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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・レポート

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アマダがEV市場に本格参入

2024 年 06 月 19 日

 アマダ(山梨貴昭・代表取締役社長執行役員)は5月 17(金)から約1ヵ月にわたり伊勢原本社のAGIC(アマダ・グローバル・イノベーション・センタ)において“特別イベント”を開催する。といっても恒例の“初夏のプライベートショー”だが、今年はかなり様子が異なる。イベント前日の 16 日はメディア・デーで、山梨社長による「アマダグループの事業戦略」、岸本和大イノベーションセンター長による「イノベーション ラボ事例紹介」が行われ、その後AGICを見学、翌日から開催される特別イベントに向けて準備された展示機器が先行公開された。ここまでは例年と変わらないが“様子が異なった”のは、その中身だった。

アマダグループの事業戦略

 キャッチフレーズの「まだないモノを、アマダとつくる。」をみて、イタリアのバーフィーダメーカのエンジニアの言葉を思い出した。バーフィーダは自動盤の主軸にバー材を挿入する供給機だが、同社の供給方法は何種類もある。彼に、自動盤の主軸穴に長尺材を挿入するだけで何種類もあると混乱するのではないか、と質問したときの答えだ。「それぞれのやり方は必要に応じて開発されたもので意味がある。エンジニアの仕事はこの世にないモノを作り出して社会に貢献することだ。われわれはレオナルド・ダ・ヴィンチの子孫なのだから」最後の一言は強烈だった。しかし「まだないモノを、アマダとつくる。」は“エンジニアリングのアマダ”を標榜する同社の面目を躍如するキャッチだ。
 記者発表は山梨貴昭社長の挨拶で始まった。今年は、2025 年度を最終年度とする「中期経営計画」の中間年。経営基盤の徹底強化と新商品・積極的活動で収益を確保して 4,000 億円を確保する計画だが、2023 年度(2024 年3月期)にすでに 4,035 億円と目標を達成しており、2025 年度の売上高を今期の 2.8 %増の 4,150 億円と予想している。中期経営計画は、コロナの影響下で弱気になっていた時の数字で、いまはこれを話題にする時期ではない。

山梨貴昭社長

 また昨年、2月3日にオープンしたAGIC(Amada Global Innovation Center)の活動状況についての報告があった。AGICは「エージック」と呼びならわされ、従来のイノベーションセンターを全面的に改良したもので、商品を展示していたショールーム的機能と空間が、パーテーションで区切られた研究開発空間である「Innovation LABO」となり「お客様と共に金属加工の未来(あす)を共創する空間」と定義された。発表されたこの1年間の利用状況を見ると、
 来場社数は約 5,000 社(海外 300 社)、来場者数約 10,000 名(海外 500 名)と充実しておりイノベーションラボの依頼案件の中身が、今回の特別イベントのヒントになっていたように感じた。ちなみに依頼案件と来場者の職種分析を見てみると…。
 依頼案件分析 ①溶接:66 %、②ブランク:20 %、③ベンディング:14 %
 来場者分析 ①一般板金:39 %、②自動車:35 %、③大手メーカー:20 %、④その他:6%
 板金業界のトップメーカーである同社に一般板金企業が来るのは当然だが、自動車業界からの来場者が溶接について抱える問題についてAGICを訪ねてきた、という場面が目に浮かぶ。
 微細溶接部門の主力はかつてはミヤチテクノスと名乗り微細溶接で有名な企業だったがアマダ傘下に加わりアマダウエルドテックと社名変更した。AGICの溶接案件の急増ぶりからか今年4月1日付で合併、アマダ微細溶接部門として新体制でスタートした。

曲げ作業の新しい仲間、協働ロボット EGB8024e +CR

 特別イベントのテーマとして客先ニーズの分析が行われた。そして①生産性向上、②高品位加工、③加工位置の自動調整を抽出し、その課題に対してアマダは①世界最高出力の4kW Blueレーザ、②高速スキャナ制御技術、③センシング技術、AI処理技術で対処する、として今回のイベントを企画した。その結果、(1)昨今の人手不足に対応するベンディング工程の協働ロボットによる自動化と(2)溶接ラインナップの「幅」で成長産業へ!を柱にしてイベントに臨んだ。特に、(2)は、これまで自動車産業とは別の世界で生きてきたアマダには、“とうとう”というべきか“やっと”と言うべきか自動車業界と深く関わり合いを持つことになってきたから注目した。EV技術の問題点は多岐にわたりその問題に触れるのは目的ではないのでここでは割愛するが、アマダを自動車業界のエンジニアが訪ねてくるのは注目されるビジネス・シーンだ。

