技能・技術の習得度を評価する、というのはこれまでにない取り組みだと思う。
 取り組んでいるのは“KENJI BRIDGE COLLEGE”(ケンジ・ブリッジ・カレッジ)という事業名で、笑いを人生のエスプリとする関西人のシャレを感じるネーミングだ。講座の一部を紹介すると、
従来の製造業の概念ではとらえきれない。ものづくり=製造業と考えるとMACHICOCOは製造業ではない。MACHICOCOは「つくること」を商材として社会に貢献して事業を継続していく“ことづくり”組織だ。

グループのリーダ格 豊里金属工業の岩水建二社長

記者と語る戸屋加代・代表取締役(右)

 日本はものを作って社会を前進させてきた国だ。しかし吉川弘之先生が仰るように、社会とのかかわりは薄く、強力な馬力を発揮してものづくりにまい進した。「もの」を作るよりも「こと」を考えよう、と「ことづくりラボSTI」を立ち上げたが、MACHICOCOの取組みは、つくる“こと”に向き合っている、わが意を得たりと、手を打った出会いだった。
株式会社MACHICOCO 本社〒577-0064 大阪府東大阪市川俣本町11-10
Mail:inquirymail@machicoco.co.jp
 なお同グループ内の「ザ・クラフターズ」では、製造業対抗 ミニ四駆大会の開催を計画中だ。大阪万博での開催を目指している。興味のある方は上記のアドレスに問い合わせてください。