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ー 科学と技術で産業を考える ー

ことラボ・コンテンツ

岩波徹の視点

《MF-Tokyo2025》開催

2025 年 07 月 16 日

 本日7月 16 日から日本鍛圧機械工業会と日刊工業新聞が主催する《MF-Tokyo2025》が東京ビッグサイトで開催される。記事更新のタイミングなので、鍛圧加工全体に関する知見を述べようと思う。
 近代産業は金属を加工することが肝になっている。それ以前も粘土や木材を相手に切ったり削ったりしていたが、英国で始まった『産業革命』では、高温の蒸気を扱うために耐熱性の高い金属、とくに加工しやすい鉄の利用が進んだ。産業革命の象徴的存在である蒸気機関車を木工製品で作ることなど不可能だ。
 そして世界の多くが「工作機械」と「鍛圧機械」は、加工方法は違うが共に金属を加工するものとして一つの工業会で管理している。しかしなぜか日本では日本工作機械工業会と日本鍛圧機械工業会の2つに分かれている。管轄官庁の経産省では前者が製造産業局産業機械課で後者は素形材産業室だ。なぜ“室”なのか、気になりませんか? 素形材産業室長に質問しても逃げられました。
 国のそうした体制のためか、日本では「“切削”対“塑性”」的議論が横行していた。そこに登場したのがAM(アディティブ・マニュファクチャリング)いわるゆ『3Dプリンタ』だ。その前に、技術の帰属をめぐって両工業会が対立したのがレーザ加工機だ。これは切断もするが溶接もする、お役人の頭を悩ます技術の登場だった。一応、鍛圧機械工業会が仕切っているのが現状だ。
 初めてイタリアの展示会を取材したときは、鍛圧機械企業の多さに驚いた。メッコールプレス社の『複動プレス』には感心した。複数の金型が、ワンストロークの間に複雑に動くが仕組みが判らない。はじき出される成形品はどのように作ったものか、想像もできない。イタリアの国内展で配布資料はイタリア語版しかないしEUがスタートした直後で小間では英語が通じなかった。しかしメカプレスしか知らなかった私には“からくり人形”を見ている思いだった。帰国した私は、鍛圧機械工業会の会合でその時の感動を語り掛けたが「精度が悪いだろう」で片づけられてしまった。そうです日本では“精度こそ命”なのです。しかしイタリアの成形加工の世界は広く、日本では鍛圧機械業界の売り上げは工作機械業界の3~4割程度だが、イタリアでは6割以上になる。識者によると、その違いは文化に由来する、という。それらの製品は工場内で使用するのではなく、窓枠や門扉などのエクステリア製品として利用される。デザインが豊かな社会だから、成形加工の出番が多いという。
 1990 年代の日本では自動車業界で“ネットシェイプ”と呼ばれる技術が話題を集めていた。部品を「切削」ではなく「塑性加工」で作ろう、という取り組みだ。製品重量÷素材重量=1、つまり1グラムの切りくずも出さないのが目標だとトヨタの井川専務が講演会で語った。彼は、精度に拘る文化は鍛圧機械業界よりも工作機械業界だからと、豊田工機(現ジェイテクト)に鍛圧機械を作らせた。結局、「餅は餅屋」だったのか、1台のみで終わってしまった。
 ネットシェイプも、業界トップ企業のアイダエンジニアリングに聞くと「切削をゼロにするとかえってコストは上がる。ワンチャックの切削を残せば(ニア・ネットシェイプ)コストを3割軽減できる」と回答を得た。その金型は切削加工で作るのだから「塑性」対「切削」というアプローチは、スタート時点で意味をなしていないと思っている。そんなときに、かつてミラノEMOに一緒に行った日産のエンジニアが、出向していたルノーから戻ってきた。彼は彼の地で貴重な経験を重ねたという。「日本のエンジニは何でも切削で作ろうとする。それはNCプログラムを作れば、あとは工作機械がやってくれるので楽だからです。しかし欧州では塑性加工で作ろうとする。金型を作るのは面倒だが、型さえ作れば成形加工で作った部品の残留応力は、削って作った部品より少なく、後工程での役入れなどで悪さをしない、素性の良い部品になるからです」と。面倒だけど後工程が楽なことを考えるのか、自分は楽して後工程をいじめるのか、考えさせられる話だった。
 国が産業界を管理するときは楽な方法を選ぶ。工作機械と鍛圧機械を対比させたほうが楽だったのかもしれないが、科学と技術の進歩で、産業界全体の組織図が大きく変わった。変わらないことを旨とする行政が、どこまで時代の進歩について行けるのか、真価が問われている。