レーザの波長と仕事の分類表(会場内に掲示)

 アマダの顧客層である板金業界と自動車修理工場の“板金業”とは、文字が同じでも内容はまるで違う。アマダは、シート材を切断し、曲げ、溶接する板金業で自動車業界とは無縁と言ってもよい。しかも依頼案件の比率は溶接が 66 %と2位のブランク 20 %を大きく引き離している。その理由は、EV時代の“エンジン”に当たるモータの組立、つまり配線の微細なレーザ溶接にある、と考えられる。
 自動車産業は強力で、金属加工の世界に巨人として君臨してきた。そこでの技術の変化は激しく、ともに歩んでいかなければ立ち行かなくなる。仕事には困らないが、全力で走らないと置いて行かれる。金属の板材を中心に板金製品の世界は、自動車産業ほど激しく流れていないように見えるので、これまでアマダは良いポジションを占めてきたと思ってきた。しかしEV時代が到来すると、向こうのほうからアマダにやってきた。それが“溶接”という断トツでトップを占めるテーマだ。自動車業界という引力の強烈な産業に足を踏み入れる“覚悟”の現われか、今年2月 17 日に、レーサー佐藤琢磨選手の「インディ500 参戦」のスポンサー契約を締結したと発表した。
 ここでは「レーザ技術」という、まだまだ開発の余地があると思える技術が主役となる。凸レンズで太陽光を集め黒い紙に集めた光を当てると発火する、あのエネルギーを切断や溶接に使うのがレーザの基本原理だ。光のエネルギーを強化してもエネルギー効率は低くまだ開発中と考えている。しかし、切断や溶接や計測に利用できる便利な技術であることに変わりはない。光の波長を(紫外線)(可視光)(赤外線)と分けて目的に応じて使い分ける。

「ALCIS-1008e」に期待

3次元レーザ統合システム「ALCIS-1008e」

 昨年 10 月4日に発表された“3次元レーザ統合システム「ALCIS-1008e」”が威力を発揮する。ALCIS(アルシス)はAdvanced Laser Cube Integrated Systemで、ブルーレーザとファイバーレーザの2種類の発振器を搭載し、3Dヘッドは切断、溶接、積層造形に対応した3種類のトーチを交換して幅広い作業をする。2台の発振器に3種類のヘッド。まるで複数の切削工具を積んで多彩な切削加工を実現したマシニングセンタの溶接機バージョンだ。
 アマダにはブランキング、ベンディング、成形、タップ立ての4つの加工を1台でこなせるシートセンタ「LASBEND」を開発した実績がある。機能を統合化する実績は申し分ない。それに倣えばALCISは「ウェルドセンタ」と呼んだほうか良いかもしれない。複数の発振器の搭載を載せる代わりに光の波長を変更してヘッドを交換することはできないのか? いずれにしてもスペースコストの良い溶接現場が誕生しそうだ。
 ここまで溶接を探求するのは今後の本格的なEV時代に必要となるモータ製造の生産性向上の道筋が見えてきたからだ。高トルクのモータは磁力の強さから生まれるが、そのためにはロータやステータに巻き付けている銅線の形状を丸線から平角線に替えた。丸線は束にしても隣り合う丸線の間には隙間が生じる。そこで断面が長方形の平角線を使い隙間なく巻き付けるようにして占積率を向上させた。また使われる銅線はレーザ光を反射するので溶接効率が悪い。そこで登場したのが波長 532 nmのグリーンレーザでALCISに搭載されている。

溶接の実演

 グリーンレーザは、可視光で第2高調波発生(SHG:Second hormonic generation)と呼ばれる。SHGは銅や金に対して吸収率が高く、基本波レーザ=IRレーザ(1064nm)の 4.5 倍~ 20 倍の吸収率になり、樹脂、ガラス、シリコン、セラミックの加工に最適とされる。この多彩・多能な「溶接システム」で、自動車産業の新たな“エンジン=モータ”も、ガソリンエンジンと同じような世界で最高品質のモータを創り出してほしい。アマダはすでにネクストステージに踏み込んだ。