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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

岩波徹の視点

JIMTOFと商社たち

2025 年 08 月 27 日

 来年秋に開催される《JIMTOF2026》は会場の東京ビッグサイトの補強工事のために東4~6ホールが使えないために展示面積が従来より 22 %減少する、と先日の記者会見で発表された。
 下の表は日工会が昨年のIMTSを訪問したレポートに添付した表を参考にして作成した。
 7月中旬に開催されていた《MF Tokyo》開催時には、東1~3ホールが補強工事のための使用できず、東4~6ホールでの開催だった(東7.8ホールは使用していた)。つまり東京ビッグサイトのメイン会場、とでもいうべき東1~6ホールの“メイン会場”の半分が縦にスッパリと切り分かれて「工事中につき立ち入り禁止」という、ショーアップされた販売促進の「晴れ舞台」が、全くその場に相応しくない分厚い帆布で仕切られていた。この記者会見では、具体的な様子についてのコメントはなく、サラリと「使えない」とアナウンスされただけだった

主要展示会の開催規模
 JIMTOFは日本の工作機械産業が全力を注いで開催する国内最大の展示会だ。工作機械はその国の産業のレベルを客観的に表す産業として、国の工業力の実力を評価するイベントとして、世界から注目を集める。上の表も、米国(IMTS)、中国(CCNT/CIMT)、韓国(SIMTOS)そして欧州(EMO、ハノーファ/ミラノ)との比較だ。来年のJIMTOFは 100,000 ㎡に届かない。出展機器のレベルは高い、と言ってもそれは目には見えない。中国あたりからそこをつかれるのも癪に障るが、この数字にこだわる人が多いというのが現状だ。もう「三大」とか「四大」というのは忘れることをお勧めする。

 日本の産業革命は、明治新野の時に岩倉具視遣欧使節が欧米に出かけ、最新の紡績機械に度胆を抜かれ「日本は遅れている」と思い込んだ誤った思想からスタートした。江戸時代を否定したかった維新政府は、日本の製造業の真価を理解していなかった。明治から昭和の前半までは「黒船ショック」でわれを見失い、にわかに身に着けた軍事力を盲信して8月 15 日の敗戦を迎えた。
 「安芸の十利」という言葉がある。“十利”とはマサカ、ノコギ、イカ、オモ、ハ、キ、クサ、ヤス、カミソ、モなど語尾に“リ”がつく鉄製品をまとめた言葉だ。この言葉が示すように安芸すなわち今の広島県と北隣の島根県、出雲の国では古来から製鉄業が盛んだった。砂鉄から鉄製品を生み出す技術は朝鮮半島から伝来したらしいが、朝鮮半島は寒さから身を守るために床下暖房(=オンドル)が必要で、その燃料として山林を伐採してしまった。私は訪韓の経験はないが朝鮮半島ははげ山が多いと聞く。一方、モンスーン気候で降雨量の多い日本は梅雨時に多くの雨が降るために、森林が早く成長する。砂金を集めて玉鋼(たまはがね)を作るときは、ひと山の木材が全て伐採されたらしいが、山林の成長は早く、中国山脈をぐるりと回る頃には十分に成長していた。こうして日本では早くから十分な鉄製品が行き渡り、これが明治維新前に社会の中に十分な資本の蓄積ができた、と司馬遼太郎は『街道をゆく』の中で指摘している。それは農機具に限らず宮大工の道具、懐石料理の細やかな細工にまで行き渡っている。
 日本刀は、鋭い切れ味としなやかな反りがあり、折れにくい。中華圏の青龍刀のように“重さ”で相手を倒すのではない。戦国時代に中国に輸出されたが、それは武器としてではなく純粋な鉄製品として売られていたという。
 その中国では料理に使われる中華料理用包丁も青龍刀のように重さで切ったり素材を潰したりで日本の包丁との違いが大きい。
 さらに考古学の成果だが、新石器時代に登場していた黒曜石で作った磨製石器の中には、刃先を交換できる“刃先交換式”石器があったという。日本人が“創意工夫”することはDNAレベルに組み込まれている、と言える。
 黒船の威力に取り乱した日本人が、先進国の真似をしてここまで来たが、明治維新前の日本人らしさを取り戻して、原点に戻り、製造業を再編成する時代がきたと考える。

機械商社の存在感

 日本の製造業は、上記のような「職人」単位で推移してきたが、職人が作った製品を売り捌いたのは“商人”達だった。ときには必要なものを聞き出したり、自分の責任で考え出した“製品”を職人に作らせて“商品”として販売したりして、製造業界の“流通”を支えていた。ユアサ商事などの歴史の長い商社の社史などにエピソードが紹介されている。近代に入って「大量生産」を担う“近代産業”の時代が始まると、製造業は高額の設備投資が必要となり、産業界における比重が造り手のほうに移動した。その頃から、商社側は「売らせていただきます」的なスタンスとなり「メーカーが偉い」時代が始まった。
 ここでJIMTOFについて考えたい。「EMOは技術のコンペなのでそれに向けて開発を進めていく。IMTSは広い米国でユーザーが一堂に会する即売会なのでそのように対応している。判らないのがJIMTOFで、何が目的で開かれているのか判らない」と、昔、大手工作機械メーカーのトップに言われ、それ以来このテーマを考えてきた。
 現段階で判ってきたのは、流通を担う商社の存在が見えないために“何を目的にした展示会”なのか判らない、という結論になったのだ。大手商社が多くのユーザーを、前夜祭や滞在先を用意して会場に連れてくるが、それは主催者企画でも関連企画でもない。商社の中には、JIMTOF以外でも自社企画のプライベートショーを開いたりセミナーを開催してユーザーをしっかり囲い込んでいる。しかしその動きの中で一番のイベントが「JIMTOFで成約する」という儀式なのだ、ということだ。
 欧米の機械産業界にも機械商社は存在する。しかしその多くがメーカーと代理店契約を結び、そのメーカーの商材を抱えてビジネスを展開する。ところが日本の流通は複雑だ。大手商社が代理店契約を結び、その下に地方で活躍する地場商社がいて、さらに特定の地域やユーザーには利権を持つブローカーと言われる存在が確認される。また大手自動車メーカーなどを“縄張り”に、必要な商品と情報を収集して提供している。言い換えると欧米の商社はメーカーの販売代理店として働くのに対して日本の商社はユーザーの購買代理店のように働く。だから、大手ユーザーのために相応しいと思った機械メーカーA社の代理店でありながらA社のライバルB社の機械を販売したりする。“節操がない”というのは頭が古いだろう。「そこにビジネスがあれば仕事をする」というのが、21 世紀のビジネスだ。JIMTOFには、この商社が影の薄い存在だ。JIMTOFでは、この商社がユーザーを帯同して来場する場合に入場料金や休憩所などのサービスを提供して、出展者との交流を援助する仕組みを検討したら、展示会の成果が向上すると考えている。